王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第5章 王女の学園生活

29 崩壊を告げる音

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 突然の音と衝撃に驚いて、私とリーナは窓の近くに移動した。
 外を眺めると変わったところは見当たらないが、人の動きが慌しくなっている気がする。
 続けてもう一度爆発のような音が聞こえると、再び離宮全体が揺れたように感じた。同時に硝子が割れるような音がして、私の中に不快な感覚が伝わり思わず顔を顰める。

「一体何が…」

 リーナが呆然と呟くが、私は考えたくない現実に思い当たってしまった。

「離宮を覆っている結界が破られたわ…恐らくこれは襲撃されているわね。」

「襲撃ですか!?」

 リーナの顔色が悪くなるがほぼ間違いないだろう。
 この場所は、王城全体と離宮全体を包む結界の2段構えによって守られている。そのうち離宮の結界の魔術具には私の管理下にあるため、結界内にいるときに干渉されると、私にも伝わるようになっていた。
 先ほど感じた不快感は、結界に負荷がかかり砕けたときに感じたものだ。

「とりあえず自室に戻って、準備をして…」

 リーナとともに急ぎ自室へ向かっていると奥からアルキオネの姿が見えた。

「ラティアーナ様!離宮に侵入者が複数入り込みました。現在、シリウス以下数名の騎士が迎撃に当たっていますが、いかがしますか?」

「アルキオネを筆頭に迎撃に出ていない騎士達は、離宮にいる残りの人を集めて侵入者から守りきりなさい。それからリーナのことも預けるわ。お願いね。」

「かしこまりました。ラティアーナ様は?」

「ここまで浸入されているということは、王宮までも侵入されている可能性が高い。目的も侵入者の数も全てが不明だから、わたくしは一度王宮に向かうわ。だから…第3近衛騎士団の総力をもって、離宮にいる全ての人を守りなさい。これからのやり取りは、以前渡した通信用の魔術具でお願いね」

 私は矢継ぎ早にアルキオネに指示を出してリーナのことを預ける。

「かしこまりました。第3近衛騎士団の誇りにかけて全ての人を守ります。」

「お嬢様、いってらっしゃいませ。お気をつけて。」

「2人ともありがとう。行ってきます。」

 別れを告げるとそのまま急いで自室へ戻った。戦闘用の衣装に着替えて魔法袋を携帯し、中に入っている短剣を腰に携える。

 それから王宮に向かうために建物の外に出ると、敵がさらに浸入してくるのが見えた。

「あれは…第3王女だ!必ず捕らえろ!命さえあればどうなっていても構わない。」

 そう叫ぶ声が聞こえると数人の敵が、槍を持って突撃してくる。

「全く…大の大人が1人の少女に寄ってたかって、おまけに投降を呼びかけることなく襲ってくるなんて、人としてどうなのかしら?」

 私はため息を付きながらも槍の穂先を避けると、槍の取っ手を掴んで奪い取る。そのまま奪った槍でなぎ払い、さらに叩きつけて男を1人を残して沈めた。
 1人残った男は恐怖に染まった顔をしているが、そのまま槍の穂先を喉元に当てて圧をかけながら問いかけた。

「あなたたちは何者でどのような目的で襲ったのかしら?ただの賊が王族に対して襲い掛かるなんて思えないのだけど?」

「ははは…正義は俺達にある…お前たち王族は滅び、正しい国に生まれ変わるんだ!」

 男は取り乱したように叫ぶと胸元から銃を取り出して、銃口を向けてくる。引き金を引く直前、私は止めを刺した。

(相手は…本気でこの国をひっくり返すつもりかしら?それにしても王国では、火薬式の銃なんて滅多に使わないのに…どこから手に入れたのかしらね。)

 落ちた銃を眺めて思案するが、一先ず疑問は置いておく。
 王宮に走って向かうが、離宮から出ると所々に破壊された痕が目立った。

「いたぞ!とりあえず捕らえろ!」

 周りに騎士達の姿は見えず、代わりに敵の団体が襲ってきた。

「きりがないわね…騎士たちがここにいないとなると王宮に集めたのかしら?」

 全員を相手にすると時間がかかるため、身体強化をして王宮まで逃げる。途中、細い通路や物陰に隠れることで追っ手を振り払い、どうしてもの時だけ刈り取っていった。
 そして王宮の入り口に着いた頃、国内全域に向けた映像と音声になる通信が響いた。

「皆様ごきげんよう。私はディートリヒ。今回のクーデターを起こしたものだ!まずは今回の力を貸してくれた各領地の貴族には礼を言おう。そして、グラビス前国王は私に恭順を示した。これにより、私の王位の正当性は証明されるわけだ。」

 空中に浮かび上がる映像には、ディートリヒと名乗る男の人の姿が映っている。見た目は銀髪で強面といった感じだ。
 ディートリヒが後ろを向いて目を向けた先には、お父様の姿が見えた。

「私は前国王のグラビス・エスペルトだ。私は新しい王であるディートリヒに恭順を示すことにする。…以上だ。」

 お父様が話し終わると、再びディートリヒが表に出てくる。

「そういうわけだ。まだ私に恭順していない貴族にも機会をやろう。今日中に私に示せば何もしない。もし示さなかった場合は、反逆者とみなす。以上である。」

 その言葉を最後に通信が終わった。
 どうやら私が思っていた以上に事態は悪化していたらしい。お父様が恭順を示したことで、内心どう思っていたとしても反対しない貴族が多いだろう。

 ちょうどその時シリウスから通信が入った。

「姫様、こちらなんとか集めましたが…倒しても倒しても敵が出てきてキリがないです。先程のディートリヒと名乗った人の通信の件もありますし…どうしますか?」

「念のため聞くけど…ディートリヒに従わないって言ったら着いてきてくれる?」

「姫様に着いていく選択肢しかないと思いますが…」

 シリウスであれば答えに確信はしていたものの、実際に即決してくれると自然と笑みが溢れた。

「皆を守りながらルークス領まで避難しましょう。馬車でもなんでも使って良いからお願いできる?」

「それは構いませんが、姫様はどうされるつもりで?」

「状況によるけどリーファスとローザリンデを助けられたらと思っているわ。とりあえず出た所勝負になるでしょうから…先に皆のこと頼んだわよ。」

「かしこまりました。姫様も気をつけて。」

「ええ、シリウスもね。」

 通信を切るとレティシアの離宮を目指すことにした。

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