王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第7章 女王の戴冠

23 マスクウェル領都

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 ニコラウスやドミニクと打ち合わせをした数日後。

 私はマスクウェル侯爵領の領都を歩いていた。
 変装用の魔術具を使って髪色と眼の色を共に黒に変えて、綺麗過ぎない服を着ている。
 また街に入るときには、住民登録証も冒険者プレートも出さずに近くの集落から来たということにしている。検問が面倒であったり都市に入るときに税をとられたりするが、孤児として見られたことだろう。

 街を歩いてみると一見して平和に感じた。街の人々にも笑顔が見られて、街全体が綺麗で活気付いている。

(さて街の中に入ったことだし確認と餌の準備が必要ね)

 現時点でわかっていることは領主と教会が絡んでいることだ。私は周囲の反応に気をつけつつ情報を集めながら教会のある方向へ歩き出した。

 歩いている途中、露店が並んでいる通りに差し掛かる。
 今の時間は5の鐘が鳴ったくらいだ。食材などを売っている露店は人が多いが、食事を売っている露店は比較的空いていた。

(朝食はまだ食べていないから、一旦ブランチにでもしましょうか。ついでにこの都市の話を聞けると嬉しいわね)

 そのような事を考えながら、いい匂いがする露店に足を向けた。
 屋台には私と同い年くらいの少女が立っていて、後ろではその子の母親らしき女性が調理をしている。

「いらっしゃいませ。ご注文はどうしますか?」

「そうですね…お勧めを頂けませんか?」

「わかりました。少し待ってくださいね」

 少女が母親と一緒に盛り付けをしている。焼いたパンに燻製にした肉と野菜を挟んだホットサンドのようだった。

「お待たせしました!どうぞ!」

「ありがとうございます。私は今日この街に来たんですけど、この街ってどう言ったところですか?」

 ホットサンドを受け取り硬貨を渡しながら問いかけてみた。

「とても綺麗で住みやすい街だと思います。治安も良いところですよ」

 と少女は答えて母親も「そうですね。いい街だと思いますよ」と言葉にしていた。

 ホットサンドを食べてから、しばらく歩くと教会が見えてくる。
 礼拝堂の中に入ると一般的な人と同じようにお祈りをした。帰り際に神官に声を掛けて

「すいません。仕事を探しにこちらへ来たのですけど、この街について教えてもらえませんか?」

 と問いかけてみた。神官は人当たりの良さそうな笑みを浮かべると口を開く。

「でしたら教会の手伝いをして頂けませんか?お金はあまり出せませんが、宿と食事は保証しますよ。日雇いですので仕事が見つかるまでの期間ということでどうでしょうか?」

 神官の人が奴隷売買に関わっていて、私のことを獲物と考えているのか、単純に善意からの申し出かは判断できない。
 しかし教会の礼拝堂以外を、堂々と歩いて見て回ることができるのは有り難かった。
 私は神官の提案に乗ることにする。

「そうですね…この街について詳しく知りませんし、お言葉に甘えさせていただきます」

 神官は「わかりました。ではこちらへ来てください」と言うと、礼拝堂の奥にある個室を案内してくれた。

「こちらは客室になるのでご自由にお使いください。司教が帰ってきたときにお呼びしますので、それまでは寛いでいて大丈夫ですよ」

 私はお礼を告げると部屋で寛ぐことにした。

 その他の夜、司教が帰ってきたようで挨拶に伺うことになった。
 神官と一緒に司教の部屋に向かい、司教と対面する。

「おお、あなたが今日やってきたと言う人ですか。教会は皆に救いを与えるますからねぇ。歓迎しますよ」

 司教の言葉が聞こえてくるが、私は驚きのあまり硬直してしまう。

(どこに逃げていたのかと思えば…こんなところに居たなんて!今回は絶対に逃がさない。覚悟しなさい…)

 私の目の前にいたのは元孤児院長だった。王都の教会の孤児院でアリアたちを苦しめた元凶の一人。5年ぶりの再会となる。
 私は周りに内心を悟られない様に、感情を内に止める様に心がけて口を開く。

「司教様はじめまして。私はサナと言います。集落に住んでいたのですが孤児になってしまって…身寄りもお金もないので都市に出てきたのです」

「それは大変でしたねぇ。教会は救いを求める子には手を差し伸べますから。私も力になりましょう。まずは食事にしましょうか」

 司教と神官と一緒に教会内の食堂に向かう。食堂に着くと教会に勤めている人たちが集まっているようで、皆既に席に着いていた。
 私たちも席に着くと料理が運ばれてきて、司祭が食事の前の挨拶をする。

「この食事、この恵みを精霊に感謝を込めて…いただきます」

「「この食事、この恵みを精霊に感謝を込めて、いただきます」」

 司祭に続いて挨拶を行うと食事に手をつけるのだった。
 教会の食事は意外にも豪華なものだった。焼いた肉や野菜を使った料理で、裕福な平民と同じくらいの食事になるだろう。

(王都の教会だと孤児院は慈善事業だから仕方ないにしても、教会自体ももう少し質素なのよね…マスクウェル侯爵から支援があるのでしょうね。それにしても食事に毒を盛られると思っていたけど、そんなことなかったわね)

 食事に眠り薬でも入っているかと思って警戒していた。しかし毒検知ようの魔術にも反応はなく、舌にも違和感はないため普通の料理なのだろう。

 そのまま料理を美味しく頂いたあと、司祭に教会の中の客室に案内してもらう。

「この部屋を使って良いのですか?てっきり…孤児院の様な場所に入るのかと思ってました」

「この教会というよりもこの街自体が特別ですからね。この街には孤児やスラムが存在しないのです。だから孤児院がないのですよ…さてこちらの部屋を使ってください」

「ええ、ありがとうございました」

 私は部屋に入ると、仕掛けがない事を確認してから眠るのだった。

 そして真夜中の寝静まった頃、扉が開く音がした。
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