王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第3章 エスペルト王国の動乱

26 海賊の襲来

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 船員からの呼びかけがあってから、私はネグリジェから動きやすい格好に着替える。着替え終わるのと同じくらいのタイミングで、ドアがノックされた。

 やって来たのは、アルキオネだった。

「ティア。話は聞いてますよね?」

「もちろん。海賊がどれくらいのものかわからないけど…私達も甲板に行きましょうか。船内への入り口さえ護れば、中は比較的安全でしょ。」

「そうですね。いざと言うときは兄さんがなんとかするでしょうし、大丈夫だと思います。」

 私とアルキオネは甲板へと向かう。船員たちもある程度は戦えるが、人数によっては厳しくなる。怪我人はともかく死者は出したくない。



 甲板に上がると海賊船5隻が近づいて来ているところだった。海賊の様子を見る限り、武装は剣が主体のようだ。

「嬢ちゃんたちどうして上がって来た!?危ねえから下に行ったろ!」

「私達も戦えるわ。少なくとも足は引っ張らないから。」

「っ!?あーもうわかった!危ないと思ったらすぐ下がれよ!」

 ちょうどその時船から板が掛けられて、海賊たちが乗り込んでくる。

「邪魔する奴は殺せ!女子供は連れてけよ!」

「わかってら!金になるものもきちんと奪えよ!」

 海賊の目的は恐らく、奴隷として人身売買しての金稼ぎだろう。女は金持ちの嗜好品として、子供は労働力として買われることがほとんどらしい。エスペルト王国では、売買自体を禁止しているが、世界的に見れば禁止してない国がそれなりにある上に東の大陸では多いようだった。

 船員たちは、船に備えてあった剣や長い棒、フライパンといったもので応戦している。船に乗っていれば海賊と戦うことはあるため、それなりに応戦できていた。

(とは言っても…流石に人数が多いわね。船員たちもある程度は慣れているみたいだけど、分が悪そうね。)

 私とアルキオネも戦いに加わる。襲ってきた海賊の攻撃をいなして、剣を奪い取るとそのまま斬り捨てる。私たちが使っている武器は、普通の平民が持つものにしては質が良すぎて、正体がばれる可能性がある。数が多いだけであれば問題ないため、海賊の剣を奪ってそのまま使うつもりだ。
 海賊を斬り、時には海に投げ捨てる。捕縛したところで、管理に手間がかかる上に食料を与える必要があるため、海上の戦いでは止めをさすことが原則だ。逃げた相手を狙うまではしないものの、襲ってきた相手に手心は加えない。

 襲って来た海賊の剣をいなして、次の一閃で両断する。身体強化と魔装によって放たれる斬撃は、海賊が使う無骨な剣であっても、一撃で事切れた。甲板に倒れたあと傷口が開いたかのように周りを血が染めるため、私に返り血はない。そのまま海賊を斬りながらも、劣勢になっている場所を探して助けて回る。すると、船内から男の人がやって来て助太刀してくれる。

「遅れて申し訳ない。私も微力ながら戦いましょう。」

 やって来たのは、マイヤー男爵家に仕えていた執事だった。恐らく護衛も兼ねていたであろう彼は、執事服の中に隠していた短剣で海賊を屠っていく。

「ありがとうございます。助かります。」

 海賊船の中にも海賊はまだまだいる。戦いはまだ始まったばかりに過ぎない。


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 甲板長として俺は長年船に乗って来た。もちろんこの前のような嵐にも何度も遭遇しているし、海賊に襲われたことも数え切れないほどあった。そのたびに犠牲こそあるものの乗り切ってきた。

(なにかがおかしい…今までは多くても2隻程度で、ある程度略奪すれば帰っていくことがほとんどだ。人攫いまでしなくても金品を渡せば去っていくこともあった。でも今回は…俺たちを皆殺しにしてでも全てを奪い去る勢いだ。乗客の安全は何とかしなきゃいけないが、どうするか…)

 戦いのための準備をしていると、乗客の少女2人が甲板に出てくるのが見えた。第一印象が強かったし、何度か話す機会があったため顔も名前も覚えている。

 年上のアキって呼ばれている子は、リウの妹らしく兄妹の仲がいいのがよくわかった。もう1人のティアも2人より幼いながらもしっかりしている子だろう。
 3人とも格好こそ街にいる少年少女だが、雰囲気が一般の人と違う。どことなく気品が高いためお金持ちの子供達かと思った。ティアに関しては、2人から特に大事にされているのが伝わる。
 だからこそ、2人が甲板に出てきたのが意外だった。

(海賊から剣を奪ってそのまま斬りやがった。斬ること自体にためらいもないし味方の状況を把握した上で、危ないところを手助けしてる…2人とも実践慣れしてるが本当に何者なんだ!?)

 とはいえ、2人が助力してくれるのは相当ありがたいことだった。その後も、お貴族様っぽい人の執事も助力してくれることもあり犠牲なく対処できている。
 俺は、このまま海賊たちが撤退してくれることを切に願うのだった。
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