王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第7章 女王の戴冠

3 改革を進めよう

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 翌日、私が考えている事を伝えるために宰相と各大臣、元帥に集まってもらった。
 エスペルト王国では宰相が各大臣を取りまとめや政務を行い、軍や防衛に関しては元帥が全てを統括している。なお農業、商工、財務、法務、技術開発、魔術の6つの省が存在して、それぞれ大臣がいる。

「今日は集まってもらってありがとう。早速だけどわたくしが考えていることを伝えるわ。意見があれば言ってちょうだい」

 文官たちに資料を配ってもらっている間に、皆の顔を窺う。大半の大臣は怪訝そうな顔をしていて、他にも面倒そうにしている雰囲気を感じ取った。

「わたくしが考えていることは大きく分けて3つよ。まず1つ目は農業改革についてだけど、品種改良の効率を上げるために農業ギルドとも協力して欲しいと考えているの」

 私が行いたいことは食料の生産量向上だ。エスペルト王国の食糧事情は可もなく不可もなくと言った感じだった。今の生産量であれば王国の消費量をほぼ賄うことはできている。王国としてや各領地としても備蓄があるため、緊急事態であってもある程度は対応することができるだろう。

「陛下の意図がわかりませんな…現状食糧不足は起きていないですし我々としても常に研究は進めてますぞ?」

 農業大臣は心外だと言う視線を向けてからが、大臣の言ったことはわかっているつもりだ。

「わたくしはエスペルト王国を強大に強固にしていきたいと思っているわ。それこそ、民たちの人数をもう少し増えても良いと考えるくらいには。けれどね…エスペルト王国の領土を広げるつもりはない。広さを変えずに生産量を上げるには、何かしらの策が必要でしょう?」

 農業用の魔術具は出回っているため、少ない人数でも広大な農地を抱えることは可能になっている。生産量を上げるために取れる手段は、耕作地辺りの収穫量を増やすのが無難だと考えていた。

「民たちの人数が増えればそうですが…そこまで急増するとは思えないですな。それにドラコロニア共和国の戦いが終わって属国となれば、食糧生産も更に安定するでしょうし他国から買い付ける手段もあります」

「年々少しずつだけど魔物が増えつつある。この大陸でも魔力濃度が濃くなりつつあるわ。この先有事がいつ起こるかわからない上に、食料を他国に委ねていて供給が止まったらエスペルト王国として詰むのよ?」

 私の言葉に大臣は「それはそうですが…」と言い淀んでいる。押すならばあと一歩だろう。

「わたくしが考えているのは品種改良したものを、試験的に農業ギルドに流して様々な環境下で育ててもらうの。その品種が育つかわからないから農家にとってリスクああるけれど、育つのであれば新しい品種を先に手に入れることができる利益もある。国としても試験結果が分かるのだから損はないと思うけど?」

 王国直属の研究機関はいくつかあって所属する文官たちが日々研究を行っている。農業関係の研究については農業用魔術具の開発や品種の研究、耕地の研究を行っているが、研究所だけでは試験栽培を大規模に行えない。
 その点、試験栽培を農業ギルド経由で複数の農家に委託すれば、試験栽培を大幅に増やせるだろう。

「私としては賛成ですね。研究を行うには、より多くの条件で実験したいところです。研究所ではいくつかの土地や気候を模したものですが、王国中の様々な気候であれば特殊な場合も実験できるかもしれません。」

 技術開発大臣は乗り気のようだった。農業大臣も「それならいいかもしれない…」と呟いているて、掴みとしては上々だろう。

「その方策であれば支出は少ないでしょうし今の予算でできそうですね。食料が多くなれば輸出することもできるでしょうから税収も増えるでしょうな」

「では検討の方お願いね。それから穀物の生産量を上げるために、少しだけ稲を増やしたいわ。年間一定量を相場価格の3割増しで買い取るようにするのはどうかしら?」

 エスペルト王国の中では麦が主流だが稲も生産していた。今は南方の海よりの地域だけだが、面積辺りの収穫量を考えると少し増やしたいところだ。

「…調整が必要だと思いますが、王国としての備蓄分をコメに切り替えれば可能かも知れません」

「ではその件もよろしく。他になにかあるかしら?」

 大臣たちの反応はまちまちだが、概ね好評のようだった。

「なければ次だけれど、飛空船を増産したいのよ。エスペルト王国内であれば魔物と衝突する危険性も少ないし輸送にも使える。いずれはいくつかの主要都市を結べるようにしたいわね」

 魔物の数でいえば地上よりも空のほうが少ない。またエスペルト王国の結界内では飛龍がいることは滅多になく、遭遇したとしても鳥型の魔物くらいだ。
 定期便にはなるが鉄道を通すよりも簡単で安全性が高いだろう。

「飛空船の仕組みは判明しているので船本体を作ることはできますが…魔力炉はどうするのですか?あれは素材や詳細な設計図が判明していないですよ?」

 技術開発大臣は悔しそうにしながらも言葉を告げる。
 魔力炉は現存する数が少なく分解して調査することが難しい。色々な地域の人々が作成しようとしているが、まだ誰も新規作成の目処は立っていないブラックボックスなものであった。

「魔力炉の代わりに魔力を蓄積されて使うわ。魔力供給することが前提なら動かせるわよね?」

「容量次第ですね…ただ鐘数回分がいいところだと思います」

「エスペルト王国内の輸送が主な目的だから大丈夫じゃないかしら?あとは、今みたいに重力制御や風操作による操縦じゃなくて、魔力を加速にだけ使って魔力消費を抑えたいけれど…」

「翼による飛行も理論は確立できているので可能だと思いますね…小型化と形は既存の船とは変わりますが、研究のしがいがありそうです」

「消費魔力を抑える研究は魔術省も協力できると思います。用途を特化させるのであれば、より消費を抑えることができるかも知れないですね」

 この提案も感触が良さそうだった。そして最後の提案だが

「ではこれもお願いするとして…最後は銀行を改革したいのよね。現状、預金業務が主で貸付はほとんどされてないと思っているわ。そこでね、個人じゃなくて商会などの団体が債券を発行して民たちが買う仕組みを作りたいのよ。」

 頭の中で思い浮かべているのは社債や株式だった。お店などがお金を調達する際に銀行から借りるのではなく、民から調達する。社債であれば一定の期間で償還し株式であれば一定間隔で利益を還元する。
 基本的には長期で持つことを前提とした証券の仕組みを取り入れたかった。

「現状だと銀行はお金を預けるだけでしたが…うまくいけば循環させることが出来るかもしれないですね」

「法の整備も必要でしょうが、検討の余地はあるかと」

 財務大臣と法務大臣が乗り気になったところで「調整の方、よろしくね」と伝える。
 もう少し細かいところを打ち合わせて会議は解散となった。



 私が考えていたことは大臣や文官に任せてから数日後、ギルベルトから通信が入る。

「ラティアーナ緊急事態だ!ドラコロニア共和国は龍穴に手を加えた。魔力暴走によって魔物が溢れ出す可能性がある!」

 ギルベルトの方で問題が起きたようだった。
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