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第8章 女王の日常と南の国々
27 過去に決着を
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「今…なんて言ったの?」
バルトロスの言葉を聞き逃したわけではない。
けれど言葉の意味を理解するのを脳が拒んでいる。
理解したくないと思ってしまった。
「ああ…あなたの母君であるティアラ妃は出産が原因で亡くなったことになってましたね。もっとも間違いではないですが」
「どういうこと…あなたがエスペルト王国で動き出したのは、グランバルド帝国との戦争くらいからじゃないの?」
私は質問を重ねる。
バルトロスは最初は相談役としてお父様に雇われたはずだ。
それまでは王国の中で活動していないはず、と考えて違和感を覚える。
お父様はどうしてバルトロスを相談役に指名したのだろうと。
私の表情から考えを呼んだのか「もっと昔からですよ」と口にした。
「ティアラ妃は聖女といわれるほど聖属性の適性が高く魔力量も膨大でしたから…とはいえ昔の私では、離宮の警備が硬く万全の状態の彼女に挑むのは無謀でしたからね。出産という戦えない時期に徐々に弱らせることに「黙れ」っと」
バルトロスが話している途中で口を挟む。
私自身の中で決着をつけたつもりでいた。仕方のなかったことだと割りきったつもりだった。
それがバルトロスの言葉で決壊する。
心の中はまるで嵐が来た海のように荒れ狂う。
そして限界を超えた波が凪のように静かになった。
「もういいわ…あなたの口からお母様の名前を聞きたくないし、もう何も言わなくていい。聞きたいことは後から直接見る。ここで全てを終わりにする」
私はそれだけ告げると一歩ずつ前に進んでいく。
同時に身体強化を最大にして距離を詰めて、バルトロスを斬ろうと抜刀する。
「危ないですね…昔の私であれば避けられなかったかも知れません。ですが今の私は…全盛期の力を取り戻しています。悪獣よ、人を喰らいなさい!」
刀が触れる直前にバルトロスは後ろに下がっていた。
追撃を仕掛けようとして咄嗟に下がる。微動だにしていなかった獣が、バルトロスの言葉で動き出したからだ。
「GYAAAAAAA!!」
獣の腕が私を潰そうとする。
避けようと脚に力を込めるが周りを見て動かないことにした。
避ける必要がなくなったからだ。
「鳴き声は同じなのね…でも二度目が通用するとでも?」
イリーナの魔術によって炎の弾を生み出した。
そして獣に向けて放って着弾すると、巨大な炎へと変化して範囲内を焼き尽くす。
同時に獣の足の部分に矢が刺さり雷光が弾ける。
「GYAAAAAAA!?」
身体を焼かれて足が消し飛んだ獣は、身体を再構築しつつも声を上げた。
「今度は本当に泣いている見たいね…獣はわたくしたちが相手をするわ。だからラティアーナは決着をつけてきなさい!」
「私も全力を尽くしますのでご安心を。陛下は陛下のなさりたいようにして下さい。それを支えるのが私どもの役目ですから!」
イリーナとシクスタスは獣に向かって追撃を仕掛ける。
私はそれを見て…
「ありがとう…任せたわよ!」
と伝えてバルトロスに向き合った。
周囲の魔力を取り込んだ私の身体が許容できる限界ぎりぎりの身体強化。
現時点の最大の力を持ってバルトロスを斬ろうと距離を詰めるが…
「言ったでしょう?ここがあなたたちの終わりだと。完全に力を取り戻した私が、たかだか数人程度に負けるはずだないのですよ」
バルトロスは私の刀を全て避けていた。逆に黒い魔力を多数展開してきて私へと降り注ぐ。
一つ一つは拳大くらいの玉。
直線で飛んでくるそれをぎりぎりで避けるが、地面に着弾した瞬間大爆発を起こす。
「ぐっ!?」
衝撃で身体が悲鳴を上げている。
けれど残りの黒い玉も、次々と地面や私へ着弾した。
私は無理やり後方へ跳躍、魔術盾で直撃を防ぐが、複数の爆発によって吹き飛ばされた。
「衝撃と同じ方向に飛ぶことで致命傷を避けましたか」
「…この程度でどうこうなるほど柔ではないわ。直ぐにその余裕を奪ってあげるから」
バルトロスは最初の位置からあまり動かず余裕たっぷりの笑みを浮かべて佇んでいた。
私はその余裕の笑みを崩そうと夜月に魔力を流して、夜月から流れる力を私の中に巡らせる。
一時的に身体強化の限界を超えて、加速魔術と足元への魔力放出を併用。
一気に加速すると夜月を振り下ろした。
一の太刀を縦に斬り、二の太刀で更に横になぎ払おうとして
咄嗟に後方に下がった。
「ほう…想像以上の速さですね。斬られてしまうとは…」
「よく言うわよ。片腕を斬ったのに全く効いてなさそうじゃない。それに少しでも下がるのが遅れていたら串刺しになるところだったわ」
私がさっきまで居た場所には、地面から黒い槍が出現している。
まともに受けたら致命傷を負っていただろう。
そしてバルトロスは落ちた右腕を拾うと元の場所に戻してくっつけていた。
手の平を開いたり閉じたりして感覚を確かめているようだ。
「充分効いてますとも。いくら回復するとはいえ痛みはありますからね」
「ナイトメアの兵士と同じかとは思っていたけれど…完全に別。どちらかというと悪獣だったかしら?それと同類みたいね」
私の言葉にバルトロスはやれやれと首を横に振る。
「あんな出来損ないと一緒にはされたくないですね。私は完全体です。種として強い!」
バルトロスは無数の黒い弾丸や槍を生み出して、私へ放ってくる。
立ち止まっても的になるだけだ。
私は全力で駆け続けて、射線から逃れようとする。
けれど圧倒的物量を誇る黒の弾幕は、走るスペースを塗りつぶしていく。
「ぐっ…」
駆ける速度が遅く分だけ黒の弾幕から逃れられなくなっていく。
私は致命傷になりえる物を中心に、二刀で斬り裂いていくことにした。少しの負傷は許容し、バルトロスの元へと歩みを進める。
一歩進むたびに私の身体は傷つく。
それでも歩みを止めることはない。
「この攻撃を受けて、まだ無事だというのは驚きですね…ですが私の元にたどり着く前にあなたは力尽きる!」
「なにがなんでもたどり着く。届かないなら届かせる。わたくしの全てを持って…斬る!」
バルトロスは既に勝った気でいる。
人など恐れるに足りないと思っている。だからこそ、そこが隙となる。
私は左手に持っていた辰月を投げた。刃に触れた黒の魔力を霧散させて突き進みバルトロスの足に刺さる。
「…黒龍の素材は確かに相性が悪いですが、この程度効きませんね」
それは知っていることだ。
魔力を霧散させる辰月は、バルトロスの身体にも有効だがそれだけ。刀が突き刺さったくらいでは意味を成さないだろう。
けれど大事なのは、一瞬でも気が逸れること。
バルトロスの意識が足に向いた瞬間、私も動く。
無手になった左手に魔力を纏わせた。聖属性、炎熱、雷光へ変換した三属性の魔力を一つへと重ねて相乗する。
同時に足元に魔力の爆発を発生、弾幕を受けながら距離を詰めて殴った。
「ぐっ…がぁ!?」
身体の中心を捕らえた拳は、バルトロスの身体ごと吹き飛ばす。
バルトロスが体勢を崩したことで、黒の弾幕が途切れた。
「はああああっ!」
声を上げることで気合を入れなおす。
夜月を構え、バルトロスを目掛けて再度距離を詰めた。
「っ…舐めるな!」
バルトロスは周りに魔力を集めて、大き目の黒い槍を数十本生成、一斉に放ってくる。
私は槍の隙間をすり抜けるように身体を動かして…違和感に気付く。
徐々に感じる時間が遅くなっていく。
私自身に変化はない。けれど相手の動きが、飛来する魔力の動きがより鮮明に見えた。
腹の穴を通すかのように黒い槍の躱していく。
そしてバルトロスとの距離を詰めると、夜月に魔力を込めて突き刺した。
全体重と移動速度を乗せた突きは、バルトロスの身体に突き刺さって大穴を開ける。
「ぐっ…私の体に急所はない。たとえ身体を穿ったとしても、すぐに回復を!?」
バルトロスは自身の身体を見て固まった。夜月が刺さっているところが回復しないからだ。
それも当然で夜月は魔力や生命力を喰らう妖刀みたいなもの。普段は私の意志で抑えているが、解放さえすれば刃に触れている者を喰らい尽くしてくれる。
たとえ不死身に近い回復力を持っていても回復にはエネルギーを使う。魔力か生命力かあるいは別の力かは分からない。
それでも力を使う以上は、夜月が喰うだろう。
「無駄よ…回復する力も攻撃しようとした力も夜月が喰らう。魔力に近い身体だからこそ一つの綻びから破綻するわ。だから…さようなら」
そして身体のほとんどを魔力で構築しているからこそ、身体を構成している基点が妨害されれば、動かすことさえままならなくなる。
私は魔法袋から魔力が込められた宝石を五つ取り出す。魔力を込めてから空中に放り投げると、全ての宝石が砕けて膨大な魔力に包み込まれた。
一つ一つが最上級クラスの魔力を含有している宝石。
その全てを費やして炎熱属性の魔術を発動した。
「…その術式にその魔力は!?」
バルトロスはここにきて初めて焦りを見せていた。
術式を見て表情が歪む。焦りから恐怖へ変わる。
「最上級魔術を超えた先、特級に分類される魔術…いえ評価外に分類されるこれは、単に威力が高いだけじゃないわ。本当の意味で一線を超えた物。わたくしも初めて使うけど…しっかりと味わいなさい」
術式によってバルトロスを光が包む。
高圧縮された魔力は膨大な熱エネルギーとして変換されて、柱の中を加熱、気化させていく。
同時に魔法杖を取り出した。
私の中にある残り魔力を全て込めて魔法を行使する。
それは空間ごと完全に遮断する結界。
球状に結界が展開されて結界が黒に染まった。
バルトロスの言葉を聞き逃したわけではない。
けれど言葉の意味を理解するのを脳が拒んでいる。
理解したくないと思ってしまった。
「ああ…あなたの母君であるティアラ妃は出産が原因で亡くなったことになってましたね。もっとも間違いではないですが」
「どういうこと…あなたがエスペルト王国で動き出したのは、グランバルド帝国との戦争くらいからじゃないの?」
私は質問を重ねる。
バルトロスは最初は相談役としてお父様に雇われたはずだ。
それまでは王国の中で活動していないはず、と考えて違和感を覚える。
お父様はどうしてバルトロスを相談役に指名したのだろうと。
私の表情から考えを呼んだのか「もっと昔からですよ」と口にした。
「ティアラ妃は聖女といわれるほど聖属性の適性が高く魔力量も膨大でしたから…とはいえ昔の私では、離宮の警備が硬く万全の状態の彼女に挑むのは無謀でしたからね。出産という戦えない時期に徐々に弱らせることに「黙れ」っと」
バルトロスが話している途中で口を挟む。
私自身の中で決着をつけたつもりでいた。仕方のなかったことだと割りきったつもりだった。
それがバルトロスの言葉で決壊する。
心の中はまるで嵐が来た海のように荒れ狂う。
そして限界を超えた波が凪のように静かになった。
「もういいわ…あなたの口からお母様の名前を聞きたくないし、もう何も言わなくていい。聞きたいことは後から直接見る。ここで全てを終わりにする」
私はそれだけ告げると一歩ずつ前に進んでいく。
同時に身体強化を最大にして距離を詰めて、バルトロスを斬ろうと抜刀する。
「危ないですね…昔の私であれば避けられなかったかも知れません。ですが今の私は…全盛期の力を取り戻しています。悪獣よ、人を喰らいなさい!」
刀が触れる直前にバルトロスは後ろに下がっていた。
追撃を仕掛けようとして咄嗟に下がる。微動だにしていなかった獣が、バルトロスの言葉で動き出したからだ。
「GYAAAAAAA!!」
獣の腕が私を潰そうとする。
避けようと脚に力を込めるが周りを見て動かないことにした。
避ける必要がなくなったからだ。
「鳴き声は同じなのね…でも二度目が通用するとでも?」
イリーナの魔術によって炎の弾を生み出した。
そして獣に向けて放って着弾すると、巨大な炎へと変化して範囲内を焼き尽くす。
同時に獣の足の部分に矢が刺さり雷光が弾ける。
「GYAAAAAAA!?」
身体を焼かれて足が消し飛んだ獣は、身体を再構築しつつも声を上げた。
「今度は本当に泣いている見たいね…獣はわたくしたちが相手をするわ。だからラティアーナは決着をつけてきなさい!」
「私も全力を尽くしますのでご安心を。陛下は陛下のなさりたいようにして下さい。それを支えるのが私どもの役目ですから!」
イリーナとシクスタスは獣に向かって追撃を仕掛ける。
私はそれを見て…
「ありがとう…任せたわよ!」
と伝えてバルトロスに向き合った。
周囲の魔力を取り込んだ私の身体が許容できる限界ぎりぎりの身体強化。
現時点の最大の力を持ってバルトロスを斬ろうと距離を詰めるが…
「言ったでしょう?ここがあなたたちの終わりだと。完全に力を取り戻した私が、たかだか数人程度に負けるはずだないのですよ」
バルトロスは私の刀を全て避けていた。逆に黒い魔力を多数展開してきて私へと降り注ぐ。
一つ一つは拳大くらいの玉。
直線で飛んでくるそれをぎりぎりで避けるが、地面に着弾した瞬間大爆発を起こす。
「ぐっ!?」
衝撃で身体が悲鳴を上げている。
けれど残りの黒い玉も、次々と地面や私へ着弾した。
私は無理やり後方へ跳躍、魔術盾で直撃を防ぐが、複数の爆発によって吹き飛ばされた。
「衝撃と同じ方向に飛ぶことで致命傷を避けましたか」
「…この程度でどうこうなるほど柔ではないわ。直ぐにその余裕を奪ってあげるから」
バルトロスは最初の位置からあまり動かず余裕たっぷりの笑みを浮かべて佇んでいた。
私はその余裕の笑みを崩そうと夜月に魔力を流して、夜月から流れる力を私の中に巡らせる。
一時的に身体強化の限界を超えて、加速魔術と足元への魔力放出を併用。
一気に加速すると夜月を振り下ろした。
一の太刀を縦に斬り、二の太刀で更に横になぎ払おうとして
咄嗟に後方に下がった。
「ほう…想像以上の速さですね。斬られてしまうとは…」
「よく言うわよ。片腕を斬ったのに全く効いてなさそうじゃない。それに少しでも下がるのが遅れていたら串刺しになるところだったわ」
私がさっきまで居た場所には、地面から黒い槍が出現している。
まともに受けたら致命傷を負っていただろう。
そしてバルトロスは落ちた右腕を拾うと元の場所に戻してくっつけていた。
手の平を開いたり閉じたりして感覚を確かめているようだ。
「充分効いてますとも。いくら回復するとはいえ痛みはありますからね」
「ナイトメアの兵士と同じかとは思っていたけれど…完全に別。どちらかというと悪獣だったかしら?それと同類みたいね」
私の言葉にバルトロスはやれやれと首を横に振る。
「あんな出来損ないと一緒にはされたくないですね。私は完全体です。種として強い!」
バルトロスは無数の黒い弾丸や槍を生み出して、私へ放ってくる。
立ち止まっても的になるだけだ。
私は全力で駆け続けて、射線から逃れようとする。
けれど圧倒的物量を誇る黒の弾幕は、走るスペースを塗りつぶしていく。
「ぐっ…」
駆ける速度が遅く分だけ黒の弾幕から逃れられなくなっていく。
私は致命傷になりえる物を中心に、二刀で斬り裂いていくことにした。少しの負傷は許容し、バルトロスの元へと歩みを進める。
一歩進むたびに私の身体は傷つく。
それでも歩みを止めることはない。
「この攻撃を受けて、まだ無事だというのは驚きですね…ですが私の元にたどり着く前にあなたは力尽きる!」
「なにがなんでもたどり着く。届かないなら届かせる。わたくしの全てを持って…斬る!」
バルトロスは既に勝った気でいる。
人など恐れるに足りないと思っている。だからこそ、そこが隙となる。
私は左手に持っていた辰月を投げた。刃に触れた黒の魔力を霧散させて突き進みバルトロスの足に刺さる。
「…黒龍の素材は確かに相性が悪いですが、この程度効きませんね」
それは知っていることだ。
魔力を霧散させる辰月は、バルトロスの身体にも有効だがそれだけ。刀が突き刺さったくらいでは意味を成さないだろう。
けれど大事なのは、一瞬でも気が逸れること。
バルトロスの意識が足に向いた瞬間、私も動く。
無手になった左手に魔力を纏わせた。聖属性、炎熱、雷光へ変換した三属性の魔力を一つへと重ねて相乗する。
同時に足元に魔力の爆発を発生、弾幕を受けながら距離を詰めて殴った。
「ぐっ…がぁ!?」
身体の中心を捕らえた拳は、バルトロスの身体ごと吹き飛ばす。
バルトロスが体勢を崩したことで、黒の弾幕が途切れた。
「はああああっ!」
声を上げることで気合を入れなおす。
夜月を構え、バルトロスを目掛けて再度距離を詰めた。
「っ…舐めるな!」
バルトロスは周りに魔力を集めて、大き目の黒い槍を数十本生成、一斉に放ってくる。
私は槍の隙間をすり抜けるように身体を動かして…違和感に気付く。
徐々に感じる時間が遅くなっていく。
私自身に変化はない。けれど相手の動きが、飛来する魔力の動きがより鮮明に見えた。
腹の穴を通すかのように黒い槍の躱していく。
そしてバルトロスとの距離を詰めると、夜月に魔力を込めて突き刺した。
全体重と移動速度を乗せた突きは、バルトロスの身体に突き刺さって大穴を開ける。
「ぐっ…私の体に急所はない。たとえ身体を穿ったとしても、すぐに回復を!?」
バルトロスは自身の身体を見て固まった。夜月が刺さっているところが回復しないからだ。
それも当然で夜月は魔力や生命力を喰らう妖刀みたいなもの。普段は私の意志で抑えているが、解放さえすれば刃に触れている者を喰らい尽くしてくれる。
たとえ不死身に近い回復力を持っていても回復にはエネルギーを使う。魔力か生命力かあるいは別の力かは分からない。
それでも力を使う以上は、夜月が喰うだろう。
「無駄よ…回復する力も攻撃しようとした力も夜月が喰らう。魔力に近い身体だからこそ一つの綻びから破綻するわ。だから…さようなら」
そして身体のほとんどを魔力で構築しているからこそ、身体を構成している基点が妨害されれば、動かすことさえままならなくなる。
私は魔法袋から魔力が込められた宝石を五つ取り出す。魔力を込めてから空中に放り投げると、全ての宝石が砕けて膨大な魔力に包み込まれた。
一つ一つが最上級クラスの魔力を含有している宝石。
その全てを費やして炎熱属性の魔術を発動した。
「…その術式にその魔力は!?」
バルトロスはここにきて初めて焦りを見せていた。
術式を見て表情が歪む。焦りから恐怖へ変わる。
「最上級魔術を超えた先、特級に分類される魔術…いえ評価外に分類されるこれは、単に威力が高いだけじゃないわ。本当の意味で一線を超えた物。わたくしも初めて使うけど…しっかりと味わいなさい」
術式によってバルトロスを光が包む。
高圧縮された魔力は膨大な熱エネルギーとして変換されて、柱の中を加熱、気化させていく。
同時に魔法杖を取り出した。
私の中にある残り魔力を全て込めて魔法を行使する。
それは空間ごと完全に遮断する結界。
球状に結界が展開されて結界が黒に染まった。
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