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第6章 エスペルト王国の革命
4 雨の中の逃避行
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王都から脱出して5日。マギルス領への道のりは半分を過ぎた。
普段であれば日が登り始める早朝、3人を起こさないようにテントの外に出るとブルーノが見張り番をしていた。
「おはようございます、ラティアーナ王女殿下。今朝も早いですね。」
「おはようブルーノ。今日は…荒れそうね。」
私は空を見上げながら呟く。今日の空は黒っぽい雲が見えていた。そのうち、雨が降りそうな空だった。
「ローザリンデ様もリーファス様もここ数日の疲れが取れてなさそうです。ただでさえ体力が消耗しやすい寒い森の中で雨まで降るとなると…辛いところですね。」
「そうね。できればきちんとした宿で休みたいけど……難しいわよね。」
私はため息を吐いた。するとブルーノは地図を眺めながら考え込んだ。
「この辺りは革命を主導していた領主がいますからね…見つかるとまずいでしょうね。」
食料などを調達するためにブルーノかテレシアが街に行ってくれていた。同時に情報収集も行なっているため、今回の革命について少しずつだが分かってきたことがある。
まずは、いくつかの領主が新王側についていたこと。そして数年前からお父様に仕えていた顧問役のバルトロスが裏から手を引いていたらしいことだ。
またエスペルト王国全体も3つに割れていた。新王側に組みするものと、運良く王城にいなかったレティシア、ガイアス第1王子を支持する者だ。残りは様子見をしていて中立に近い。
「そうね…ディートリヒはこれからどう動くかしら?」
「王国を纏めようとしているので各領主に対しては強硬姿勢を示していませんが…王族の残りは見つけ次第引き渡すように通達を出しているようです。あとは…ギルベルト王子殿下がディートリヒ新王側についたのが気になりますね。」
ディートリヒとしてもグランバルド帝国の存在があるため、王国を分裂させて国力を下げることはできないだろう。私としては複雑な気分だが、敵対しているいくつかの国に囲まれている事が、ディートリヒに対する抑止力になっている。
「ギルベルトお兄様は癖があるというか…一筋縄ではいかない性格よ?内心でどう考えて動いているのか全く読めないわね。」
ギルベルトとはあまり話したことはないが、他の誰かの思い通りに行動しないということに関しては信用していた。
私のギルベルトへの物言いにブルーノは苦笑している。抗議の目線を向けるとブルーノは慌てて口を開いた。
「申し訳ございません!他意があったわけではないのですが…ラティアーナ王女殿下のお立場上、兄妹仲は良くないと思っていましたから意外な反応でして。」
ブルーノの弁明にふと兄たちについて考えた。半分は血がつながっているものの親しいわけではなかった。ガイアスは私のことを疎ましく思っていただろうし、ギルベルトはよくわからない。
それでも兄たちのことを嫌いというわけでもなかった。
「あまり接することがなかったから…仲は良くないけど嫌いでもないわ。」
ブルーノと話しているとテントの中からテレシアが出てきた。
「おはようございます。朝食の準備をしますので少々お待ちください。」
テレシアは挨拶をすると、手際よく携帯用食料と調達した野菜からスープを作っていた。朝食の準備が終わって呼びに行こうとした時、2人が起きてきた。
「「おはようございます…」」
ローザリンデとリーファスが目を擦りながら外に出てきた。
「2人ともおはよう。まずは洗ってらっしゃい。」
2人は「わかりました…」と呟きながら少し離れたところに歩いていく。テレシアが私たちを微笑ましく見ているが、私がテレシアを見ると視線を急いで離した。
そうしているうちに、2人は魔術による洗浄を全身にかける。そのあと水を作り出すと顔を洗って戻ってきた。
「スープ食べましょうか。はい。」
テレシアが作ったスープを受け取って渡すと、5人で食事にする。
「残りはリーファスにあげますわ…」
ローザリンデは少しだけ食べると、リーファスに渡していた。
「ローザリンデ姉上は、もういらないのですか?」
「…ええ、あまりお腹すいてなくて。」
全員食べ終わると片付けてまた歩き出した。
「雨、降ってきたわね…まだまだ強くなりそうだし、雨宿りできそうな場所で野営したいわね。」
「この先に洞窟があるはずです。そこまで急ぎましょう。」
ブルーノの先導で雨を凌げる場所へ急ぐのだった。
それからしばらく経つと雨が強くなってきた。急がなければならないが、悪天候の影響で体力の消耗も大きくなるため小休止を挟むことにする。雨を凌げる大きめの木の下に移動しようとした時、ローザリンデの足がもつれて膝をつく。
「「ローザリンデ様!?」」
「ローザリンデ、大丈夫!?」
私たちが駆け寄るとローザリンデは肩で息をしながら「申し訳ありません…躓いただけですわ…」と呟く。立ち上がって顔を上げると、目が少し潤んでいた。心なしか頬も赤く染まっているように感じる。
「少し失礼するわよ…」
私はそう口にしながらローザリンデの額に手を合わせる。
「動いた後にしても熱すぎるわ…こんなに熱があったら辛いでしょう!?もしかして…朝から体調が優れないのではなくて?」
手から感じる温度はとても熱く感じた。念のため手首に手をかざすと、脈も相当速くなっている。
「すみません…朝は食欲がないのと体が重く感じていただけだったんですけど…歩いているうちに辛くなってきて。でも!少し休めば平気ですから。大丈夫ですから。」
ローザリンデは必死に大丈夫だと言い張るが、誰が見ても大丈夫そうには見えなかった。
普段であれば日が登り始める早朝、3人を起こさないようにテントの外に出るとブルーノが見張り番をしていた。
「おはようございます、ラティアーナ王女殿下。今朝も早いですね。」
「おはようブルーノ。今日は…荒れそうね。」
私は空を見上げながら呟く。今日の空は黒っぽい雲が見えていた。そのうち、雨が降りそうな空だった。
「ローザリンデ様もリーファス様もここ数日の疲れが取れてなさそうです。ただでさえ体力が消耗しやすい寒い森の中で雨まで降るとなると…辛いところですね。」
「そうね。できればきちんとした宿で休みたいけど……難しいわよね。」
私はため息を吐いた。するとブルーノは地図を眺めながら考え込んだ。
「この辺りは革命を主導していた領主がいますからね…見つかるとまずいでしょうね。」
食料などを調達するためにブルーノかテレシアが街に行ってくれていた。同時に情報収集も行なっているため、今回の革命について少しずつだが分かってきたことがある。
まずは、いくつかの領主が新王側についていたこと。そして数年前からお父様に仕えていた顧問役のバルトロスが裏から手を引いていたらしいことだ。
またエスペルト王国全体も3つに割れていた。新王側に組みするものと、運良く王城にいなかったレティシア、ガイアス第1王子を支持する者だ。残りは様子見をしていて中立に近い。
「そうね…ディートリヒはこれからどう動くかしら?」
「王国を纏めようとしているので各領主に対しては強硬姿勢を示していませんが…王族の残りは見つけ次第引き渡すように通達を出しているようです。あとは…ギルベルト王子殿下がディートリヒ新王側についたのが気になりますね。」
ディートリヒとしてもグランバルド帝国の存在があるため、王国を分裂させて国力を下げることはできないだろう。私としては複雑な気分だが、敵対しているいくつかの国に囲まれている事が、ディートリヒに対する抑止力になっている。
「ギルベルトお兄様は癖があるというか…一筋縄ではいかない性格よ?内心でどう考えて動いているのか全く読めないわね。」
ギルベルトとはあまり話したことはないが、他の誰かの思い通りに行動しないということに関しては信用していた。
私のギルベルトへの物言いにブルーノは苦笑している。抗議の目線を向けるとブルーノは慌てて口を開いた。
「申し訳ございません!他意があったわけではないのですが…ラティアーナ王女殿下のお立場上、兄妹仲は良くないと思っていましたから意外な反応でして。」
ブルーノの弁明にふと兄たちについて考えた。半分は血がつながっているものの親しいわけではなかった。ガイアスは私のことを疎ましく思っていただろうし、ギルベルトはよくわからない。
それでも兄たちのことを嫌いというわけでもなかった。
「あまり接することがなかったから…仲は良くないけど嫌いでもないわ。」
ブルーノと話しているとテントの中からテレシアが出てきた。
「おはようございます。朝食の準備をしますので少々お待ちください。」
テレシアは挨拶をすると、手際よく携帯用食料と調達した野菜からスープを作っていた。朝食の準備が終わって呼びに行こうとした時、2人が起きてきた。
「「おはようございます…」」
ローザリンデとリーファスが目を擦りながら外に出てきた。
「2人ともおはよう。まずは洗ってらっしゃい。」
2人は「わかりました…」と呟きながら少し離れたところに歩いていく。テレシアが私たちを微笑ましく見ているが、私がテレシアを見ると視線を急いで離した。
そうしているうちに、2人は魔術による洗浄を全身にかける。そのあと水を作り出すと顔を洗って戻ってきた。
「スープ食べましょうか。はい。」
テレシアが作ったスープを受け取って渡すと、5人で食事にする。
「残りはリーファスにあげますわ…」
ローザリンデは少しだけ食べると、リーファスに渡していた。
「ローザリンデ姉上は、もういらないのですか?」
「…ええ、あまりお腹すいてなくて。」
全員食べ終わると片付けてまた歩き出した。
「雨、降ってきたわね…まだまだ強くなりそうだし、雨宿りできそうな場所で野営したいわね。」
「この先に洞窟があるはずです。そこまで急ぎましょう。」
ブルーノの先導で雨を凌げる場所へ急ぐのだった。
それからしばらく経つと雨が強くなってきた。急がなければならないが、悪天候の影響で体力の消耗も大きくなるため小休止を挟むことにする。雨を凌げる大きめの木の下に移動しようとした時、ローザリンデの足がもつれて膝をつく。
「「ローザリンデ様!?」」
「ローザリンデ、大丈夫!?」
私たちが駆け寄るとローザリンデは肩で息をしながら「申し訳ありません…躓いただけですわ…」と呟く。立ち上がって顔を上げると、目が少し潤んでいた。心なしか頬も赤く染まっているように感じる。
「少し失礼するわよ…」
私はそう口にしながらローザリンデの額に手を合わせる。
「動いた後にしても熱すぎるわ…こんなに熱があったら辛いでしょう!?もしかして…朝から体調が優れないのではなくて?」
手から感じる温度はとても熱く感じた。念のため手首に手をかざすと、脈も相当速くなっている。
「すみません…朝は食欲がないのと体が重く感じていただけだったんですけど…歩いているうちに辛くなってきて。でも!少し休めば平気ですから。大丈夫ですから。」
ローザリンデは必死に大丈夫だと言い張るが、誰が見ても大丈夫そうには見えなかった。
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