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第4章 無慈悲な大陸と絶望の世界
2 街の外へ
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出発する日の朝、私達は宿を引き払って街の門へ向かう。食料の備蓄も道具の補充も完了している。魔力濃度にも慣れたため、動きにも制約はない。
(むしろ私の場合、収束魔術が使いやすい。魔力の回復も早いから多少魔術を連発しても問題なさそうね。)
足りない分を周囲の魔力で補う私には、この環境は相性がいいと言えるだろう。発動時間を犠牲にすれば上級魔術を連発することも可能だし、半日もあれば魔力が全回復する。体の負担さえ度外視すれば、意図的に魔力を取り込んで回復を早めることも可能だ。
街の外へ出る門へ向かい、外へ出るための手続きを行う。
「3人で街の外へ出るなんて許可できない。2人は成人しているとは言ってもまだ若い。もう1人だってまだ幼い少女だ。危なすぎる。」
門番の人も善意で言ってるのはわかっているけど、今回に関しては面倒な事態になった。少し粘れば通してくれると思っていたが、職務に真面目な人らしい。
「俺たちはどうしても北の大陸へ向かわないと行けないんです。通る許可を頂けませんか?絶対に通しては行けないわけではないんですよね?」
シリウスの問いに門番の人が言葉に詰まる。恐らくだが安全のために止めているだけで、絶対に通しては行けないというお達しは出てないのだろう。
「そこまで言われちゃ仕方ないか…危険を感じたらすぐ逃げるんだぞ。」
「こちらこそ、善意で言ってくれているのにすいません。安全第一で行きますので…通してくれてありがとうございます。」
お礼を告げて、門から外へ出る。北の大陸に向けて長い旅が始まるのだった。
街の近くは、衛兵たちが定期的に巡回していることもあり魔物と遭遇することはなかった。
そして約半日が過ぎたころ、この大陸についてから初めての魔物と遭遇することになる。
「前方にゴブリンの群れが20頭ほどいますね。」
「このまま進みますか?」
私達は、シリウスを進行方向を哨戒し私とアルキオネが他の方向を哨戒する布陣で進んでいた。
このまま前進すればゴブリンとの戦闘は避けられないだろう。ゴブリンには気づかれていないため、転身すれば戦闘は回避可能だ。
「魔物の強さを見たいから一通りは戦いたいわ。念のため様子見を最優先にして、このまま進みましょう。」
アルキオネに言葉を返して、そのまま歩いていく。するとゴブリン達も私達に気づいたらしく、鳴き声を上げながら接近してきた。
私たちは散会してゴブリンの群れに相対する。私は一番近くにいたゴブリンに短剣で斬りかかる。すばやく振りかぶった一撃は、ゴブリンを浅く斬り裂いた。手を振り回して反撃してくるが、すれすれのところで躱し続けて2度短剣で斬る。致命傷を与えたことでゴブリンは倒れて動かなくなった。
(身体強化と魔装なしだとなかなかの硬さね。急所を狙いならどうかしら?)
次に襲ってくるゴブリンの攻撃を避けて、急所を一刺しした。硬いといっても鱗や甲殻はないため、一撃で倒せた。
シリウスやアルキオネも様子見しながらも順調に倒している。ゴブリンの群れは、時間を経たずに全滅した。
「確かに強いけど問題なさそうね。」
私がほっとしたように言うと、シリウスが頷いてくれた。
「そうですね。魔力を使わなくても問題なさそうです。」
更にしばらく進むと、川の近くに出た。日も暮れてきたため野営の準備をする。
「これが新型のテントですか!?」
テントを取り出すとアルキオネが身を乗り出して聞いてきた。
「そうよ。特注で作ってもらった空間拡張の魔術を刻んだテントなの。」
空間拡張というのは、魔法袋にも使われている内部の空間を広げる技術だ。魔法袋は、重量を軽くした場合に常時魔力を消費する。対してテントは、拡張時と元に戻す時のみ魔力が必要で、維持するための魔力は必要ないためとても便利だった。
テントの準備が完了する頃には、シリウスが食事の用意をしてくれた。肉は基本的に現地調達になるため、穀物と乾燥した野菜が主食となる。
「それにしても…話には聞いてましたけど、姫様って慣れてますよね?」
「…?帝国戦で長い間一緒に生活してたじゃない。」
シリウスの言葉にピンとこなかったため頭を傾げていると、アルキオネが教えてくれた。
「軍の野営でも王族や上位貴族だと専属の料理人を連れている場合がほとんどです。連れていくことができない下位の貴族でさえ、こういった簡単な食事を嫌がりますから。」
「もちろん美味しいに越したことはないけど…仕方ないからね。それに日持ちする調味料は持ち込んでるから軍で使ってる携帯用食料よりは良いでしょう?」
携帯用食料というのは、固形食料に水をかけて食べるものだが、持ち運びのしやすさと時間、栄養を優先した代わりに味を犠牲にしていることで有名らしい。
食事を終わって寝るための準備をする。テントに念のため防御結界を張り、さらに広い範囲に侵入察知用の結界と魔物避けの結界を張る。万が一魔物が接近した場合でも、登録した人に電流が流れるような感覚が入るため、寝ていても気づくことができる。
北の大陸は向かう旅の初日が幕を閉じた。
(むしろ私の場合、収束魔術が使いやすい。魔力の回復も早いから多少魔術を連発しても問題なさそうね。)
足りない分を周囲の魔力で補う私には、この環境は相性がいいと言えるだろう。発動時間を犠牲にすれば上級魔術を連発することも可能だし、半日もあれば魔力が全回復する。体の負担さえ度外視すれば、意図的に魔力を取り込んで回復を早めることも可能だ。
街の外へ出る門へ向かい、外へ出るための手続きを行う。
「3人で街の外へ出るなんて許可できない。2人は成人しているとは言ってもまだ若い。もう1人だってまだ幼い少女だ。危なすぎる。」
門番の人も善意で言ってるのはわかっているけど、今回に関しては面倒な事態になった。少し粘れば通してくれると思っていたが、職務に真面目な人らしい。
「俺たちはどうしても北の大陸へ向かわないと行けないんです。通る許可を頂けませんか?絶対に通しては行けないわけではないんですよね?」
シリウスの問いに門番の人が言葉に詰まる。恐らくだが安全のために止めているだけで、絶対に通しては行けないというお達しは出てないのだろう。
「そこまで言われちゃ仕方ないか…危険を感じたらすぐ逃げるんだぞ。」
「こちらこそ、善意で言ってくれているのにすいません。安全第一で行きますので…通してくれてありがとうございます。」
お礼を告げて、門から外へ出る。北の大陸に向けて長い旅が始まるのだった。
街の近くは、衛兵たちが定期的に巡回していることもあり魔物と遭遇することはなかった。
そして約半日が過ぎたころ、この大陸についてから初めての魔物と遭遇することになる。
「前方にゴブリンの群れが20頭ほどいますね。」
「このまま進みますか?」
私達は、シリウスを進行方向を哨戒し私とアルキオネが他の方向を哨戒する布陣で進んでいた。
このまま前進すればゴブリンとの戦闘は避けられないだろう。ゴブリンには気づかれていないため、転身すれば戦闘は回避可能だ。
「魔物の強さを見たいから一通りは戦いたいわ。念のため様子見を最優先にして、このまま進みましょう。」
アルキオネに言葉を返して、そのまま歩いていく。するとゴブリン達も私達に気づいたらしく、鳴き声を上げながら接近してきた。
私たちは散会してゴブリンの群れに相対する。私は一番近くにいたゴブリンに短剣で斬りかかる。すばやく振りかぶった一撃は、ゴブリンを浅く斬り裂いた。手を振り回して反撃してくるが、すれすれのところで躱し続けて2度短剣で斬る。致命傷を与えたことでゴブリンは倒れて動かなくなった。
(身体強化と魔装なしだとなかなかの硬さね。急所を狙いならどうかしら?)
次に襲ってくるゴブリンの攻撃を避けて、急所を一刺しした。硬いといっても鱗や甲殻はないため、一撃で倒せた。
シリウスやアルキオネも様子見しながらも順調に倒している。ゴブリンの群れは、時間を経たずに全滅した。
「確かに強いけど問題なさそうね。」
私がほっとしたように言うと、シリウスが頷いてくれた。
「そうですね。魔力を使わなくても問題なさそうです。」
更にしばらく進むと、川の近くに出た。日も暮れてきたため野営の準備をする。
「これが新型のテントですか!?」
テントを取り出すとアルキオネが身を乗り出して聞いてきた。
「そうよ。特注で作ってもらった空間拡張の魔術を刻んだテントなの。」
空間拡張というのは、魔法袋にも使われている内部の空間を広げる技術だ。魔法袋は、重量を軽くした場合に常時魔力を消費する。対してテントは、拡張時と元に戻す時のみ魔力が必要で、維持するための魔力は必要ないためとても便利だった。
テントの準備が完了する頃には、シリウスが食事の用意をしてくれた。肉は基本的に現地調達になるため、穀物と乾燥した野菜が主食となる。
「それにしても…話には聞いてましたけど、姫様って慣れてますよね?」
「…?帝国戦で長い間一緒に生活してたじゃない。」
シリウスの言葉にピンとこなかったため頭を傾げていると、アルキオネが教えてくれた。
「軍の野営でも王族や上位貴族だと専属の料理人を連れている場合がほとんどです。連れていくことができない下位の貴族でさえ、こういった簡単な食事を嫌がりますから。」
「もちろん美味しいに越したことはないけど…仕方ないからね。それに日持ちする調味料は持ち込んでるから軍で使ってる携帯用食料よりは良いでしょう?」
携帯用食料というのは、固形食料に水をかけて食べるものだが、持ち運びのしやすさと時間、栄養を優先した代わりに味を犠牲にしていることで有名らしい。
食事を終わって寝るための準備をする。テントに念のため防御結界を張り、さらに広い範囲に侵入察知用の結界と魔物避けの結界を張る。万が一魔物が接近した場合でも、登録した人に電流が流れるような感覚が入るため、寝ていても気づくことができる。
北の大陸は向かう旅の初日が幕を閉じた。
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