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第7章 女王の戴冠
27 繋がっていく事実
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私とシリウスはマスクウェル侯爵家が拘束されている部屋の前にいる。
扉を開けて部屋の中に入ると鎖で縛られている侯爵と夫人、2人の子息がいた。
「陛下お待ちしていました。領地にいた者は拘束しましたが…領地の外にいる者たちはどうしますか?」
「他家に嫁いでいる者には、事情だけ聞くけど原則処罰はしない。他領や王都で働いている者も、今回の件に関わっていなければ処罰なしでいいわ。ここにいる者は、話を聞いてから決めるつもりよ」
実際は処罰がないと言ってもマスクウェル侯爵家という名前自体に傷がつくため、社交界では肌身を狭い思いをすることになるだろう。
今回の件に関わっていない者が、マスクウェル侯爵家の当主になる。とはいえ当主への風当たりが強いはずだ。
「ドミニク…自白させる準備をお願い」
「かしこましました。魔術士隊、自白誘発の魔術を」
王国軍の中で魔術を主として扱う魔術士隊。その彼らがマスクウェル侯爵家に対して、自白を促す魔術を行使する。
この魔術は闇属性に該当し精神干渉を行う。自我を失うほど強力なものではなく、あくまで思考を鈍らせ嘘をつけなくする効果があった。
「正直なところあなたたちの動機や目的は、王国軍からの取調べのときに話してくれて構わないわ。わたくしが知りたいのは、と教会とキメラについてよ」
「…利害が一致したから協力した。それだけです」
「利害ね…あなたたちにとっては、王国を渡り合えるだけの戦力が欲しい。教会は実験する場所や支援が欲しい。というところかしらね。けれどこの程度の戦力で王国をどうこうできると本気で思っているの?」
キメラは通常の魔物よりも強力ではある。対策もなにもしてない都市に放たれていれば少なくない犠牲も出たであろう。それでも王国を相手取ることができるわけではない。
そもそもこの程度で王国が持たないくらいであれば、とっくの昔に滅んでいるだろう。
「私たちが今まで講じていたものは全て失敗しました。王都近郊での魔物の強化実験、魔物の融合実験。どちらも結果が出る前に妨害され失敗しています。本来は強化種同時を融合させる予定だったのです」
「邪気の研究は?」
「そちらは教会が行っていた実験なので、私たちは関与していません」
表情を見る限り嘘をついているようには見えない。侯爵の言った内容が正しいとすれば、魔物の研究はここ1年の間しか行っていないことになる。となるともっと昔から行われている邪気に関する研究は、教会の一部が表立って動いていると見て間違いないだろう。
思案しているとドミニクが「もしかして…」と呟くのが聞こえてきた。
「ドミニクなにか知っているの?」
「ええ、最近ドラコロニアと打ち合わせをしているのは知っていると思いますが、ドラコロニアがエスペルト王国に仕掛けた理由の一部に南方からの圧力があったようなのですよ。邪教というものを信仰しているナイトメアという小国が最近付近の小国を制圧して、国力を増大させているようなのです」
「つまりドラコロニアは自国の力を高めるためにエスペルト王国を取り込もうとした…ってこと?」
「その通りです」
邪教と聞いてアリアたちの話を思い出す。私は直接戦っていなかったが、孤児院の皆が誘拐されたときの敵が邪教と名乗っていたと聞いている。
もしも教会の一部に精霊教ではなく邪教を信仰している者がいたとする。元孤児院長にして今の司教が関わっていることからも昔から邪教が真の敵だとすれば、一連の事件に関連性が出てくる。点と点、ばらばらだったいくつかの事象が繋がる気がした。
「ドラコロニアよりも南についても注意しないと行けなさそうね。属国となった以上は護らないといけないし、もし突破されてしまうと次は…エスペルト王国だもの」
「そうですね。この件が片付き次第ドラコロニアとも連携します。邪教の本質は見えませんが、かなり厄介な相手のようです」
今までの私たちに部分的に関わっている邪教。そして邪教を国教としている国ナイトメア。
このまま行けばどこからでぶつかることがある。そのような確信があった。
「後の事実確認は任せるわよ。わたくしは司教の方にも行って来るから」
後の取り調べをドミニクに任せて教会へと戻る。
司教をはじめとする人々は、皆拘束されて護送される準備が行われていた。
「アルキオネ。わたくしを司教の元へ連れて行ってもらえる?至急確認しておきたいことができたわ」
「かしこまりました。司教は念のため最後に運ぶ予定でしたので、まだ教会の一室にて拘束中です」
アルキオネに連れられて部屋の中に入ると、鎖に繋がれた司教と目が合う。司教は目を逸らして不機嫌そうな顔をするが、私は構わずに目の前に立った。
「精神干渉を行いますか?」
「今回はいいわ。司教には恐らく効果が薄いでしょうし…」
司教は恐らく自身のことを正義だと、間違っていないと思っているタイプだろう。精神干渉を行うのであれば、魔術士たちによる長期的な魔術の行使が必要となる。
「あなたは…いえ、あなたたち邪教は何を目的にしているのかしら?5年前の孤児院の件もそうだけど、随分と長い計画よね。そもそも邪教とは何を信仰しているの?」
「さて…私から言うことはありませんねぇ。いずれわかる時が来ますよ」
司教は何も答えずに不気味な笑みを浮かべるだけだった。
扉を開けて部屋の中に入ると鎖で縛られている侯爵と夫人、2人の子息がいた。
「陛下お待ちしていました。領地にいた者は拘束しましたが…領地の外にいる者たちはどうしますか?」
「他家に嫁いでいる者には、事情だけ聞くけど原則処罰はしない。他領や王都で働いている者も、今回の件に関わっていなければ処罰なしでいいわ。ここにいる者は、話を聞いてから決めるつもりよ」
実際は処罰がないと言ってもマスクウェル侯爵家という名前自体に傷がつくため、社交界では肌身を狭い思いをすることになるだろう。
今回の件に関わっていない者が、マスクウェル侯爵家の当主になる。とはいえ当主への風当たりが強いはずだ。
「ドミニク…自白させる準備をお願い」
「かしこましました。魔術士隊、自白誘発の魔術を」
王国軍の中で魔術を主として扱う魔術士隊。その彼らがマスクウェル侯爵家に対して、自白を促す魔術を行使する。
この魔術は闇属性に該当し精神干渉を行う。自我を失うほど強力なものではなく、あくまで思考を鈍らせ嘘をつけなくする効果があった。
「正直なところあなたたちの動機や目的は、王国軍からの取調べのときに話してくれて構わないわ。わたくしが知りたいのは、と教会とキメラについてよ」
「…利害が一致したから協力した。それだけです」
「利害ね…あなたたちにとっては、王国を渡り合えるだけの戦力が欲しい。教会は実験する場所や支援が欲しい。というところかしらね。けれどこの程度の戦力で王国をどうこうできると本気で思っているの?」
キメラは通常の魔物よりも強力ではある。対策もなにもしてない都市に放たれていれば少なくない犠牲も出たであろう。それでも王国を相手取ることができるわけではない。
そもそもこの程度で王国が持たないくらいであれば、とっくの昔に滅んでいるだろう。
「私たちが今まで講じていたものは全て失敗しました。王都近郊での魔物の強化実験、魔物の融合実験。どちらも結果が出る前に妨害され失敗しています。本来は強化種同時を融合させる予定だったのです」
「邪気の研究は?」
「そちらは教会が行っていた実験なので、私たちは関与していません」
表情を見る限り嘘をついているようには見えない。侯爵の言った内容が正しいとすれば、魔物の研究はここ1年の間しか行っていないことになる。となるともっと昔から行われている邪気に関する研究は、教会の一部が表立って動いていると見て間違いないだろう。
思案しているとドミニクが「もしかして…」と呟くのが聞こえてきた。
「ドミニクなにか知っているの?」
「ええ、最近ドラコロニアと打ち合わせをしているのは知っていると思いますが、ドラコロニアがエスペルト王国に仕掛けた理由の一部に南方からの圧力があったようなのですよ。邪教というものを信仰しているナイトメアという小国が最近付近の小国を制圧して、国力を増大させているようなのです」
「つまりドラコロニアは自国の力を高めるためにエスペルト王国を取り込もうとした…ってこと?」
「その通りです」
邪教と聞いてアリアたちの話を思い出す。私は直接戦っていなかったが、孤児院の皆が誘拐されたときの敵が邪教と名乗っていたと聞いている。
もしも教会の一部に精霊教ではなく邪教を信仰している者がいたとする。元孤児院長にして今の司教が関わっていることからも昔から邪教が真の敵だとすれば、一連の事件に関連性が出てくる。点と点、ばらばらだったいくつかの事象が繋がる気がした。
「ドラコロニアよりも南についても注意しないと行けなさそうね。属国となった以上は護らないといけないし、もし突破されてしまうと次は…エスペルト王国だもの」
「そうですね。この件が片付き次第ドラコロニアとも連携します。邪教の本質は見えませんが、かなり厄介な相手のようです」
今までの私たちに部分的に関わっている邪教。そして邪教を国教としている国ナイトメア。
このまま行けばどこからでぶつかることがある。そのような確信があった。
「後の事実確認は任せるわよ。わたくしは司教の方にも行って来るから」
後の取り調べをドミニクに任せて教会へと戻る。
司教をはじめとする人々は、皆拘束されて護送される準備が行われていた。
「アルキオネ。わたくしを司教の元へ連れて行ってもらえる?至急確認しておきたいことができたわ」
「かしこまりました。司教は念のため最後に運ぶ予定でしたので、まだ教会の一室にて拘束中です」
アルキオネに連れられて部屋の中に入ると、鎖に繋がれた司教と目が合う。司教は目を逸らして不機嫌そうな顔をするが、私は構わずに目の前に立った。
「精神干渉を行いますか?」
「今回はいいわ。司教には恐らく効果が薄いでしょうし…」
司教は恐らく自身のことを正義だと、間違っていないと思っているタイプだろう。精神干渉を行うのであれば、魔術士たちによる長期的な魔術の行使が必要となる。
「あなたは…いえ、あなたたち邪教は何を目的にしているのかしら?5年前の孤児院の件もそうだけど、随分と長い計画よね。そもそも邪教とは何を信仰しているの?」
「さて…私から言うことはありませんねぇ。いずれわかる時が来ますよ」
司教は何も答えずに不気味な笑みを浮かべるだけだった。
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