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第7章 女王の戴冠
8 戻りつつある日常
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王都に戻ってからは国王としての仕事をしつつ、貴族との社交の準備を進める。
あと2月もすれば私の即位式とお披露目があるため、各々の領地にいる貴族と社交することになる。
そのため、この機会にできる限り社交を行い、貴族間の派閥を調整するつもりだった。また、私が各大臣や宰相、有力貴族の矮躯になっていると思われている可能性もあるため、私自身の考えで動いていると伝えておく。
社交する貴族の中には、私に取り合ったり都合よく動かそうとする人もいるだろうから牽制の意味も兼ねていた。
「頼まれていた資料をお持ちしました」
「ありがとう…次のお披露目で使えそうね」
ニコラウスから受け取った資料は各領地の報告書だ。領民の数や税収、交易など幅広く記載されていて、年に一度領主が王国に提出することになっている。この資料を元に数年に一度の感覚で各領地から王国に支払われる税金の計算に使われているそうだ。
「おや、それは何よりですな。どういったことに使われるおつもりなのですか?」
ニコラウスの問いに私は「後ろめたいことがないかなと思って」と答える。
その手の資料は文官たちも確認をしているため、改竄されていることは基本的にない。そもそも貴族相手の法はあまり厳格でなかったりもすることから、改竄する必要性がなかった。仮に何かをしたとしても、よっぽどのことがない限りは罪には問われないだろう。
私が探しているのは罪になるものというよりも、他の貴族にはあまり知られたくないグレーな内容だ。
「派閥のバランスを整えるのに使えないかと思ったのよ。今までは派閥調整とか嫌いだったから距離を置いていたけれど…国王になったからにはやらないといけないから」
「意外ですね…陛下は嬉々として行いそうな印象でしたが」
「必要があれば行うけど、どちらかと言えば回りくどいことは好きではないわ」
そこまで腹黒くないとの意味を込めて視線を向けると「でも得意ですよね?」と言われて、思わず言葉に詰まった。
「……あなたに言われたくはないわね」
「それが私の使命ですから」
勝負していたわけではないが、なんとなくニコラウスに負けた気がした。
そのような時間が過ぎていき、年明けから約一月が経った。今日から王立学園の授業も通常どおり始まることとなる。
その中で私が王立学園をどうするのかが問題だった。学園を卒業する必要はあるが、今までのように毎日授業を受ける事はできないからだ。
そのため、試験は受けるが授業に関しては自由参加とのことにした。今まで未成年の領主はいたが、未成年の国王は前例がない。シリウスのように領主でありながら別の職務に就くという事は多々あるため、領地に代官を立てる事はあるが私の場合はもちろん不可能なことが理由だ。
もっとも王立学園の責任者は学園長だけど、卒業の可否などの最終決定権は王立と言われるだけあって国王となる。私の裁量で私のことを決めることができるという、とても不思議な状況になっているが活用しない手はなかった。
「さて…あとは任せたわね」
「行ってらっしゃいませ、陛下」
私直属の文官たちに後をお願いして学園へ向かう。
ここでも変わったことがあって寮に住まなくなった。代わりに寮の部屋に転移用の魔術具を置いて、王宮にある転移用の部屋から転移できるようにしてあった。王鍵とも繋がっているため、私の魔力を消費しないのも利点である。
「いつでもいいわよ」
「転移術式作動します!」
私の合図で転移用の術式に魔力が流れる。視界が一瞬白くなった後、気がつくと学園の寮の部屋に着いた。
「2月前までこの部屋で過ごしていたけれど…随分と懐かしくあるわね」
部屋を見ながらしみじみと呟く。70日の間にこんなにもたくさんの変化があるとは誰も思わなかっただろう。少しの間、窓から学園を眺めてもうそろそろ教室へ向かおうかと思った時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「入っていいわよ?」
「お邪魔するわね…また一緒に学べるとは思っていなかったから嬉しいわ。ラティアーナ…いえ、女王陛下って呼んだ方がいいかしら?」
部屋に来たのは、悪戯っぽい笑みを浮かべているイリーナだった。
「学園の中は身分差を余り意識しないっていう決まりがあるのだから、今まで通りでいいわよ」
私が肩をすくめていると「冗談よ」と言った。イリーナは部屋にある魔術具に気づいたようで、興味津々に見ている。
「それが王鍵に繋がる転移用魔術がなのね」
「そうよ。普通の転移術式だと王城の結界を通らないからね。これなら王族しか使えない代わりにエスペルト王国内のどこでも転移できるわ」
通常の転移だと魔力の移動が妨害される場所では使えない。しかし、この転移は王国地下にある王鍵の魔術具を経由しているため、大気の魔力影響を全く受けなかった。
「もうそろそろ時間よ?」
「もうそんな時間なのね…では行きましょうか」
私とイリーナは共に教室へ向かう。途中、何人かの生徒たちを見かけるが遠巻きに様子を伺っているようだった。
(まぁでも…同じ学生に国王がいたら気にはなるけど、近づこうとは思わないわよね)
そのようなことを考えて教室に入ると
「「「ラティアーナ様、おはようございます」」」
「おはよう。思ったより早かったな」
「「「「おはようございます」」」」
皆の反応が今までと変わらないことに嬉しく感じて、ついにやけてしまいそうになる。
「皆、おはよう」
「皆様、おはようございます」
私とイリーナも挨拶を返して先に着くのだった。
あと2月もすれば私の即位式とお披露目があるため、各々の領地にいる貴族と社交することになる。
そのため、この機会にできる限り社交を行い、貴族間の派閥を調整するつもりだった。また、私が各大臣や宰相、有力貴族の矮躯になっていると思われている可能性もあるため、私自身の考えで動いていると伝えておく。
社交する貴族の中には、私に取り合ったり都合よく動かそうとする人もいるだろうから牽制の意味も兼ねていた。
「頼まれていた資料をお持ちしました」
「ありがとう…次のお披露目で使えそうね」
ニコラウスから受け取った資料は各領地の報告書だ。領民の数や税収、交易など幅広く記載されていて、年に一度領主が王国に提出することになっている。この資料を元に数年に一度の感覚で各領地から王国に支払われる税金の計算に使われているそうだ。
「おや、それは何よりですな。どういったことに使われるおつもりなのですか?」
ニコラウスの問いに私は「後ろめたいことがないかなと思って」と答える。
その手の資料は文官たちも確認をしているため、改竄されていることは基本的にない。そもそも貴族相手の法はあまり厳格でなかったりもすることから、改竄する必要性がなかった。仮に何かをしたとしても、よっぽどのことがない限りは罪には問われないだろう。
私が探しているのは罪になるものというよりも、他の貴族にはあまり知られたくないグレーな内容だ。
「派閥のバランスを整えるのに使えないかと思ったのよ。今までは派閥調整とか嫌いだったから距離を置いていたけれど…国王になったからにはやらないといけないから」
「意外ですね…陛下は嬉々として行いそうな印象でしたが」
「必要があれば行うけど、どちらかと言えば回りくどいことは好きではないわ」
そこまで腹黒くないとの意味を込めて視線を向けると「でも得意ですよね?」と言われて、思わず言葉に詰まった。
「……あなたに言われたくはないわね」
「それが私の使命ですから」
勝負していたわけではないが、なんとなくニコラウスに負けた気がした。
そのような時間が過ぎていき、年明けから約一月が経った。今日から王立学園の授業も通常どおり始まることとなる。
その中で私が王立学園をどうするのかが問題だった。学園を卒業する必要はあるが、今までのように毎日授業を受ける事はできないからだ。
そのため、試験は受けるが授業に関しては自由参加とのことにした。今まで未成年の領主はいたが、未成年の国王は前例がない。シリウスのように領主でありながら別の職務に就くという事は多々あるため、領地に代官を立てる事はあるが私の場合はもちろん不可能なことが理由だ。
もっとも王立学園の責任者は学園長だけど、卒業の可否などの最終決定権は王立と言われるだけあって国王となる。私の裁量で私のことを決めることができるという、とても不思議な状況になっているが活用しない手はなかった。
「さて…あとは任せたわね」
「行ってらっしゃいませ、陛下」
私直属の文官たちに後をお願いして学園へ向かう。
ここでも変わったことがあって寮に住まなくなった。代わりに寮の部屋に転移用の魔術具を置いて、王宮にある転移用の部屋から転移できるようにしてあった。王鍵とも繋がっているため、私の魔力を消費しないのも利点である。
「いつでもいいわよ」
「転移術式作動します!」
私の合図で転移用の術式に魔力が流れる。視界が一瞬白くなった後、気がつくと学園の寮の部屋に着いた。
「2月前までこの部屋で過ごしていたけれど…随分と懐かしくあるわね」
部屋を見ながらしみじみと呟く。70日の間にこんなにもたくさんの変化があるとは誰も思わなかっただろう。少しの間、窓から学園を眺めてもうそろそろ教室へ向かおうかと思った時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「入っていいわよ?」
「お邪魔するわね…また一緒に学べるとは思っていなかったから嬉しいわ。ラティアーナ…いえ、女王陛下って呼んだ方がいいかしら?」
部屋に来たのは、悪戯っぽい笑みを浮かべているイリーナだった。
「学園の中は身分差を余り意識しないっていう決まりがあるのだから、今まで通りでいいわよ」
私が肩をすくめていると「冗談よ」と言った。イリーナは部屋にある魔術具に気づいたようで、興味津々に見ている。
「それが王鍵に繋がる転移用魔術がなのね」
「そうよ。普通の転移術式だと王城の結界を通らないからね。これなら王族しか使えない代わりにエスペルト王国内のどこでも転移できるわ」
通常の転移だと魔力の移動が妨害される場所では使えない。しかし、この転移は王国地下にある王鍵の魔術具を経由しているため、大気の魔力影響を全く受けなかった。
「もうそろそろ時間よ?」
「もうそんな時間なのね…では行きましょうか」
私とイリーナは共に教室へ向かう。途中、何人かの生徒たちを見かけるが遠巻きに様子を伺っているようだった。
(まぁでも…同じ学生に国王がいたら気にはなるけど、近づこうとは思わないわよね)
そのようなことを考えて教室に入ると
「「「ラティアーナ様、おはようございます」」」
「おはよう。思ったより早かったな」
「「「「おはようございます」」」」
皆の反応が今までと変わらないことに嬉しく感じて、ついにやけてしまいそうになる。
「皆、おはよう」
「皆様、おはようございます」
私とイリーナも挨拶を返して先に着くのだった。
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