王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

2 女王としての外交の始まり

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 季節は春が終わって夏へ移ろうとしている頃。
 ギルベルトにも話していたエスペルト王国とドラコロニア、エインスレイス連邦の三カ国で会談を開く準備が進められていた。

「エインスレイス連邦も前向きに進めているみたいね」

 ニコラウスが持ってきた会談の調整のための手紙に目を通す。会談自体は開くことが決まっていて日程や場所の調整をしているのだが、エインスレイス連邦としてもなるべく早く開きたいようだった。

「ナイトメアがエインスレイス連邦の直接接していない国のほぼ全てを支配下に置きましたからね。あと数カ国でも侵略されると次に狙われるのは…エインスレイス連邦もしくはドラコロニア。そしてエスペルト王国でしょうね」

「全く次から次へと…ともかくナイトメアについても野放しにしておけないわ。最低でもドラコロニアとエインスレイス連邦の国境で食い止めたいわね」

 本音で言えば他の小国もいくつか同盟に巻き込みたいところではある。しかし数が増える分だけ行動が遅くなり同盟が瓦解しやすくなる。

「そうですね。このまま好きに侵略させるわけには行きません」

 ニコラウスの言葉に私も同意する。ナイトメアの国としての行いは、国として人として許せないものだ。

「もちろんよ…会談の場所はエスペルト王国とエインスレイス連邦、ドラコロニア王国の国境付近を提案しようと思うけどどうかしら?」

「良いと思いますよ。譲りすぎては下に見られてしまいますからね。3カ国の間であれば、あくまで対等な立場だと言うことを言外に伝えることができるでしょう」

 この提案で進めてもらえるようにニコラウスに依頼する。
 今回結ぼうとしている同盟は、ナイトメアに対抗するためが主な目的だが私個人としては別の思惑もあった。それは緊張状態にあった国同士の関係の改善。可能であれば友好的な関係まで持っていくことだ。
 なかなか思うように行かなかった外交だが、ナイトメアという共通の敵が良くも悪くもきっかけをくれた。次に手紙が来るときには、快い返事が返ってくるのを願うばかりだ。


 執務室で書類の確認をしているとシリウスが手紙を持ってきた。現在進んでいるもう一つの外交である聖都テルサリアだ。

 マスクウェル侯爵領の件は、エスペルト王国にある全ての教会を管轄している王都の教会、そこの大司教宛に抗議を送っていた。大司教から更に聖都テルサリアの本部に話が入っている筈だ。

「姫様どうでしたか?」

 私が手紙を読み終わる頃を見計らってシリウスが問いかけてきた。

「大司教から面会依頼が来たわ。恐らく教会内での話し合いは終わったのだと思う」

「随分と時間がかかりましたが…」

「教会も一枚岩ではないと言うことでしょう。それに組織的な大きさと言う意味では、冒険者ギルドと同じで複数の国に跨っているからね」

 私も最近知ったことだが、各国に数人ずつ大司教がいて大司教の上に枢機卿がいるらしい。枢機卿になると教会の幹部ということで色々な決定権を持つことができるそうだ。次期教皇は枢機卿から選ばれるため、派閥などもあるのだろう。

「人々の救済を謳っていても…結局は人の組織ということですか」

 教会といえど人が組織しているという点では、国と変わらないだろう。違う点があるとすれば精霊を信仰しているところだ。けれど精霊が教会をどう思っているのかは検討がつかない。いずれは精霊とも話してみたいと思うのだった。

「そういくことになるわね。さて面会の件だけど5日後に予定しておいてくれるかしら?」



 5日後、王城に大司教がやってきた。
 一度応接用の部屋に案内してもらい、その間に私も面会の準備を行う。準備が終わると玉座の間に移り大司教を呼んでもらった。

 玉座の間にはニコラウスとドミニク、シリウス、アルキオネが控えている。

「大司教エメリッヒ入場!」

 騎士に連れられたエメリッヒが玉座の間に入ってくる。

「面を上げなさい。直答を許します」

「はっ!」

 エメリッヒを顔を上げる。
 エメリッヒの第一印象は、30代くらいに見える若さと鍛えられた身体から覇気を感じた。
 大司教にまで昇り詰めたことから、もう少し歳上になるかと思っていたため意外に思う。

 教会の組織上は出世するために支持してくれる人が必要となる。基本的には選挙みたいなもので決まるそうだ。
 若いからといっても…いや若いからこそ油断ならないだろう。

「マスクウェル侯爵領の教会であった件について申し開きはあるかしら?」

「いえ…教会が関与していないとはいえ、異分子が紛れ込んでいた事については私の管理責任です。それについては謝罪しましょう。ですが彼らが起こした事件は彼らの責任。事件自体には我々教会は関与していない」

 教会としては妥当なところ。予想通りの回答だ。事件に直接関与した者たちが罪を負うべきというのは、私も同意するところである。

「ええその通りだと思います。それを踏まえた上で…邪教についての情報共有とわたくし個人に対して貸し一つということで、手打ちにしませんか?」

「邪教については構いませんが貸しですか…」

「別になにかをお願いするつもりはありません。ただ…今後何かあったときにでも、できる範囲で助力を願えたらと」

 私の言葉にエメリッヒが思案する。

「教会としてではなく、私エメリッヒに対しての借りということで良いでしょうか?」

「もちろんです」

「では我が契約精霊に誓って誓約を。私エメリッヒはラティアーナ陛下個人に対して、今後一度何かあったときにできる限りの助力をすることをここに誓います」

 私は思わず目を丸くする。
 元々邪教に関する情報が主で、貸しについてはついでに近い考えだった。口約束で恩を打っておくくらいのつもりで。
 しかし教会にとっての精霊は信仰する対象。ましてや誓約ということは、破るつもりはないどころか遵守する誠意まで感じる。

「あなたたちにとって精霊とは信仰する者のはず…誓約というのがどういうものか分かりませんが、そこまでして良いのですか?」

「私は精霊とは契約しています。誓約というのは、その精霊を証人にした必ず守る誓いですね。ラティアーナ陛下には害はないので安心してください」

 エメリッヒは誠実な面持ちで口にするのだった。

 それから少し話をした。邪教に関する情報は、分かり次第連携してくれることで話をつけて面会は終わりを告げる。

 そして更に数日後、エインスレイス連邦から三カ国会談の日程について連絡があった。
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