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第5章 王女の学園生活
9 亜空間を通り抜けて
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転移と違い、空間の穴は亜空間を一時的に通るため、一瞬だけ真っ暗になる。
飛び込んだ瞬間、暗闇に包まれ視界が開けると、私たちは空にいた。
「これはまた…性格の悪いことですね。」
アイリスはそう呟いた。空間の穴は、自然に発生することはない。つまりは誰かが故意に繋いだということになる。
アイリスは魔術による風を、イリーナは魔術で重力をそれぞれ操作して、落下速度を軽減した。私も魔力障壁の足場を階段のように使って、徐々に降りる。
3人してゆっくり降下すると、私たちを不思議な感覚が襲う。
「っ!精神干渉に気をつけてください。」
アイリスが焦った声をあげた。
精神干渉に対して、アイリスとイリーナは闇属性魔術による精神強化をかけることで防ぎ、私は周りの感覚に飲み込まれないように、自我を強く保つことで対応する。
魔術による精神強化は、魔力消費が多いため私には向かないからだ。
「現れた魔物の種類と精神に干渉する森…おそらくここは惑いの森かしら?」
イリーナが周りを確認しながら問いかける。
「恐らくそうでしょうね。魔力が乱れているのがよくわかるわ。」
「…ここの魔力が森に流れていたせいで、通信魔術が阻害されていた可能性がありますね。ラティアーナさん、イリーナさん警戒を強めてください。探知系の魔術は意味をなさなそうです。」
アイリスが注意を促す。惑いの森では、以前龍脈が乱れた時と同様の事象が、常に起きているようなものらしい。高密度の魔力が乱れていて、通信や探知といった精度の高い魔力操作が必要なものは、影響を受けやすい。
「それにしても妙ですね。この魔力下で空間同士を繋がるなんて、並大抵のことではできないはず。」
私が不思議に思いながら呟くとアイリスが答えてくれた。
「むしろ逆かもしれませんね。転移と違って、空間を繋げる時さえうまくいけば、解除されるまでは繋がったままですから。」
アイリスの言葉に私とイリーナは納得した。
「さて、生徒たちを探さなくては。迷わないように気をつけていきましょう。」
3人して、森の中を探索を開始した。森の中は乱れた魔力の影響で霧に包まれていて、遠くまで見渡せなくなっている。そのため、近くに戦闘の痕跡や足跡などが残っていないか、確認をしながら進むことになる。
すると大きめの魔物の影が見えた。
「あの魔物は…ミノタウロスですね。こちらに気づかれてますし、戦うしかないようです。」
アイリスはそういうと、杖と短剣を構える。私とイリーナも構えると同時に、ミノタウロスは襲いかかって来た。
私たちは跳躍して散開する。その直後、先程までいた場所にミノタウロスの拳が激突した。
「流石の怪力ですわね。けれどそれだけですの。」
イリーナは距離をとりながら魔術を行使して、魔力の槍を放つ。ミノタウロスを目掛けて飛ぶ魔力の槍は、当たる直前で分裂し、細かい針になって突き刺さる。
ミノタウロスは全身に受けた痛みから悲鳴をあげて、一瞬動きが止まる。
「イリーナさん流石ですね。」
アイリスはイリーナを褒めながら、杖を掲げて魔術を短剣に付与して、同時に身体強化を用いて跳躍した。アイリスの短剣がミノタウロスに突き刺さると、付与された魔術を解放する。
短剣を基点に衝撃が迸るとミノタウロスは膝をつく。
その隙にアイリスは後方に跳躍して距離をとった。
「最後はラティアーナさんにお任せします。」
アイリスと入れ替わるようにして私も接近する。間合いに入ると同時に、辰月を抜刀して一閃する。するとミノタウロスは上下に分かれた。
「これで終わりですね。」
「では進みましょうか。2人とも大丈夫ですか?」
アイリスの確認に、私たちは問題ないと答える。そこからしばらく進むと、魔物の骸が見つかった。
「これは最近のものですね。近くにいるかも知れません。」
アイリスの言葉に、私たちも注意深く観察する。少しすると最近できたと思われる、何かを引きずったような跡が見つかった。
「この痕を辿りますか?」
私がそう聞くと、アイリスは悩む仕草を見せた。
「そうですね…この痕が生徒たちとは限りませんが、他に手がかりもないですし。魔物などの可能性もあるので、慎重に行きましょう。」
「「わかりました。」」
アイリスの言葉に私たちは頷く。
慎重に様子を伺いながら、痕を辿っていくと岩陰に人の姿が見えた。
「っ!3人とも大丈夫!?」
私たちは急いで駆け寄る。
「…先生にラティアーナとイリーナか。すまないが、無事とは言えないな。ロアは怪我を負って気を失っている。スピカは怪我こそないものの毒を受けた。」
アドリアスが顔を顰めながらも、詳しいことを教えてくれた。
アドリアスが助けに向かったときは、まだ無事だったらしい。いきなり高いところに出されたものの魔術を使って着地できたそうだ。
とはいえ、2人は空中を飛ぶ手段を持っていなかったため、立ち往生していた。ちょうどその時にアドリアスが降り立ったらしい。
アドリアスは2人を抱えて跳躍し、戻るつもりだったようだが、そこで想定外の事態が発生した。
惑いの森の中にいるとされている、最高位の魔物のヒュドラーが現れたらしい。
アドリアスも抗戦しようとしたが、9つの頭から放たれる猛毒や攻撃によって、ロアとスピカが戦闘不能になった。2人を庇いつつも、なんとかこの岩場まで逃げて来たそうだ。
ひとまず3人に対して、回復薬を飲ませる。毒を受けたスピカには、イリーナが聖属性による治癒をかけた。解毒はできないものの、多少はマシなはずだ。
応急処置を終えると、ここからどう脱出するかを考える。
「ヒュドラーがいるとなると…遭遇せずに逃げることが難しいですね。」
「先生は、ヒュドラーについて詳しいのですの?」
呟いたアイリスにイリーナは聞いてみた。
「ええ。強力な猛毒とその不死性から伝説とさえ言われています。龍の最上位種に並ぶかも知れませんね。」
龍の最上位となると以前戦った黒龍が該当する。とはいえ邪気によって理性を失っていたため、本当の意味でまともに戦ったことはない。比べてもあまり意味はないだろう。
「アドリアスさんは2人をお願いしますね。帰り道はわたくしとラティアーナさん、イリーナさんで守ります。」
アドリアスは怪我のせいで動けるものの、戦闘を行うことは難しい。だからこそ気を失っている2人を任せて、私たちは戦いに集中することにした。
「では戻りましょうか。」
私たちは元の場所に戻るために歩き出した。
飛び込んだ瞬間、暗闇に包まれ視界が開けると、私たちは空にいた。
「これはまた…性格の悪いことですね。」
アイリスはそう呟いた。空間の穴は、自然に発生することはない。つまりは誰かが故意に繋いだということになる。
アイリスは魔術による風を、イリーナは魔術で重力をそれぞれ操作して、落下速度を軽減した。私も魔力障壁の足場を階段のように使って、徐々に降りる。
3人してゆっくり降下すると、私たちを不思議な感覚が襲う。
「っ!精神干渉に気をつけてください。」
アイリスが焦った声をあげた。
精神干渉に対して、アイリスとイリーナは闇属性魔術による精神強化をかけることで防ぎ、私は周りの感覚に飲み込まれないように、自我を強く保つことで対応する。
魔術による精神強化は、魔力消費が多いため私には向かないからだ。
「現れた魔物の種類と精神に干渉する森…おそらくここは惑いの森かしら?」
イリーナが周りを確認しながら問いかける。
「恐らくそうでしょうね。魔力が乱れているのがよくわかるわ。」
「…ここの魔力が森に流れていたせいで、通信魔術が阻害されていた可能性がありますね。ラティアーナさん、イリーナさん警戒を強めてください。探知系の魔術は意味をなさなそうです。」
アイリスが注意を促す。惑いの森では、以前龍脈が乱れた時と同様の事象が、常に起きているようなものらしい。高密度の魔力が乱れていて、通信や探知といった精度の高い魔力操作が必要なものは、影響を受けやすい。
「それにしても妙ですね。この魔力下で空間同士を繋がるなんて、並大抵のことではできないはず。」
私が不思議に思いながら呟くとアイリスが答えてくれた。
「むしろ逆かもしれませんね。転移と違って、空間を繋げる時さえうまくいけば、解除されるまでは繋がったままですから。」
アイリスの言葉に私とイリーナは納得した。
「さて、生徒たちを探さなくては。迷わないように気をつけていきましょう。」
3人して、森の中を探索を開始した。森の中は乱れた魔力の影響で霧に包まれていて、遠くまで見渡せなくなっている。そのため、近くに戦闘の痕跡や足跡などが残っていないか、確認をしながら進むことになる。
すると大きめの魔物の影が見えた。
「あの魔物は…ミノタウロスですね。こちらに気づかれてますし、戦うしかないようです。」
アイリスはそういうと、杖と短剣を構える。私とイリーナも構えると同時に、ミノタウロスは襲いかかって来た。
私たちは跳躍して散開する。その直後、先程までいた場所にミノタウロスの拳が激突した。
「流石の怪力ですわね。けれどそれだけですの。」
イリーナは距離をとりながら魔術を行使して、魔力の槍を放つ。ミノタウロスを目掛けて飛ぶ魔力の槍は、当たる直前で分裂し、細かい針になって突き刺さる。
ミノタウロスは全身に受けた痛みから悲鳴をあげて、一瞬動きが止まる。
「イリーナさん流石ですね。」
アイリスはイリーナを褒めながら、杖を掲げて魔術を短剣に付与して、同時に身体強化を用いて跳躍した。アイリスの短剣がミノタウロスに突き刺さると、付与された魔術を解放する。
短剣を基点に衝撃が迸るとミノタウロスは膝をつく。
その隙にアイリスは後方に跳躍して距離をとった。
「最後はラティアーナさんにお任せします。」
アイリスと入れ替わるようにして私も接近する。間合いに入ると同時に、辰月を抜刀して一閃する。するとミノタウロスは上下に分かれた。
「これで終わりですね。」
「では進みましょうか。2人とも大丈夫ですか?」
アイリスの確認に、私たちは問題ないと答える。そこからしばらく進むと、魔物の骸が見つかった。
「これは最近のものですね。近くにいるかも知れません。」
アイリスの言葉に、私たちも注意深く観察する。少しすると最近できたと思われる、何かを引きずったような跡が見つかった。
「この痕を辿りますか?」
私がそう聞くと、アイリスは悩む仕草を見せた。
「そうですね…この痕が生徒たちとは限りませんが、他に手がかりもないですし。魔物などの可能性もあるので、慎重に行きましょう。」
「「わかりました。」」
アイリスの言葉に私たちは頷く。
慎重に様子を伺いながら、痕を辿っていくと岩陰に人の姿が見えた。
「っ!3人とも大丈夫!?」
私たちは急いで駆け寄る。
「…先生にラティアーナとイリーナか。すまないが、無事とは言えないな。ロアは怪我を負って気を失っている。スピカは怪我こそないものの毒を受けた。」
アドリアスが顔を顰めながらも、詳しいことを教えてくれた。
アドリアスが助けに向かったときは、まだ無事だったらしい。いきなり高いところに出されたものの魔術を使って着地できたそうだ。
とはいえ、2人は空中を飛ぶ手段を持っていなかったため、立ち往生していた。ちょうどその時にアドリアスが降り立ったらしい。
アドリアスは2人を抱えて跳躍し、戻るつもりだったようだが、そこで想定外の事態が発生した。
惑いの森の中にいるとされている、最高位の魔物のヒュドラーが現れたらしい。
アドリアスも抗戦しようとしたが、9つの頭から放たれる猛毒や攻撃によって、ロアとスピカが戦闘不能になった。2人を庇いつつも、なんとかこの岩場まで逃げて来たそうだ。
ひとまず3人に対して、回復薬を飲ませる。毒を受けたスピカには、イリーナが聖属性による治癒をかけた。解毒はできないものの、多少はマシなはずだ。
応急処置を終えると、ここからどう脱出するかを考える。
「ヒュドラーがいるとなると…遭遇せずに逃げることが難しいですね。」
「先生は、ヒュドラーについて詳しいのですの?」
呟いたアイリスにイリーナは聞いてみた。
「ええ。強力な猛毒とその不死性から伝説とさえ言われています。龍の最上位種に並ぶかも知れませんね。」
龍の最上位となると以前戦った黒龍が該当する。とはいえ邪気によって理性を失っていたため、本当の意味でまともに戦ったことはない。比べてもあまり意味はないだろう。
「アドリアスさんは2人をお願いしますね。帰り道はわたくしとラティアーナさん、イリーナさんで守ります。」
アドリアスは怪我のせいで動けるものの、戦闘を行うことは難しい。だからこそ気を失っている2人を任せて、私たちは戦いに集中することにした。
「では戻りましょうか。」
私たちは元の場所に戻るために歩き出した。
応援ありがとうございます!
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