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第5章 王女の学園生活
18 王都での日常と依頼
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マギルス領への旅行から帰ってきて数日。
学園の長期休暇は、後1月くらい残っていた離宮でのんびりと過ごしていた。
「やっぱりリーナの入れてくれたお茶は、落ち着くわね。」
「ありがとうございます。」
基本的にどこに行っても美味しいお茶は飲めるが、安心感や暖かさを感じるのは、ここだけだと思う。
「今日はどうされますか?」
「そうねぇ……少し体でも動かしてくるわ。もしかしたら数日空けるかもしれないけどよろしくくね。」
「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ。こちらのことはお任せください。」
「お願いね。そういえば…料理長とはうまくいってる?」
「っ!?お、お嬢様どうしてそれを?」
「この前だったかしら。久しぶりに料理でもしようかと厨房に行ったときにね、見ちゃったのよ。」
厨房が忙しくない時間を狙ったため、昼食が終わってすこししたくらいに向かった。すると、厨房の奥でリーナと料理長が話しているのが聞こえた。
2人の会話の全部は聞いていないが、休みの日に一緒に出掛けたりしているときの話が聞こえていい雰囲気だったため、そのまま去ったわけだ。
「で、でしたら声をかけてくだされば…」
「あら私だってね、いい雰囲気の2人の間に入っていくほど野暮じゃないわよ。料理長はお母様がこちらに連れてきた人だし、私から見ても信頼できるわ。応援しているから安心しなさいな。」
気まずそうにしているリーナにそう声をかける。決して表には出すつもりはないが、内心ではリーナのことを姉のようにも感じている。
だからこそなんとしても幸せになってもらいたいと思っているし、そのためであれば助力を惜しむつもりはなかった。
「あ、ありがとうございます。」
「そうそう、結婚とか決まったら教えてね。祝いの品とか送りたいし…パーティを開いて離宮の皆で祝わないと。」
私はリーナに不敵な笑みを浮かべると「お嬢様っ」と嬉し恥ずかしそうな声が聞こえた。
そのような感じでリーナと話した後、私はお忍びで街に出ていた。冒険者ギルドに行く予定だが、その前にお店の様子を見ていくことにする。
「久しぶりねルカ。お店の方はどう?」
「ティア様!お店の方はそうですね…売れ行きは順調ですが砂糖の値段が上がっています。その影響で利益が落ちてきていますね。」
ルカに案内されて店員用の事務室に入る。
最近の仕入帳を見るといくつかの材料費が高騰しているのが目についた。その中でも特に砂糖が高くなっているようだった。
「やっぱり…南の諸国との関係が悪化しているのが影響しているわね。」
砂糖を国内で生産しているのは、マギルス公爵領をはじめとするいくつかの南の領地だけだ。エスペルト国内でも比較的寒冷な場所になるため、さとう大根を育てている。
それでも4割ほどしかカバーできないため、輸入に頼っているのが現状だ。
「値段はあまり上げたくないから…最近メープルシロップが入ってきているわよね?」
「そうですね?最近ノスタルジア王国と交易が生まれつつありますから。実際にこちらでもシロップとして使っています。」
ノスタルジア王国やノーランド王国は、北にあるためエスペルト王国よりも暑い気候になる。
しかし、龍脈の関係か一部に氷雪地帯があった。そこではサトウカエデの原産地となっていてシロップも作られていると聞いた。
「メープルシロップを煮詰めて砂糖の代わりにしましょう。味が違うから完全な代用はできないけど…せっかくだから新しいお菓子でも考えてみてくれないかしら?」
「なるほど…お菓子になら使えそうですね。早速検討します。」
「お願いね。他の従業員にも案を出すように言ってちょうだい。売り物になりそうなら商品にしていいわよ。それで売れ行きがいいものができたら、私から発案者には報奨金を渡すわ。」
「かしこまりました。」
細かいことはルカに任せることにして、私はお店を後にした。
それから王都の冒険者ギルド支部に向かい受付に向かう。
「デュランさんって今日いないんでしたっけ?」
今まで受付には大体デュランがいたが、今日は初めて見るお姉さんだった。
「デュランさんでしたら、数か月前にチーフに昇進されましたよ。改めまして私はカーラと申します。同じ時期にこちらに派遣されて受付のリーダーをしています。」
ギルド内の役職として受付の中で一番上がリーダーとなっていて、チーフとなると接客系部門の責任者となるらしい。なお支部の中では、チーフの上は副支部長、支部長となるようだ。
「カーラさんですね。これからよろしくお願いします。それで用件ですが、おすすめの依頼か緊急性の高い依頼ってありますか?」
私はプレートを見せてながら聞く。カーラはプレートを確認すると悩む仕草を見せた。
「そうですね…緊急性が高いものとしては薬草の採取ですね。こちら少し厄介な依頼になってまして、こちらに来ていただけませんか?」
個室に案内されると、詳細が記された用紙を見せてもらった。
「これは…魔力の暴走を抑える薬草ですか。報奨金は高めですけど期間が短いですね。」
「ええ、薬草の生産地はエスペルト王国内でも南西部ノーティア公爵領付近の山岳地帯です。馬車を使って片道6日かかりますが…この依頼では7日という期間が設定されていますから。」
「依頼の内容は分かりましたが…依頼主はどうしてまた急な依頼を?」
薬草自体は、いくつかの商家で扱っているはずだった。この薬草も貴重ではあるものの売っていないわけではない。
「依頼主は商店のオーナーです。オーナーのご令嬢が魔力の資質が高いらしいですね。最近急に制御ができなくなって、慌てて薬草を集めだした…というのは経緯ですね。」
魔力というのは5から7歳の間くらいに急成長を遂げることが多い。身近に魔力を扱える人がいれば問題ないが、そういった人がいなければ独学となるため制御を覚えるのは難しい。他にも病気によって魔力が制御できなくなることもある。
どちらにせよ、対外的に魔力を抑えるには薬草を使うのが無難な手段になる。
「わかりました。そういった事情があるのなら依頼をお受けします。」
私がそう言うとカーラは安心した表情を見せた。
「ありがとうございます。Sランク冒険者のティアさんが受けてくださるのであれば心強いです。」
私はこの依頼を受けることにした。
学園の長期休暇は、後1月くらい残っていた離宮でのんびりと過ごしていた。
「やっぱりリーナの入れてくれたお茶は、落ち着くわね。」
「ありがとうございます。」
基本的にどこに行っても美味しいお茶は飲めるが、安心感や暖かさを感じるのは、ここだけだと思う。
「今日はどうされますか?」
「そうねぇ……少し体でも動かしてくるわ。もしかしたら数日空けるかもしれないけどよろしくくね。」
「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ。こちらのことはお任せください。」
「お願いね。そういえば…料理長とはうまくいってる?」
「っ!?お、お嬢様どうしてそれを?」
「この前だったかしら。久しぶりに料理でもしようかと厨房に行ったときにね、見ちゃったのよ。」
厨房が忙しくない時間を狙ったため、昼食が終わってすこししたくらいに向かった。すると、厨房の奥でリーナと料理長が話しているのが聞こえた。
2人の会話の全部は聞いていないが、休みの日に一緒に出掛けたりしているときの話が聞こえていい雰囲気だったため、そのまま去ったわけだ。
「で、でしたら声をかけてくだされば…」
「あら私だってね、いい雰囲気の2人の間に入っていくほど野暮じゃないわよ。料理長はお母様がこちらに連れてきた人だし、私から見ても信頼できるわ。応援しているから安心しなさいな。」
気まずそうにしているリーナにそう声をかける。決して表には出すつもりはないが、内心ではリーナのことを姉のようにも感じている。
だからこそなんとしても幸せになってもらいたいと思っているし、そのためであれば助力を惜しむつもりはなかった。
「あ、ありがとうございます。」
「そうそう、結婚とか決まったら教えてね。祝いの品とか送りたいし…パーティを開いて離宮の皆で祝わないと。」
私はリーナに不敵な笑みを浮かべると「お嬢様っ」と嬉し恥ずかしそうな声が聞こえた。
そのような感じでリーナと話した後、私はお忍びで街に出ていた。冒険者ギルドに行く予定だが、その前にお店の様子を見ていくことにする。
「久しぶりねルカ。お店の方はどう?」
「ティア様!お店の方はそうですね…売れ行きは順調ですが砂糖の値段が上がっています。その影響で利益が落ちてきていますね。」
ルカに案内されて店員用の事務室に入る。
最近の仕入帳を見るといくつかの材料費が高騰しているのが目についた。その中でも特に砂糖が高くなっているようだった。
「やっぱり…南の諸国との関係が悪化しているのが影響しているわね。」
砂糖を国内で生産しているのは、マギルス公爵領をはじめとするいくつかの南の領地だけだ。エスペルト国内でも比較的寒冷な場所になるため、さとう大根を育てている。
それでも4割ほどしかカバーできないため、輸入に頼っているのが現状だ。
「値段はあまり上げたくないから…最近メープルシロップが入ってきているわよね?」
「そうですね?最近ノスタルジア王国と交易が生まれつつありますから。実際にこちらでもシロップとして使っています。」
ノスタルジア王国やノーランド王国は、北にあるためエスペルト王国よりも暑い気候になる。
しかし、龍脈の関係か一部に氷雪地帯があった。そこではサトウカエデの原産地となっていてシロップも作られていると聞いた。
「メープルシロップを煮詰めて砂糖の代わりにしましょう。味が違うから完全な代用はできないけど…せっかくだから新しいお菓子でも考えてみてくれないかしら?」
「なるほど…お菓子になら使えそうですね。早速検討します。」
「お願いね。他の従業員にも案を出すように言ってちょうだい。売り物になりそうなら商品にしていいわよ。それで売れ行きがいいものができたら、私から発案者には報奨金を渡すわ。」
「かしこまりました。」
細かいことはルカに任せることにして、私はお店を後にした。
それから王都の冒険者ギルド支部に向かい受付に向かう。
「デュランさんって今日いないんでしたっけ?」
今まで受付には大体デュランがいたが、今日は初めて見るお姉さんだった。
「デュランさんでしたら、数か月前にチーフに昇進されましたよ。改めまして私はカーラと申します。同じ時期にこちらに派遣されて受付のリーダーをしています。」
ギルド内の役職として受付の中で一番上がリーダーとなっていて、チーフとなると接客系部門の責任者となるらしい。なお支部の中では、チーフの上は副支部長、支部長となるようだ。
「カーラさんですね。これからよろしくお願いします。それで用件ですが、おすすめの依頼か緊急性の高い依頼ってありますか?」
私はプレートを見せてながら聞く。カーラはプレートを確認すると悩む仕草を見せた。
「そうですね…緊急性が高いものとしては薬草の採取ですね。こちら少し厄介な依頼になってまして、こちらに来ていただけませんか?」
個室に案内されると、詳細が記された用紙を見せてもらった。
「これは…魔力の暴走を抑える薬草ですか。報奨金は高めですけど期間が短いですね。」
「ええ、薬草の生産地はエスペルト王国内でも南西部ノーティア公爵領付近の山岳地帯です。馬車を使って片道6日かかりますが…この依頼では7日という期間が設定されていますから。」
「依頼の内容は分かりましたが…依頼主はどうしてまた急な依頼を?」
薬草自体は、いくつかの商家で扱っているはずだった。この薬草も貴重ではあるものの売っていないわけではない。
「依頼主は商店のオーナーです。オーナーのご令嬢が魔力の資質が高いらしいですね。最近急に制御ができなくなって、慌てて薬草を集めだした…というのは経緯ですね。」
魔力というのは5から7歳の間くらいに急成長を遂げることが多い。身近に魔力を扱える人がいれば問題ないが、そういった人がいなければ独学となるため制御を覚えるのは難しい。他にも病気によって魔力が制御できなくなることもある。
どちらにせよ、対外的に魔力を抑えるには薬草を使うのが無難な手段になる。
「わかりました。そういった事情があるのなら依頼をお受けします。」
私がそう言うとカーラは安心した表情を見せた。
「ありがとうございます。Sランク冒険者のティアさんが受けてくださるのであれば心強いです。」
私はこの依頼を受けることにした。
応援ありがとうございます!
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