王女の夢見た世界への旅路

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第5章 王女の学園生活

17 叔母様とのお茶会

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 マギルス領に滞在すること約半月、楽しかった休暇もそろそろ終わりを迎えることになる。

 領地を発つ前日、叔母のイベリスからお茶会に招待されているため、本邸を訪れていた。
 屋敷についてお茶会用の庭園に向かうと、叔母が既に待っているのが見える。

「お待たせしましたわ。叔母様。」

「わたくしも今来たところですから、構いませんよ。」

 対面に座ると、お茶を飲みながら話をする。席から離れたところに侍女が構えているため、2人だけの空間といった感じだ。
 おかげで普段よりも砕けた会話ができるだろう。

「こうしてのんびりと話せるのは良いわね…」

「そうですね。普段の社交の場ではこうは行きませんし…王都に来た際は是非、離宮にいらしてくださいな。」

「そうさせてもらうわ。前だったら、ラティアーナとわたくしの仲が良すぎると危ないかもと思っていたけれど…」

「わたくしの身は守れますから大丈夫です。」

 心配そうに見つめる叔母に笑みを浮かべて言った。

「そうね。今の…というか数年前からあなたは強くなったと思う。でもね、ここ2年ほどでエスペルト王国の情勢は、急劇に変化を見せているわ。」

「でしょうね…わたくしも表立っては情報を集めていないので、全てを知っているわけではありませんが……一部の貴族たちに王族に対する不信感が高まっているのを感じます。もっとも、各領に課している税を少しずつ上げた上で、国軍の派遣を抑えているのもありますから、当たり前とも言えますけど。」

「ラティアーナの言うとおりね。複数の諸外国から狙われている以上、国軍を中央に集めるのも利点はありますから。しかし、エスペルト王国全域に跨る魔術具…その本質の力を詳しく知る貴族は多くない。対外的に見れば悪手に見えるでしょう。」

 王都と国境都市は魔術具で繋がっているため、王建所有者であれば、秘匿通信だけでなく転移も可能となっている。
 もちろん転移には、最上位の権限が必要であることや、転移等で魔力を消費しすぎると結界の維持にも影響が出るなどの制約もあるため、多様はできないが一瞬で国軍を派遣できることもありかなり有利だ。
 税金にしても防衛に費用がかかると考えると、仕方のないことと言えなくもない。

「…これから先は、特に気をつけなさい。下手をすれば貴族の手先に襲われる可能性もあるのよ。」

「そうですわね。」

 話が重くなってきたため、お互いにお菓子を食べて気分を入れ替えた。

「さて、せっかくなのだから他の話もしたいわ。学園生活はどうかしら?」

「楽しいですよ。今まで同年代の付き合いはイリーナとアドリアスくらいでしたから。こんな風に一緒に出かけるというのは、いいものですね。」

 私は話しながら友人たちを思い浮かべた。クラスを超えて友人ができるとは思ってもいなかった。

「それは良かったわ。ラティアーナの場合、社交界では気が休まらないでしょう?本当の意味で信頼できる人ができたみたいで安心よ。」

「安心…ですか?」

「ええ。ティアラお姉様が亡くなった後、国王陛下もラティアーナのことを守ろうとしなかったわ。離宮には大切に思っている侍女や執事はいても、彼らでは守ることが難しい。あなたの場合はリーファスもいたから、離宮を守らなければならなかったでしょう?」

 叔母がたまにイリーナに向けているような表情で私のことを見つめている。今まで家族というものを感じることは少なかったが、私のことを大切に思ってくれているのが伝わってくる。

「ええ…お父様はわたくしのことを放置していて、身近に感じる人は少なかったです。でも…だからこそ、周りを大切にしたいとも思いました。」

 あの時は必死だったと思う。身近な人が離れていくのが嫌で、1人になる恐怖を感じて。

「その中でわたくしを庇った専属侍女が、大怪我を負いました。ただ離れていくだけじゃなく、死というものを思い出したわたくしは、なんとしても救いたかった。」

 リーナを失いたくないのも本心だったが、お母様を亡くした時のことが頭に過ぎったのもあったと思う。

「ええ、その話は聞いたわ。傷を完全に癒すほどの回復魔術は、魔力消費も制御も比べ物にならない。だから…お披露目の結果から、ラティアーナの身に起きた事情はなんとなくだけど察することができたのよ。」

 子に受け継ぐ魔力量や適性は両親の影響を受ける。王族と公爵家を両親に持つ私の魔力は、多少幅があったとしてもこれほど少なくなることなど普通はない。

「だから、ラティアーナに力を貸したかったけれど…レティシア様が近くにいる状況で、普段王都にいないわたくしが下手に動けば、あなたの身が危ないとも思ったわ。迂闊に動くことができなかったわ。」

 これは事実だろう。レティシアは私のことを警戒している。実際に証拠こそないものの、グランバルド帝国からの防衛戦のために移動していた私の馬車を襲ったのは、限りなく黒に近いのだから。

「ラティアーナには初めて伝えるけれど…我がマギルス公爵家はラティアーナ第3王女への助力を惜しむつもりはないわ。必要とあれば表明しても構わないと思っているのよ。」

「それはありがたいけど…大丈夫よ。今まで色々なことがあった分、様々な人と縁を得ることができたわ。離宮に来ていた教師や帝国との戦い、少し前にあったノーランド王国との外交。今ならわたくしは1人じゃないって思えるから。けれど……もし困った時は遠慮なく助けを求めるわ。」

「そう…わたくしたちがラティアーナの味方だってことを、覚えておいてくれれば構わないわ。それにいつでも相談にも乗るから。」

 叔母は少しだけホッとした表情で、私に告げてきた。もしかしたら今まで何もできなかったことに、負い目を感じていたのかもしれない。

「ありがとう。」

 私はもう一度お礼を告げて微笑むと、叔母も笑みを浮かべた。
 その後は取り留めもない会話を交わして、のんびりとした時間が過ぎていくのだった。



 翌日、マギルス領から帰る日がやってくる。それぞれの領地に帰るため、私と一緒の馬車で帰る顔ぶれは行きと変わらない。
 見送りとして叔母とイリーナ、カイと数人の侍女と執事が来ている。

「イリーナのクラスメイトと話すことができて楽しかったわ。また機会があったらいらっしゃい。」

 全員で「お世話になりました。」と、お礼を告げるとそれぞれの馬車に乗り込む。すると私が馬車に乗り込む直前に声をかけてきた。

「今度はリーファスも含めてお茶会をしたいわね。」

「ええ、いつになるかわかりませんが…必ず。」

 今度3人でお茶会をすることを約束して、私たちは王都に向けて出発するのだった。
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