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第7章 女王の戴冠
25 もう逃さないから
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階段を駆け登って地上へ抜ける。急ぎつつも音を立てないようにして、礼拝堂裏の広場まで戻ってきた。
私は床に手をつけて、魔法袋から取り出した液状化魔力と共に索敵魔術を行使した。
私が主に使う索敵魔術は魔力式と物理式の二種類。魔力式は範囲内の魔力を持つ対象や魔術の有無も判別できるが、高位の魔術使いがあると気づかれてしまう。逆に物理式の場合は、超音波や電磁波による索敵なため感知用の仕掛けがない限りは気づかれない。今回は半分隠密行動なため後者を選択した。
(教会内にある人はおおよそ50人。動きからして外を警備している人が10人弱。部屋の中で起きていそうな人が数人かしらね。他は恐らく眠っている気がするわ)
マスクウェル領都全域は、ドミニクとシリウス率いる国軍と近衛騎士団の混合部隊が既に包囲している。教会を潰すだけであれば今すぐでも構わないが、マスクウェル侯爵家に逃げられる恐れがあった。そのため今はまだ包囲に留めておいて証拠を押さえ次第、全員捕まえる手筈となっている。
(せっかく今は深夜なのだから日が昇る前に教会は押さえたいのよね…侯爵と連絡を取られるわけにもいかないし、司教を捕まえておいた方が良さそうね)
私は教会の中で、司教が居そうな場所を探すことにした。大体役職が高い人は、高い階層にあって広い部屋を使っていると相場は決まっている。
人に見つからないように足音を潜めて、さらに階段を登っていく。
「ん?何か音がし…んぐ!?」
ちょうど司祭が廊下を歩いていたため、後ろから口を塞ぎ短剣を首筋に添える。そのまま空いている部屋に連れ込んだ。
「司教がいる部屋に案内しなさい。暴れたり大声を出したりしたら…どうなるか分かっているわよね?」
司祭は口をモゴモゴさせながら頷く。それを確認した私は部屋の場所を聞き出してから、短剣の柄で殴りつけて意識を刈り取る。
そして聞き出した部屋へ向かうと扉をこっそりと開いた。部屋の中に一歩踏み出して…
咄嗟に短剣を振り抜く。すると金属音が聞こえて私の周りに針が落ちた。
「おや…今のを防ぐとはなかなかやりますね」
どうやら寝ずの番をしていた教会騎士がいたようで、天井から2人ほど降りてきた。針を投げてきたのは、教会騎士のどちらかなのだろう。
「司教…あなたを国王暗殺の容疑で拘束するわ。」
私の言葉に司教は、面白いものを見たというような笑顔を浮かべて口を開く。
「まさかラティアーナ王が、自らここに来るとは思いませんでした。しかしね、私には好機でもあるのですよ。あなたがここで消えてくれれば全て上手くいくのですから」
「確かに王位についてから時間も経っていなくて王太子がいない今、わたくしがいなくなれば…エスペルト王国は分裂するわね。そしてそれこそがマスクウェル侯爵の狙いかしら?彼らも王族の血筋ではあるもの、王位を狙っていたとしてもおかしくはないわ」
「そこまで分かっていて、ここに来るのは迂闊でしたね。それに気付かれないようにするためとはいえ、その首輪をそのままにしておくというのは不用心でしたねぇ」
司教は魔術具を操作しする。しかし変化はなにもない。司教は不思議そうに何度も魔術具を操作するが、結果は変わらなかった。
「昔にね、隷属の首輪の術式に干渉したことがあるのよ。高位の術者相手には無意味なの…それにあなたのやり方はよく知っているわ。昔王都で逃げられたからね。覚えているでしょう?アリアがいた孤児院で起きた事件。そしてティアという名前。あの時は逃げられたけど、もう逃さないから!」
「っ!?あの時のティアという子供はまさか…!騎士たちよ、足止めしておけ!」
司教もかつての一件を思い出したようで、慌てて教会騎士に指示を出す。
しかし私はそれよりも早く身体強化を最大にして刀を抜いた。一気に距離を詰めて教会騎士を斬り伏せると、裏に下がろうとしていた司教は球状のようなものを投げてつけて来る。
投げられた物を刀で斬り払うと、中から煙が溢れてきて部屋の中の見通しが悪くなった。
(上手く逃げるつもりなのかしら?けれど…)
司教は窓に向かって走っている。しかし煙で視界が塞がっていても、気配を辿ることができる今の私であれば、この程度は妨害にすらならない。
私は距離を詰めて司教に対して峰打ちを当てた。鈍い音と共に壁の方へ吹き飛ばされて気を失ったのを確認する。
司教を縛った後、引き出しを引き抜いて書類を押さえると通信用の魔術具を起動させる。
「司教の身柄と証拠は押さえたわ。ドミニク…領城と侯爵邸を押さえなさい。あとわたくしの所に近衛騎士団をお願いね」
「かしこまりました。全軍動かします!」
ドミニクに指示を出した後、司教の部屋を調査する。
調査をしながら騎士団の到着を待っていると、いきなり地響きがした。急いで窓から外を覗いて街の様子を窺う。
すると街の地面からいくつもの魔物が現れるのが見えた。その魔物はいくつかの魔物を合わせた図体をしているキメラというものに思えるのだった。
私は床に手をつけて、魔法袋から取り出した液状化魔力と共に索敵魔術を行使した。
私が主に使う索敵魔術は魔力式と物理式の二種類。魔力式は範囲内の魔力を持つ対象や魔術の有無も判別できるが、高位の魔術使いがあると気づかれてしまう。逆に物理式の場合は、超音波や電磁波による索敵なため感知用の仕掛けがない限りは気づかれない。今回は半分隠密行動なため後者を選択した。
(教会内にある人はおおよそ50人。動きからして外を警備している人が10人弱。部屋の中で起きていそうな人が数人かしらね。他は恐らく眠っている気がするわ)
マスクウェル領都全域は、ドミニクとシリウス率いる国軍と近衛騎士団の混合部隊が既に包囲している。教会を潰すだけであれば今すぐでも構わないが、マスクウェル侯爵家に逃げられる恐れがあった。そのため今はまだ包囲に留めておいて証拠を押さえ次第、全員捕まえる手筈となっている。
(せっかく今は深夜なのだから日が昇る前に教会は押さえたいのよね…侯爵と連絡を取られるわけにもいかないし、司教を捕まえておいた方が良さそうね)
私は教会の中で、司教が居そうな場所を探すことにした。大体役職が高い人は、高い階層にあって広い部屋を使っていると相場は決まっている。
人に見つからないように足音を潜めて、さらに階段を登っていく。
「ん?何か音がし…んぐ!?」
ちょうど司祭が廊下を歩いていたため、後ろから口を塞ぎ短剣を首筋に添える。そのまま空いている部屋に連れ込んだ。
「司教がいる部屋に案内しなさい。暴れたり大声を出したりしたら…どうなるか分かっているわよね?」
司祭は口をモゴモゴさせながら頷く。それを確認した私は部屋の場所を聞き出してから、短剣の柄で殴りつけて意識を刈り取る。
そして聞き出した部屋へ向かうと扉をこっそりと開いた。部屋の中に一歩踏み出して…
咄嗟に短剣を振り抜く。すると金属音が聞こえて私の周りに針が落ちた。
「おや…今のを防ぐとはなかなかやりますね」
どうやら寝ずの番をしていた教会騎士がいたようで、天井から2人ほど降りてきた。針を投げてきたのは、教会騎士のどちらかなのだろう。
「司教…あなたを国王暗殺の容疑で拘束するわ。」
私の言葉に司教は、面白いものを見たというような笑顔を浮かべて口を開く。
「まさかラティアーナ王が、自らここに来るとは思いませんでした。しかしね、私には好機でもあるのですよ。あなたがここで消えてくれれば全て上手くいくのですから」
「確かに王位についてから時間も経っていなくて王太子がいない今、わたくしがいなくなれば…エスペルト王国は分裂するわね。そしてそれこそがマスクウェル侯爵の狙いかしら?彼らも王族の血筋ではあるもの、王位を狙っていたとしてもおかしくはないわ」
「そこまで分かっていて、ここに来るのは迂闊でしたね。それに気付かれないようにするためとはいえ、その首輪をそのままにしておくというのは不用心でしたねぇ」
司教は魔術具を操作しする。しかし変化はなにもない。司教は不思議そうに何度も魔術具を操作するが、結果は変わらなかった。
「昔にね、隷属の首輪の術式に干渉したことがあるのよ。高位の術者相手には無意味なの…それにあなたのやり方はよく知っているわ。昔王都で逃げられたからね。覚えているでしょう?アリアがいた孤児院で起きた事件。そしてティアという名前。あの時は逃げられたけど、もう逃さないから!」
「っ!?あの時のティアという子供はまさか…!騎士たちよ、足止めしておけ!」
司教もかつての一件を思い出したようで、慌てて教会騎士に指示を出す。
しかし私はそれよりも早く身体強化を最大にして刀を抜いた。一気に距離を詰めて教会騎士を斬り伏せると、裏に下がろうとしていた司教は球状のようなものを投げてつけて来る。
投げられた物を刀で斬り払うと、中から煙が溢れてきて部屋の中の見通しが悪くなった。
(上手く逃げるつもりなのかしら?けれど…)
司教は窓に向かって走っている。しかし煙で視界が塞がっていても、気配を辿ることができる今の私であれば、この程度は妨害にすらならない。
私は距離を詰めて司教に対して峰打ちを当てた。鈍い音と共に壁の方へ吹き飛ばされて気を失ったのを確認する。
司教を縛った後、引き出しを引き抜いて書類を押さえると通信用の魔術具を起動させる。
「司教の身柄と証拠は押さえたわ。ドミニク…領城と侯爵邸を押さえなさい。あとわたくしの所に近衛騎士団をお願いね」
「かしこまりました。全軍動かします!」
ドミニクに指示を出した後、司教の部屋を調査する。
調査をしながら騎士団の到着を待っていると、いきなり地響きがした。急いで窓から外を覗いて街の様子を窺う。
すると街の地面からいくつもの魔物が現れるのが見えた。その魔物はいくつかの魔物を合わせた図体をしているキメラというものに思えるのだった。
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