王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
78 / 475
第4章 無慈悲な大陸と絶望の世界

5 繋がる先は

しおりを挟む
 かつて街だった場所も抜けて、5日程さらに進むと遺跡は迷宮のような造りになっていた。至る所に罠があったりゴーレムがいたりするため、今まで以上に注意が必要だ。
 今も通路を通った瞬間、巨大な玉が転がってきて私達を轢こうとしている。

「罠が面倒ですね。」

 アルキオネは呟きながら魔術で簡単な坂を作った。坂の陰に3人にして隠れていると勢いよく転がる玉は、坂をジャンプ台の代わりにして、私達の頭上を通り過ぎていった。

「いちいち避けたり逃げたりしても、きりがないわ。最低限の対処で進みましょう。」

 通ってきた道には、物理的な傷をつけていく。風の流れから行き止まりや元の場所に戻らない通路を選んでいるが、念のためのマーキングだ。しばらく通路を進み、角を曲がると同時に…無数の矢が飛んできた。

「この程度っ!」

 シリウスが魔術で風の障壁を作り、強引に矢の軌道を逸らす。矢が飛んで来なくなったことを確認して通路を進むと、天井から通路の横幅と同じくらいの刃が落ちてきた。

「私が斬るわ。」

 私は銀月を抜刀し、落ちてきた刃を両断する。刃が2つに分かれて地面に落ちた直後、いきなり天井が降りてきた。

「ここは俺が。」

 シリウスが魔槍を天井に突き刺して、風を爆発させる。突き刺した所を中心に、天井が砕かれる。更に地面がいきなり開いて、突然の浮遊感に襲われた。
 私は魔力による足場を、シリウスは風による飛行を、アルキオネは魔力の鎖を生み出して、それぞれ近くの地面まで移動する。

「3重の罠とか…いよいよ本気でかかってきたわね。」

 私は一息吐いてさっきまでいた場所を眺める。

「そうですね。今まで以上に殺気を感じる罠でした。」

 アルキオネも後ろを眺めながら同意した。

「罠が多くなっているということは、方向は合ってるとも言えるでしょう。」

 シリウスは、前を向いて警戒を強める。多くなってきた罠に対処するためにより注意が必要だろう。
 そのまま警戒しつつ前に進み、ようやく広場のような空間に出ることができた。

 そこは今まで以上のゴーレムで埋もれていた。私達を見つけたようで一斉に襲いかかってくる。

「2人とも時間稼ぎよろしく!カウント20で。」

 シリウスとアルキオネは、無言で頷いて遠距離のゴーレムを風で牽制しつつ、近距離の相手を槍と剣で屠っていく。
 私はその間に周囲の魔力を使って魔術を構築していく。目の前に5層に並ぶ術式が展開され、それぞれの役割を果たす。

(1層目で周囲の魔力を収束。2層目は魔力の指向性付与…前方への一点収束投射。続く3層目と4層目で魔力砲撃の威力強化。最終の5層目…照準調整。5連術式を一斉稼働!)

 魔力が限界まで収束する。そして…

「退避!」

 私の合図で2人が後方に下がる。同時に展開した魔術を解放する。照準通りに魔力の奔流が駆け巡って、軌道上のゴーレムを消しとばす。更に術式を横に回転させて、辺り一体を薙ぎ払った。衝撃と閃光が突き抜けて煙が晴れると、敵は全て消え去った。

「はぁ、はぁっ…外の魔力を使っていても消耗が激しいわね…連発はできないけど、威力と攻撃範囲は申し分ないでしょう!」

 息を整えながら周りを確認する。

「流石ですね。ゴーレムは全滅したようです。」

「姫様のおかげで大分楽をできました…魔力ポーションをどうぞ。」

「ありがとう。では行きましょうか。」

 アルキオネがくれた薬を飲みながら前へ進む。遺跡の仕掛けが、最初の頃よりも過激になっていくのを感じていた。もしかしたら、この先に護りが必要な何かがあるのかも知れない。
 更に進むと扉が見えてきた。

「ん?押しても引いてもびくともしないですね?」

 シリウスが扉に手を当てて試している。身体強化をかけた状態でもびくともしないようだ。

「鍵とかもなさそうなのよね?」

 私も扉を観察するが鍵穴の一つも見つからなかった。

「仕方ありませんね。斬りますか。」

 アルキオネは、剣を抜いて身体強化し縦に振る。次の瞬間、扉が2つに分かれて奥に倒れた。
 奥には上に登る階段が見えている。そのまま、階段を登っていくと一つの部屋があった。

「行き止まり…ですか?」

 アルキオネが先に部屋の中を入り、周りを見回している。それなりの広さがあって、四方が壁になっているようにしか見えなかった。

「姫様。これってまだ使えますか?」

 シリウスがしゃがみこんで、地面を観察している。詳しく見てみると、術式が刻んであるように見えた。

「これは…転移系の術式ね。私が知っているものと若干違うけど、起動させると指定されているどこかの場所に転移すると思うわ。自動的に装填されてる魔力が使われるみたいだけど、消費魔力が少ないから短距離の転移だと思う。」

 魔術の術式というのは、計算式に近い。計算方法に違いがあっても結果が一緒になるのと同じで、術式の構成は多岐にわたる。また、術式の構成からある程度効果を読み取ることも可能だ。

「転移ですか…他に道もなさそうですし転移先がどうなっているかは読めないですが行きますか?」

 シリウスが悩みながら聞いてくる。風による探知では、他に地上に抜けていそうな道は見当たらなかったらしい。絶対にないとまでは断言できないそうだが、可能性は低いだろう。

「転移先には少なくも、魔術を無効化する仕掛けや特殊な結界はないはずよ。仮に敵に囲まれても…私達なら切り抜けられる可能性が高いと思う。」

 特定の空間に対して魔力を分解することで魔術を封じる仕掛けは、転移自体も無力化してしまう。王城にあるような強力な結界も、転移を遮るため気にしなくて良いだろう。

「行きましょう。私達なら、なんとかなると思うわ。」

 シリウスとアルキオネがうなずくのを確認して、私達は術式の上に載る。術式を起動させると光に包まれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...