王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第5章 王女の学園生活

6 実践演習の開始

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 ついに学園都市の外で行う、実践演習の時期となった。

「明日から実践演習となります。実践演習では馬車を使って指定の場所まで移動し、そこから3日間魔物がいる森で野営をしながら目標地点へ向かってもらいます。教員も巡回はしていますが、基本的には生徒のみで対処していただきますので、そのつもりでお願いしますね。緊急事態の場合は、後から渡す通信魔術具で一報をお願いします。」

 アイリスは一息ついて、見渡した。

「グループ分けは、ラティアーナさん、イリーナさん、アルマクさん、カイさん、ロナさんで1つ。もう1つがアドリアスさん、ブラッドさん、カトレアさん、スピカさん、ロアさんです。リーダーには、アルマクさんとスピカさんをそれぞれ指名します。今日は授業を行いませんので、グループ内でよく打ち合わせをしてください。実習の詳細は、渡した用紙を見るように。」

 アイリスから説明を受けた後にグループごとに分かれることになる。グループは実力と男女でばらつきがでないように決められたようだった。
 早速5人ずつになって話し合いを始める。

「では、役割分担を決めましょうか。」

 アルマクの言葉から話し合いが始まる。アルマクは優しい雰囲気を持つ男性で、攻防ともに得意とする魔術士志望だ。

「このグループだと…前衛はラティアーナ様とカイさん、後衛はイリーナ様、私、ロナさんですよね。」

「森みたいに囲まれる可能性のある場所で、前衛2人は少ないわ。わたくしも前衛になりましょう。」

 アルマクの話した布陣にイリーナが修正を加えた。本来前衛になるのは騎士が多いが、魔術士であっても近距離戦闘ができれば問題ない。

「わかりました。前衛3人と後衛2人で行きましょう。この中で魔物との戦闘経験がある方って誰でしたっけ?」

 アルマクが周りに聞くと、私とイリーナとカイが返事をした。

「なるほど…私は見学はしたことがあっても、直接戦ったことはないですね。ロナさんは?」

「私も孤児院の人に戦い方を教わっただけなので、初めてです。」

 ロナは自信なさそうに答える。

「2人が慣れるまでは、わたくしたちで支えるわ。だから落ち着いて励みなさい。」

 私がそう言うとイリーナもうなずいた。カイも「がんばります。」と小声で呟いている。

「準備が必要なものってなにかありますか?」

 ロナが不安そうに質問すると

「食料や野営に必要な物資は支給されるそうなので、絶対に必要なものはないと思います。ただし、持っていきたい物があれば別ですね。」

 アルマクが答えて、ロナとカイがほっとした表情を見せた。
 その後は試験場に移動して、簡単に立ち回りを確認していった。



 翌日学園にあつまった私たちは、馬車に乗って半日ほど移動すると、目的の場所に到着した。

「ここが開始地点です。目標地点は地図に書いていますが、慣れている人であれば2日あれば到達できます。皆さんで協力しあうように。では、開始!」

 開始の合図を聞いて、私たちは森の中へ入っていく。
 この辺りは雑木林のようになっていて、細い獣道がいくつかあるようだった。森の外周では魔物に遭遇しないが、少し奥に入ると遭遇する頻度が増えてくる。

「前からサングリーボワが3頭来ます。」

 カイの言葉に警戒が強まる。サングリーボワというのは、長くて丈夫な角を持った猪みたいな魔物で、突進によって串刺しにしてくる特徴がある。

「私とロナで牽制する。その後は3人とも頼む。」

「「「了解。」」」

 アルマクが指揮をして、私とイリーナ、カイが返事をする。
 アルマクは地面から瓦礫の弾丸を生み出し、ロナも風の弾丸を作る。ロナは回復や防御を得意としていたが、この3月の間でいくつか攻撃用の魔術も習得していた。どちらかというと牽制目的だが、魔物相手であれば攻撃手段にもなり得るだろう。
 瓦礫と風の混合弾が、サングリーボワに命中し2頭倒した。残りの1頭も致命傷に近いがまだ動いている。

「俺がやります。」

 カイはそう告げると身体強化を使って、一気に接近しそのまま剣を振り抜いた。サングリーボワは、そのまま両断されて地面に落ちる。

「こちらも終わりですね。」

 カイは周りを見渡しながら剣を納める。

「3人の連携も様になってきたわね。」

 今のところ私とイリーナが、アルマクとロナを少し外側で守って、カイが前に出て戦うようにしていた。
 最初の頃は魔物に接近されることが多くて、私とイリーナが迎撃を行っていたが、今は3人だけで済むことが多くなっている。

「このまま進みますわよ。日中にできるだけ進んで、早めに野営の場所を探さなくては。」

 このまま5人でさらに進んでいく。日が暮れ始める頃、水場を見つけたため、野営の場所にすることにした。

「私とカイさん、ロナさんで設営するので、ラティアーナ様とイリーナ様には魔物除けをお願いしてもいいですか?」

「「もちろんよ。」」

 3人がテントの準備をしている間、魔物除けの魔術具を設置していく。支給されたもののため、簡易式のものだが一晩程度であれば貯めてある魔力で、効力を発揮するものだ。

「魔物除けの設置は終わったわ。2人で食料調達行こうかと思うのだけどいいかしら?」

 私が3人に聞くと、「ぜひお願いします。」との返事が聞こえる。

「半刻くらい行ってくるわね。何かあったら合図をお願いね。」

 私とイリーナの2人で、食料を探しに森の中を入っていった。



「オークでもいればいいんだけど…いるかしら?」

「どうかしらね…ゴブリンとかはいたけど。」

 2人で話しながら周りを探索する。魔物の肉は毒がない限りは食べることができる。ただゴブリンなどは雑食なため臭みが強い。同じ雑食でも動物の肉を食べないオークの肉は、比較的美味しかったりする。
 それからしばらく歩き回っても、オークが見当たらなかった。

「もうそろそろ戻りましょうか。」

 私がそう言うとイリーナも頷く。
 戻ろうとした時、サングリーボワと遭遇した。

「あれで妥協する?」

「そうね…他の魔物よりはマシだと思うわ。」

 2人して頷くと、イリーナが魔力の刃を放ちとどめを刺す。私も魔物が土に還る前に食料を確保した。



 野営地に戻ると、テントの設営が終わっていた。

「「ただいま戻ったわ。」」

「「「おかえりなさい。」」」

 2人して帰ると3人が出迎えてくれた。
 とってきた肉や山菜を調理して、携帯用の食料と共に皆で食べる。

 こうして、実践演習の初日が終了した。
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