王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

18 陣地作成

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 私たちは夜闇に紛れて移動する。
 エスペルト王国の国境を出発したあと、渓谷へと下る砦がある。
 砦を超えて渓谷の底すれすれまで高度を下げた飛空船は、そのまま静かに飛び続けた。

 そして日が昇り始める頃。
 目的地である渓谷の出口付近へ到着した。

「騎士隊は俺に続け…辺り一帯の魔物を殲滅する。副長は反対側を」

「了解した」

 アドリアス率いる騎士隊は、渓谷に存在している魔物を殲滅するために動き出した。一度殲滅した後は、しばらくの間は野良の魔物に襲われる心配もないはずだ。


 そして綺麗になった場所に陣を作成するために

「ここに仮説の砦と防御壁を作るわよ。魔術士隊は集まりなさい!」

 とイリーナが魔術士隊を率いて大規模な工事を行っていく。
 地属性の魔術を使いながら大地を利用した防護壁を作り、飛空船の存在を隠す。
 ついでに船の上には瓦礫でカモフラージュしてあるため上空から見られても、すぐには露見しないだろう。

 そして軍を展開できるスペースを開けた前方に壁や柵を構築することで陣が完成するわけだ。

「イリーナ。陣の作成が終わったら渓谷沿いを少し掘ってもらえる?ある程度兵士たちを展開できるスペースが取れればいいわ。あと空いている魔術士に矢への付与をお願いしたいわ」

 用意しておきたい矢は2種類。
 後から任意のタイミングで起動して爆破できる矢と刺さった物質に対して強度を下げる矢だ。

 イリーナも使い道が分かったようで「わかったわ」と戻っていった。



 陣の作成が完了すると斥候を交替で送る。
 渓谷と平野の境目と渓谷の上から偵察を行い敵の動きを探るのが目的だ。

 そして私や各部隊長は旗艦エスペルトの船内にいた。
 斥候からの情報は通信で常時受信、戦況の把握に努める。エインスレイス連邦とドラコロニアとも定時連絡を取ることで情報共有に抜かりはない。
「まずは順調に進んでなによりだわ。後は相手の動き次第だけど…どう来るかしらね」

「敵の動きがもう少し分かればいいのですが平野の先は丘陵地帯ですし森も点在します。視認できる範囲がそれほど多くないのが難点ですね」

 辺り一帯の地図を作成して眺めている。
 私の言葉に反応したエクハルトの言うとおり、地上の索敵は難しいものだ。
 斥候にも望遠鏡は持たせているが、障害物のせいで視認できる範囲が限られる。これは船に積んである熱源探知も同様だ。

 魔力探知による索敵も大きな魔力にしか反応しないため通常の魔物の群れくらいでは索敵できないだろう。

「仕方ないわよ。試作用の魔術具は失敗だったもの」

 イリーナが残念そうに呟く。

 実は映像通信用の魔術具を改造して上空から映像を伝達する魔術具を試作した。
 ドローンを想起させるその魔術具は、上空に浮かんで上手く作動させることに成功した。しかし鳥型の魔物に食べられてどこかに消えて去ったのだ。

「まぁ、現状でも渓谷の上からであれば10キロメートルくらいは確認できるだろう?遮蔽物を使われてもある程度の距離があるのだから、なんとかなるのではないか?」

「一応はね。ただ攻めてくるのが分かるだけじゃなくて、相手が潜んでいる場所が分かれば砲撃ができるのよ。マギルス領の戦艦で使っていた二段式の弾丸をいくつか積んでいるからね」

「あれは当てるのが難しいのよね。砲弾に設定する術式の計算が複雑なのよ」

 イリーナが言うには弾頭を射出する角度と時間を設定しているらしい。
 どちらにせよ現状では使えない手になるため、考えても仕方ないだろう。



 その後も警戒を続けるが動きはなく、初日は無事に終わろうとしていた。
 そして夜が明けた頃、エインスレイス連邦とドラコロニアからの緊急通信が入る。

「ドラコロニア王国の国境付近に魔物の大群と更に後方にナイトメアの軍勢を確認した。魔物の数はおよそ2万。そして兵士はおよそ3万だ」

「連邦も同じですね。魔物がおよそ4万の群れと兵士およそ5万。こちらも国境を攻めるために複数箇所へ分かれていますが厳しいです。都市の防衛設備を主軸にした篭城を行いますので、しばらくは身動きがとれないかと」

「今までの情報から考えると意外と少ないわね…消耗が大きくて兵力を減らしたと考えたいところだけど」

 私が希望的観測を言葉にしたとき、船の通信室にノックが聞こえた。
 慌てた様子で一人の文官がやってくる。

「通信中失礼します。斥候部隊より報告。魔物の群れ及び後方に兵士の存在を確認。推定でそれぞれ10万以上と思われるとのことです」

 文官の報告は、通信を通してレオンとギルベルトにも聞こえている。
 しばらく沈黙が続いた後、私は口を開いて

「こちらも迎撃に入るわ。両国への援軍はできそうにないけれど…健闘を祈っているわ」

「…わかりました。連邦も総力を上げて迎撃します。エスペルト王国もどうかお気をつけて」

「こちらも全力で対応する。互いの無事を祈っている…そしてこれはドラコロニア王国の王としてではなく一人の兄としてだが…ラティアーナ死ぬなよ」

「ええ、またこうして話しましょう。それと妹からの返事だけど、ギルベルトお兄様こそ無理しないようにね」

 この言葉を最後に通信を切る。
 通信を切った直後、ノックと共に扉が開いて

「ラティアーナ陛下。アドリアス様とイリーナ様は既に部隊指揮に入ってます。これから…陛下?」

 シクスタスが声が聞こえてきた。振り返ると不思議そうな表情をしているのが見て取れる。

「どうしたのよ?」

「申し訳ございません。少しだけ笑みを浮かべていたような気がしたので、どうされたのかと」

 ギルベルトとの会話で思わず笑みがこぼれたようだ。
 今まで家族として接していなくても、兄妹として言葉を交わしただけで嬉しく思うのだから我ながら現金だと思う。

 ただ素直に認めるのも恥ずかしくて

「なんでもないわ。行くわよ」

 とだけ口にした。
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