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第7章 女王の戴冠
2 女王として
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ドラコロニア共和国との戦いのためにギルベルトは朝のうちにマギルス公爵領へ出発した。王国軍3000人と共に飛空船で向かったため昼過ぎには着くだろう。
基本的にはギルベルトに任せるため、適宜報告などは受けるつもりだが私が直接動くことはしばらくないと考えている。
そして国王としての通常の1日が始まる。日中は玉座の間の隣にある執務室にいることが多くなる。文官たちや大臣もたまにやってくるが、話があるときは面会予約を行うことが慣例ななるため普段は書類を置きに来るくらいだ。
書類仕事を行うのは今日が初だったため、ギルベルトに説明して貰った。
「書類については大体覚えたわ。それにしても…国王の仕事ってあまりないのね?」
「通常の業務であれば各大臣と文官たちで回りますからな。陛下の許可が必要なこともあるので、書類などを確認していただくことはありますが、それくらいです」
もっとも通常の業務を一々王自ら携わっていては時間がいくらあっても足りないだろうし、内政が滞ってしまうだろう。
私としても普段から行っている内容は、承認をするだけにとどめたいのでありがたかった。
「もちろん改善したいところを言っていただければ皆動きますし、新しい事をやりたいのであれば皆を動かせば良いと思います」
「ニコラウスはあまりわたくしと親しくなかったわよね?宰相としては、今まで国政に携わっていなかったわたくしに、大人しくしていて欲しいとか思わないの?」
私はふと気になって、単刀直入に聞いてみる。私の言葉にニコラウスは笑い出して目線で抗議すると「申し訳ございません」と言ってから話を続ける。
「陛下が遠回しな言い方をしないので私もそうさせて頂きますが、王として貴族として世間知らずな方でしたら思うでしょう。しかし陛下は今までの立ち回りがとても器用でした。派閥にならない程度で重要な貴族たちの縁を繋いでいて、グラビス様からの仕事も想定以上の成果を上げられています。それに政治をうまく回せない方でしたらノスタルジア王国やノーランド王国との交渉も破談するでしょうな」
ニコラウスの言葉に私が今までやってきた事が無駄ではなかったと、認められている事を知って少しだけ安堵した。
「今この場に他の人は誰もいないので少し踏み込みますが、陛下が目指す王国はどういった王国ですか?」
私が目指す王国と聞かれて思案する。明確な答えは思いつかないが、一つの理想が浮かんだ。
それは私が強くなろうと思ったきっかけで
「王国をどうしたいかすぐには思いつかないけれど…わたくしの理想は大切な人が理不尽に失われないことかも知れないわね。幸せは人それぞれだから王国としてどうこうしたいできると思っていないけれど、この世界の理不尽な力からは守りたいと思う」
この世界の色々な場所を歩いていて、魔物や環境といった身近なところに危険が溢れていると感じた。でもせめて、王国の中くらいは誰もが安心できるように、大切な人を理不尽な危険で失わないように、そのような場所にしたいと思う。
「いいのではありませんか?これは私の持論ですが、王は理想を目指したほうがいいと思っています。王が理想を掲げて私たちが理想を現実に落とし込む。宰相としての腕の見せ所ですな」
ニコラウスはそう告げると書類を受け取って戻っていった。
私は溜まっていた書類の決裁を済ませると、閉架書庫に向かう。閉架書庫の中はそれなりに広くて、歴代王の日記や魔術書、資料などがたくさんおいてあった。
「これはっ!?」
今読んでいたのは歴代王の日記だった。パラパラと流し読みしていると王個人の日記のようで、あまり知られていないことも書かれている。その中には度々、前世の記憶の残滓を思い出したとの記述があった。どうやら昔に遡るほど前世を思い出している割合が高くなるようだ。
「初代国王も前世の記憶持ちだったなんて…」
初代国王はどうやらその知識から製紙技術を進めたらしい。同時に木簡や竹簡、布や羊皮紙が主流だったところに麻や樹皮を使った植物紙を広めたようだ。閉架車庫をはじめ王城の図書館も植物紙を使った本がほとんどだった。エスペルト王国の創立時から本がある理由も納得できた。
また、いくつかの日記を読んでいると前世に関する共通点が見えてきた。まず幼い頃に巨大な魔力を行使するときに思い出していることが多いようだ。
「前の仮説の続きになるけれど、魂が巡っているとしてその中に記憶があるとする。生まれた時点では不完全な記憶があって成長と共に薄れていく、もしくは上書きされていく、そのような感じかしらね」
しばらく日記を読んだ後、再び執務室で書類の整理をしていると文官たちが尋ねてきた。
「ラティアーナ陛下…ノスタルジア王国のリーガス国王陛下およびノーランド王国のカインド国王陛下より通信が入りました。都合がつくときに話がしたいとのことでしたが、いかがなさいますか?」
ノスタルジア王国とノーランド王国には、今朝のうちに文官たちへ私が女王に即位したことは伝えるように指示を出してあった。返答があるとは思っていたが当日中に連絡が来るのは想定よりも早い。
「すぐ向かうわ」
文官たちに伝えるとすぐに向かう。通信室へ向かうと文官たちが対応しているところだった。
「リーガス国王陛下並びにカインド国王陛下お待たせしました。お久しぶりですね」
「ラティアーナ女王陛下。貴方が女王に即位したと聞いて驚きましたぞ。御即位おめでとうございます」
「ラティアーナ女王陛下、御即位おめでとうございます」
リーガスとカインドの言葉に笑みを浮かべると「ありがとう存じます」と返す。
「私たちが本日通信を行なったのはラティアーナ女王陛下への挨拶のためです。今後とも良い関係を築けるようお願いします」
「ええ、こちらこそ。ノスタルジア王国及びノーランド王国とは今後も末永く良い関係を築ける事を願ってますわ」
それから簡単に言葉を交わして通信を切った。本当に挨拶が目的だったようだが、両国とは友好な関係を築いていく事を再確認できた。
その後は再び執務室に戻り、書類を片付けていく。
更に今後の政策についても考えることにした。私としては革命によって生じた混乱を立て直すこの機会に、いくつかの大きな変革を推し進めるつもりでいる。
私は案をある程度まとめると明日にでも大臣に話をつけようと思い文官たちに伝達を頼むのだった。
基本的にはギルベルトに任せるため、適宜報告などは受けるつもりだが私が直接動くことはしばらくないと考えている。
そして国王としての通常の1日が始まる。日中は玉座の間の隣にある執務室にいることが多くなる。文官たちや大臣もたまにやってくるが、話があるときは面会予約を行うことが慣例ななるため普段は書類を置きに来るくらいだ。
書類仕事を行うのは今日が初だったため、ギルベルトに説明して貰った。
「書類については大体覚えたわ。それにしても…国王の仕事ってあまりないのね?」
「通常の業務であれば各大臣と文官たちで回りますからな。陛下の許可が必要なこともあるので、書類などを確認していただくことはありますが、それくらいです」
もっとも通常の業務を一々王自ら携わっていては時間がいくらあっても足りないだろうし、内政が滞ってしまうだろう。
私としても普段から行っている内容は、承認をするだけにとどめたいのでありがたかった。
「もちろん改善したいところを言っていただければ皆動きますし、新しい事をやりたいのであれば皆を動かせば良いと思います」
「ニコラウスはあまりわたくしと親しくなかったわよね?宰相としては、今まで国政に携わっていなかったわたくしに、大人しくしていて欲しいとか思わないの?」
私はふと気になって、単刀直入に聞いてみる。私の言葉にニコラウスは笑い出して目線で抗議すると「申し訳ございません」と言ってから話を続ける。
「陛下が遠回しな言い方をしないので私もそうさせて頂きますが、王として貴族として世間知らずな方でしたら思うでしょう。しかし陛下は今までの立ち回りがとても器用でした。派閥にならない程度で重要な貴族たちの縁を繋いでいて、グラビス様からの仕事も想定以上の成果を上げられています。それに政治をうまく回せない方でしたらノスタルジア王国やノーランド王国との交渉も破談するでしょうな」
ニコラウスの言葉に私が今までやってきた事が無駄ではなかったと、認められている事を知って少しだけ安堵した。
「今この場に他の人は誰もいないので少し踏み込みますが、陛下が目指す王国はどういった王国ですか?」
私が目指す王国と聞かれて思案する。明確な答えは思いつかないが、一つの理想が浮かんだ。
それは私が強くなろうと思ったきっかけで
「王国をどうしたいかすぐには思いつかないけれど…わたくしの理想は大切な人が理不尽に失われないことかも知れないわね。幸せは人それぞれだから王国としてどうこうしたいできると思っていないけれど、この世界の理不尽な力からは守りたいと思う」
この世界の色々な場所を歩いていて、魔物や環境といった身近なところに危険が溢れていると感じた。でもせめて、王国の中くらいは誰もが安心できるように、大切な人を理不尽な危険で失わないように、そのような場所にしたいと思う。
「いいのではありませんか?これは私の持論ですが、王は理想を目指したほうがいいと思っています。王が理想を掲げて私たちが理想を現実に落とし込む。宰相としての腕の見せ所ですな」
ニコラウスはそう告げると書類を受け取って戻っていった。
私は溜まっていた書類の決裁を済ませると、閉架書庫に向かう。閉架書庫の中はそれなりに広くて、歴代王の日記や魔術書、資料などがたくさんおいてあった。
「これはっ!?」
今読んでいたのは歴代王の日記だった。パラパラと流し読みしていると王個人の日記のようで、あまり知られていないことも書かれている。その中には度々、前世の記憶の残滓を思い出したとの記述があった。どうやら昔に遡るほど前世を思い出している割合が高くなるようだ。
「初代国王も前世の記憶持ちだったなんて…」
初代国王はどうやらその知識から製紙技術を進めたらしい。同時に木簡や竹簡、布や羊皮紙が主流だったところに麻や樹皮を使った植物紙を広めたようだ。閉架車庫をはじめ王城の図書館も植物紙を使った本がほとんどだった。エスペルト王国の創立時から本がある理由も納得できた。
また、いくつかの日記を読んでいると前世に関する共通点が見えてきた。まず幼い頃に巨大な魔力を行使するときに思い出していることが多いようだ。
「前の仮説の続きになるけれど、魂が巡っているとしてその中に記憶があるとする。生まれた時点では不完全な記憶があって成長と共に薄れていく、もしくは上書きされていく、そのような感じかしらね」
しばらく日記を読んだ後、再び執務室で書類の整理をしていると文官たちが尋ねてきた。
「ラティアーナ陛下…ノスタルジア王国のリーガス国王陛下およびノーランド王国のカインド国王陛下より通信が入りました。都合がつくときに話がしたいとのことでしたが、いかがなさいますか?」
ノスタルジア王国とノーランド王国には、今朝のうちに文官たちへ私が女王に即位したことは伝えるように指示を出してあった。返答があるとは思っていたが当日中に連絡が来るのは想定よりも早い。
「すぐ向かうわ」
文官たちに伝えるとすぐに向かう。通信室へ向かうと文官たちが対応しているところだった。
「リーガス国王陛下並びにカインド国王陛下お待たせしました。お久しぶりですね」
「ラティアーナ女王陛下。貴方が女王に即位したと聞いて驚きましたぞ。御即位おめでとうございます」
「ラティアーナ女王陛下、御即位おめでとうございます」
リーガスとカインドの言葉に笑みを浮かべると「ありがとう存じます」と返す。
「私たちが本日通信を行なったのはラティアーナ女王陛下への挨拶のためです。今後とも良い関係を築けるようお願いします」
「ええ、こちらこそ。ノスタルジア王国及びノーランド王国とは今後も末永く良い関係を築ける事を願ってますわ」
それから簡単に言葉を交わして通信を切った。本当に挨拶が目的だったようだが、両国とは友好な関係を築いていく事を再確認できた。
その後は再び執務室に戻り、書類を片付けていく。
更に今後の政策についても考えることにした。私としては革命によって生じた混乱を立て直すこの機会に、いくつかの大きな変革を推し進めるつもりでいる。
私は案をある程度まとめると明日にでも大臣に話をつけようと思い文官たちに伝達を頼むのだった。
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