王女の夢見た世界への旅路

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第8章 女王の日常と南の国々

16 緊急会談

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「まず始めのこの資料を見て欲しいのです」

 会談の最初にあったレオンの一言だ。
 映像越しに資料を確認する。
 記載されているのはナイトメアと先日滅ぼされた国の一つであるロニアの交戦記録のようだ。

「エインスレイス連邦とロニアは、比較的交流がありましたから。同盟まではありませんが約束ごとを交わしていたのですよ」

 詳しく聞いたところ、ロニアが滅びそうな時に民たちを受け入れてもらうように頼まれていたらしい。代わりにナイトメアの情報を与えるというものだったようだ。

 交戦記録を見ると相手の戦力の一部が垣間見れる。

 近接部隊が約2万。
 弓兵などの遠距離部隊が約2万。
 飛龍などを使った空軍が1千。
 魔術部隊が5千。

 そしてこの部隊を4カ国同時に差し向けたとすれば、総数はおよそ4倍となる。

「正直なところ厳しいな。ドラコロニアは総力を集結させても1万しか出せない。それ以上となると街を守る兵がいなくなってしまう」

「エインスレイス連邦も動かせるのはせいぜい4万ですね…守る分有利とはいえ厳しいと思います」

「エスペルト王国からは5千が限度ね。これ以上は他の守りが手薄になるわ」

 実際のところ今の王国軍の総数は、以前より増強して4万。領軍も合わせれば7万くらいになる。
 しかしグランバルド帝国とアルカディア王国との境界だけでも1万ほど兵を割いている現状で、迂闊に守りを薄くすると北側から攻め込まれる危険があった。
 領軍も領主に仕える領地を守るための軍だ。王命で動かせないこともないが得策ではない。
 それに予備戦力を残しておかないと、想定外の事態になった場合に手が打てなくなる。

「そしてエインスレイス連邦とドラコロニアの国境にある渓谷に本陣を置きたいと思っているわ」

「私は構いませんよ。あの渓谷は下から攻めるのに向かない場所ですからね。かといって全くの無防備というわけにもいかない場所です。エスペルト王国に防衛いただけるのであればむしろありがたいですね」

「ドラコロニアとしても南側の国境防衛で手一杯だから助かる」

 私の提案にレオンもギルベルトも良い反応を示してくれた。

 話を突き詰めていくと最終的には次のような事が決まる。
 まずエインスレイス連邦とドラコロニアは南側の国境付近を専守し、谷を含むエインスレイス連邦とドラコロニアの国境付近は、エスペルト王国が対応すること。
 そしてエインスレイス連邦もドラコロニアも敗れた国の民を受け入れている。食料を始めとする物資を融通することだ。

「では私はこれで…互いの健闘を祈っています」

「ドラコロニアもこれで失礼する。次に会談を行うときは良い話ができることを期待しよう」

「ええ、次の機会にでも」

 通信が切れるのを確認した私は、息を吐いて体の力を抜いた。

 迎撃体制は決まった。あとは準備をして行動するだけだ。

「ドミニク。王国軍はいつ動かせるの?」

「今日中には編成が完了します。明日にでも動かせるかと」

「よし…編成部隊を明日の昼くらいまでにはサウスガーディアンの国境門に集めたいわね。王都からは輸送船を2隻と戦艦2隻を出して残りは他の都市から移動させる形でどう?」

「かしこまりました。直ぐに準備します」

 ナイトメアがいつ攻めてくるか分からない以上、迅速な対応が大事だ。
 戦いが始まるまでにどれだけの準備ができたかによって結果が違ってくるだろう。

「今から格納庫に向かうわ。ついて来て」

 私とニコラウスは共に王城地下にある格納庫へ向かった。
 階段を下りながらも、一つ考えていたことを伝えておくことにする。

「格納庫の確認が終わったあと、牢の鍵とあの魔剣を持ってきてくれない?」

「牢の鍵…正気ですか!?下手をすれば陛下の身に危険が及びます。不確定要素は除くべきです!」

 私の何気ない一言から意味が分かったらしく、ニコラウスは珍しく声を上げた。確かに味方ですらない者を使おうとしているのだから心配するのはもっともだろう。
 しかしこの戦力差をなるべく少ない損害で勝つためには、普通のことだけでは足りないと思っている。

「問題ないわ。今のわたくしであれば負けないもの。最高クラスの戦力を遊ばせておくのはもったいないし、ナイトメア相手にまともな作戦だけでは勝てないわ」

 ニコラウスも頭では分かっているようで返答に詰まる。
 ナイトメアの総戦力が16万以上として単純に三等分しても5万以上。戦力差で言えば10倍以上だ。

「まともじゃない相手にはまともじゃない手をぶつけないとね」

「かしこまりました…十分お気をつけください」

「もちろんよっと。着いたわね」

 話しているうちに格納庫へ到着する。
 扉を開けると大きな飛空船が6隻佇んでいるのが見えた。
 内2隻が従来の飛空船。そして残り3隻が新規建造した輸送用飛空船、残りの1隻が新規に作った船だ。

「話には聞いてましたが…あれが旗艦エスペルトですか」

「そうよ。グランバルド帝国から鹵獲した船と既存の船を解体して新規建造した1隻。わたくしが王位についてから新しく作り上げたものね」

 マギルス公爵領にあった戦艦、グランバルド帝国の技術、私の記憶にある兵装。
 それぞれを各省に研究してもらっていた。
 そして兵装などは他の船にも搭載しているが、探知系統や通信系統の兵装はこの船にしかない。
 半分は試作品でもあるが、指示系統を出す上でも旗艦としてふさわしいと言えるはずだ。

「これはラティアーナ陛下。どうされましたか?」

「明日、船を出すことになったわ。申し訳ないけど物資の搬入と最終整備をお願いね」

 工兵たちに明日の準備をお願いする。少しだけ打ちあわせをして格納庫を後にした。
 その後、ニコラウスから鍵を受け取ってから王城にある特別牢獄塔に向かった。

 特別牢獄塔というのは、一般的な犯罪者を捕まえておくところではない。王家に関わるような重罪を犯した人を一時的に拘束したり王族のような普通には扱えない人を拘束するための牢だ。

 そしてこの特別牢には今、一人の男がいる。

「久しぶりね。デトローク将軍」

「誰かと思えば…貴様か…」

「ええ、あなたに監視付きだけど自由をあげるわ。その代わり、ナイトメアとの戦いでは力を貸しなさい」

 私の言葉にデトロークが笑みを浮かべて

「断る。王国のために働くつもりはない…それにかつて敵であった俺をここから出すだと?随分と見縊られたものだな」

 と言った。
 その目には強い感情が宿っていて、とても力強く感じた。

 確かに普通はありえない選択肢だろう。それもデトロークであれば下手な監視人など役に立たない。みすみす国外逃亡を許すようなものだ。だが……

「グランバルド帝国の皇帝はとても優秀と聞く。数年間敵国に捕まっていた人が突然帰ってくれば当然罠を警戒するでしょうね。それにナイトメアは帝国にとっても敵。力を貸す理由には十分だと思わない?」

 微笑みながら言葉にする。
 同時に保管庫から持ってきていた魔剣ボルテアスパーダを目の前に置いた。

「自由と言ってもグランバルド帝国との戦い以外のときに契約する傭兵みたいな形ね。帝国にとっても魔剣1本分があなたの元に返るのだから悪くないと思うけれど…どうかしら?」

 私の言葉にデトロークは一瞬だけ固まった。
 そして……

「契約するかどうかはその時々で判断させてもらう。それでも良いなら話を受ける」

「じゃあ交渉成立ね」

 デトロークをナイトメアとの戦いに連れて行くことが決まった。
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