183 / 475
第8章 女王の日常と南の国々
7 同盟を結んだ効果
しおりを挟む
休暇に入り何気ない日々が続いていく。
ナイトメアの侵略もまだ三カ国同盟には届いていない。現状では同盟内での物流が活発になっているだけだ。
私はニコラウスが持ってきた書類を見て口を開いた。
「同盟のおかげで大分潤ったわね」
書類には国境都市にある国境門を通過した商人の記録が記載されている。通過した人はもちろん、荷物の記録も記載されている。
「同盟締結から約一月…今月だけでも物流が大幅に増えているようです。もうしばらくすれば頭打ちになるでしょうが、しばらくの間は潤い続けるでしょうね」
ニコラウスの言うとおり国外とやり取りを行っている商会は、関税がないエインスレイス連邦やドラコロニア王国相手に商機を狙っている。そのため物流がいつも以上に活発になっているのだ。
なお商会に所属する商人は、各々が持っている住民登録証に商会の登録がある。関税を免除されているのは、現状では王国から許可を出している一部の商会に所属している者だけだ。
エインスレイス連邦やドラコロニア王国からの商人には、あらかじめ通行手形みたいなものを渡している。
「新規開拓としていっても既存の流通を止めるわけにもいかないし、上限もあるから仕方ないわね。けれどこの分であれば…今年の税収は期待できるでしょうね。このまま行きましょうか」
ニコラウスにそう告げると「かしこまりました」と言って執務室から去っていった。
私のほうも仕事がちょうど一区切りしたため、気分転換を兼ねて外に出る。
机仕事が長く体をほぐすためにも修練場に行くつもりだった。
「叔母様ごきげんよう。こちらにいらしたのですね」
「ラティアーナ陛下ごきげんよう。訓練の様子を見学に来たのかしら?」
「いえ休憩で少し体を動かそうと思って」
叔母と挨拶を交わして修練場を見ると、イリーナが兵士たちと模擬戦をしていた。兵士たちは魔術を掻い潜ってイリーナに近付こうとしているが、なかなか近寄れずに吹き飛ばされていく。
「ドミニクから魔術使い相手の訓練を頼まれていて、わたくしとイリーナが交互に模擬戦の相手をしているのよ」
私の視線に気付いた叔母が、ここの模擬線の相手をしている経緯を教えてくれた。兵士たちはあまり魔術と相対することがないため、いい経験になりそうだ。
少しの間、模擬戦を眺めているとイリーナが戻ってきた。
相手をしていた兵士たちは、息を絶え絶えに地面に伏している。ところどころで呻き声が聞こえていて、まるで屍…もといゾンビのようにさえ感じる。
「なかなかギリギリまで追い込んだわね」
「まあね。訓練なのだから追い込まないと」
私が苦笑しながら言うとイリーナも苦笑を返す。
兵士たちにとっては厳しい訓練になるが、ギリギリの状況に追い込まれた時にきっと役に立つだろう。
「時間が空いたのならわたくしに付き合ってくれない?少し体を動かしたいのよね」
「いいわよ。少し運動しましょうか」
兵士たちが休んでいる間に、私とイリーナで簡単に手合わせする。お互いに無手だが私は体術主体でイリーナは魔術主体だ。
「やっぱりイリーナ相手だと膠着状態になるわね」
「それはね…ラティアーナに接近されたらその時点でわたくしの負けよ」
模擬戦ということでお互いに全力ではない。それでもイリーナの魔術による斉射はかなり厄介で、私は魔術を叩き落とすか避けるかで手一杯になる。
今回は簡単な運動ということで、少しの時間で終わりにした。
イリーナは再び兵士たちの訓練に戻って、私は休憩を兼ねてもう少しだけ見学することにした。
見学中にイリーナの杖が目に入る。杖を見て叔母に聞きたいことがあった事を思い出した私は叔母のほうを見て
「そういえば…叔母様ならこれがどういったものか分かりますか?」
と問いかけて、魔法袋の中から一つの杖を取り出した。
「それは…ティアラお姉様が使っていた魔法杖じゃない!?」
叔母が目を丸くして声を上げるが、私も別の意味で驚いた。
「確かによくわからない杖だと思ったけど、魔法杖だとは思わなかったわ」
魔法杖というのは既知の魔術ではないが、魔力を代償に特定の効果を発揮する杖のことだ。基本的には失われた技術もしくは精霊など人ではない者が作成したと言われている。
「記憶が正しければティアラお姉様が地下迷宮から掘り出した物のはずよ。わたくしも詳しくは知らないけど…結界に特化していると言っていた気がするわ」
叔母も知らないとなるとお母様もあまり使ってはいなかったのかもしれない。もしくは私にとっての夜月のように切り札的な扱いか。
手紙には私の人生を切り拓く助けになると書いてあった。であれば後者かもしれない気がする。
「結界に特化ですか…色々試してみるしか無さそうね」
「お姉様がその杖を使っているところは見たことないわ。けれど大切にしていたことだけは知っているの。きっと…ラティアーナが困った時に役に立つと思うわ」
「ええ、そうですね。それにお母様が残してくれた物だもの。大切にするわ…」
私は叔母にそう伝えるとその場を後にした。
しばらくは順調な日々が続いていく、私はそう思っていた。
ナイトメアの侵略もまだ三カ国同盟には届いていない。現状では同盟内での物流が活発になっているだけだ。
私はニコラウスが持ってきた書類を見て口を開いた。
「同盟のおかげで大分潤ったわね」
書類には国境都市にある国境門を通過した商人の記録が記載されている。通過した人はもちろん、荷物の記録も記載されている。
「同盟締結から約一月…今月だけでも物流が大幅に増えているようです。もうしばらくすれば頭打ちになるでしょうが、しばらくの間は潤い続けるでしょうね」
ニコラウスの言うとおり国外とやり取りを行っている商会は、関税がないエインスレイス連邦やドラコロニア王国相手に商機を狙っている。そのため物流がいつも以上に活発になっているのだ。
なお商会に所属する商人は、各々が持っている住民登録証に商会の登録がある。関税を免除されているのは、現状では王国から許可を出している一部の商会に所属している者だけだ。
エインスレイス連邦やドラコロニア王国からの商人には、あらかじめ通行手形みたいなものを渡している。
「新規開拓としていっても既存の流通を止めるわけにもいかないし、上限もあるから仕方ないわね。けれどこの分であれば…今年の税収は期待できるでしょうね。このまま行きましょうか」
ニコラウスにそう告げると「かしこまりました」と言って執務室から去っていった。
私のほうも仕事がちょうど一区切りしたため、気分転換を兼ねて外に出る。
机仕事が長く体をほぐすためにも修練場に行くつもりだった。
「叔母様ごきげんよう。こちらにいらしたのですね」
「ラティアーナ陛下ごきげんよう。訓練の様子を見学に来たのかしら?」
「いえ休憩で少し体を動かそうと思って」
叔母と挨拶を交わして修練場を見ると、イリーナが兵士たちと模擬戦をしていた。兵士たちは魔術を掻い潜ってイリーナに近付こうとしているが、なかなか近寄れずに吹き飛ばされていく。
「ドミニクから魔術使い相手の訓練を頼まれていて、わたくしとイリーナが交互に模擬戦の相手をしているのよ」
私の視線に気付いた叔母が、ここの模擬線の相手をしている経緯を教えてくれた。兵士たちはあまり魔術と相対することがないため、いい経験になりそうだ。
少しの間、模擬戦を眺めているとイリーナが戻ってきた。
相手をしていた兵士たちは、息を絶え絶えに地面に伏している。ところどころで呻き声が聞こえていて、まるで屍…もといゾンビのようにさえ感じる。
「なかなかギリギリまで追い込んだわね」
「まあね。訓練なのだから追い込まないと」
私が苦笑しながら言うとイリーナも苦笑を返す。
兵士たちにとっては厳しい訓練になるが、ギリギリの状況に追い込まれた時にきっと役に立つだろう。
「時間が空いたのならわたくしに付き合ってくれない?少し体を動かしたいのよね」
「いいわよ。少し運動しましょうか」
兵士たちが休んでいる間に、私とイリーナで簡単に手合わせする。お互いに無手だが私は体術主体でイリーナは魔術主体だ。
「やっぱりイリーナ相手だと膠着状態になるわね」
「それはね…ラティアーナに接近されたらその時点でわたくしの負けよ」
模擬戦ということでお互いに全力ではない。それでもイリーナの魔術による斉射はかなり厄介で、私は魔術を叩き落とすか避けるかで手一杯になる。
今回は簡単な運動ということで、少しの時間で終わりにした。
イリーナは再び兵士たちの訓練に戻って、私は休憩を兼ねてもう少しだけ見学することにした。
見学中にイリーナの杖が目に入る。杖を見て叔母に聞きたいことがあった事を思い出した私は叔母のほうを見て
「そういえば…叔母様ならこれがどういったものか分かりますか?」
と問いかけて、魔法袋の中から一つの杖を取り出した。
「それは…ティアラお姉様が使っていた魔法杖じゃない!?」
叔母が目を丸くして声を上げるが、私も別の意味で驚いた。
「確かによくわからない杖だと思ったけど、魔法杖だとは思わなかったわ」
魔法杖というのは既知の魔術ではないが、魔力を代償に特定の効果を発揮する杖のことだ。基本的には失われた技術もしくは精霊など人ではない者が作成したと言われている。
「記憶が正しければティアラお姉様が地下迷宮から掘り出した物のはずよ。わたくしも詳しくは知らないけど…結界に特化していると言っていた気がするわ」
叔母も知らないとなるとお母様もあまり使ってはいなかったのかもしれない。もしくは私にとっての夜月のように切り札的な扱いか。
手紙には私の人生を切り拓く助けになると書いてあった。であれば後者かもしれない気がする。
「結界に特化ですか…色々試してみるしか無さそうね」
「お姉様がその杖を使っているところは見たことないわ。けれど大切にしていたことだけは知っているの。きっと…ラティアーナが困った時に役に立つと思うわ」
「ええ、そうですね。それにお母様が残してくれた物だもの。大切にするわ…」
私は叔母にそう伝えるとその場を後にした。
しばらくは順調な日々が続いていく、私はそう思っていた。
6
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。
イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる