王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第4章 無慈悲な大陸と絶望の世界

11 今の全力をこの一瞬に

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 私とマハトとの戦いは、徐々に膠着状態になりつつあった。

(相手の方が速くて重い…でも負けるわけには行かないわ!相手の手足の動きを、重心を観察する。見える範囲の筋肉の動きや目線、魔力の動き、今までの戦い方を合わせて…次の動きを予測する。相手の戦い方を理解する。相手の思考を、感情をも読み取って、一手先を取る!)

 ラティアーナはユリア先生から魔術を教わったくらいで、戦いについては教わったことはない。その中で、強くなりたいと思ったからこそ、周りをよく観察していた。身近にいた騎士や軍人、今までに出会った冒険者や帝国将軍といった敵味方含め、無意識のうちに戦い方や技術を覚えていった。そして、覚えたものを自己流に昇華させたものが、今の剣術や体術になる。
 無意識にやってたことを意図的に行うことで、ラティアーナの動きは時間が経つごとに、最適化されていく。

 これにはマハトも内心で驚愕していた。

(馬鹿な!?こちらの動きを読んだ上で、しかも我々の動きも取り込んでいる…異常な速さで強くなり続けている!)

 マハトは魔力を放出してぶつけてくる。私は、避けるために一旦距離をとった。

「…認めよう。お前は今まで出会った人間の中で一番強い!我が魔眼を持って全力で相手しよう。」

 マハトの眼に魔力が集まり、動きが変わった。速くなったわけではないが、私の攻撃が当たらなくなりマハトの攻撃が私を捉えるようになる。攻撃を受け続けるわけにも行かないため、魔術の炎を放ちながら一旦距離をとった。

「はぁはぁ…」

 肩を上下に揺らしながら息を整える。

(身体能力は変わらない。まるで私の攻撃を読んでいるような…考えを読み取る能力、もしくは予知?)

 マハトの魔眼の能力が分からないため予測しつつ情報を集める。その後も何度も刀を振るうが結果は同じで、こちらが攻撃を受けるだけになるだけだった。
 私は銀月を納刀すると両手に短剣を構えて振るう。刀よりも手数を増やすが、やはり結果は変わらない。

(おそらくこちらの考え読まれてないはず…魔眼であれ他のものであれ、魔術による干渉と原理は同じ。精神干渉された形跡も精神防御を突破された感覚もない。断定はできないけど、予知の可能性が高いかな。)

 私は短剣を振るいながら相手の能力を探るために、仕掛けることにした。術式を構築した状態で待機させる。少ししてから、構築した術式に魔力を流す。展開された2層の上級魔術によってマハトを中心に、豪炎の柱が包み込むはずだった。マハトは、私が魔力を込める直前に範囲外へ跳躍して、退避していたのだ。

(魔力を込めるまでは、気づかれないはず。ほんの一瞬先を見ることができるのかしら?)

 今の動きを見て、下級魔術による弾幕を張ることにする。炎の弾丸を展開して一斉に射出した。炎を選択したのは、魔装で覆っていても熱は防げないからである。
 魔族の場合、あの程度の熱では大したダメージにならないが、マハトは予め射線が分かっているかのように全て避けた。私はそのまま、マハトを360度囲むように炎の弾丸を撃ち続ける。

(方向によって、反応するまでに若干の差があるわね。恐らく予知できるのは、視界に入っているもののみ。後は、直接視えている必要があるかどうか…)

 私の背中ぎりぎりに炎の弾丸を生成する。そのまま短剣を構えて、マハトに対して突撃し3回ほど斬りあわせた後、上方に跳躍した。同時に背中に隠していた炎の弾丸をマハトにぶつける。マハトが炎の弾丸に反応を示したのは、私が跳躍した直後だった。

(マハトの魔眼は、直接見える範囲の一瞬先の未来を予知するものだと思う。もしかしたら、まだ見せてない部分があるかもしれないけど…そろそろ破らないといけないわね。)

 決着をつけるために、周囲の魔力と自身の魔力を合わせることで、身体強化を私の身体が許容できる最大まで上げる。短剣をしまって銀月と夜月の二刀持ちにして魔装を使う。夜月による身体能力の向上ともあわせることで、予知を行うマハトの動きに追いつくことができた。さらに夜月から放たれる斬撃であれば、マハトの防御力を突破できるらしく、浅い傷だが負わせることができるようになった。
 超高速での攻防は、ずっと続くかのように思われたが、マハトが放った膨大な魔力に私は、叩きつけられる。

「っ!?」

 私の全身を襲った衝撃によって、何本か骨が砕けた上に内臓も傷ついたらしく口から血が零れてくる。それでも、痛みを無視してマハトの元へ突撃した。強化された身体能力に加えて、足を踏み出す際に足裏から魔力を放出し、加速魔術を併用することで、爆発的な速度を実現する。そしてすれ違うように2刀で斬り裂いた。
 今の攻撃でマハトは、片腕を失い脇腹を大きく斬り裂かれた。とめどなく血も流れているが、まだ闘志は衰えていない。
 お互いに、傷だらけで血を流しながらも構えた状態で向き合う。恐らく次が最後のやり取りになるだろう。
 マハトは、今まで以上に魔力を収束させていく。対して私は、納刀して夜月の柄に手をかける。抜刀の構えを取った状態で、身体強化にまわしている魔力以外の全てを夜月に喰わせる。
 直後、同時に動き出した。私は斬るために前へ進み、マハトは収束させた魔力を放出した。斬撃と魔力がぶつかりあってすこしの間、拮抗するが…
 私の刀が魔力を斬り裂いた。そのまま返しの刀で袈裟切りにする。
 マハトは致命傷を受けて喀血しながら膝をついた。

「…まさか人間に相手に敗れるとはな。」

「私の残り全ての力を込めた一撃を受けて、まだ生きてることに驚いたわ。」

 私は、刀を杖代わりにしてマハトを見る。全身の痛みに襲われて、話すたびに血が込み上がってくるが、まだ倒れるわけにも意識を手放すわけにもいかない。

「…安心しろ。魔族は、聖属性の魔力を使えないから、この傷であれば治療もできない。十分致命傷だ…」

「…淡々と話すことじゃないでしょうに。」

 私が少し呆れながら言うと、マハトは苦笑いをしながら言葉を返す。

「俺達魔族は、実力主義だ。戦いの結果であれば如何様にも受け止める。お前は誇ると良い。称号持ちの魔族を倒したのだから…」

 それだけ話すとマハトは目を閉じた。完全に力尽きたようだった。

(この結末に後悔があるわけじゃないけど…あなたのことは忘れないわ。だから…せめてゆっくり眠りなさい。)

 私はその場で倒れるようにして、仰向けになった。
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