王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第6章 エスペルト王国の革命

5 ローザリンデの体調不良

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 ローザリンデを座らせると魔術を行使して服を乾かして、私が来ていた上着を羽織らせる。今できることは少ないが、少しでも身体が冷えないように心がけた。

「それではラティアーナ王女殿下が寒いでしょう。わたくしの上着を…」

 テレシアが私に気を使ってくれているが、大丈夫だと笑顔で返す。寒いをいっても凍りつくほど寒いわけではないため、気合でなんとかなるだろう。

「わたくしは問題ないわ。それに騎士用の服はそれなりの重さになるから…こちらのほうが多少は楽になるでしょう。」

 騎士たちが来ている服は、金属と混ぜ合わせて作られる強化糸が使われているため、防刃性能などが高い分重みがある。それに対して、私の戦闘用の服には魔術的防御のみで服自体は普通の物と変わらない。

「ローザリンデ様は恐らく風邪と疲労だと思いますが…これ以上歩いていただく訳には行きません。かといってこのままにしておくのも…」

 ブルーノが心配そうにローザリンデのことを見ている。意識ははっきりしているが呼吸は荒く辛そうにしているのが見て取れた。
 ローザリンデの隣では、リーファスが心配そうに「姉上…」と見守っている。

「天気はこれからもっと荒れるでしょうから最低限、雨風が凌ぐことができる場所までは行かないと…わたくしが背負うから大丈夫よ。ブルーノとテレシアはこれまで通り周囲の警戒と護衛をお願いね。」

 私の言葉に2人が了承した。私はなるべく揺らさないようにローザリンデのことを背負うと「行きましょう。」と告げて歩き出す。

「リーファスも疲れたり辛かったりしたときは、遠慮なく言っていいわよ。もう1人くらい抱きかかえるだけなら大丈夫だから。」

「私は大丈夫ですからローザリンデ姉上のことお願いします。それから…ラティアーナ姉上も無理はしないでください。」

 心配そうに見上げてくるリーファスの頭をなでながら「ありがとう。」と呟く。
 そうして私たちは、再び歩き出すのだった。



 普段であれば月が見え始める頃、ようやく洞窟を見つけることができた。
 ブルーノが洞窟の中の安全確認を行い、魔物などがいないことを確認すると入り口近くにテントを設営する。
 他のことをブルーノとテレシアに任せると、私たちはテントの中に入る。

「おやすみなさい。ローザリンデ姉上もお大事に…」

 リーファスを寝床に連れて行くと私も「おやすみ」と告げた。背負っているローザリンデにも聞こえていたようで、小声で「おやすみなさい」と呟いている。

 それからローザリンデの寝床に連れて行って、横に寝かせた後にできる限りの看病をすることにした。
 手持ちの布に魔術で作ったお湯を湿らせて、汗をかいた身体を拭いていく。魔術による洗浄は、他人が行うにはかなり難しいため今回は行わない。

「気分はどう?」

「大丈夫です…」

 口ではそう言っているものの息遣いが大分荒く、額に触れると朝よりも熱が上がっているのを感じた。
 魔術で冷たい水を作って布に湿らせて額に乗せると、少し楽に感じたのか限界が近かったのか眠りに付いたようだった。
 私は喉が渇いた時用に器に水を入れて、気休め程度になるが回復魔術をかけた後、テントの外に出た。

「お2人の様子はいかがでしたか?」

「2人ともすぐ眠りについたわ…ただ、ローザリンデの体調は朝よりも悪くなっているのよね。」

 極力、揺らさないように背負っていたし雨や冷たい風に晒されないように気をつけていたが、落ち着いて休むことができないと回復は厳しいだろう。
 テレシアとブルーノも「そうですか…」と悔しそうな表情をしている。

「できれば薬を買いに街まで行きたいけれど…状況的に少しまずいのよね。」

「視たのですか?」

 テレシアの問いに首肯した。王鍵に接続すると他の王鍵保持者で上位権限をもつ者…例えばお父様には、こちらの位置が露見してしまう。
 しかし位置を辿るには、王鍵接続中に追跡する必要があるようで、一瞬だけ視ることでリスクを回避していた。敵の詳細までは見ることはできないが、おおよその位置は確認できている。

「近くに王国軍と違う装備の部隊がいくつかいるのよね。国章をつけているからエスペルト王国所属のようだけど…」

「となると…やはり革命の主導者側には南方の国が?」

「確証はないけどね…」

 私たち3人は、お互いにため息をつくのだった。

「とはいえ立ち止まる選択肢はないわ。もう少しすれば最低でも中立、うまくいけばわたくしについてくれる領地がいくつかある。ローザリンデはもちろんリーファスだって限界だわ。行くしかないでしょう?」

「それはそうですが…正直なところ戦闘になると厳しいです。我々2人で守り切れるかどうか。」

 ルークスは悔しそうに拳を握りしめている。テレシアも俯いているが、私は明るい声で口を開いた。

「打開策ならあるわ。この辺りにある敵の位置と拠点にしている街はわかっている。であれば…わたくしが挨拶してくるわ。それに、ローザリンデのためにも薬が欲しいでしょう?」

 私の言葉に2人が目を丸くしている。

「ですが、それではラティアーナ王女殿下が危険すぎます!その役目はわたくしが引き受けますから。考え直していただけませんか?」

 テレシアが必死に懇願してくるが、この役割は相手が探し求めている王族の生き残りだからこそだった。騎士では囮だと思われてしまうだろう。

「テレシアはローザリンデが、ブルーノはリーファスがそれぞれ仕える主でしょう。近衛騎士は主となる王族個人に仕えるのだから。それに負けるつもりも捕まるつもりもないわ。だからわたくしを信じて…」

 そこまで言うと2人は跪いて「かしこまりました。騎士の名にかけて主をお守りいたします。」と答えてくれた。

 それから少し話すと寝ることにする。出発は明日の早朝にするつもりだ。

「最後にこれを渡しておくわ。」

「これは…かしこまりました。肌身離さず持っています。」

 私はブルーノに小さい球状のような魔術具を渡した。これは2つ1組になっていて魔力を込めて離すと、片割れのある方向を示してくれるものだ。
 これがあれば、たとえ離れた後でも合流しやすいだろう。



 翌日の早朝、まだ寝ているローザリンデとリーファスの頭を軽く撫でて心の中で呟く。

(少し出かけてくるわね。行ってきます…)

 もう1度、顔を眺めてからテントを出るとブルーノとテレシアが待っていた。

「ブルーノはまだ寝ていても良かったのよ?」

 ブルーノは昨日の夜の最初の寝ずの番だったため、今はまだテレシアが番をする時間だ。けれど「お見送りをさせてください。」と笑みを浮かべている。

「では行ってくるわ。相手を撹乱して薬を手に入れて帰ってくるから…2人のことは任せるから!」

「「お二人のことは必ず守りますから…行ってらっしゃいませ。」」

 お互いに騎士が行う挨拶のような礼をしてから、私はもう1度「行ってきます。」と告げて、歩き出した。
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