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第8章 女王の日常と南の国々
8 不穏な王都
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「王都で原因不明の病が広がっている?」
ニコラウスからの突然の報告で理解が追いつかなかった私は、思わず同じ言葉を繰り返してしまった。
「ええ…王都にて体調を崩すものが多発しているようです。症状は風邪に近いのですが治癒魔術も回復薬も効果がないようです」
病院にも魔術士が数人在籍している。
病に効く治癒魔術は怪我と違い聖属性のみとなるが、適正がなくても発動させること自体は可能だ。また回復薬にも自然治癒力を向上させるものもあるし、病ごとの治療薬も存在する。
しかし原因がわからないことには治療のしようがない。
私はさらに詳しい報告を聞く。
現状では王都でのみ病が確認されているらしい。病院だけでなく魔術省や王城所属の研究者も調査をしているようだが、未だに解明できていないそうだ。
「王都のどのあたりに集中しているとかあるのかしら?」
「住民の居住区はバラバラですね。法則なども見えないです」
これだけ広がっているというのに共通点が見えない。病だけでなく毒物の可能性も考えてみるが…
「毒にしても居住区ごとに水源も違うわ。食べ物であればもっと一斉に起きるだろうし…全くわからないのよね」
結局のところ分かっていることはとても少ない。一先ずは今までと同様に対応してもらうことにした。
数日たった今も調査に進展はなかった。それでも体調を崩す人が増えていく。
今のところ貴族には症状がないが、王城や王宮に務める侍従や使用人にも病は広がりを見せていた。
その中で私は王宮にある一室を訪れる。
「入るわよ。調子はどう?」
「ラティアーナ様!私は大丈夫ですから部屋には入らないでください。ゴホ…病がうつったらどうするつもりですか!」
リーナも昨日くらいから体調を崩して寝込んでいた。最初は症状が軽かったが時間が経つにつれて徐々に悪化したらしい。昨日は顔を出せなかったため、今日になってお見舞いに来たわけだ。
「わたくしは治癒魔術もあるから大丈夫よ。それにしても部屋に入らないでってひどいじゃない。ショックを受けたらどうするのよ」
冗談を言いつつもベッドの近くにある椅子に腰掛ける。
リーナの様子を窺うと顔を赤くしていて熱は高そうだ。ただ意識ははっきりしているようで、ほんの少しだが安心する。
「厨房から果物を頂いてきたけど食べる?」
「…いただきます」
リーナの言葉に笑顔を浮かべる。持ってきたリンゴを切って盛り付けていくが、ふと頭の中に考えが浮かんだ。
看病といえばリンゴのすりおろしだろうと。
「ラティアーナ様どうしました?」
ナイフを持ったまま動きが止まっていたことが気になったようで、リーナが不思議そうにしていた。
「残りのリンゴをすりおろしにしようと思って…ここに来るときに汲んできた水だけどまだ使ってないから大丈夫よね」
「はい?」
首をかしげたリーナに「安心してみてなさい」と言って魔術を行使した。
汲んできた水の一部を浮かせて形を整え、そのまま凍らせていく。氷製の即席のおろし器を作ると、浮かせたままお皿の上でゆっくりと振動させた。そこに残りのリンゴを添えると、あっという間にリンゴのすりおろしが完成だ。
「なかなか上手いでしょ」
「魔術をこのように使うのはラティアーナ様くらいだと思いますよ」
少しだけ呆れた目を向けてくるが、私としては道具だろうが魔術だろうが便利なものは使えばいいと思う。
「便利だから良いのよ…はいどうぞ」
「ありがとうございます」
お皿とフォークを差し出すと、お礼を言いながらもリンゴを口に入れていく。
とりあえず食べることはできそうなため良かったと思う。
少ししてリーナが食べ終わったのを見守った後、お皿を下げる。
気休めに回復魔術をかけると少しは顔色が良くなった。魔術による治癒ができなくても、熱で消耗した体力を回復させることくらいの効果はある。多少は楽になるだろう。
「汗かいてるでしょ?濡れタオルで拭くから起き上がれる?」
「流石にそこまでやってもらうわけには…」
「体調が悪い時くらい遠慮しなくて良いのよ。まぁどうしてもというならイリスでも呼ぶけど…どうする?」
私の強い意志を感じたようでリーナは諦めて「お願いします」と呟いた。
魔術で水を温めた後タオルを濡らして絞る。熱すぎず冷たすぎずの丁度いい温度にしてから汗を拭っていく。
「どうかしら?」
「気持ちいいです。随分と手慣れていませんか?」
「前にローザリンデの看病をしたからね。それにあの時から進化しているのよ」
リーナが意外そうにしているのを見て、内心でガッツポーズを作る。前にローザリンデを看病してから、念のため練習した甲斐があったようで何よりだ。
「氷嚢と濡れタオルだけ交換しておくわね…最近忙しかっただろうしゆっくり休みなさいな」
「ありがとうございます…少し眠らせていただきますね」
「ええ、おやすみなさい」
体を長い時間起こしているのは辛いようだった。少し息が荒いものの目をつぶって眠りについたのを確認してから、私はリーナの部屋を後にした。
ニコラウスからの突然の報告で理解が追いつかなかった私は、思わず同じ言葉を繰り返してしまった。
「ええ…王都にて体調を崩すものが多発しているようです。症状は風邪に近いのですが治癒魔術も回復薬も効果がないようです」
病院にも魔術士が数人在籍している。
病に効く治癒魔術は怪我と違い聖属性のみとなるが、適正がなくても発動させること自体は可能だ。また回復薬にも自然治癒力を向上させるものもあるし、病ごとの治療薬も存在する。
しかし原因がわからないことには治療のしようがない。
私はさらに詳しい報告を聞く。
現状では王都でのみ病が確認されているらしい。病院だけでなく魔術省や王城所属の研究者も調査をしているようだが、未だに解明できていないそうだ。
「王都のどのあたりに集中しているとかあるのかしら?」
「住民の居住区はバラバラですね。法則なども見えないです」
これだけ広がっているというのに共通点が見えない。病だけでなく毒物の可能性も考えてみるが…
「毒にしても居住区ごとに水源も違うわ。食べ物であればもっと一斉に起きるだろうし…全くわからないのよね」
結局のところ分かっていることはとても少ない。一先ずは今までと同様に対応してもらうことにした。
数日たった今も調査に進展はなかった。それでも体調を崩す人が増えていく。
今のところ貴族には症状がないが、王城や王宮に務める侍従や使用人にも病は広がりを見せていた。
その中で私は王宮にある一室を訪れる。
「入るわよ。調子はどう?」
「ラティアーナ様!私は大丈夫ですから部屋には入らないでください。ゴホ…病がうつったらどうするつもりですか!」
リーナも昨日くらいから体調を崩して寝込んでいた。最初は症状が軽かったが時間が経つにつれて徐々に悪化したらしい。昨日は顔を出せなかったため、今日になってお見舞いに来たわけだ。
「わたくしは治癒魔術もあるから大丈夫よ。それにしても部屋に入らないでってひどいじゃない。ショックを受けたらどうするのよ」
冗談を言いつつもベッドの近くにある椅子に腰掛ける。
リーナの様子を窺うと顔を赤くしていて熱は高そうだ。ただ意識ははっきりしているようで、ほんの少しだが安心する。
「厨房から果物を頂いてきたけど食べる?」
「…いただきます」
リーナの言葉に笑顔を浮かべる。持ってきたリンゴを切って盛り付けていくが、ふと頭の中に考えが浮かんだ。
看病といえばリンゴのすりおろしだろうと。
「ラティアーナ様どうしました?」
ナイフを持ったまま動きが止まっていたことが気になったようで、リーナが不思議そうにしていた。
「残りのリンゴをすりおろしにしようと思って…ここに来るときに汲んできた水だけどまだ使ってないから大丈夫よね」
「はい?」
首をかしげたリーナに「安心してみてなさい」と言って魔術を行使した。
汲んできた水の一部を浮かせて形を整え、そのまま凍らせていく。氷製の即席のおろし器を作ると、浮かせたままお皿の上でゆっくりと振動させた。そこに残りのリンゴを添えると、あっという間にリンゴのすりおろしが完成だ。
「なかなか上手いでしょ」
「魔術をこのように使うのはラティアーナ様くらいだと思いますよ」
少しだけ呆れた目を向けてくるが、私としては道具だろうが魔術だろうが便利なものは使えばいいと思う。
「便利だから良いのよ…はいどうぞ」
「ありがとうございます」
お皿とフォークを差し出すと、お礼を言いながらもリンゴを口に入れていく。
とりあえず食べることはできそうなため良かったと思う。
少ししてリーナが食べ終わったのを見守った後、お皿を下げる。
気休めに回復魔術をかけると少しは顔色が良くなった。魔術による治癒ができなくても、熱で消耗した体力を回復させることくらいの効果はある。多少は楽になるだろう。
「汗かいてるでしょ?濡れタオルで拭くから起き上がれる?」
「流石にそこまでやってもらうわけには…」
「体調が悪い時くらい遠慮しなくて良いのよ。まぁどうしてもというならイリスでも呼ぶけど…どうする?」
私の強い意志を感じたようでリーナは諦めて「お願いします」と呟いた。
魔術で水を温めた後タオルを濡らして絞る。熱すぎず冷たすぎずの丁度いい温度にしてから汗を拭っていく。
「どうかしら?」
「気持ちいいです。随分と手慣れていませんか?」
「前にローザリンデの看病をしたからね。それにあの時から進化しているのよ」
リーナが意外そうにしているのを見て、内心でガッツポーズを作る。前にローザリンデを看病してから、念のため練習した甲斐があったようで何よりだ。
「氷嚢と濡れタオルだけ交換しておくわね…最近忙しかっただろうしゆっくり休みなさいな」
「ありがとうございます…少し眠らせていただきますね」
「ええ、おやすみなさい」
体を長い時間起こしているのは辛いようだった。少し息が荒いものの目をつぶって眠りについたのを確認してから、私はリーナの部屋を後にした。
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