王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
71 / 475
第3章 エスペルト王国の動乱

25 嵐を通り抜けて

しおりを挟む
 その日、夕暮れを過ぎたころから風や高波によって船が揺れている。嵐の影響で船の外は暴風雨に晒されていて、立っていることも厳しいだろう。

「リウ、アキ、2人とも大丈夫?入るわよ?」

「私は大丈夫です。」

「俺も…うっ…大丈夫で、ふよ。」

 部屋の中に入ると顔色を悪くしているシリウスと苦笑しながら世話をしているアルキオネの姿があった。

 私は、部屋の中に入るとシリウスに手をかざす。
 船酔いは、自律神経のバランスが崩れることで起きることが多い。聖属性魔術を使えば酔い止めまでは行かなくても、痛み止めの応用で自律神経のバランスを整えることができるため、多少抑えるくらいの効果はあるだろう。

「気休め程度だけど多少は楽になるでしょう。…あまり多用すると体が慣れて効かなくなるから今回だけね。」

「すいません。ありがとうございます。」

「私からもありがとうございます。」

「どういたしまして。これだけ揺れると船が苦手な人にとっては厳しいだろうし、仕方がっ!?」

 話していると船全体を揺らすほどの衝撃が襲い、同時に轟音が響いてきた。

「…これは、落ちたかしら?」

「落ちましたね…」

 私とアルキオネが同時に同じことを言うが、恐らく雷が船に落ちたのだと思われた。一応避雷針があるため、雷が落ちても避雷針を伝って海に電流が逃げる造りになっているらしい。しかし、運が悪いと周りに影響があるらしく近くのところが砕ける場合もあるようだ。雨が降っているため火事にはならないだろうけど、少し心配だ。
 すると船員の人が、客室を回っているらしく様子を見にきた。

「おお、3人ともここにいたか。雷については避雷針があるから船内は安全だ。嵐が抜けるまでは部屋の中にいるように頼む。何かあったら近くにいる船員に声を掛けてくれ。」

「わかりました。」

「あなたも気を付けてくださいね。」

 その後も、何回か雷が落ちたらしく続けて音が響いたり衝撃が伝ってくる。しばらくして夜が明けるころには、ようやく静かになってきた。



 朝になって甲板に上がってみると、船員たちは徹夜の作業によって疲労でぐったりとしていた。けが人を運んでいるのを見えるが、大きな怪我を負っている人は見当たらないため一先ず安心だ。
 また、船はマストが一部砕けているものの特段大きな損傷はないように見える。

「あの、大丈夫ですか?」

 ちょうど近くにいた人に声をかけてみた。

「ん?あぁ…嬢ちゃんか。船はこの程度なら若干、航行速度が落ちるが問題なく進めるぞ。けが人もいるが、命に別状はない。」

「もしよければ、怪我の応急措置程度になりますが手伝いますよ?」

「あー、手伝ってくれるんなら助かるな…怪我した奴らは、船内に入ってすぐの医務室に運んでいる。一応、船員の中で慣れてる奴が手当てしてるはずだ。」

 船内の医務室に入ると数人がベットで横になっていた。簡単に見た限りだとほとんどは、打ち身や擦過傷といったところだろう。1人だけ腕の骨を折っているようだった。

「どうした?けが人か病人でも出たのか?」

「いえ。甲板で聞いたらここで手当てしていると聞いたので。応急処置になりますけど、簡単な治癒魔術は使えますから。」

「それは助かるが…いいのか?」

 私は笑顔でうなずくと順番に治療を行っていく。治療といっても完全回復をこの人数にかけるのは厳しいため、自然回復の促進と簡単な痛み止めになる。骨折していた人に対しては、骨の結合まで行った。

「これで大丈夫だと思います。骨折していた骨は簡単にしかくっつけていないので、しばらくは固定させて安静にしてくださいね。」

「ありがとうな。恩に着る…これはお礼もかねて忠告だけどよ、東の大陸についたら聖属性の治癒魔術を使えることは黙ってた方がいい。治癒魔術を扱える奴は貴重だからな。街の中なら比較的大丈夫だが、街の外で誘拐されることが多いそうだ。嬢ちゃんの優しさは美点だが、自分のことも大事にしてくれよ?」

 私くらいの魔力量だと平民の中でもそれなりにいたりする。幼いことから魔力を使っていれば増えやすいし、両親以上の魔力をもつこともそれなりにあるからだ。また、聖属性魔術は適性の影響を受けやすい。王族や侯爵以上の貴族なら適性が高いが、その他貴族はないに等しいため、適性にばらつきのない平民の方が使えたりする。もっとも十分な知識が必要なため誰でも使えるわけではないけれど。

「…わかりました。忠告ありがとうございます。」

 手当てが終わると私は自室に戻る。
 それからは、しばらく平和な日々が続いた。天候にも恵まれて、嵐はもちろん雨風が強い日もなくて順調な船旅といえるだろう。



 ある日の夜、客室で寝ていると慌ただしい声が聞こえて目が覚める。

「海賊からの敵襲!皆は客室の中で隠れてくれ!野郎どもは甲板に上がって迎撃だ!」

 どうやら、海賊が近づいてきたらしい。波乱の夜の幕開けとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...