王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
175 / 460
第7章 女王の戴冠

27 繋がっていく事実

しおりを挟む
 私とシリウスはマスクウェル侯爵家が拘束されている部屋の前にいる。
 扉を開けて部屋の中に入ると鎖で縛られている侯爵と夫人、2人の子息がいた。

「陛下お待ちしていました。領地にいた者は拘束しましたが…領地の外にいる者たちはどうしますか?」

「他家に嫁いでいる者には、事情だけ聞くけど原則処罰はしない。他領や王都で働いている者も、今回の件に関わっていなければ処罰なしでいいわ。ここにいる者は、話を聞いてから決めるつもりよ」

 実際は処罰がないと言ってもマスクウェル侯爵家という名前自体に傷がつくため、社交界では肌身を狭い思いをすることになるだろう。
 今回の件に関わっていない者が、マスクウェル侯爵家の当主になる。とはいえ当主への風当たりが強いはずだ。

「ドミニク…自白させる準備をお願い」

「かしこましました。魔術士隊、自白誘発の魔術を」

 王国軍の中で魔術を主として扱う魔術士隊。その彼らがマスクウェル侯爵家に対して、自白を促す魔術を行使する。
 この魔術は闇属性に該当し精神干渉を行う。自我を失うほど強力なものではなく、あくまで思考を鈍らせ嘘をつけなくする効果があった。

「正直なところあなたたちの動機や目的は、王国軍からの取調べのときに話してくれて構わないわ。わたくしが知りたいのは、と教会とキメラについてよ」

「…利害が一致したから協力した。それだけです」

「利害ね…あなたたちにとっては、王国を渡り合えるだけの戦力が欲しい。教会は実験する場所や支援が欲しい。というところかしらね。けれどこの程度の戦力で王国をどうこうできると本気で思っているの?」

 キメラは通常の魔物よりも強力ではある。対策もなにもしてない都市に放たれていれば少なくない犠牲も出たであろう。それでも王国を相手取ることができるわけではない。
 そもそもこの程度で王国が持たないくらいであれば、とっくの昔に滅んでいるだろう。

「私たちが今まで講じていたものは全て失敗しました。王都近郊での魔物の強化実験、魔物の融合実験。どちらも結果が出る前に妨害され失敗しています。本来は強化種同時を融合させる予定だったのです」

「邪気の研究は?」

「そちらは教会が行っていた実験なので、私たちは関与していません」

 表情を見る限り嘘をついているようには見えない。侯爵の言った内容が正しいとすれば、魔物の研究はここ1年の間しか行っていないことになる。となるともっと昔から行われている邪気に関する研究は、教会の一部が表立って動いていると見て間違いないだろう。

 思案しているとドミニクが「もしかして…」と呟くのが聞こえてきた。

「ドミニクなにか知っているの?」

「ええ、最近ドラコロニアと打ち合わせをしているのは知っていると思いますが、ドラコロニアがエスペルト王国に仕掛けた理由の一部に南方からの圧力があったようなのですよ。邪教というものを信仰しているナイトメアという小国が最近付近の小国を制圧して、国力を増大させているようなのです」

「つまりドラコロニアは自国の力を高めるためにエスペルト王国を取り込もうとした…ってこと?」

「その通りです」

 邪教と聞いてアリアたちの話を思い出す。私は直接戦っていなかったが、孤児院の皆が誘拐されたときの敵が邪教と名乗っていたと聞いている。
 もしも教会の一部に精霊教ではなく邪教を信仰している者がいたとする。元孤児院長にして今の司教が関わっていることからも昔から邪教が真の敵だとすれば、一連の事件に関連性が出てくる。点と点、ばらばらだったいくつかの事象が繋がる気がした。

「ドラコロニアよりも南についても注意しないと行けなさそうね。属国となった以上は護らないといけないし、もし突破されてしまうと次は…エスペルト王国だもの」

「そうですね。この件が片付き次第ドラコロニアとも連携します。邪教の本質は見えませんが、かなり厄介な相手のようです」

 今までの私たちに部分的に関わっている邪教。そして邪教を国教としている国ナイトメア。
 このまま行けばどこからでぶつかることがある。そのような確信があった。

「後の事実確認は任せるわよ。わたくしは司教の方にも行って来るから」

 後の取り調べをドミニクに任せて教会へと戻る。
 司教をはじめとする人々は、皆拘束されて護送される準備が行われていた。

「アルキオネ。わたくしを司教の元へ連れて行ってもらえる?至急確認しておきたいことができたわ」

「かしこまりました。司教は念のため最後に運ぶ予定でしたので、まだ教会の一室にて拘束中です」

 アルキオネに連れられて部屋の中に入ると、鎖に繋がれた司教と目が合う。司教は目を逸らして不機嫌そうな顔をするが、私は構わずに目の前に立った。

「精神干渉を行いますか?」

「今回はいいわ。司教には恐らく効果が薄いでしょうし…」

 司教は恐らく自身のことを正義だと、間違っていないと思っているタイプだろう。精神干渉を行うのであれば、魔術士たちによる長期的な魔術の行使が必要となる。

「あなたは…いえ、あなたたち邪教は何を目的にしているのかしら?5年前の孤児院の件もそうだけど、随分と長い計画よね。そもそも邪教とは何を信仰しているの?」

「さて…私から言うことはありませんねぇ。いずれわかる時が来ますよ」

 司教は何も答えずに不気味な笑みを浮かべるだけだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...