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第5章 王女の学園生活
12 事件のあと
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実践演習で起きた事件のため、Aクラスは数日の間休みとなった。
ただでさえ慣れない人には辛い実践演習で、想定外の出来事と危険に晒されたため、生徒たちの心と体を休めることが目的だろう。
その中で帰還した日の翌日、私はアイリスに呼ばれたため教師用の個室に向かっていた。
「アイリス先生。ラティアーナです。」
「空いてます。入って来てくれるかしら?」
私は「失礼します。」と言いながら、部屋の中に入る。
「…要件は何でしょうか?」
「そちらにでもお座りください。お茶は…飲みます?」
「いただきますわ。」
席についてお茶を1口含んだ。
「さて、昨日の一件ですが…最近身の回りで、変わったことはありませんでしたか?」
アイリスの言葉に私は正直に話すか迷う。恐らく話したとしても止めることはできないし、下手をすれば危険が増すかもしれない。けれど同時に、対策を講じておくことができる可能性もある。
私はアイリスに話してみることにした。
「そうですね。身を狙われる心当たりはありますわ。…けれど先生に話すこと自体に、危険が伴うかもしれません。」
私の言葉に、アイリスが覚悟を決めた表情になる。
「ここ1、2年ほどわたくしを狙ってくる者が数人いました。単純に王女だから狙っているのか、或いはお父様の指示か正直なところはっきりはしませんが…」
「国王陛下がラティアーナさんを狙う…ですか?」
アイリスはお父様が私を狙うと言うのが、信じられないという顔をしている。けれど、私の中では黒に近いグレーだとも思っていた。
「最近お父様は、わたくしが王位を狙っていると思っています。元々はレティシア様だけが、わたくしを警戒して暗部を送って来たことがありました。けれど1度失敗したことを機に、様子見が続いています。」
それだけでも、かなりの驚きだったらしくアイリスが固まるが、さらに追い討ちをかけることになる。
「ですが最近のお父様は様子がおかしいです。王位争いを過剰に警戒して、この学園にも王国の影をいくつか派遣しているようです。今のところ様子見をしているだけのようですが、影以外の暗部を使っている可能性は否めません。」
「…それは正直なところ難しい問題ですね。暗部を使っている以上、表立って狙うことはないでしょうが止める手段はない。」
「ええ、わかっています。だからこそ他の人たちを護って欲しいです。わたくし1人では…限界がありますので。」
今回の事件がお父様の指示か別件かはわからない。けれど、学園が狙われるということは私だけじゃなくて、クラスメイトにも危険が降りかかることになる。
「それについてはもちろん。私たち教師は生徒を護るものよ。…ほかの教師には話せないからわたくしだけになりますが、全力を尽くします。」
「ありがとうございます。」
私はアイリスにお礼を告げて部屋を後にした。
その後は、平穏な日々が続いた。アドリアスとロアは3日ほどで回復し、スピカはそこから2日ほどで回復した。
事件から7日後、授業も再開し日常が戻った。
「まずは先日の実践演習についてですが、守れなくて申し訳ありませんでした。全員がこの場に再び揃えたことを嬉しく思います。さて、今後についてですが、あと少ししたら前期が終わり長期休暇に入ります。そして後期に入ってすぐに総合戦闘を競う大会があって、学園祭という流れですね。」
総合戦闘の大会は、まず学年内をトーナメント方式で戦い、最後に優勝者同士で戦うというものだ。事前に申請のあった武器のみ持ち込むことができ、武術と魔術を使った総合的な技術を競い合う。
そして学園祭というのは、音楽やダンスといった王侯貴族の嗜みを発表するというものだ。王都以外にある貴族も訪れるため、社交の意味合いが強い。
この日は、今後の流れを説明するだけに終わり、明日から授業が本格的に再開されることになった。
「ラティアーナ、この後少し付き合ってもらえないか?」
「構わないけど、どうしたのよ?」
「戦いの相手をして欲しい。長い間寝ていたから動きの調整をしたい。」
私とアドリアスは、修練場に移動する。使用許可さえとっていれば、授業以外でも使うことができるため、自主練習するのにとても便利だったりする。
2人して修練場に移動すると、アドリアスは魔槍を抜いた。
「武術主体の実戦方式で頼む。」
「わかったわ。」
私も辰月を抜いて構えた。
次の瞬間、同時に踏み込んでそれぞれの武器を振るう。刀と槍がぶつかり合って、音と衝撃が辺りを響かせた。
少しの間打ち合うと、お互いに距離を取る。
「大丈夫そうじゃない。」
「ああ、助かった。……実はもう1つ相談というか頼みがあるんだが…」
アドリアスにしては、はっきりとしない態度に首を傾げる。基本的に思ったことの中で、口に出すと決めたことははっきりと言う性格のため、とても珍しく感じる。
「どうしたのよ?」
「実は……スピカとの仲を取り持って欲しいんだ!」
アドリアスの意外な告白に、私は少しの間固まった。
ただでさえ慣れない人には辛い実践演習で、想定外の出来事と危険に晒されたため、生徒たちの心と体を休めることが目的だろう。
その中で帰還した日の翌日、私はアイリスに呼ばれたため教師用の個室に向かっていた。
「アイリス先生。ラティアーナです。」
「空いてます。入って来てくれるかしら?」
私は「失礼します。」と言いながら、部屋の中に入る。
「…要件は何でしょうか?」
「そちらにでもお座りください。お茶は…飲みます?」
「いただきますわ。」
席についてお茶を1口含んだ。
「さて、昨日の一件ですが…最近身の回りで、変わったことはありませんでしたか?」
アイリスの言葉に私は正直に話すか迷う。恐らく話したとしても止めることはできないし、下手をすれば危険が増すかもしれない。けれど同時に、対策を講じておくことができる可能性もある。
私はアイリスに話してみることにした。
「そうですね。身を狙われる心当たりはありますわ。…けれど先生に話すこと自体に、危険が伴うかもしれません。」
私の言葉に、アイリスが覚悟を決めた表情になる。
「ここ1、2年ほどわたくしを狙ってくる者が数人いました。単純に王女だから狙っているのか、或いはお父様の指示か正直なところはっきりはしませんが…」
「国王陛下がラティアーナさんを狙う…ですか?」
アイリスはお父様が私を狙うと言うのが、信じられないという顔をしている。けれど、私の中では黒に近いグレーだとも思っていた。
「最近お父様は、わたくしが王位を狙っていると思っています。元々はレティシア様だけが、わたくしを警戒して暗部を送って来たことがありました。けれど1度失敗したことを機に、様子見が続いています。」
それだけでも、かなりの驚きだったらしくアイリスが固まるが、さらに追い討ちをかけることになる。
「ですが最近のお父様は様子がおかしいです。王位争いを過剰に警戒して、この学園にも王国の影をいくつか派遣しているようです。今のところ様子見をしているだけのようですが、影以外の暗部を使っている可能性は否めません。」
「…それは正直なところ難しい問題ですね。暗部を使っている以上、表立って狙うことはないでしょうが止める手段はない。」
「ええ、わかっています。だからこそ他の人たちを護って欲しいです。わたくし1人では…限界がありますので。」
今回の事件がお父様の指示か別件かはわからない。けれど、学園が狙われるということは私だけじゃなくて、クラスメイトにも危険が降りかかることになる。
「それについてはもちろん。私たち教師は生徒を護るものよ。…ほかの教師には話せないからわたくしだけになりますが、全力を尽くします。」
「ありがとうございます。」
私はアイリスにお礼を告げて部屋を後にした。
その後は、平穏な日々が続いた。アドリアスとロアは3日ほどで回復し、スピカはそこから2日ほどで回復した。
事件から7日後、授業も再開し日常が戻った。
「まずは先日の実践演習についてですが、守れなくて申し訳ありませんでした。全員がこの場に再び揃えたことを嬉しく思います。さて、今後についてですが、あと少ししたら前期が終わり長期休暇に入ります。そして後期に入ってすぐに総合戦闘を競う大会があって、学園祭という流れですね。」
総合戦闘の大会は、まず学年内をトーナメント方式で戦い、最後に優勝者同士で戦うというものだ。事前に申請のあった武器のみ持ち込むことができ、武術と魔術を使った総合的な技術を競い合う。
そして学園祭というのは、音楽やダンスといった王侯貴族の嗜みを発表するというものだ。王都以外にある貴族も訪れるため、社交の意味合いが強い。
この日は、今後の流れを説明するだけに終わり、明日から授業が本格的に再開されることになった。
「ラティアーナ、この後少し付き合ってもらえないか?」
「構わないけど、どうしたのよ?」
「戦いの相手をして欲しい。長い間寝ていたから動きの調整をしたい。」
私とアドリアスは、修練場に移動する。使用許可さえとっていれば、授業以外でも使うことができるため、自主練習するのにとても便利だったりする。
2人して修練場に移動すると、アドリアスは魔槍を抜いた。
「武術主体の実戦方式で頼む。」
「わかったわ。」
私も辰月を抜いて構えた。
次の瞬間、同時に踏み込んでそれぞれの武器を振るう。刀と槍がぶつかり合って、音と衝撃が辺りを響かせた。
少しの間打ち合うと、お互いに距離を取る。
「大丈夫そうじゃない。」
「ああ、助かった。……実はもう1つ相談というか頼みがあるんだが…」
アドリアスにしては、はっきりとしない態度に首を傾げる。基本的に思ったことの中で、口に出すと決めたことははっきりと言う性格のため、とても珍しく感じる。
「どうしたのよ?」
「実は……スピカとの仲を取り持って欲しいんだ!」
アドリアスの意外な告白に、私は少しの間固まった。
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