140 / 475
第6章 エスペルト王国の革命
12 海上からの遠距離斉射
しおりを挟む*
──ある日。ユキマサの父、稗月木枯はパチスロへと足を運んでいた。
(雨だ……今日はパチスロ日和だな)
さて、何を打つか……
(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)
顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。
抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。
(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)
木枯は決意を固める。
そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。
「おいおい、マジか!?」
引いた木枯自身が驚く。
結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。
ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。
家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。
「──あぶく銭です」
稗月家にはこんな家訓がある。
〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟
この家訓の為の吹雪の対応である。
「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」
ニッコリと吹雪が笑う。
「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」
その場にぐったりと木枯は膝を吐く。
その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。
*
「夏祭り?」
理沙が口を開く。
「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」
俺は楽しげに理沙に言う。
「で、でも……」
チラりと母さんを理沙が見る。
「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」
「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」
まあ、ということで、その夜──
「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」
「うん、来たこと無い」
「まじかよ」
「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」
と、理沙に母さんが5000円を渡す。
「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」
100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。
「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」
「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名が廃る」
「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」
ガシッと、腕を絡ます俺と親父。
「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」
*
「たこ焼き1つ」
「焼きそば1つ」
「りんご飴1つ」
そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。
「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」
いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。
「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」
と、現れたのは理沙だ。
だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。
「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」
「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」
「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」
「あ、うん、こっち」
理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。
と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!
大きな花火が打ち上がる。
「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」
感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。
「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」
俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。
「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」
「な、花火の下で、かき氷だと……!?」
最高に決まってる。
く、馬鹿は俺だ。
「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」
でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。
「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」
かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。
「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」
サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。
「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」
かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。
「ん? 目に止まった物、全てだが?」
然も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。
花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。
「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」
母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。
「おい、木枯、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」
「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」
親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。
ヒュ~ン、ドッカーン!
花火が打ち上がる。
「どうした理沙?」
ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。
「うん、綺麗だなって!」
花火に負けない明るい笑顔だ。
「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」
婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。
「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」
笑みを溢す、理沙。
──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
6
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。
イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる