116 / 475
第5章 王女の学園生活
17 叔母様とのお茶会
しおりを挟む
マギルス領に滞在すること約半月、楽しかった休暇もそろそろ終わりを迎えることになる。
領地を発つ前日、叔母のイベリスからお茶会に招待されているため、本邸を訪れていた。
屋敷についてお茶会用の庭園に向かうと、叔母が既に待っているのが見える。
「お待たせしましたわ。叔母様。」
「わたくしも今来たところですから、構いませんよ。」
対面に座ると、お茶を飲みながら話をする。席から離れたところに侍女が構えているため、2人だけの空間といった感じだ。
おかげで普段よりも砕けた会話ができるだろう。
「こうしてのんびりと話せるのは良いわね…」
「そうですね。普段の社交の場ではこうは行きませんし…王都に来た際は是非、離宮にいらしてくださいな。」
「そうさせてもらうわ。前だったら、ラティアーナとわたくしの仲が良すぎると危ないかもと思っていたけれど…」
「わたくしの身は守れますから大丈夫です。」
心配そうに見つめる叔母に笑みを浮かべて言った。
「そうね。今の…というか数年前からあなたは強くなったと思う。でもね、ここ2年ほどでエスペルト王国の情勢は、急劇に変化を見せているわ。」
「でしょうね…わたくしも表立っては情報を集めていないので、全てを知っているわけではありませんが……一部の貴族たちに王族に対する不信感が高まっているのを感じます。もっとも、各領に課している税を少しずつ上げた上で、国軍の派遣を抑えているのもありますから、当たり前とも言えますけど。」
「ラティアーナの言うとおりね。複数の諸外国から狙われている以上、国軍を中央に集めるのも利点はありますから。しかし、エスペルト王国全域に跨る魔術具…その本質の力を詳しく知る貴族は多くない。対外的に見れば悪手に見えるでしょう。」
王都と国境都市は魔術具で繋がっているため、王建所有者であれば、秘匿通信だけでなく転移も可能となっている。
もちろん転移には、最上位の権限が必要であることや、転移等で魔力を消費しすぎると結界の維持にも影響が出るなどの制約もあるため、多様はできないが一瞬で国軍を派遣できることもありかなり有利だ。
税金にしても防衛に費用がかかると考えると、仕方のないことと言えなくもない。
「…これから先は、特に気をつけなさい。下手をすれば貴族の手先に襲われる可能性もあるのよ。」
「そうですわね。」
話が重くなってきたため、お互いにお菓子を食べて気分を入れ替えた。
「さて、せっかくなのだから他の話もしたいわ。学園生活はどうかしら?」
「楽しいですよ。今まで同年代の付き合いはイリーナとアドリアスくらいでしたから。こんな風に一緒に出かけるというのは、いいものですね。」
私は話しながら友人たちを思い浮かべた。クラスを超えて友人ができるとは思ってもいなかった。
「それは良かったわ。ラティアーナの場合、社交界では気が休まらないでしょう?本当の意味で信頼できる人ができたみたいで安心よ。」
「安心…ですか?」
「ええ。ティアラお姉様が亡くなった後、国王陛下もラティアーナのことを守ろうとしなかったわ。離宮には大切に思っている侍女や執事はいても、彼らでは守ることが難しい。あなたの場合はリーファスもいたから、離宮を守らなければならなかったでしょう?」
叔母がたまにイリーナに向けているような表情で私のことを見つめている。今まで家族というものを感じることは少なかったが、私のことを大切に思ってくれているのが伝わってくる。
「ええ…お父様はわたくしのことを放置していて、身近に感じる人は少なかったです。でも…だからこそ、周りを大切にしたいとも思いました。」
あの時は必死だったと思う。身近な人が離れていくのが嫌で、1人になる恐怖を感じて。
「その中でわたくしを庇った専属侍女が、大怪我を負いました。ただ離れていくだけじゃなく、死というものを思い出したわたくしは、なんとしても救いたかった。」
リーナを失いたくないのも本心だったが、お母様を亡くした時のことが頭に過ぎったのもあったと思う。
「ええ、その話は聞いたわ。傷を完全に癒すほどの回復魔術は、魔力消費も制御も比べ物にならない。だから…お披露目の結果から、ラティアーナの身に起きた事情はなんとなくだけど察することができたのよ。」
子に受け継ぐ魔力量や適性は両親の影響を受ける。王族と公爵家を両親に持つ私の魔力は、多少幅があったとしてもこれほど少なくなることなど普通はない。
「だから、ラティアーナに力を貸したかったけれど…レティシア様が近くにいる状況で、普段王都にいないわたくしが下手に動けば、あなたの身が危ないとも思ったわ。迂闊に動くことができなかったわ。」
これは事実だろう。レティシアは私のことを警戒している。実際に証拠こそないものの、グランバルド帝国からの防衛戦のために移動していた私の馬車を襲ったのは、限りなく黒に近いのだから。
「ラティアーナには初めて伝えるけれど…我がマギルス公爵家はラティアーナ第3王女への助力を惜しむつもりはないわ。必要とあれば表明しても構わないと思っているのよ。」
「それはありがたいけど…大丈夫よ。今まで色々なことがあった分、様々な人と縁を得ることができたわ。離宮に来ていた教師や帝国との戦い、少し前にあったノーランド王国との外交。今ならわたくしは1人じゃないって思えるから。けれど……もし困った時は遠慮なく助けを求めるわ。」
「そう…わたくしたちがラティアーナの味方だってことを、覚えておいてくれれば構わないわ。それにいつでも相談にも乗るから。」
叔母は少しだけホッとした表情で、私に告げてきた。もしかしたら今まで何もできなかったことに、負い目を感じていたのかもしれない。
「ありがとう。」
私はもう一度お礼を告げて微笑むと、叔母も笑みを浮かべた。
その後は取り留めもない会話を交わして、のんびりとした時間が過ぎていくのだった。
翌日、マギルス領から帰る日がやってくる。それぞれの領地に帰るため、私と一緒の馬車で帰る顔ぶれは行きと変わらない。
見送りとして叔母とイリーナ、カイと数人の侍女と執事が来ている。
「イリーナのクラスメイトと話すことができて楽しかったわ。また機会があったらいらっしゃい。」
全員で「お世話になりました。」と、お礼を告げるとそれぞれの馬車に乗り込む。すると私が馬車に乗り込む直前に声をかけてきた。
「今度はリーファスも含めてお茶会をしたいわね。」
「ええ、いつになるかわかりませんが…必ず。」
今度3人でお茶会をすることを約束して、私たちは王都に向けて出発するのだった。
領地を発つ前日、叔母のイベリスからお茶会に招待されているため、本邸を訪れていた。
屋敷についてお茶会用の庭園に向かうと、叔母が既に待っているのが見える。
「お待たせしましたわ。叔母様。」
「わたくしも今来たところですから、構いませんよ。」
対面に座ると、お茶を飲みながら話をする。席から離れたところに侍女が構えているため、2人だけの空間といった感じだ。
おかげで普段よりも砕けた会話ができるだろう。
「こうしてのんびりと話せるのは良いわね…」
「そうですね。普段の社交の場ではこうは行きませんし…王都に来た際は是非、離宮にいらしてくださいな。」
「そうさせてもらうわ。前だったら、ラティアーナとわたくしの仲が良すぎると危ないかもと思っていたけれど…」
「わたくしの身は守れますから大丈夫です。」
心配そうに見つめる叔母に笑みを浮かべて言った。
「そうね。今の…というか数年前からあなたは強くなったと思う。でもね、ここ2年ほどでエスペルト王国の情勢は、急劇に変化を見せているわ。」
「でしょうね…わたくしも表立っては情報を集めていないので、全てを知っているわけではありませんが……一部の貴族たちに王族に対する不信感が高まっているのを感じます。もっとも、各領に課している税を少しずつ上げた上で、国軍の派遣を抑えているのもありますから、当たり前とも言えますけど。」
「ラティアーナの言うとおりね。複数の諸外国から狙われている以上、国軍を中央に集めるのも利点はありますから。しかし、エスペルト王国全域に跨る魔術具…その本質の力を詳しく知る貴族は多くない。対外的に見れば悪手に見えるでしょう。」
王都と国境都市は魔術具で繋がっているため、王建所有者であれば、秘匿通信だけでなく転移も可能となっている。
もちろん転移には、最上位の権限が必要であることや、転移等で魔力を消費しすぎると結界の維持にも影響が出るなどの制約もあるため、多様はできないが一瞬で国軍を派遣できることもありかなり有利だ。
税金にしても防衛に費用がかかると考えると、仕方のないことと言えなくもない。
「…これから先は、特に気をつけなさい。下手をすれば貴族の手先に襲われる可能性もあるのよ。」
「そうですわね。」
話が重くなってきたため、お互いにお菓子を食べて気分を入れ替えた。
「さて、せっかくなのだから他の話もしたいわ。学園生活はどうかしら?」
「楽しいですよ。今まで同年代の付き合いはイリーナとアドリアスくらいでしたから。こんな風に一緒に出かけるというのは、いいものですね。」
私は話しながら友人たちを思い浮かべた。クラスを超えて友人ができるとは思ってもいなかった。
「それは良かったわ。ラティアーナの場合、社交界では気が休まらないでしょう?本当の意味で信頼できる人ができたみたいで安心よ。」
「安心…ですか?」
「ええ。ティアラお姉様が亡くなった後、国王陛下もラティアーナのことを守ろうとしなかったわ。離宮には大切に思っている侍女や執事はいても、彼らでは守ることが難しい。あなたの場合はリーファスもいたから、離宮を守らなければならなかったでしょう?」
叔母がたまにイリーナに向けているような表情で私のことを見つめている。今まで家族というものを感じることは少なかったが、私のことを大切に思ってくれているのが伝わってくる。
「ええ…お父様はわたくしのことを放置していて、身近に感じる人は少なかったです。でも…だからこそ、周りを大切にしたいとも思いました。」
あの時は必死だったと思う。身近な人が離れていくのが嫌で、1人になる恐怖を感じて。
「その中でわたくしを庇った専属侍女が、大怪我を負いました。ただ離れていくだけじゃなく、死というものを思い出したわたくしは、なんとしても救いたかった。」
リーナを失いたくないのも本心だったが、お母様を亡くした時のことが頭に過ぎったのもあったと思う。
「ええ、その話は聞いたわ。傷を完全に癒すほどの回復魔術は、魔力消費も制御も比べ物にならない。だから…お披露目の結果から、ラティアーナの身に起きた事情はなんとなくだけど察することができたのよ。」
子に受け継ぐ魔力量や適性は両親の影響を受ける。王族と公爵家を両親に持つ私の魔力は、多少幅があったとしてもこれほど少なくなることなど普通はない。
「だから、ラティアーナに力を貸したかったけれど…レティシア様が近くにいる状況で、普段王都にいないわたくしが下手に動けば、あなたの身が危ないとも思ったわ。迂闊に動くことができなかったわ。」
これは事実だろう。レティシアは私のことを警戒している。実際に証拠こそないものの、グランバルド帝国からの防衛戦のために移動していた私の馬車を襲ったのは、限りなく黒に近いのだから。
「ラティアーナには初めて伝えるけれど…我がマギルス公爵家はラティアーナ第3王女への助力を惜しむつもりはないわ。必要とあれば表明しても構わないと思っているのよ。」
「それはありがたいけど…大丈夫よ。今まで色々なことがあった分、様々な人と縁を得ることができたわ。離宮に来ていた教師や帝国との戦い、少し前にあったノーランド王国との外交。今ならわたくしは1人じゃないって思えるから。けれど……もし困った時は遠慮なく助けを求めるわ。」
「そう…わたくしたちがラティアーナの味方だってことを、覚えておいてくれれば構わないわ。それにいつでも相談にも乗るから。」
叔母は少しだけホッとした表情で、私に告げてきた。もしかしたら今まで何もできなかったことに、負い目を感じていたのかもしれない。
「ありがとう。」
私はもう一度お礼を告げて微笑むと、叔母も笑みを浮かべた。
その後は取り留めもない会話を交わして、のんびりとした時間が過ぎていくのだった。
翌日、マギルス領から帰る日がやってくる。それぞれの領地に帰るため、私と一緒の馬車で帰る顔ぶれは行きと変わらない。
見送りとして叔母とイリーナ、カイと数人の侍女と執事が来ている。
「イリーナのクラスメイトと話すことができて楽しかったわ。また機会があったらいらっしゃい。」
全員で「お世話になりました。」と、お礼を告げるとそれぞれの馬車に乗り込む。すると私が馬車に乗り込む直前に声をかけてきた。
「今度はリーファスも含めてお茶会をしたいわね。」
「ええ、いつになるかわかりませんが…必ず。」
今度3人でお茶会をすることを約束して、私たちは王都に向けて出発するのだった。
6
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。
イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる