王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
61 / 475
第3章 エスペルト王国の動乱

閑話 ルークス兄妹

しおりを挟む
 俺、シリウス・ルークスと妹のアルキオネ・ルークスは双子だった。子爵家に生まれて、普通の貴族として過ごしてきたと思う。学園では、武術と魔術による総合戦闘を主に学んできた。
 アルキオネのことは、大事な妹でありライバルでもある。長い間、お互いに競い合いながら共に高め合ってきた。


 元々国軍に所属していた俺たちに転機が訪れたのは、約2年ほど前だった。
 ラティアーナ様の筆頭護衛兼団長だった父が、健康上の理由で退役した。そのため当時成人して間もない俺が、爵位を継いだ上でラティアーナ様の筆頭護衛兼団長に、妹も副団長についた。

 とはいえ、最初はあまり乗り気ではなかった。ラティアーナ第3王女は、お披露目を迎えたばかりで王族として不適格な魔力しか持たず、離宮に篭っているとの噂だったからだ。とはいえ代々騎士を務めているルークス家としては、大事な役目であるし落ちこぼれと称されている王女の近衛でも花形だった。

 近衛騎士団は、王家の血を引くものつまり、王位継承権を持つものに帰属する。近衛騎士団の本団は王に、他は継承順の番隊になる。ラティアーナ王女の場合は、第3王女のため近衛第3騎士団となる。



 最初、ラティアーナ王女とお会いした時は、深窓の令嬢という印象を受けた。けれど、護衛の任についてからは、正反対だった。ラティアーナ王女は、たまに護衛も付けずに王城の外に出かけているようで、王女どころか貴族らしくもない。直接進言することが憚れたため、専属侍女のリーナに話した。

「リーナさん、ラティアーナ王女殿下のことなんですが…外に出かけるときには、誰か護衛をつけるように言ってもらえませんか?俺はまだ騎士団に入ってすぐなので強く言えませんが、リーナさんからなら聞いてくれると思いまして。」

「ラティアーナ様は、信念をもって動かれています。私から伝えたとしても変わりません。それに…直接進言しても、話は聞いてくれると、少なくとも心の内は聞かせてくれると思います。」

 リーナは、それだけ言うと一礼して去っていく。

 俺とアルキオネは、ラティアーナ王女が離宮に戻ったときに話をしに行った。

「ラティアーナ王女殿下。お話があります。」

「どうしました?」

「ラティアーナ王女殿下は、どうして護衛も付けずに出かけるのですか?我々では信用に足りませんか?」

「信用してますよ?護衛をつけないのは、つけたら意味がないからです。それに…お忍びで庶民として歩いているのに、護衛がついていたら変でしょう?」

(ん!?王女がお忍びまではわかるけど…庶民として!?王族どころか貴族の令息令嬢でも見たことがないぞ?)

「ですが…もし危険があった場合に護ることができません。王族というのは、王国において何よりも優先し護る対象です。」

「わたくしのことは大丈夫です。それに…わたくしの考えは、少し違います。王族というのは、国を護るもの。王国を、貴族を、民をその全て護りたいと思っています。ですが、あなたたちの立場を考えると、護衛について欲しい気持ちもわかりますし、1度模擬戦をしてみませんか?」




 後日、俺とアルキオネ含めて、ラティアーナ王女と模擬戦をすることになった。訓練用の刃を潰してある武器を使った戦い。しかも王女は、俺とアルキオネの両方を同時に相手するというのだ。
 俺たちは、若いがそれでも騎士として訓練をしてきた。学園でも常に上位の成績を残してきたし、魔物相手とはいえ実戦経験も積んでいる。
 正直、最初は舐められていると思った。
 けれど、戦いが終わると膝をついているのは俺たちの方で、ラティアーナ王女は圧倒的な強さを持っていた。魔力も身体能力もこちらが上のはずなのに、全てを見透かされているように攻撃が避けられいなされ弾かれる。そして、こちらが動けないタイミングに手痛い一撃を喰らう繰り返しだった。



ラティアーナ王女は、それだけの強さや権力を持ちながらも離宮の皆に対して傲慢ではなかった。侍女や執事だけでなくほかの使用人に対しても、他の王侯貴族のように一方的に命令だけをするのではなく会話をしてくれる。ごく普通の世間話をすることもあるしちゃんと人としてみてもらえる。とても誇り高い人だと思った。
俺は、この人の役に立ちたいと全てをかけて尽くしたいと思った。

後日、ラティアーナ王女に騎士としての忠誠を誓う。

「ラティアーナ王女殿下。騎士シリウス・ルークスは我が剣をあなた様だけのために捧げます。」

これは、この国に昔から伝わる騎士がこれから先の未来、主に対してのみ忠誠を誓うものだ。ラティアーナ王女も知っていたらしく、一瞬困った表情をして、その後覚悟を決めた表情をして答えてくれた。

「わたくし、ラティアーナ・エスペルトは汝の誓いを受け入れます。」

こうして俺は、ラティアーナ王女だけの騎士になった。



-----------------------------------------------------------------

私アルキオネは、王女との模擬戦の後、自信を失っていた。

女性の騎士は全体から見ても少なくて、いたとしても男性の騎士と比べると実力が足りないといわれている。ただ、女性の主を護るためには同姓の騎士も必要なため一定数は騎士になることができる。

それでも私は、同年代の男の人には負けなかったし、双子の兄のシリウスとも互角の実力を持っている自負があった。けれど、私よりも幼い王女に兄との2人がかりで、手も足も出なかった。

自信を失いつつも、幼い女性でありながら圧倒的強さをもつ王女に、強い憧れを持ち続けていたある日、私は街に出ていた。


私は、休みの日によく街を歩くのが好きだった。領地にいた頃は、地元の子供達とも触れ合っていたため他の貴族よりは、平民とも距離が近いと思う。
今日は領地にいた頃からの友人が、最近新しくできた喫茶店で働いていて、招待されたためお店で待ち合わせをしている。


お店に入ると仕事終わりであろう彼女がやってきた。

「お待たせ。ごめん、待ったかな?」

「時間ちょうどだから大丈夫よ。」

合流した後は、2人して注文してお茶にする。

「ご注文の品をお持ちしました…あら、ミナの友人ってアルキオネだったのね。」

品物を運んできたのは、髪や瞳は変えているけれど顔も声も王女そのものだった。

「ラティ!?」

思わず名前を叫びそうになったところで王女に口を塞がれる。

「今の私はティアよ。このお店でのオーナでもあるわ。そういうわけだから…よろしくね。ではごゆっくり。」

それだけ伝えて王女は去っていく。

「…ねぇミナ。ラ…ティアさ、んって一体?」

友人のミナから詳しく話を聞くと、王女は冒険者の護衛として王都に来るときに一緒になったらしい。そのときに王都で職を探しているなら、喫茶店に勤めないかという話を聞いたそうだ。

「そうそう、ティアさん格好良かったのよ!魔物の群れに囲まれたときでも一瞬で切り伏せていたし、オーナーとしてもすごく優しいし!」

王女がお忍びで、外出していたのは知っていたけれど、冒険者として活動や平民に混じってお店を開いていたのは知らなかった。
私は貴族と平民でも普段は仲良く接していたいと思っている。この王国で貴族以上に権力を持つ王女が、私の理想と圧倒的な強さを持っている。王女を目標に騎士としてがんばりたいと思った。



なお、これを機会に王女と私とミナの3人で定期的にお茶をするようになるのは、また別の話。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...