王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

7 同盟を結んだ効果

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 休暇に入り何気ない日々が続いていく。
 ナイトメアの侵略もまだ三カ国同盟には届いていない。現状では同盟内での物流が活発になっているだけだ。

 私はニコラウスが持ってきた書類を見て口を開いた。

「同盟のおかげで大分潤ったわね」

 書類には国境都市にある国境門を通過した商人の記録が記載されている。通過した人はもちろん、荷物の記録も記載されている。

「同盟締結から約一月…今月だけでも物流が大幅に増えているようです。もうしばらくすれば頭打ちになるでしょうが、しばらくの間は潤い続けるでしょうね」

 ニコラウスの言うとおり国外とやり取りを行っている商会は、関税がないエインスレイス連邦やドラコロニア王国相手に商機を狙っている。そのため物流がいつも以上に活発になっているのだ。

 なお商会に所属する商人は、各々が持っている住民登録証に商会の登録がある。関税を免除されているのは、現状では王国から許可を出している一部の商会に所属している者だけだ。
 エインスレイス連邦やドラコロニア王国からの商人には、あらかじめ通行手形みたいなものを渡している。

「新規開拓としていっても既存の流通を止めるわけにもいかないし、上限もあるから仕方ないわね。けれどこの分であれば…今年の税収は期待できるでしょうね。このまま行きましょうか」

 ニコラウスにそう告げると「かしこまりました」と言って執務室から去っていった。

 私のほうも仕事がちょうど一区切りしたため、気分転換を兼ねて外に出る。
 机仕事が長く体をほぐすためにも修練場に行くつもりだった。

「叔母様ごきげんよう。こちらにいらしたのですね」

「ラティアーナ陛下ごきげんよう。訓練の様子を見学に来たのかしら?」

「いえ休憩で少し体を動かそうと思って」

 叔母と挨拶を交わして修練場を見ると、イリーナが兵士たちと模擬戦をしていた。兵士たちは魔術を掻い潜ってイリーナに近付こうとしているが、なかなか近寄れずに吹き飛ばされていく。

「ドミニクから魔術使い相手の訓練を頼まれていて、わたくしとイリーナが交互に模擬戦の相手をしているのよ」

 私の視線に気付いた叔母が、ここの模擬線の相手をしている経緯を教えてくれた。兵士たちはあまり魔術と相対することがないため、いい経験になりそうだ。
 少しの間、模擬戦を眺めているとイリーナが戻ってきた。
 相手をしていた兵士たちは、息を絶え絶えに地面に伏している。ところどころで呻き声が聞こえていて、まるで屍…もといゾンビのようにさえ感じる。

「なかなかギリギリまで追い込んだわね」

「まあね。訓練なのだから追い込まないと」

 私が苦笑しながら言うとイリーナも苦笑を返す。
 兵士たちにとっては厳しい訓練になるが、ギリギリの状況に追い込まれた時にきっと役に立つだろう。

「時間が空いたのならわたくしに付き合ってくれない?少し体を動かしたいのよね」

「いいわよ。少し運動しましょうか」

 兵士たちが休んでいる間に、私とイリーナで簡単に手合わせする。お互いに無手だが私は体術主体でイリーナは魔術主体だ。

「やっぱりイリーナ相手だと膠着状態になるわね」

「それはね…ラティアーナに接近されたらその時点でわたくしの負けよ」

 模擬戦ということでお互いに全力ではない。それでもイリーナの魔術による斉射はかなり厄介で、私は魔術を叩き落とすか避けるかで手一杯になる。

 今回は簡単な運動ということで、少しの時間で終わりにした。
 イリーナは再び兵士たちの訓練に戻って、私は休憩を兼ねてもう少しだけ見学することにした。

 見学中にイリーナの杖が目に入る。杖を見て叔母に聞きたいことがあった事を思い出した私は叔母のほうを見て

「そういえば…叔母様ならこれがどういったものか分かりますか?」

 と問いかけて、魔法袋の中から一つの杖を取り出した。

「それは…ティアラお姉様が使っていた魔法杖じゃない!?」

 叔母が目を丸くして声を上げるが、私も別の意味で驚いた。

「確かによくわからない杖だと思ったけど、魔法杖だとは思わなかったわ」

 魔法杖というのは既知の魔術ではないが、魔力を代償に特定の効果を発揮する杖のことだ。基本的には失われた技術もしくは精霊など人ではない者が作成したと言われている。

「記憶が正しければティアラお姉様が地下迷宮から掘り出した物のはずよ。わたくしも詳しくは知らないけど…結界に特化していると言っていた気がするわ」

 叔母も知らないとなるとお母様もあまり使ってはいなかったのかもしれない。もしくは私にとっての夜月のように切り札的な扱いか。
 手紙には私の人生を切り拓く助けになると書いてあった。であれば後者かもしれない気がする。

「結界に特化ですか…色々試してみるしか無さそうね」

「お姉様がその杖を使っているところは見たことないわ。けれど大切にしていたことだけは知っているの。きっと…ラティアーナが困った時に役に立つと思うわ」

「ええ、そうですね。それにお母様が残してくれた物だもの。大切にするわ…」

 私は叔母にそう伝えるとその場を後にした。

 しばらくは順調な日々が続いていく、私はそう思っていた。
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