王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
196 / 475
第8章 女王の日常と南の国々

20 総攻撃

しおりを挟む
 およそ1万体の魔物。
 言葉にするととても強大に感じる。
 しかし群れの構成はゴブリンやオーク、オーガを含む一般的な魔物だ。個々の強さも邪気を帯びている魔物と同様に、身体性能が向上している分、理性が消えている。

 ただ統率もなく、恐れもなく、命ある限りひたすら突撃し続ける。そんな狂気染みた魔物たちだが、一定以上の実力者であれば厄介なだけで脅威ではない。
 対策する時間さえあれば、統率がとれている魔物の群れよりも御しやすいのだ。

 なにより先ほどの一斉攻撃を受けている魔物たちは、無傷の個体のほうが珍しいほどに満身創痍だ。
 こちら側が押し通せるのが必然だろう。

「騎士たちは小隊ごとに殲滅!第1陣は俺達に続け。第2陣は第1陣を抜けた魔物に対処しつつも追走。第3陣は後方に流れないように最終防衛線を張る。来い!」

「「「はっ!」」」

 アドリアスは騎士隊を第1陣に5百、第2陣に5百、第3陣に2千という構成で割り当てている。
 アドリアスを先頭に渓谷を進んでいく。

 そして私も先頭を切る。
 身体強化を最低限行使して二刀を以って、魔物を斬り裂いていた。近くではシリウスが槍で穿ち、アルキオネが剣で両断していく。

「戦うからには本気でやらねばな…久しぶりに身体を動かすから慣らさせてもらう」

 デトロークも魔剣を振りかぶり、魔物を斬り裂いていた。雷を纏った剣は触れた魔物に対して雷撃と斬撃で塵へと化していく。

「さすが帝国の元将軍。数年もの間、牢獄の中に居たとは思えないほどに動けるのね」

「敵にしたくはない分、味方になると心強いな」

「ふん…味方になったつもりはないからな。それに牢の中であっても体を鍛えるのは武人として当然のこと…だ!」

 私とアドリアスの会話にデトロークが入ってくる。別の方向を見て魔剣を振り抜いているが、話が聞こえていたらしい。

「じゃあ一人の武人として期待しているわよ!」

 軽口を叩きつつも手は止めないで歩みを続ける。
 先頭の私たちと第1から第2陣が偃月陣形、第3陣が鶴翼陣形となって、魔物を倒しながら突き進んで行くのだった。



 攻撃を仕掛けてからおよそ鐘2つ。
 私たちは渓谷と平野の境界付近まで魔物を殲滅し進軍することができた。

「またここで防衛戦を張るわ。魔術士隊と弓兵隊の半数ずつを前線へ。残りは予備戦力として待機」

 平野の近くに敵影がないことを確認してから一息つく。
 けが人こそ出たものの死者は0。結果として上々だろう。
 今のうちに怪我をした人に治癒を行い、警戒しつつも休養を取らせる予定だ。

「魔物を倒した以上、次に来るのはナイトメア軍だろうが…翌日以降か、あるいは夜襲を仕掛けてくるか読めないな」

 報告があって戦闘が始まったのが朝。そして今は夕暮れ時。
 夜になれば月明かりしかない平野は見通せず、こちらの本陣は明かりを灯していて遠くからでも目立つ。夜襲を仕掛けてくる可能性も十分にあるだろう。

 けれど夜襲の対策はあらかじめ講じていて。

「見張りたちの双眼鏡にも簡易的な熱源探知機能がついているから、障害物で隠れていない限り見逃さないわ」

 地上であれ空中であれ遮蔽物がなければ筒抜けになる。そして夜闇が有利に働くのは敵だけではない。

「斥候部隊は日が暮れると同時に夜闇に紛れて敵本陣を探して。見つけ次第飛行船による遠距離砲撃を行う」

 敵の拠点が分かれば本陣から攻撃ができる。拠点を潰すことができれば相手は滞在できなくなるだろう。
 更には補給を阻害することもできるかもしれない。

 斥候部隊を送り魔術士隊と弓兵隊が合流したあとは、簡易的な陣を構築する。
 結界を張り大地による壁や柵を構築し、見張りようの高台を作り上げた。
 見張り役と一割ほどの兵士を夜番として残り私たちは休むことになった。


 そしてその日の深夜。夜番以外の皆が寝静まっている頃。
 私たちの陣に緊急用の鐘の音が鳴り響く。

「敵襲!数は不明…大多数の陸上部隊および航空部隊が接近。攻撃来ます!」

 報告に来た兵士が言葉を発した瞬間……

 空が輝き視界が白に覆われる。
 続いて轟音と衝撃が陣の中を響かせた。

「な、なにがあったのよ!?」

 突然の事態に、思わず頭を下げて叫ぶと「申し訳ありません!接近されるまで気が付きませんでした!」と兵士は顔を青くする。

「ラティアーナ!ナイトメア軍の総攻撃だ。今の攻撃で陣の結界が消滅したが人的被害はなし。敵の総数は不明だが、最低でも数万はいるかもしれない。それから飛龍に乗った航空戦力が数百いると思われる」

 頭の中を整理しているとアドリアスがやってくる。
 寝巻きのまま肩で息をしているところを見ると、起きてから急いで来たようだ。

 敵の構成も攻撃方法も不明。
 どうやって見張りの目を欺いたのかも分からない。
 けれど……このまま手をこまねいているわけにもいかない。

 私は近くに置いている通信用魔術具に魔力を流して

「総員迎撃準備!船にいるものは警戒を最大限した状態で待機。今陣にいる騎士隊は、攻めてくる地上部隊の迎撃。弓兵隊と魔術士隊は、航空戦力の相手に当たれ!被害を最小に敵を速やかに殲滅せよ!」

 と全隊長に伝えた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...