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第8章 女王の日常と南の国々
37 王立鉄道の開発
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ローザリンデやリーファスは、夏の間に運輸網の基礎となる部分を構築すべく奔走していた。
空については元々存在する各領地の王国軍拠点を増築して対応することになる。
そして問題となるのは鉄道についてだ。ローザリンデが王立学園の長期休暇である今の内に方針を固めるべく、私とローザリンデ、リーファス、宰相、魔術省大臣で集まっていた。
基本的にはローザリンデとリーファスに任せることになるだろう。
「では地下鉄道の構築に話し合いを始めますわね…まずは魔術省大臣。今ある鉄道についての説明と地下を通す場合の懸念点を教えていただけるかしら?」
「かしこまりました。ローザリンデ殿下…まず他国でも使われている鉄道についてですね。基本的には魔力式の蒸気機関が使われていて魔力結晶を燃料にしています」
大臣が今ある鉄道について説明を行う。
私の場合は冒険者の街グロリアスで乗ったことがある鉄道。石炭の変わりに魔力結晶を使うという点以外は、前世の記憶にある蒸気機関車とほとんど変わらない。煙突はないが形もほぼ同じで銀色と言った具合だ。
「仕組みとしては魔術による水を生成し加熱、蒸気を発生させます。蒸気によって発生した力でピストンを動かし鉄道の車輪の動力とするものです。地下でも問題なく運用できますが、鉄道と関係なく酸欠になる可能性があることと、どのように工事を進めていくかです」
「酸欠に関しては空気口を作れば対処できるのではないですか?もしも足りないのであれば風魔術による換気を行えば…」
大臣が言った懸念点に対してリーファスが答える。
しかし大臣は首を横に振った。
「魔術具による換気は可能ですが…エスペルト王国の王都を基準に十字上に東西南北を繋ぐほどの距離です。定間隔で魔術具を設置することができても魔力供給を行うことが現実的ではありません」
魔術具への魔力供給は大きく分けて2種類ある。
周囲の魔力を自動で収集する物と魔力結晶などから供給するものだ。
地下と言う狭い空間では、途中で周囲の魔力が枯渇する可能性が高いだろう。
「魔力結晶を置いておくのも…交換が大変ですわね。いえ、交換ではなくて外から持って来れば…」
ローザリンデは難しそうな表情をしていたが、何かを思いついたようだった。少し考えたあと、私に視線を向けて口を開く。
「お姉様。換気用の魔術具への魔力を王鍵から供給できませんか?」
「そうね…問題ないはずよ」
私は王鍵の全容を思い浮かべた。
王鍵は王都に本体があって国境都市や一部の大都市にも本体と同等の物を有している。そして小規模の都市にも王鍵の末端部分は繋がっていた。
物理的に繋がっていれば魔力供給用のパスも伸ばすことができるだろう。
「ラティアーナ姉上。鉄道への魔力供給も王鍵からできませんか?鉄道の動力として魔力結晶を使うのは手間がかかりますし、有事の際に悪用される可能性があります。王鍵からの魔力供給であれば…こちらから動力を切ることもできますよね?」
「いい考えね…確かに都市同士を繋ぐ地下空間は防御上の穴になりかねないわ。合わせて探知魔術による浸入監視や非常時用の迎撃魔術具なども仕掛けましょうか」
リーファスの考えた内容は実現可能に思える。この世界の列車ではまだ見たことはないが、要は電車のパンタグラフのようにすればいいだけだ。
そして外から監視できない地下空間は、外部から都市内へ侵入するための通路として使われる可能性もある。
防御上の穴を開けないことも大事だが、あえて穴を開けて誘導するというのもありだろう。
「陛下の考えもいいですね。どうせなら隔壁を下ろせるようにしておきませんか?敵に利用された場合に浸入を封じるにせよ、閉じ込めて捕縛するにせよ便利だと思います」
「それもいいわね。二人はどう?」
「「良いと思います」」
ローザリンデとリーファスも賛成のようだった。
こうして王国初となる鉄道の構想は決まった。
完成までは最低でも数年。ローザリンデとリーファスが中心となって執り行っていくことになるだろう。
話し合いが終わった日の夜。
「ニコラウスです。今よろしいですか?」
執務室でお茶を飲んでいるとノックと共に声が聞こえてきた。「ええ、問題ないわ。入っていいわよ」と告げるとニコラウスがやってくる。
「急にどうしたのよ?急ぎの用件はなかったはずよね」
書類は全て処理してあり、急ぎの話もなかったはずだ。
用件が思い浮かばなかった私は、他に何かあったかなと考えをめぐらせながら問いかける。
するとニコラウスは若干気まずい表情で
「グライアス侯爵領にて不穏な動きがあるようです。反乱の可能性があるかもしれないとの報告がありました」
と言った。
グライアス侯爵領は王都の東側。海沿いのアクアリス子爵領との中間地点に位置する大都市になる。
物流や人流の中継となっていて宿や商店が多く立ち並ぶ場所で、現在進めている鉄道も通る予定の場所だ。
「グライアス侯爵は元々中立…わたくしに対しても最初から敬意を払っていたように感じたわ。正直なところ反乱を起こすとは考え辛いのよね」
今でさえ顔は取り繕っていても内心で侮っているのだろうと感じるときがある。王女だった頃は今よりもあからさまに侮蔑の視線を向けてくることもあった。
その中でもグライアス侯爵は、誰にでも礼儀儀正しいおじ様といった印象だ。
「そうですね。私も彼とは長いつきあいになりますが驚きを隠せません」
ニコラウスにとっても宰相としても個人としても親交のある相手。当然の反応だろう。短い付き合いの私でさえそうなのだから。
「グライアス侯爵領は鉄道計画でも重要な拠点になるから向かう口実になるわ。試しに訪問してみようかしら…ニコラウスも来るわよね?」
「私も気になりますし…ご一緒しましょう」
もしも反乱が目的であれば私を狙うことが一番の近道となる。実際に赴けば何かしら分かるかもしれない。
そう考えた私は、ニコラウスと共にグライアス領へ向かうことにした。
空については元々存在する各領地の王国軍拠点を増築して対応することになる。
そして問題となるのは鉄道についてだ。ローザリンデが王立学園の長期休暇である今の内に方針を固めるべく、私とローザリンデ、リーファス、宰相、魔術省大臣で集まっていた。
基本的にはローザリンデとリーファスに任せることになるだろう。
「では地下鉄道の構築に話し合いを始めますわね…まずは魔術省大臣。今ある鉄道についての説明と地下を通す場合の懸念点を教えていただけるかしら?」
「かしこまりました。ローザリンデ殿下…まず他国でも使われている鉄道についてですね。基本的には魔力式の蒸気機関が使われていて魔力結晶を燃料にしています」
大臣が今ある鉄道について説明を行う。
私の場合は冒険者の街グロリアスで乗ったことがある鉄道。石炭の変わりに魔力結晶を使うという点以外は、前世の記憶にある蒸気機関車とほとんど変わらない。煙突はないが形もほぼ同じで銀色と言った具合だ。
「仕組みとしては魔術による水を生成し加熱、蒸気を発生させます。蒸気によって発生した力でピストンを動かし鉄道の車輪の動力とするものです。地下でも問題なく運用できますが、鉄道と関係なく酸欠になる可能性があることと、どのように工事を進めていくかです」
「酸欠に関しては空気口を作れば対処できるのではないですか?もしも足りないのであれば風魔術による換気を行えば…」
大臣が言った懸念点に対してリーファスが答える。
しかし大臣は首を横に振った。
「魔術具による換気は可能ですが…エスペルト王国の王都を基準に十字上に東西南北を繋ぐほどの距離です。定間隔で魔術具を設置することができても魔力供給を行うことが現実的ではありません」
魔術具への魔力供給は大きく分けて2種類ある。
周囲の魔力を自動で収集する物と魔力結晶などから供給するものだ。
地下と言う狭い空間では、途中で周囲の魔力が枯渇する可能性が高いだろう。
「魔力結晶を置いておくのも…交換が大変ですわね。いえ、交換ではなくて外から持って来れば…」
ローザリンデは難しそうな表情をしていたが、何かを思いついたようだった。少し考えたあと、私に視線を向けて口を開く。
「お姉様。換気用の魔術具への魔力を王鍵から供給できませんか?」
「そうね…問題ないはずよ」
私は王鍵の全容を思い浮かべた。
王鍵は王都に本体があって国境都市や一部の大都市にも本体と同等の物を有している。そして小規模の都市にも王鍵の末端部分は繋がっていた。
物理的に繋がっていれば魔力供給用のパスも伸ばすことができるだろう。
「ラティアーナ姉上。鉄道への魔力供給も王鍵からできませんか?鉄道の動力として魔力結晶を使うのは手間がかかりますし、有事の際に悪用される可能性があります。王鍵からの魔力供給であれば…こちらから動力を切ることもできますよね?」
「いい考えね…確かに都市同士を繋ぐ地下空間は防御上の穴になりかねないわ。合わせて探知魔術による浸入監視や非常時用の迎撃魔術具なども仕掛けましょうか」
リーファスの考えた内容は実現可能に思える。この世界の列車ではまだ見たことはないが、要は電車のパンタグラフのようにすればいいだけだ。
そして外から監視できない地下空間は、外部から都市内へ侵入するための通路として使われる可能性もある。
防御上の穴を開けないことも大事だが、あえて穴を開けて誘導するというのもありだろう。
「陛下の考えもいいですね。どうせなら隔壁を下ろせるようにしておきませんか?敵に利用された場合に浸入を封じるにせよ、閉じ込めて捕縛するにせよ便利だと思います」
「それもいいわね。二人はどう?」
「「良いと思います」」
ローザリンデとリーファスも賛成のようだった。
こうして王国初となる鉄道の構想は決まった。
完成までは最低でも数年。ローザリンデとリーファスが中心となって執り行っていくことになるだろう。
話し合いが終わった日の夜。
「ニコラウスです。今よろしいですか?」
執務室でお茶を飲んでいるとノックと共に声が聞こえてきた。「ええ、問題ないわ。入っていいわよ」と告げるとニコラウスがやってくる。
「急にどうしたのよ?急ぎの用件はなかったはずよね」
書類は全て処理してあり、急ぎの話もなかったはずだ。
用件が思い浮かばなかった私は、他に何かあったかなと考えをめぐらせながら問いかける。
するとニコラウスは若干気まずい表情で
「グライアス侯爵領にて不穏な動きがあるようです。反乱の可能性があるかもしれないとの報告がありました」
と言った。
グライアス侯爵領は王都の東側。海沿いのアクアリス子爵領との中間地点に位置する大都市になる。
物流や人流の中継となっていて宿や商店が多く立ち並ぶ場所で、現在進めている鉄道も通る予定の場所だ。
「グライアス侯爵は元々中立…わたくしに対しても最初から敬意を払っていたように感じたわ。正直なところ反乱を起こすとは考え辛いのよね」
今でさえ顔は取り繕っていても内心で侮っているのだろうと感じるときがある。王女だった頃は今よりもあからさまに侮蔑の視線を向けてくることもあった。
その中でもグライアス侯爵は、誰にでも礼儀儀正しいおじ様といった印象だ。
「そうですね。私も彼とは長いつきあいになりますが驚きを隠せません」
ニコラウスにとっても宰相としても個人としても親交のある相手。当然の反応だろう。短い付き合いの私でさえそうなのだから。
「グライアス侯爵領は鉄道計画でも重要な拠点になるから向かう口実になるわ。試しに訪問してみようかしら…ニコラウスも来るわよね?」
「私も気になりますし…ご一緒しましょう」
もしも反乱が目的であれば私を狙うことが一番の近道となる。実際に赴けば何かしら分かるかもしれない。
そう考えた私は、ニコラウスと共にグライアス領へ向かうことにした。
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