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第7章 女王の戴冠
5 ドラコロニア共和国魔物戦線
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ギルベルトがラティアーナに通信を送った頃、ドラコロニア共和国の首都近郊の丘では、エスペルト王国軍が仮の基地を設立していた。元々は首都を攻略するためのものだったが、現在は首都攻略を中断し魔物への防衛に備えている。。
「首都近辺を目視で確認しましたが、魔物の姿を捉えることはできませんでした」
「そうか…引き続き警戒を頼む」
報告にきた兵士は「はっ!」と返事を返して持ち場に戻っていく。ギルベルトは今度どう動いていくかを考えると、ままならないものだなとため息をついた。
ギルベルトとしてはドラコロニア共和国を落とすだけならば、死者を出さずに勝つことができる見込みがあった。そのために治癒魔術が扱える魔術士を多めに引き連れて、怪我や消耗した兵士と万全な兵士を素早く交替させるという戦法をとっていたのだ。
ドラコロニア共和国からすれば戦い続けても、ひたすらに万全な兵士が出てくるため恐怖しかないだろう。
しかし、魔物の大群の暴走となると話は変わってくる。総数ではなく戦闘可能な人数の物量差で共和国相手に有利に進めていたが、魔物の場合ひたすら突撃してくるので消耗というものが考慮できない。
それでもこの状況で引くことはできなかった。
(とはいえ、魔物が攻めてきてなにもできない共和国の政府と前線で戦うエスペルト王国の王族…周りからの印象は良く見えるか。であれば…)
「エスペルト王国軍はしばらく待機…魔物が攻めてきた時に合わせて攻勢に出る!共和国の首都が魔物にやられないように立ち回るぞ」
ギルベルトたちはこのまま様子を見ることにした。
そして日が暮れる頃、ついに事態が動き出す。
「ギルベルト殿下、魔物の群れを補足しました…総数不明ですがいかがなさいますか?」
「ドラコロニア共和国軍を支援する。共和国で今戦っている者は、結局のところ君主制であった頃と変わらん。彼らは生き残るために私たちと協力するしかないのだから、そのまま恩を売るぞ。飛空部隊は空から魔物の団体を撃て!接近された魔物は私たちで叩く。以上!」
ギルベルトの号令で兵士たちが一斉に動き出した。
飛空船が3隻浮上すると、搭載されている砲が魔物の群れの後方を捉えて魔力弾を撃ち出した。撃ち出された魔力弾は着弾すると同時に炸裂して、魔物の群れを一掃していく。
さらに上空からも弾丸が飛来してして、同じように魔物を殲滅していった。
これは、飛空船からの弾着観測を利用した海上からの長距離砲撃だった。しかも今までのように放物線を描いて飛ぶのではなく、上空高くから撃たれているため遮蔽物の影響を受けない。
「あれが新型の砲弾ですか…」
「そうだ。陛下が革命を起こした当初、共和国を牽制するために長距離砲撃を行った。そしてより長距離かつ遮蔽物があっても撃てるようにとイベリスが開発した…2段構えの弾丸だ。」
今までは榴弾にしろ徹甲弾にしろ砲弾には魔術的な仕組みは搭載していなかった。しかし今回の砲弾はあらかじめ指定した時間が経過すると、術式が作動して指定された角度に砲弾の先端を射出することができるようになっている。
時間と角度の設定が必要なため射撃位置を細かく変えることは難しいが、誘い込む場合や魔物のように回避をあまり考えない相手であれば有効な手段だった。
「空と海が活躍しているのだ。私たちも続くぞ!」
兵士達の掛け声とともにギルベルトたちも進軍する。王国軍の地上部隊が相手をするのは、共和国軍や首都の防壁近くの魔物たちだ。
「エスペルト王国軍がどうして!?」
共和国の兵士たちは生き残るために必死に戦っている。ギルベルトたちの軍が進軍してきたことで顔色が悪くなるが、魔物に対してのみ攻撃を開始したことで混乱しているようだった。
「私はギルベルト・エスペルト!エスペルト王国の女王ラティアーナ陛下の兄である。私たちの目的はドラコロニア共和国の政府であって民を傷つけるつもりはなく、応戦されない限りは兵士たちであっても傷つけるつもりはない!諸君らの懸命な判断を期待する」
魔術による拡声を行って兵士たちに宣言すると共和国の兵士たちは戸惑いを見せるが、結局のところ生き残るためには共闘するしかないわけで
「一旦魔物にのみ集中する!いいな!」
半ば自棄になりながらも共和国軍は魔物相手に奮闘するのだった。
しばらく戦い続けるが魔物が減る気配は一向にない。日が暮れ出して、共和国軍は徐々に人数を減らしていく。エスペルト王国軍も死者こそ出ていないものの、消耗が激しくなってきた。
「殿下!巨大な魔物が近づいてきます…」
兵士たちは持ち堪えているものの疲れが見て取れる。最初の頃に比べて動きが散漫になり、攻撃を受ける回数が多くなってきていた。後方にいる魔術士たちも魔力が尽き始めて治癒を行える回数が減ってきている。今までよりも強力な魔物を相手にするのは難しいだろう。
「私が前に出よう。剣は扱えるし今まで魔力を温存させてもらったからな」
ギルベルトは剣を手に取りながら前に出ると、奥からやってくる影が次第にはっきりしてくる。2本の足と2本の手、岩や土で作られた身体、まるでゴーレムのように見えるがゴーレムは生物ではないため岩や土と言った崩れやすい素材で体を作ることはない。
「ゴーレムではなさそうだな…皆は下がるといい!」
ギルベルトは声を上げながら魔術を行使した。術式が二重で展開され氷塵による槍が生成されると、槍はそのまま巨人に突き刺さる。
「なに…!?」
本来は刺さった部分から凍りついていくはずだったが、巨人は槍の刺さった部分を切り離して再生する。そして、何もなかったかのように巨大な手を振り下ろしてきた。
「全員伏せろ!近衛騎士は王国兵のところまで下がって防御に集中だ」
ギルベルトの指示で騎士たちが下がる。同時に魔術障壁が展開されると、巨大な手と障壁が激突し辺り一体に衝撃が走った。
一撃で障壁が砕けたが攻撃の勢いも止まったため、ギルベルトが魔力弾を放つ。
「元が硬い上に攻撃が通ってもすぐ再生されるか…厄介だな」
どう倒すか考えるが手が思い浮かばない。思いつく限りの手を試そうかと魔力を込めようとしたその時、上空から雷撃が降り注いだ。
「なにっ!?」
誰とも知らない驚きの声が響くと同時に空から人影が降りてくる。雷撃によって土煙が巻き起こっていて誰か判別はできないが、空にあるのはエスペルト王国の飛空船だった。
次第に煙が晴れると人影がはっきりとしてくる。
「人数は多くないけれど援軍を連れてきたわ。まだまだ行けそうかしら?」
土煙から現れたのは、ラティアーナと近衛騎士団だった。
「首都近辺を目視で確認しましたが、魔物の姿を捉えることはできませんでした」
「そうか…引き続き警戒を頼む」
報告にきた兵士は「はっ!」と返事を返して持ち場に戻っていく。ギルベルトは今度どう動いていくかを考えると、ままならないものだなとため息をついた。
ギルベルトとしてはドラコロニア共和国を落とすだけならば、死者を出さずに勝つことができる見込みがあった。そのために治癒魔術が扱える魔術士を多めに引き連れて、怪我や消耗した兵士と万全な兵士を素早く交替させるという戦法をとっていたのだ。
ドラコロニア共和国からすれば戦い続けても、ひたすらに万全な兵士が出てくるため恐怖しかないだろう。
しかし、魔物の大群の暴走となると話は変わってくる。総数ではなく戦闘可能な人数の物量差で共和国相手に有利に進めていたが、魔物の場合ひたすら突撃してくるので消耗というものが考慮できない。
それでもこの状況で引くことはできなかった。
(とはいえ、魔物が攻めてきてなにもできない共和国の政府と前線で戦うエスペルト王国の王族…周りからの印象は良く見えるか。であれば…)
「エスペルト王国軍はしばらく待機…魔物が攻めてきた時に合わせて攻勢に出る!共和国の首都が魔物にやられないように立ち回るぞ」
ギルベルトたちはこのまま様子を見ることにした。
そして日が暮れる頃、ついに事態が動き出す。
「ギルベルト殿下、魔物の群れを補足しました…総数不明ですがいかがなさいますか?」
「ドラコロニア共和国軍を支援する。共和国で今戦っている者は、結局のところ君主制であった頃と変わらん。彼らは生き残るために私たちと協力するしかないのだから、そのまま恩を売るぞ。飛空部隊は空から魔物の団体を撃て!接近された魔物は私たちで叩く。以上!」
ギルベルトの号令で兵士たちが一斉に動き出した。
飛空船が3隻浮上すると、搭載されている砲が魔物の群れの後方を捉えて魔力弾を撃ち出した。撃ち出された魔力弾は着弾すると同時に炸裂して、魔物の群れを一掃していく。
さらに上空からも弾丸が飛来してして、同じように魔物を殲滅していった。
これは、飛空船からの弾着観測を利用した海上からの長距離砲撃だった。しかも今までのように放物線を描いて飛ぶのではなく、上空高くから撃たれているため遮蔽物の影響を受けない。
「あれが新型の砲弾ですか…」
「そうだ。陛下が革命を起こした当初、共和国を牽制するために長距離砲撃を行った。そしてより長距離かつ遮蔽物があっても撃てるようにとイベリスが開発した…2段構えの弾丸だ。」
今までは榴弾にしろ徹甲弾にしろ砲弾には魔術的な仕組みは搭載していなかった。しかし今回の砲弾はあらかじめ指定した時間が経過すると、術式が作動して指定された角度に砲弾の先端を射出することができるようになっている。
時間と角度の設定が必要なため射撃位置を細かく変えることは難しいが、誘い込む場合や魔物のように回避をあまり考えない相手であれば有効な手段だった。
「空と海が活躍しているのだ。私たちも続くぞ!」
兵士達の掛け声とともにギルベルトたちも進軍する。王国軍の地上部隊が相手をするのは、共和国軍や首都の防壁近くの魔物たちだ。
「エスペルト王国軍がどうして!?」
共和国の兵士たちは生き残るために必死に戦っている。ギルベルトたちの軍が進軍してきたことで顔色が悪くなるが、魔物に対してのみ攻撃を開始したことで混乱しているようだった。
「私はギルベルト・エスペルト!エスペルト王国の女王ラティアーナ陛下の兄である。私たちの目的はドラコロニア共和国の政府であって民を傷つけるつもりはなく、応戦されない限りは兵士たちであっても傷つけるつもりはない!諸君らの懸命な判断を期待する」
魔術による拡声を行って兵士たちに宣言すると共和国の兵士たちは戸惑いを見せるが、結局のところ生き残るためには共闘するしかないわけで
「一旦魔物にのみ集中する!いいな!」
半ば自棄になりながらも共和国軍は魔物相手に奮闘するのだった。
しばらく戦い続けるが魔物が減る気配は一向にない。日が暮れ出して、共和国軍は徐々に人数を減らしていく。エスペルト王国軍も死者こそ出ていないものの、消耗が激しくなってきた。
「殿下!巨大な魔物が近づいてきます…」
兵士たちは持ち堪えているものの疲れが見て取れる。最初の頃に比べて動きが散漫になり、攻撃を受ける回数が多くなってきていた。後方にいる魔術士たちも魔力が尽き始めて治癒を行える回数が減ってきている。今までよりも強力な魔物を相手にするのは難しいだろう。
「私が前に出よう。剣は扱えるし今まで魔力を温存させてもらったからな」
ギルベルトは剣を手に取りながら前に出ると、奥からやってくる影が次第にはっきりしてくる。2本の足と2本の手、岩や土で作られた身体、まるでゴーレムのように見えるがゴーレムは生物ではないため岩や土と言った崩れやすい素材で体を作ることはない。
「ゴーレムではなさそうだな…皆は下がるといい!」
ギルベルトは声を上げながら魔術を行使した。術式が二重で展開され氷塵による槍が生成されると、槍はそのまま巨人に突き刺さる。
「なに…!?」
本来は刺さった部分から凍りついていくはずだったが、巨人は槍の刺さった部分を切り離して再生する。そして、何もなかったかのように巨大な手を振り下ろしてきた。
「全員伏せろ!近衛騎士は王国兵のところまで下がって防御に集中だ」
ギルベルトの指示で騎士たちが下がる。同時に魔術障壁が展開されると、巨大な手と障壁が激突し辺り一体に衝撃が走った。
一撃で障壁が砕けたが攻撃の勢いも止まったため、ギルベルトが魔力弾を放つ。
「元が硬い上に攻撃が通ってもすぐ再生されるか…厄介だな」
どう倒すか考えるが手が思い浮かばない。思いつく限りの手を試そうかと魔力を込めようとしたその時、上空から雷撃が降り注いだ。
「なにっ!?」
誰とも知らない驚きの声が響くと同時に空から人影が降りてくる。雷撃によって土煙が巻き起こっていて誰か判別はできないが、空にあるのはエスペルト王国の飛空船だった。
次第に煙が晴れると人影がはっきりとしてくる。
「人数は多くないけれど援軍を連れてきたわ。まだまだ行けそうかしら?」
土煙から現れたのは、ラティアーナと近衛騎士団だった。
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