王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
156 / 475
第7章 女王の戴冠

8 戻りつつある日常

しおりを挟む
 王都に戻ってからは国王としての仕事をしつつ、貴族との社交の準備を進める。

 あと2月もすれば私の即位式とお披露目があるため、各々の領地にいる貴族と社交することになる。
 そのため、この機会にできる限り社交を行い、貴族間の派閥を調整するつもりだった。また、私が各大臣や宰相、有力貴族の矮躯になっていると思われている可能性もあるため、私自身の考えで動いていると伝えておく。
 社交する貴族の中には、私に取り合ったり都合よく動かそうとする人もいるだろうから牽制の意味も兼ねていた。

「頼まれていた資料をお持ちしました」

「ありがとう…次のお披露目で使えそうね」

 ニコラウスから受け取った資料は各領地の報告書だ。領民の数や税収、交易など幅広く記載されていて、年に一度領主が王国に提出することになっている。この資料を元に数年に一度の感覚で各領地から王国に支払われる税金の計算に使われているそうだ。

「おや、それは何よりですな。どういったことに使われるおつもりなのですか?」

 ニコラウスの問いに私は「後ろめたいことがないかなと思って」と答える。

 その手の資料は文官たちも確認をしているため、改竄されていることは基本的にない。そもそも貴族相手の法はあまり厳格でなかったりもすることから、改竄する必要性がなかった。仮に何かをしたとしても、よっぽどのことがない限りは罪には問われないだろう。
 私が探しているのは罪になるものというよりも、他の貴族にはあまり知られたくないグレーな内容だ。

「派閥のバランスを整えるのに使えないかと思ったのよ。今までは派閥調整とか嫌いだったから距離を置いていたけれど…国王になったからにはやらないといけないから」

「意外ですね…陛下は嬉々として行いそうな印象でしたが」

「必要があれば行うけど、どちらかと言えば回りくどいことは好きではないわ」

 そこまで腹黒くないとの意味を込めて視線を向けると「でも得意ですよね?」と言われて、思わず言葉に詰まった。

「……あなたに言われたくはないわね」

「それが私の使命ですから」

 勝負していたわけではないが、なんとなくニコラウスに負けた気がした。



 そのような時間が過ぎていき、年明けから約一月が経った。今日から王立学園の授業も通常どおり始まることとなる。

 その中で私が王立学園をどうするのかが問題だった。学園を卒業する必要はあるが、今までのように毎日授業を受ける事はできないからだ。
 そのため、試験は受けるが授業に関しては自由参加とのことにした。今まで未成年の領主はいたが、未成年の国王は前例がない。シリウスのように領主でありながら別の職務に就くという事は多々あるため、領地に代官を立てる事はあるが私の場合はもちろん不可能なことが理由だ。
 もっとも王立学園の責任者は学園長だけど、卒業の可否などの最終決定権は王立と言われるだけあって国王となる。私の裁量で私のことを決めることができるという、とても不思議な状況になっているが活用しない手はなかった。

「さて…あとは任せたわね」

「行ってらっしゃいませ、陛下」

 私直属の文官たちに後をお願いして学園へ向かう。
 ここでも変わったことがあって寮に住まなくなった。代わりに寮の部屋に転移用の魔術具を置いて、王宮にある転移用の部屋から転移できるようにしてあった。王鍵とも繋がっているため、私の魔力を消費しないのも利点である。

「いつでもいいわよ」

「転移術式作動します!」

 私の合図で転移用の術式に魔力が流れる。視界が一瞬白くなった後、気がつくと学園の寮の部屋に着いた。

「2月前までこの部屋で過ごしていたけれど…随分と懐かしくあるわね」

 部屋を見ながらしみじみと呟く。70日の間にこんなにもたくさんの変化があるとは誰も思わなかっただろう。少しの間、窓から学園を眺めてもうそろそろ教室へ向かおうかと思った時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「入っていいわよ?」

「お邪魔するわね…また一緒に学べるとは思っていなかったから嬉しいわ。ラティアーナ…いえ、女王陛下って呼んだ方がいいかしら?」

 部屋に来たのは、悪戯っぽい笑みを浮かべているイリーナだった。

「学園の中は身分差を余り意識しないっていう決まりがあるのだから、今まで通りでいいわよ」

 私が肩をすくめていると「冗談よ」と言った。イリーナは部屋にある魔術具に気づいたようで、興味津々に見ている。

「それが王鍵に繋がる転移用魔術がなのね」

「そうよ。普通の転移術式だと王城の結界を通らないからね。これなら王族しか使えない代わりにエスペルト王国内のどこでも転移できるわ」

 通常の転移だと魔力の移動が妨害される場所では使えない。しかし、この転移は王国地下にある王鍵の魔術具を経由しているため、大気の魔力影響を全く受けなかった。

「もうそろそろ時間よ?」

「もうそんな時間なのね…では行きましょうか」

 私とイリーナは共に教室へ向かう。途中、何人かの生徒たちを見かけるが遠巻きに様子を伺っているようだった。

(まぁでも…同じ学生に国王がいたら気にはなるけど、近づこうとは思わないわよね)

 そのようなことを考えて教室に入ると

「「「ラティアーナ様、おはようございます」」」

「おはよう。思ったより早かったな」

「「「「おはようございます」」」」

 皆の反応が今までと変わらないことに嬉しく感じて、ついにやけてしまいそうになる。

「皆、おはよう」

「皆様、おはようございます」

 私とイリーナも挨拶を返して先に着くのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...