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第7章 女王の戴冠
12 女王の即位式
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「ラティアーナ様、新しいドレスはとても美しいです。今までのドレスはどちらかと言うと可愛らしい物でしたから印象が変わりますね」
私は今、即位式のためにドレスの着付けをしている。リーナに全てを任せている状態だ。
「ありがとうリーナ。ついに皆の前に立って宣誓するのよね…大丈夫かしら…」
既に国王として執務は行っているため、貴族たちの反応は知っていた。領主からの反応は問題なく大臣たちからも受けは悪くない。
しかし民たちの前に姿を見せるのは初めてになるため不安は残っている。
「ラティアーナ様ならきっと大丈夫ですよ。今までラティアーナ様が出会ってきた人たち、ティアとして出会った人たちが沢山いて皆さんから慕われてます。側で共に歩いてきた私は知っています。だからこれからもラティアーナ様が信じていることを突き通していいのだと思います。あなただけの道を進んでください」
リーナに励まされて少し気持ちが楽になった。
これから王として、より多くの決断をしていくだろう。それでも私が信じて願った道を歩いていこう…そう思った。
「はい、これでドレスの着付けは完了ですね。とてもお似合いですよ」
リーナは少し離れたところから私のことを見て頷いている。それから鏡を持ってきてもらうと、私も自身の姿を確認した。
「最後にアクセサリーを着けますね」
リーナがそう言いながら持ってきてくれたのは、2つのアクセサリーだった。胸元につけてもらうと「これで全てですね」と話した。
「これは…始めて見るわね。お父様から贈られたものかしら?」
以前、お父様がドレスに合う物を贈ってくれると話していたのを思い出して尋ねると
「この青薔薇のブローチはグラビス様からです。そしてこちらのブルーデージーのアクセサリーはティアラ様からですね」
と口にした。お母様の名前が出てきて、驚きのあまり固まってしまう。
「これは母に聞いたのですが…ラティアーナ様がお生まれになった後、ティアラ様が選んで母に託していたそうです」
「そう…お母様が、わたくしにね」
お母様はリーファスを産んだ時に亡くなっている。私が4歳の時のため朧げにしか覚えていなかった。
他の人ごしに聞いた話になるが、お母様は私を産んだ後くらいから体調を崩すことが増えたそうだ。病気が見つかっていたわけではないらしいが、もしかしたらこうなることを予期していたのかもしれない。
「ラティアーナ様失礼します…そろそろお時間になりますので準備をお願いします」
イリスが私のことを呼びにくると、私の姿を見て微笑みかけた。
「ティアラ様はそのブローチを成人した時に渡すつもりだったそうです。ですが…リーファス様をお腹に宿した時に私に託されました。「もし、わたくしに何かあったときのため預けておくわ」と言葉を残されて。ティアラ様がなにを考えていたのか私では推し量ることはできません。けれど、ラティアーナ様とリーファス様のことを大事に、大切に思われて、幸せを願われていたことだけは私にもわかりました」
イリスの言葉に思わず泣きそうになる。けれど涙を流すのは全てが終わった後だ。だから…
「イリス…後でお母様のこと、たくさん話を聞かせてね」
私の言葉にイリスは「ええ、いつでも」と答えた。
私は目を一度閉じて心を落ち着かせる。そして目を開けて歩みだす。
「さて、即位式の会場に参りましょうか」
イリスとリーナを連れて城門のバルコニーの近くへ歩いていく。部屋にはお父様が待っていて「来たか…とても似合っていると思う」と呟いた。
「ラティアーナ…これが代々受け継がれてきた王のマントと王冠だ…失礼する」
マントはリーナに付けてもらい王冠はお父様に被せてもらった。
マントはかつての王が戦場にも付けたことがあるもので身を守るための魔術が刻まれているらしい。王冠には特別な仕掛けはないものの、貴金属をもとに宝石をあしらった高価なもので式典などで使用され続けてきた物になる。
「ラティアーナ陛下、グラビス様…お願いします」
ニコラウスに呼ばれて私とお父様はバルコニーに向かう。後ろには立会人としてニコラウスの他にドミニクとイベリス、エドガー、つまりは公爵家当主の4人が並んでいた。
バルコニーに私たちが立って手を挙げると
「「「うぉぉ!!!」」」
城門のバルコニーからは王都の街を一望できる。そこから見える景色は大勢の民たちが歓声を上げて、私たちに手を振っている光景だ。
「ここにグラビス・エスペルトの名において第3王女だったラティアーナ・エスペルトに王位を受け渡すことをここに宣言する!」
お父様の言葉に歓声がさらに大きくなる。私はさらに一歩前に立ち手を挙げると歓声が止んで、皆の視線が私に集中する。
私の女王としての最初の言葉は、この場にいる人には拡声されて直接届けられる。そしてエスペルト王国の全通信魔術を経由して映像あるいは音声がリアルタイムで届けられることになる。属国となったドラコロニアにも届いているだろう。
「この度、国王となったラティアーナ・エスペルトよ。わたくしは国王としてこのエスペルト王国を導き守っていくわ。この世界にはたくさんの危険があるけれど、エスペルト王国の中では安心に安全に過ごせるようにしたいと思っている。家族や友人、身近な人たちと笑いあって過ごすごく当たり前のありふれた日常を、かけがえのない時間をこの先も続けていけるように。そのために全力を尽くすことをわたくしはここに誓うわ!」
私が言い切った直後、少しの静寂が生まれた。
顔に出さないように気をつけつつも内心で不安に思っていると
「ラティアーナ陛下万歳!」
「ラティアーナ陛下おめでとうございます!」
先程までのような歓声とともに私を祝福してくれるような言葉も聞こえてきて、心からの笑みを浮かべる。
こうして即位式は、無事に終えたのだった。
私は今、即位式のためにドレスの着付けをしている。リーナに全てを任せている状態だ。
「ありがとうリーナ。ついに皆の前に立って宣誓するのよね…大丈夫かしら…」
既に国王として執務は行っているため、貴族たちの反応は知っていた。領主からの反応は問題なく大臣たちからも受けは悪くない。
しかし民たちの前に姿を見せるのは初めてになるため不安は残っている。
「ラティアーナ様ならきっと大丈夫ですよ。今までラティアーナ様が出会ってきた人たち、ティアとして出会った人たちが沢山いて皆さんから慕われてます。側で共に歩いてきた私は知っています。だからこれからもラティアーナ様が信じていることを突き通していいのだと思います。あなただけの道を進んでください」
リーナに励まされて少し気持ちが楽になった。
これから王として、より多くの決断をしていくだろう。それでも私が信じて願った道を歩いていこう…そう思った。
「はい、これでドレスの着付けは完了ですね。とてもお似合いですよ」
リーナは少し離れたところから私のことを見て頷いている。それから鏡を持ってきてもらうと、私も自身の姿を確認した。
「最後にアクセサリーを着けますね」
リーナがそう言いながら持ってきてくれたのは、2つのアクセサリーだった。胸元につけてもらうと「これで全てですね」と話した。
「これは…始めて見るわね。お父様から贈られたものかしら?」
以前、お父様がドレスに合う物を贈ってくれると話していたのを思い出して尋ねると
「この青薔薇のブローチはグラビス様からです。そしてこちらのブルーデージーのアクセサリーはティアラ様からですね」
と口にした。お母様の名前が出てきて、驚きのあまり固まってしまう。
「これは母に聞いたのですが…ラティアーナ様がお生まれになった後、ティアラ様が選んで母に託していたそうです」
「そう…お母様が、わたくしにね」
お母様はリーファスを産んだ時に亡くなっている。私が4歳の時のため朧げにしか覚えていなかった。
他の人ごしに聞いた話になるが、お母様は私を産んだ後くらいから体調を崩すことが増えたそうだ。病気が見つかっていたわけではないらしいが、もしかしたらこうなることを予期していたのかもしれない。
「ラティアーナ様失礼します…そろそろお時間になりますので準備をお願いします」
イリスが私のことを呼びにくると、私の姿を見て微笑みかけた。
「ティアラ様はそのブローチを成人した時に渡すつもりだったそうです。ですが…リーファス様をお腹に宿した時に私に託されました。「もし、わたくしに何かあったときのため預けておくわ」と言葉を残されて。ティアラ様がなにを考えていたのか私では推し量ることはできません。けれど、ラティアーナ様とリーファス様のことを大事に、大切に思われて、幸せを願われていたことだけは私にもわかりました」
イリスの言葉に思わず泣きそうになる。けれど涙を流すのは全てが終わった後だ。だから…
「イリス…後でお母様のこと、たくさん話を聞かせてね」
私の言葉にイリスは「ええ、いつでも」と答えた。
私は目を一度閉じて心を落ち着かせる。そして目を開けて歩みだす。
「さて、即位式の会場に参りましょうか」
イリスとリーナを連れて城門のバルコニーの近くへ歩いていく。部屋にはお父様が待っていて「来たか…とても似合っていると思う」と呟いた。
「ラティアーナ…これが代々受け継がれてきた王のマントと王冠だ…失礼する」
マントはリーナに付けてもらい王冠はお父様に被せてもらった。
マントはかつての王が戦場にも付けたことがあるもので身を守るための魔術が刻まれているらしい。王冠には特別な仕掛けはないものの、貴金属をもとに宝石をあしらった高価なもので式典などで使用され続けてきた物になる。
「ラティアーナ陛下、グラビス様…お願いします」
ニコラウスに呼ばれて私とお父様はバルコニーに向かう。後ろには立会人としてニコラウスの他にドミニクとイベリス、エドガー、つまりは公爵家当主の4人が並んでいた。
バルコニーに私たちが立って手を挙げると
「「「うぉぉ!!!」」」
城門のバルコニーからは王都の街を一望できる。そこから見える景色は大勢の民たちが歓声を上げて、私たちに手を振っている光景だ。
「ここにグラビス・エスペルトの名において第3王女だったラティアーナ・エスペルトに王位を受け渡すことをここに宣言する!」
お父様の言葉に歓声がさらに大きくなる。私はさらに一歩前に立ち手を挙げると歓声が止んで、皆の視線が私に集中する。
私の女王としての最初の言葉は、この場にいる人には拡声されて直接届けられる。そしてエスペルト王国の全通信魔術を経由して映像あるいは音声がリアルタイムで届けられることになる。属国となったドラコロニアにも届いているだろう。
「この度、国王となったラティアーナ・エスペルトよ。わたくしは国王としてこのエスペルト王国を導き守っていくわ。この世界にはたくさんの危険があるけれど、エスペルト王国の中では安心に安全に過ごせるようにしたいと思っている。家族や友人、身近な人たちと笑いあって過ごすごく当たり前のありふれた日常を、かけがえのない時間をこの先も続けていけるように。そのために全力を尽くすことをわたくしはここに誓うわ!」
私が言い切った直後、少しの静寂が生まれた。
顔に出さないように気をつけつつも内心で不安に思っていると
「ラティアーナ陛下万歳!」
「ラティアーナ陛下おめでとうございます!」
先程までのような歓声とともに私を祝福してくれるような言葉も聞こえてきて、心からの笑みを浮かべる。
こうして即位式は、無事に終えたのだった。
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