王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
198 / 475
第8章 女王の日常と南の国々

22 50倍

しおりを挟む
「飛龍の相手もうまく言っているみたいね」

「そうだな。後は敵の航空戦力が全滅するまでこちらを守りきるわけだが……なかなか苦労しそうだ、な!」

 上空では飛龍が攻撃を受けて堕ちていくのが見えている。しかし飛龍自体は100はくだらないため、全滅するには時間がかかるだろう。

 それに対して地上でも総力戦が繰り広げられている状態だ。攻めてくる相手を迎撃する関係上こちらが有利となるが、数的不利は否めない。
 このまま長時間戦い続ければ魔力か体力かどちらかが先に尽きるだろう。

「概算ですが敵地上部隊の総数割り出せました…およそ10万です」

 騎士隊2千に対して10万。戦力差にしておよそ50倍。
 仮に魔術士隊と弓兵隊を加えても25倍差ということになる。

 私は一つ手を打つことにした。

「アドリアス…聖槍の力を使いましょう。消耗がはげしいから短い時間で良い。大打撃を与えておきたいわ」

「了解した。では初披露と行こうか」

 アドリアスはそう言葉にして聖剣を納める。代わりに手に取ったのは聖槍ファスケストだった。

「ファスケスト全権開放…同調開始」

 槍はアドリアスの声に反応して輝く輪が広がっていく。

 精霊の加護を宿す聖槍ファスケスト。
 その能力は味方同士での同調と共鳴。

 一定の範囲内の味方の魔力を繋いで同調させる。そして繋がった魔力を共鳴させることで魔力全般を大幅に向上させる。
 つまりは個人の魔力の出力や演算能力を複数人で共有するということ。原理的には軍団魔術に近いが、各々が行使する身体強化や魔術にも反映される点が大きく異なる。

 同調している誰かが魔力を使えば、残りの全員も無意識に魔力を使うため全員が徐々に消耗していくが、消耗に対する効果が大きく向上するだろう。

「長い間ファスケストの能力を使い続けることはできない。だから……」

「ええ。航空戦力の相手は弓兵隊と魔術士隊がなんとかしてくれると信じてる。だからその間だけでも、持ちこたえることができれば問題ないわ!」

 地上戦だけになれば地形を最大限に生かすことができる。
 この渓谷という場所は、前から攻めるしかない。だからこそ守るこちらが有利だ。

 アドリアスが同調を使用したことで、騎士たちの動きが良くなる。
 各々が行使している身体強化の強度が増すだけでなく同調中は魔力通信が可能なため連携もとりやすいからだ。
 魔術具の通信と違い、心の中で魔力に音を乗せることで届く念話のようなもの。声というものを出さなくても念じた先の相手に届くため、相手に察知されないという利点もあった。

 押されつつあった戦線は、徐々に盛り返しを見せてナイトメア軍を押し返す形になっていく。



 襲撃があってからしばらく経ち、空が暁の模様を見せる頃。
 ついに最後の飛龍が堕ちる。

「全軍後退!敵を牽制しつつ指定区域まで下がるわよ!」

「同調解除…全軍反転!後衛部隊は撤退の支援に入れ!」

 敵の航空部隊を殲滅できた。
 ようやくこの戦いに転機が訪れる。

 前線で戦っていた部隊を後退させて、後方にいた部隊が前衛へ入れ替える。
 魔術士隊と弓兵隊の準備が整うまでの間、徐々に後退するつもりだ。

「デトローク。あなたには後で高火力の一撃を期待したいから、一度下がって良いわよ」

「了解した。一度下がらせてもらう」

「アドリアスも消耗が激しいでしょう?一度下がって。シリウス、アルキオネは前線の支援を!」

「「「了解」」」

 私とアドリアスも下がって、シリウスとアルキオネが前線を支援する。

 遅滞戦闘といわれる戦術。
 戦闘と後退を繰り返し敵を牽制しながらも確実に後退していく。

 敵も追撃してくるが最初に起こした落石の影響で幅が狭まっている。
 当然敵部隊も横幅が縮んで縦に長くなっていた。


 何度目かの後退をした直後、別動隊として動いていた魔術士隊と弓兵隊から準備完了の通信が入る。

「後退!」

 アドリアスの合図で自軍は後退。
 そして目的の地点までたどり着いた。

「全軍反転攻勢!総攻撃放て!」

 私は通信で全隊長に指示を伝える。

 次の瞬間。

 敵軍近くの渓谷の壁側。崩れ落ちていた瓦礫が一斉に爆発した。

 爆発による衝撃波が敵を襲い、瓦礫の破片が追撃となる。

「全魔術士隊…初級攻撃魔術一斉射。撃て!」

 イリーナの声で渓谷の壁の中にいた魔術士隊が一斉に魔術を放つ。

 そして構えていたのは他にも居て。

「弓兵隊…矢は即時爆破。曲射にて中央から後方を狙え…放て!」

 シクスタスの合図で後方から一斉に矢が放たれた。
 弧を描くようにして矢の群れが敵軍の頭から降り注ぐ。
 降り注いだ矢は、衝撃を受けた瞬間一斉に爆発した。

 騎士隊も他の隊に負けず劣らず反撃を開始して。

「皆下がっていろ。我は雷なり…」

 デトロークが魔剣を構えたまま小さな声で呟くと雰囲気が変わる。
 膨大な雷を身に纏っているのは同じだが、いつもよりも動きが洗練されているように感じた。
 魔力の剣を振りかぶって雷の斬撃を放ち敵軍を吹き飛ばす。

 続いてアドリアスも聖剣グラディウスの聖属性の斬撃を放ち、シリウスとアルキオネも暴風の槍と斬撃をそれぞれ放つ。

 敵から見て前方からは騎士隊の攻撃と雷撃と暴風が襲い。
 両脇からは魔術士隊からの魔術攻撃が襲う。
 上空からは矢が降り注ぎ当たった瞬間爆破される。運よく矢が当たらなくても地面に当たった刺さった瞬間、足元から爆破された。

 前方、左右、地面と空。
 後方以外のあらゆる方面からの攻撃。

 ここに包囲殲滅陣の完成したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...