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第7章 女王の戴冠
26 キメラ-合成獣-
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「ラティアーナ様お待たせしました。他の騎士たちは2つに別れて行動中です。一方はシリウスと合流し地下に囚われていた人々の保護へ。もう一方は教会の各部屋を制圧し抵抗する者を捕縛中です」
窓からキメラの様子を窺っていたとき、アルキオネ率いる数名の近衛騎士が部屋の中にやってきた。
アルキオネからの報告では、教会に囚われていた人々の保護と敵の制圧、証拠の確保は問題なさそうに思える。
「了解よ。この部屋で見つけた証拠類は机の上に纏めてあるから、後をお願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました。ラティアーナ様は…キメラの相手を?」
「ええ、それなりに数が多いし領民に被害が出ないようにしないとね」
アルキオネたちにこの場を任せて窓から飛び降りた。現状では国軍は、領城とマスクウェル邸、領都の出入り口に半数を割いている。予備として残してあった部隊が街の中へ展開中だが、同時多発的に出現したキメラへの対応までは、なかなか手が回らないだろう。
(幸いなのは真夜中だから領民が寝ていて街の外に出ていないことね…)
現状はキメラは、動いている相手を襲うのみで家などを襲う気配は無い。領民を避難させて家の外に出したほうが危険が高くなりそうなため、このまま家の中で待機してもらうつもりだった。
「ドミニク!国軍から都市全域に緊急放送をお願い。民達を家の中から出さないように!わたくしの名前も使っていいから」
ドミニクに通信で呼びかけると「了解です。ただいま領城にて戦闘中ですので…制圧次第、都市通信を行います」と返ってきた。すぐには無理そうだがドミニクたちであれば問題ないと信じている。
私はこのまま一番近くにいるキメラの元へ向かう。ある程度距離を詰めるとキメラは口を開いた。すると口の中が赤く輝いて真紅の炎が放たれる。
「っ…!」
一瞬水系統の魔術で相殺するか迷ったが、炎の軌道上に建物が無いことを確認して横に避ける。
かなりの高温だったようで、炎に触れた部分は表面がうっすら溶けていて黒く焦げていた。
都市にある建物は基本的に石造りとなっている。しかし比較的頑丈かつ耐火性を誇るとはいえ、キメラの攻撃がまともに受けてしまうと、ただでは済まなさそうだった。
「本当はある程度様子見をしたいけど…手早く倒すしかなさそうね」
キメラが自然に生まれることはほとんどあり得ない。
そもそもキメラというのは、複数の魔物を強制的に融合させたものだ。別種の魔物同士から生まれた魔物のように完全な1つの生命というわけではなく、融合した魔物の分だけ生命を持つことがある。体も部分的に融合した魔物の特徴が引き継がれている。自我に関しても融合した魔物の中で一番強固な個体の自我が主人格になるが、邪気に侵された時のように理性を失うことがほとんどだ。
硬くて攻撃力が強く、命が複数あることで有名なキメラ。けれどヒュドラーのように不死身なわけではない。要は命の数だけ致命傷を与えれば良いだけだ。
「行くわよ!」
私は気合を入れて身体強化に魔力を回す。同時に辰月を抜刀して魔力を纏わせると一直線に距離を詰める。
キメラも私に向かって腕を振るうが、ギリギリ掠らない程度に躱す。そしてその状態から攻撃を仕掛けてきた部分を斬り払い、帰す刀で近くの急所を斬る。
3回も繰り返す頃には、キメラは力尽きて地面に沈むのだった。
次のキメラを探そうと歩き出した時、街全体にノイズのようなものが聞こえてきた。ノイズの後にはドミニクの声が聞こえてきて
「マスクウェル領都の領民たちよ!私はエスペルト王国軍元帥ドミニク・グラディウスである。現在街の中には魔物が徘徊しているが、これはマスクウェル侯爵が反乱のために地下で飼っていたものだ。ラティアーナ陛下をはじめ、エスペルト王国軍と近衛騎士団の総力を上げて対処しているので、このまま家の中に隠れていて欲しい。繰り返す…」
ドミニクは領城を押さえたようだった。領主の反乱、街に溢れる魔物、そしてこの通信と領民たちには驚きや恐怖があるだろう。それでも誰も傷つかないように、死ぬことのないようにと切実に願いながら戦うのだった。
この後も私や王国軍は、順番にキメラを倒していく。知性が低いことを利用して、適度に刺激し注意を向けることで被害を抑えていた。
日が昇り始める頃には、暴れていたキメラも全て沈黙する。
事後処理は必要だが、一旦はこの騒動を乗り切ったと言って良いだろう。被害確認と領民たちへの説明を兵士たちに任せて、私は領城の方へ向かった。
「姫様。城にいた人々は軟禁状態、主犯であるマスクウェル侯爵家の一族は全員捕らえました。囚われていた人々は城の別室で保護しています。この後はどうされますか?」
城へ着くとシリウスが出迎えてくれた。簡単な報告を聞いた私は、今後の行動を考えて
「軟禁状態の人々は念のため取り調べをするわ。取り調べ自体は軍に任せるけど、平民であれば基本的に罪に問わないで、貴族であれば内容にもよるけど情状酌量とするつもりよ。マスクウェル侯爵家に対しては、わたくしが直に取り調べる」
「かしこまりました。マスクウェル侯爵家の者たちのところには、ドミニク元帥もいますから案内します」
「よろしくね」
私とシリウスは、マスクウェル侯爵家を拘束しているドミニクの元へ急ぐのだった。
窓からキメラの様子を窺っていたとき、アルキオネ率いる数名の近衛騎士が部屋の中にやってきた。
アルキオネからの報告では、教会に囚われていた人々の保護と敵の制圧、証拠の確保は問題なさそうに思える。
「了解よ。この部屋で見つけた証拠類は机の上に纏めてあるから、後をお願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました。ラティアーナ様は…キメラの相手を?」
「ええ、それなりに数が多いし領民に被害が出ないようにしないとね」
アルキオネたちにこの場を任せて窓から飛び降りた。現状では国軍は、領城とマスクウェル邸、領都の出入り口に半数を割いている。予備として残してあった部隊が街の中へ展開中だが、同時多発的に出現したキメラへの対応までは、なかなか手が回らないだろう。
(幸いなのは真夜中だから領民が寝ていて街の外に出ていないことね…)
現状はキメラは、動いている相手を襲うのみで家などを襲う気配は無い。領民を避難させて家の外に出したほうが危険が高くなりそうなため、このまま家の中で待機してもらうつもりだった。
「ドミニク!国軍から都市全域に緊急放送をお願い。民達を家の中から出さないように!わたくしの名前も使っていいから」
ドミニクに通信で呼びかけると「了解です。ただいま領城にて戦闘中ですので…制圧次第、都市通信を行います」と返ってきた。すぐには無理そうだがドミニクたちであれば問題ないと信じている。
私はこのまま一番近くにいるキメラの元へ向かう。ある程度距離を詰めるとキメラは口を開いた。すると口の中が赤く輝いて真紅の炎が放たれる。
「っ…!」
一瞬水系統の魔術で相殺するか迷ったが、炎の軌道上に建物が無いことを確認して横に避ける。
かなりの高温だったようで、炎に触れた部分は表面がうっすら溶けていて黒く焦げていた。
都市にある建物は基本的に石造りとなっている。しかし比較的頑丈かつ耐火性を誇るとはいえ、キメラの攻撃がまともに受けてしまうと、ただでは済まなさそうだった。
「本当はある程度様子見をしたいけど…手早く倒すしかなさそうね」
キメラが自然に生まれることはほとんどあり得ない。
そもそもキメラというのは、複数の魔物を強制的に融合させたものだ。別種の魔物同士から生まれた魔物のように完全な1つの生命というわけではなく、融合した魔物の分だけ生命を持つことがある。体も部分的に融合した魔物の特徴が引き継がれている。自我に関しても融合した魔物の中で一番強固な個体の自我が主人格になるが、邪気に侵された時のように理性を失うことがほとんどだ。
硬くて攻撃力が強く、命が複数あることで有名なキメラ。けれどヒュドラーのように不死身なわけではない。要は命の数だけ致命傷を与えれば良いだけだ。
「行くわよ!」
私は気合を入れて身体強化に魔力を回す。同時に辰月を抜刀して魔力を纏わせると一直線に距離を詰める。
キメラも私に向かって腕を振るうが、ギリギリ掠らない程度に躱す。そしてその状態から攻撃を仕掛けてきた部分を斬り払い、帰す刀で近くの急所を斬る。
3回も繰り返す頃には、キメラは力尽きて地面に沈むのだった。
次のキメラを探そうと歩き出した時、街全体にノイズのようなものが聞こえてきた。ノイズの後にはドミニクの声が聞こえてきて
「マスクウェル領都の領民たちよ!私はエスペルト王国軍元帥ドミニク・グラディウスである。現在街の中には魔物が徘徊しているが、これはマスクウェル侯爵が反乱のために地下で飼っていたものだ。ラティアーナ陛下をはじめ、エスペルト王国軍と近衛騎士団の総力を上げて対処しているので、このまま家の中に隠れていて欲しい。繰り返す…」
ドミニクは領城を押さえたようだった。領主の反乱、街に溢れる魔物、そしてこの通信と領民たちには驚きや恐怖があるだろう。それでも誰も傷つかないように、死ぬことのないようにと切実に願いながら戦うのだった。
この後も私や王国軍は、順番にキメラを倒していく。知性が低いことを利用して、適度に刺激し注意を向けることで被害を抑えていた。
日が昇り始める頃には、暴れていたキメラも全て沈黙する。
事後処理は必要だが、一旦はこの騒動を乗り切ったと言って良いだろう。被害確認と領民たちへの説明を兵士たちに任せて、私は領城の方へ向かった。
「姫様。城にいた人々は軟禁状態、主犯であるマスクウェル侯爵家の一族は全員捕らえました。囚われていた人々は城の別室で保護しています。この後はどうされますか?」
城へ着くとシリウスが出迎えてくれた。簡単な報告を聞いた私は、今後の行動を考えて
「軟禁状態の人々は念のため取り調べをするわ。取り調べ自体は軍に任せるけど、平民であれば基本的に罪に問わないで、貴族であれば内容にもよるけど情状酌量とするつもりよ。マスクウェル侯爵家に対しては、わたくしが直に取り調べる」
「かしこまりました。マスクウェル侯爵家の者たちのところには、ドミニク元帥もいますから案内します」
「よろしくね」
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