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第6章 エスペルト王国の革命
8 エスペルト王国の現状と方針
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都市の門番に私たちが来たことを伝えてもらうと、そのまま領城へ案内された。
「ここからは自分で歩きますわ。お姉様ありがとうございました。」
「わかったわ。無理だけはしないでね。」
ローザリンデも2日くらい前には熱が完全に下がり体調もほぼ回復しているが念のため休ませていた。背中から下ろすと5人で歩いて向かった。
門から城に行くまでの間に街の様子を眺める。全体的に緊張感が高まっているように感じるが、不安や恐怖といった表情は見えなかったので少し安心する。
城の応接間に案内されて少し待っていると叔母とイリーナがやってきた。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。ローザリンデ様とリーファス様はこうして話すのは初めてですね。はじめまして、イベリス・マギルスと申します。」
「はじめまして、わたくしローザリンデと申します。よろしくお願いしますわ、イベリス様。」
「こちらこそはじめまして、イベリス様。」
ローザリンデとリーファスは顔を合わせたことはあるが直接話したことはなかったらしく挨拶をしていた。
それからイリーナとも挨拶を交わすと早速本題に入る。
「皆様は現状をどこまで把握していますか?」
「あまり詳しくは知らないわ。革命が起こった後、王都からここまで逃げてくるので精一杯だったから…あまり情報収集はできていないのよね。だから大まかにだけど、ディードリヒが新王に立ってお父様やギルベルトお兄様がついたことと、レティシア様とガイアスお兄様は自身の派閥が多い北の領地をいることくらいね。」
私の言葉に叔母は「そうね。大体のところはその通りだわ。」と首肯した。
「大半の家は仕方なくディートリヒについているでしょうね。そして明確に反対しているところがレティシア様たちについているわ。けれど…北側の領地で有力な家が少ないから、行動を起こせないし下手に手を打つと帝国から干渉される隙を作ってしまう。だからこそディートリヒもレティシア様も動けないでいる。」
叔母の言葉はもっともだろう。お父様が恭順を示していなければ、王妃や第1王子という立場での反抗は正当性があった。
しかし現状では正当性がないため元々支持していた派閥以外からの協力を得ることが難しい。
その上領主にとっては、領地を守ることが最優先なため勝ち目のない反抗はしないだろう。
「そうでしょうね…今回の革命は相手側が一枚上手だった。それに長い間計画していたのでしょうね。」
「それでラティアーナはどうするのかしら?」
叔母の目線が私を捉える。言葉にしてはいないものの、「ここまで来たのだから考えがあるのでしょう?」という心の声が聞こえてくる気がした。
「簡単に言えば…革命を起こすつもりよ。新王のディートリヒは王族の血をひいてはいない。それに証拠こそないもののドラコロニア共和国と繋がっている可能性が高い以上、外患誘致に値するわ。こちらに正当性はあると言って問題ないでしょう?」
私の考えに同行していた皆は薄々気付いていたらしく特に意見も上がらなかった。
「確かに正当性はあるわね…あとはどれだけの貴族から助力を得られるかによってだろうけど。」
叔母の指摘に私は微笑み返すと言葉を続ける。
「前に…困ったときに助けてくれるというのは、今の有効だと思っていいのよね?」
「そうね。成功する可能性があるのなら助力するわ。」
2人して微笑みあっているとテレシアとブルーノが目をそらしていた。リーファスとローザリンデも異論はないようで静かに見守っている。
「革命といっても具体的にどうするつもり?半数以上味方につけないと勝てる見込みが少ないうえに、成功した後で王国が分裂しかねないわよ?それに共和国が絡んでるのであれば放置もできないわよね?」
今まで静かに聞いていたイリーナが問いかけてきた。
「大体の貴族は中立よ。有力な貴族のいくつかが立って勝てる見込みがあると思えば、自然と味方が増えるわ。特に…公爵家が味方につけば影響は大きいでしょうね。」
中立ということはある意味、勝ちが見込める側に流れやすいということになる。王族である私が声を上げてディートリヒに勝てると思わせることさえできれば靡くだろう。
そして公爵家は他の貴族に与える影響が大きい。古参の家であればあるほど、公爵家の意味を理解しているだろう。
「マギルス公爵家がついたとしても…グラディウス公爵家とスエンティア公爵家は新王についたままでしょう。あとは……ノーティア公爵家が味方についてくれればいいけれど。」
叔母の言うことはもっともだった。
グラディウス公爵家当主のドミニクは元帥を、スエンティア公爵家当主のケルブムも宰相をそれぞれ務めている。
彼らは国を守るために王に仕える選択をする。となると残りはノーティア公爵家…王国の目であり諜報を担う家の当主クラウスだ。
「クラウス様とは挨拶しかしたことないのよね。ブラッドとは関わりがあるけど弱いでしょうし…公爵家の理念を信じるしかないわね。」
私が確証はないが信じてみようと言うと叔母が「あなたらしいと言うか…そういうところがティアラに似ているわね。」と笑われた。
イリーナも「普段から考えて行動しているのに、大事な場面は割と身を任せるわよね。」と呆れた表情をしていた。
「わたくしは王国の貴族を信じたいもの。今更言葉を重ねただけで、考えが変わる人なら信頼できないわ。だから事前に協力をお願いするつもりはない…事を起こす直前に、王国内の全都市に向けての一斉放映で表明する…その言葉と、それからの行動を持って示す。」
「ラティアーナが覚悟できているならいいわ。となると…もう少し細かい打ち合わせがしたいところだけど、皆も疲れているでしょうし明日にしましょう?」
話のキリがいいところで叔母が切り出した。外を見ると日が傾きつつあるし、細かい話になると時間を要することになる。
私は「その方が良さそうね。」と呟くと、叔母の合図で侍女や執事がやってきて本邸の客室に案内してくれた。
今日は皆疲れているということで、食事の後は各自の客室で休むことになる。
私は一足先に浴場を借りて湯浴みをしていた。部屋に戻る時、侍女に案内されているローザリンデとすれ違う。
「っお姉様!」
少し迷いを感じる声で呼ばれたため「どうしたの?」と振り返る。
ローザリンデは、少し言いにくそうにしながらも意を決したようで口を開く。
「全てが片付いた時、お父様と…お母様はどうなりますか?」
「どうって…隠居するんじゃない?別に今回の革命には関わっていないのだから、お父様とレティシア様に何かあるわけでもないわよ?」
私の言葉に、そういうことではないと首を振った。
「お母様は…お姉様に危害を加えてますよね?今までの慣例だと…お母様は罪に問われるのではないですか?」
ローザリンデが恐らく1番気にしている事を聞いてきた。私としてはレティシアから危害を加えられた可能性は、限りなく黒に近いと思っているが証拠はない。
そもそも貴族社会は割とバレなければ問題なしみたいな風潮が強かったりする。
「証拠もないから罪には問うつもりはないわ。それにあなたにとっては大切な母親…家族でしょう?そのままでいいんじゃないかしら?」
「そう…ですね。お姉様にとっては他人どころか敵にさえなると思いますけど、わたくしにとっては…大切なお母様です。」
私の言葉に複雑そうな表情をしている。もしかしたら私に対する罪悪感と母親とまた会える安心感に挟まれているのかも知れない。
きっと私がどんな言葉をかけたとしても、ローザリンデは納得できないだろう。だから最後に本心を伝えることにした。
「わたくしもうまく言葉にはできないけれど…家族と会えるうちは会っておいた方がいいわよ?会えなくなってから思い馳せても…きっと後悔すると思う。」
それだけ伝えると振り返らずに手を振って、そのまま去ることにした。
「ここからは自分で歩きますわ。お姉様ありがとうございました。」
「わかったわ。無理だけはしないでね。」
ローザリンデも2日くらい前には熱が完全に下がり体調もほぼ回復しているが念のため休ませていた。背中から下ろすと5人で歩いて向かった。
門から城に行くまでの間に街の様子を眺める。全体的に緊張感が高まっているように感じるが、不安や恐怖といった表情は見えなかったので少し安心する。
城の応接間に案内されて少し待っていると叔母とイリーナがやってきた。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。ローザリンデ様とリーファス様はこうして話すのは初めてですね。はじめまして、イベリス・マギルスと申します。」
「はじめまして、わたくしローザリンデと申します。よろしくお願いしますわ、イベリス様。」
「こちらこそはじめまして、イベリス様。」
ローザリンデとリーファスは顔を合わせたことはあるが直接話したことはなかったらしく挨拶をしていた。
それからイリーナとも挨拶を交わすと早速本題に入る。
「皆様は現状をどこまで把握していますか?」
「あまり詳しくは知らないわ。革命が起こった後、王都からここまで逃げてくるので精一杯だったから…あまり情報収集はできていないのよね。だから大まかにだけど、ディードリヒが新王に立ってお父様やギルベルトお兄様がついたことと、レティシア様とガイアスお兄様は自身の派閥が多い北の領地をいることくらいね。」
私の言葉に叔母は「そうね。大体のところはその通りだわ。」と首肯した。
「大半の家は仕方なくディートリヒについているでしょうね。そして明確に反対しているところがレティシア様たちについているわ。けれど…北側の領地で有力な家が少ないから、行動を起こせないし下手に手を打つと帝国から干渉される隙を作ってしまう。だからこそディートリヒもレティシア様も動けないでいる。」
叔母の言葉はもっともだろう。お父様が恭順を示していなければ、王妃や第1王子という立場での反抗は正当性があった。
しかし現状では正当性がないため元々支持していた派閥以外からの協力を得ることが難しい。
その上領主にとっては、領地を守ることが最優先なため勝ち目のない反抗はしないだろう。
「そうでしょうね…今回の革命は相手側が一枚上手だった。それに長い間計画していたのでしょうね。」
「それでラティアーナはどうするのかしら?」
叔母の目線が私を捉える。言葉にしてはいないものの、「ここまで来たのだから考えがあるのでしょう?」という心の声が聞こえてくる気がした。
「簡単に言えば…革命を起こすつもりよ。新王のディートリヒは王族の血をひいてはいない。それに証拠こそないもののドラコロニア共和国と繋がっている可能性が高い以上、外患誘致に値するわ。こちらに正当性はあると言って問題ないでしょう?」
私の考えに同行していた皆は薄々気付いていたらしく特に意見も上がらなかった。
「確かに正当性はあるわね…あとはどれだけの貴族から助力を得られるかによってだろうけど。」
叔母の指摘に私は微笑み返すと言葉を続ける。
「前に…困ったときに助けてくれるというのは、今の有効だと思っていいのよね?」
「そうね。成功する可能性があるのなら助力するわ。」
2人して微笑みあっているとテレシアとブルーノが目をそらしていた。リーファスとローザリンデも異論はないようで静かに見守っている。
「革命といっても具体的にどうするつもり?半数以上味方につけないと勝てる見込みが少ないうえに、成功した後で王国が分裂しかねないわよ?それに共和国が絡んでるのであれば放置もできないわよね?」
今まで静かに聞いていたイリーナが問いかけてきた。
「大体の貴族は中立よ。有力な貴族のいくつかが立って勝てる見込みがあると思えば、自然と味方が増えるわ。特に…公爵家が味方につけば影響は大きいでしょうね。」
中立ということはある意味、勝ちが見込める側に流れやすいということになる。王族である私が声を上げてディートリヒに勝てると思わせることさえできれば靡くだろう。
そして公爵家は他の貴族に与える影響が大きい。古参の家であればあるほど、公爵家の意味を理解しているだろう。
「マギルス公爵家がついたとしても…グラディウス公爵家とスエンティア公爵家は新王についたままでしょう。あとは……ノーティア公爵家が味方についてくれればいいけれど。」
叔母の言うことはもっともだった。
グラディウス公爵家当主のドミニクは元帥を、スエンティア公爵家当主のケルブムも宰相をそれぞれ務めている。
彼らは国を守るために王に仕える選択をする。となると残りはノーティア公爵家…王国の目であり諜報を担う家の当主クラウスだ。
「クラウス様とは挨拶しかしたことないのよね。ブラッドとは関わりがあるけど弱いでしょうし…公爵家の理念を信じるしかないわね。」
私が確証はないが信じてみようと言うと叔母が「あなたらしいと言うか…そういうところがティアラに似ているわね。」と笑われた。
イリーナも「普段から考えて行動しているのに、大事な場面は割と身を任せるわよね。」と呆れた表情をしていた。
「わたくしは王国の貴族を信じたいもの。今更言葉を重ねただけで、考えが変わる人なら信頼できないわ。だから事前に協力をお願いするつもりはない…事を起こす直前に、王国内の全都市に向けての一斉放映で表明する…その言葉と、それからの行動を持って示す。」
「ラティアーナが覚悟できているならいいわ。となると…もう少し細かい打ち合わせがしたいところだけど、皆も疲れているでしょうし明日にしましょう?」
話のキリがいいところで叔母が切り出した。外を見ると日が傾きつつあるし、細かい話になると時間を要することになる。
私は「その方が良さそうね。」と呟くと、叔母の合図で侍女や執事がやってきて本邸の客室に案内してくれた。
今日は皆疲れているということで、食事の後は各自の客室で休むことになる。
私は一足先に浴場を借りて湯浴みをしていた。部屋に戻る時、侍女に案内されているローザリンデとすれ違う。
「っお姉様!」
少し迷いを感じる声で呼ばれたため「どうしたの?」と振り返る。
ローザリンデは、少し言いにくそうにしながらも意を決したようで口を開く。
「全てが片付いた時、お父様と…お母様はどうなりますか?」
「どうって…隠居するんじゃない?別に今回の革命には関わっていないのだから、お父様とレティシア様に何かあるわけでもないわよ?」
私の言葉に、そういうことではないと首を振った。
「お母様は…お姉様に危害を加えてますよね?今までの慣例だと…お母様は罪に問われるのではないですか?」
ローザリンデが恐らく1番気にしている事を聞いてきた。私としてはレティシアから危害を加えられた可能性は、限りなく黒に近いと思っているが証拠はない。
そもそも貴族社会は割とバレなければ問題なしみたいな風潮が強かったりする。
「証拠もないから罪には問うつもりはないわ。それにあなたにとっては大切な母親…家族でしょう?そのままでいいんじゃないかしら?」
「そう…ですね。お姉様にとっては他人どころか敵にさえなると思いますけど、わたくしにとっては…大切なお母様です。」
私の言葉に複雑そうな表情をしている。もしかしたら私に対する罪悪感と母親とまた会える安心感に挟まれているのかも知れない。
きっと私がどんな言葉をかけたとしても、ローザリンデは納得できないだろう。だから最後に本心を伝えることにした。
「わたくしもうまく言葉にはできないけれど…家族と会えるうちは会っておいた方がいいわよ?会えなくなってから思い馳せても…きっと後悔すると思う。」
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