王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第7章 女王の戴冠

4 龍穴の暴走

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「どういうこと?龍穴に手を出すなんて正気じゃないわよ!?」

 突然の報告に私は慌てて現状を確認する。ドラコロニア共和国との戦いはエスペルト王国側が優勢で、あと数日で首都を抑えることが出来ると聞いていた。
 しかも、龍穴からは龍脈に流れている膨大な魔力が噴き出すことがある。東の大陸と違ってこの大陸の龍穴は休止中のものがほとんどだが、下手に手を出すと穴が開いて魔力が溢れる可能性があった。

「ドラコロニア共和国には強力な騎士などがいるわけではなくて、魔力を装填することで誰でも使える武装を主軸にしている。それでも装備に手を加えるのはこちらも同じだし、身体強化がある分戦いは有利に進めることができていた。首都へ到達する直前…焦った共和国は休止中の龍穴から魔力を供給して、私たちの軍を一網打尽にしようとしたらしい。」

「それで穴を開いたのはいいけれど、制御できなくて暴走したってこと?あまりにも馬鹿じゃない!?」

 私はあまりの内容に頭を抱えたくなる。自然界には龍穴をはじめとして膨大なエネルギーを持つものも多い。簡単に利用できるくらいなら世界中でとっくの昔に行っているはずだ。

「それはそうだろう。そもそも圧政を敷いていた王族に反旗を翻して共和制に移行するところまでは良かったが、今まで政治を行っていなかった民たちでは国を運営することはできない。結局、大都市に住む人の生活は変わったが集落に住むような人の生活は変わらず、特権を持つ人間が変わっただけだ。しかも突出したカリスマや武力を恐れて、当時革命を主導した人や旗頭となった英雄は秘密裏に処理されているらしい。そのような馬鹿なことをする国がまともなわけがない」

 ギルベルトの言葉からは侮蔑する感情が伝わってくる。ドラコロニア共和国の内部は思ったよりも崩れかけていたようだ。

「イベリスには国境の防衛について話しておくわ。…で、これからどうするつもり?」

「龍穴の暴走は一時的なものだ。溢れた魔力の影響で魔物が活発になるだろうが…共和国の民に被害を出させないためにも私たちで魔物を相手取るしかないだろう」

「今の軍勢で相手どれるのかしら?」

「やりようはあるからこちらは大丈夫だ。だから国境付近に魔物が行った時は済まないが頼む」

「了解よ…うまくいくことを願っているわ」

 私の言葉を最後に通信が切れた。エスペルト王国軍は魔物との戦闘経験もそれなりにある。三千人もいれば長期戦になったとしても魔物の数が多いだけならば問題ないだろう。
 しかし魔力によってどれだけ強力な魔物が現れるかわからないため安心はできない。

「シリウスを呼んでもらえる?」

 私は執務室近くに控えている騎士にお願いすると、この後のことについて考える。
 何もなければギルベルトに任せたままでも大丈夫だが、魔力の暴走によって予測がつかない。それでもできる限り誰も傷つかないように、犠牲にならないように動こうと決めた。

「姫様、お呼びですか?」

「ええ、ギルベルトから連絡があったのだけど龍穴の暴走によって魔物の動きが活発になったらしいわ。わたくしとしてはエスペルト王国軍に犠牲を出したくない…だからわたくし付きの近衛騎士団を派遣しようと思う」

 上に立つものとして、犠牲があることはある程度は許容しなければいけないと思っている。それでも可能な限り犠牲を少なくするために、できる限りのことはしたい。
 私はシリウスに「甘いかしら?」と目を向けると「姫様らしいですね」と笑みを浮かべる。

「かしこまりました。すぐに準備しますので少々お待ちを。昼までには終えますので」

「ありがとう。ドラコロニア共和国までは飛空船を使うからドミニクも呼んでおいて」

 シリウスは再び返事をすると準備のために去って行く。私も待っている間に準備をすることにした。

「リーナ、ギルベルトお兄様の援軍に向かうから準備をお願い」

「かしこまりました。すぐ準備しますので部屋でお待ちください」

 執務室の隣には私用の部屋があって、王宮の私室のような形になっている。文官たちに、マギルス領へドラコロニア共和国であったことを伝えてもらうように指示を出すと部屋を移動する。


 部屋に移動して魔法袋の中を整理しているとリーナがやってくる。リーナの手には新しく作った戦闘用の衣装があった。動きやすさは前と変わらないようにしながらも国章と私個人の印、そして国王の印が刻まれているものだ。

「早速着ることになるとは思わなかったわ」

「そうですね…しばらくはラティアーナ様が女王として、戦いに出るとは思ってませんでしたから」

 リーナと言葉を交わしながらもドレスから着替えていった。着替えが終わって執務室に戻ると、ドミニクが待っていた。

「話は聞いていると思うけど、わたくしと近衛騎士団でギルベルトの応援に向かうわ。ドミニクにはわたくしたちを運ぶための飛空船の手配をしてもらいたいの」

「それは構いませんが…陛下自ら戦場に立たれるのですか?」

 ドミニクは危険ではと視線を向けてくるが、私は問題ないと首を振る。
 私は権力や特権に応じて王侯貴族としての義務を果たさなければならないと考えている。貴族が国を守るために戦うのならば、女王である私は国を守るために戦う人も守るために戦いたいと思っていた。

「エスペルト王国軍をこれ以上派遣することはできないし、女王として安全な場所から指示を出すだけというのもあまり好きではないわ。わたくしの行うことは…昔も今も変わらないの」

「…かしこまりました。鐘1つ分で出発準備を整えます」

 ドミニクも飛空船の出発のために去っていく。あとは必要な準備が完了するのを待つだけとなった。
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