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第3章 エスペルト王国の動乱
13 最悪の裏切り
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私が捕まってから早2日が経過した。今日も乾燥したパンと水が支給され食事を終えると、作業する1日が始まる。
情報収集は、基本的に寝るための部屋と作業場しか行き来しないため、難航していた。
(時間をかけても状況が悪くなることはあっても良くはならなそうね。捕まってる子は、今のところ他の場所にはいなそうだし、懲罰の首輪さえどうにかできれば…力押しも可能だけれど。)
懲罰の首輪自体は、壊してしまえば無力化はできるが、30人近くの首輪を一気に無力化するのが難しかった。また首輪に設定されている条件もわからないため、下手に外した場合に他の首輪が作動する恐れもあるため迂闊に壊せない。
そのため、昼間は一旦諦めて夜の誰もいない時間に探索することにした。
1日が終わり皆が寝静まった頃、私はこっそりと起きる。
御手洗いに行くふりをして、部屋を出たあと気配を消しつつも地上に上がるための階段を探すために探索する。
(どこに進んでも壁ばっかり…この階と地上の間は隠し扉にでもなってるのかな?)
一通り見て回ったが、わかったことは階段などが見つからないことと、それなりの広さだということだけだった。おそらくは、隠し扉になっていて外からしか開けられないのかも知れない。
部屋に戻る前に今いるおおよその場所を調べることにした。人目につかないように空き部屋に入る。
(王鍵起動…接続。眼を私の上空に展開。)
王鍵の機能のうちの1つである眼。王国を包み込んでいる結界内部であればどこでも展開することが可能となり上空からの光景を見渡すことができる。
王鍵の発動時は魔力が溢れるのと自身の周囲に術式が展開されるため、目立ってしまうが見張りが近くにいない今は都合が良かった。
(ここは…セプテンリオの南東にある倉庫街ね。表向きは倉庫に偽造していると。ここなら関係者くらいしか近くにいないだろうし、多少派手なことをしても大丈夫そうね。)
現在地を把握して私は部屋に戻った。
翌日、見張りが起こしにきて、朝食の配給を行なわれる。
「ちょっと!?ルナちゃん大丈夫!?」
シーラが隣で寝ていた子に焦った表情で声をかけていた。
「「どうしたの?」」
「なんかとても苦しそうにしていて、熱も高いみたいなの…」
ルナは、私と同い年くらいの女の子だった。今は、顔色が悪くて息を荒くして咳き込んでいる。
様子を見ていると見張りの人がやってきて、私たちを仕事場に連れて行こうとする。
「あの…今日この子が体調を崩していて、私が彼女の分まで働くので休ませて貰えませんか?」
「あ?そんなことは許されねえよ。お前が2人分働けるなら常にそうしろ。そっちのガキも…動けないってんなら用済みってことだ。どうせ代わりはいくらでもいるんだしな。」
シーラのお願いに対して見張りは取り合ってくれなかった。
「私からもお願いします。ルナも分までがんばりますから。」
「…お前は新入りか。いいねぇー入ったばかりでまだ目が死んでない。そこのシーラは、より幼いガギどもがいるからなんとか耐えているが、お前はまだ絶望というものを知らないようだ。…いいぜ、新入りのお前が今日1日の間、罰を受けるってんならそいつはここで休んでいい。」
「わかりました。」
私がそういうと見張りの男は嫌らしい笑みをうかべた。
「ティアちゃん。それは、それだけは絶対駄目!」
「大丈夫よ。今は私のことよりも…ルナのことをお願いね。」
私は手を鎖で縛られて連れて行かれる。しばらく歩くと、見張りが手をかざして壁が開いた。
(嬉しい誤算ね。まさか罰のためにこの階層から抜けることができるとは思わなかったわ。)
そうすると少し広い部屋に連れ出された。周りはガラス張りになっていて外からよく見えるつくりだ。
「ここはな、お前にさまざまな罰を与えて2度と抗えなくするための部屋だ。肉体的にも精神的にもずたぼろにしてくれる…ほら、お前らのご主人様が来たぜ。」
ガラスの外にやってきた人物を見て、私は思わず固まった。
「お待ちしていました。伯爵様。」
「よい。久しぶりにこの罰を行えると聞いてむしろ楽しみじゃからのう。お主が新しく入った子供か…わしはこの領地、を治める領主であるセプテンリオ伯爵じゃ。本来は平民風情が目にかかれることはないんじゃが、今日は特別じゃぞい。」
(なるほど…この領地の最高権力者にして伯爵当主が黒幕だとわかれば…どうやってもこちら側が不利になる。領地や都市側にも裏切り者がいるかもしれないとは思っていたけど、領主自らが王国を裏切っていたなんて!?国境都市は、王国の機密情報も他の都市より多い。帝国にも流れているかもしれないわ…)
はじめに挨拶をしたときも、長年貴族当主をしているだけあって喰えない人物だとは思っていたが、重要都市を任されていることもあって信用できると思っていた。私の中では1番最悪の裏切りだ。
「では罰を始めようかの。」
伯爵はそれだけ言うと、手元の魔術具を操作する。
すると、私の中に痛みが生じてきた。
(恐らく伯爵が操作しているのが、この首輪を管理している基幹魔術具ね…痛みは所詮、魔力によって与えられるもの。受けた魔力を逆探知して、基幹の魔術具に干渉する。)
魔術具というのは、簡単に言えば道具に術式を刻んでおいて、魔力を流すだけで魔術を発動できるようにしたものだ。術式が許容できる以上の魔力を流すと術式がオーバーヒートするし、術式が壊れてると使えなくなる。同様に相手に直接影響を与える魔術具は、直接相手に繋いでいるようなものなため干渉しやすく、術式さえどうにかすれば壊すことも可能だ。
魔術具への干渉を試していると途端に痛みが止んだ。
すると部屋の中に1人入ってきて、私に注射を刺した。
「これはね、即効性の薬で感覚を数倍に引き上げる効果があるんだ。試してみると…ほらねっ!」
注射を打った人に私は蹴り飛ばされて地面を転がる。
蹴られたところが今まで以上に痛みを感じて、更に首輪から痛みが流されて、たまに殴られたり蹴られたりする。
1日が終わる頃私は、ボロボロになった状態で地面に倒れていた。ボロボロといっても見た目だけの問題だ。身体強化をしたことでちょっとしたあざや血が出た程度に留めてある。また、注射された薬も分解したため影響はない。
(…ようやく基幹魔術への干渉ができた。地下にいても問題なさそうだから、部屋に戻ったら全員の首輪を外せる!それから、今日やられた分はあとで返してあげるわ。)
男が私を担いで、地下に戻ろうとする。
地下に着くと皆がいる部屋に投げ捨てて去っていった。
「ティアちゃん!?全身怪我だらけじゃない!?」
「このくらいなら大丈夫よ…それよりルナの調子はどう?」
「っ!?ルナちゃんは今のところ無事よ。ただ体調が悪いままだから明日までに治らないともう…」
ルナの様子を見ると、まだ顔色は悪いし熱があるのも見て取れる。
「ねぇシーラ。この後、ここから脱出しようと思ってるんだけど、みんなで私についてきてくれない?」
シーラや他の皆はびっくりした表情で私を見た。
情報収集は、基本的に寝るための部屋と作業場しか行き来しないため、難航していた。
(時間をかけても状況が悪くなることはあっても良くはならなそうね。捕まってる子は、今のところ他の場所にはいなそうだし、懲罰の首輪さえどうにかできれば…力押しも可能だけれど。)
懲罰の首輪自体は、壊してしまえば無力化はできるが、30人近くの首輪を一気に無力化するのが難しかった。また首輪に設定されている条件もわからないため、下手に外した場合に他の首輪が作動する恐れもあるため迂闊に壊せない。
そのため、昼間は一旦諦めて夜の誰もいない時間に探索することにした。
1日が終わり皆が寝静まった頃、私はこっそりと起きる。
御手洗いに行くふりをして、部屋を出たあと気配を消しつつも地上に上がるための階段を探すために探索する。
(どこに進んでも壁ばっかり…この階と地上の間は隠し扉にでもなってるのかな?)
一通り見て回ったが、わかったことは階段などが見つからないことと、それなりの広さだということだけだった。おそらくは、隠し扉になっていて外からしか開けられないのかも知れない。
部屋に戻る前に今いるおおよその場所を調べることにした。人目につかないように空き部屋に入る。
(王鍵起動…接続。眼を私の上空に展開。)
王鍵の機能のうちの1つである眼。王国を包み込んでいる結界内部であればどこでも展開することが可能となり上空からの光景を見渡すことができる。
王鍵の発動時は魔力が溢れるのと自身の周囲に術式が展開されるため、目立ってしまうが見張りが近くにいない今は都合が良かった。
(ここは…セプテンリオの南東にある倉庫街ね。表向きは倉庫に偽造していると。ここなら関係者くらいしか近くにいないだろうし、多少派手なことをしても大丈夫そうね。)
現在地を把握して私は部屋に戻った。
翌日、見張りが起こしにきて、朝食の配給を行なわれる。
「ちょっと!?ルナちゃん大丈夫!?」
シーラが隣で寝ていた子に焦った表情で声をかけていた。
「「どうしたの?」」
「なんかとても苦しそうにしていて、熱も高いみたいなの…」
ルナは、私と同い年くらいの女の子だった。今は、顔色が悪くて息を荒くして咳き込んでいる。
様子を見ていると見張りの人がやってきて、私たちを仕事場に連れて行こうとする。
「あの…今日この子が体調を崩していて、私が彼女の分まで働くので休ませて貰えませんか?」
「あ?そんなことは許されねえよ。お前が2人分働けるなら常にそうしろ。そっちのガキも…動けないってんなら用済みってことだ。どうせ代わりはいくらでもいるんだしな。」
シーラのお願いに対して見張りは取り合ってくれなかった。
「私からもお願いします。ルナも分までがんばりますから。」
「…お前は新入りか。いいねぇー入ったばかりでまだ目が死んでない。そこのシーラは、より幼いガギどもがいるからなんとか耐えているが、お前はまだ絶望というものを知らないようだ。…いいぜ、新入りのお前が今日1日の間、罰を受けるってんならそいつはここで休んでいい。」
「わかりました。」
私がそういうと見張りの男は嫌らしい笑みをうかべた。
「ティアちゃん。それは、それだけは絶対駄目!」
「大丈夫よ。今は私のことよりも…ルナのことをお願いね。」
私は手を鎖で縛られて連れて行かれる。しばらく歩くと、見張りが手をかざして壁が開いた。
(嬉しい誤算ね。まさか罰のためにこの階層から抜けることができるとは思わなかったわ。)
そうすると少し広い部屋に連れ出された。周りはガラス張りになっていて外からよく見えるつくりだ。
「ここはな、お前にさまざまな罰を与えて2度と抗えなくするための部屋だ。肉体的にも精神的にもずたぼろにしてくれる…ほら、お前らのご主人様が来たぜ。」
ガラスの外にやってきた人物を見て、私は思わず固まった。
「お待ちしていました。伯爵様。」
「よい。久しぶりにこの罰を行えると聞いてむしろ楽しみじゃからのう。お主が新しく入った子供か…わしはこの領地、を治める領主であるセプテンリオ伯爵じゃ。本来は平民風情が目にかかれることはないんじゃが、今日は特別じゃぞい。」
(なるほど…この領地の最高権力者にして伯爵当主が黒幕だとわかれば…どうやってもこちら側が不利になる。領地や都市側にも裏切り者がいるかもしれないとは思っていたけど、領主自らが王国を裏切っていたなんて!?国境都市は、王国の機密情報も他の都市より多い。帝国にも流れているかもしれないわ…)
はじめに挨拶をしたときも、長年貴族当主をしているだけあって喰えない人物だとは思っていたが、重要都市を任されていることもあって信用できると思っていた。私の中では1番最悪の裏切りだ。
「では罰を始めようかの。」
伯爵はそれだけ言うと、手元の魔術具を操作する。
すると、私の中に痛みが生じてきた。
(恐らく伯爵が操作しているのが、この首輪を管理している基幹魔術具ね…痛みは所詮、魔力によって与えられるもの。受けた魔力を逆探知して、基幹の魔術具に干渉する。)
魔術具というのは、簡単に言えば道具に術式を刻んでおいて、魔力を流すだけで魔術を発動できるようにしたものだ。術式が許容できる以上の魔力を流すと術式がオーバーヒートするし、術式が壊れてると使えなくなる。同様に相手に直接影響を与える魔術具は、直接相手に繋いでいるようなものなため干渉しやすく、術式さえどうにかすれば壊すことも可能だ。
魔術具への干渉を試していると途端に痛みが止んだ。
すると部屋の中に1人入ってきて、私に注射を刺した。
「これはね、即効性の薬で感覚を数倍に引き上げる効果があるんだ。試してみると…ほらねっ!」
注射を打った人に私は蹴り飛ばされて地面を転がる。
蹴られたところが今まで以上に痛みを感じて、更に首輪から痛みが流されて、たまに殴られたり蹴られたりする。
1日が終わる頃私は、ボロボロになった状態で地面に倒れていた。ボロボロといっても見た目だけの問題だ。身体強化をしたことでちょっとしたあざや血が出た程度に留めてある。また、注射された薬も分解したため影響はない。
(…ようやく基幹魔術への干渉ができた。地下にいても問題なさそうだから、部屋に戻ったら全員の首輪を外せる!それから、今日やられた分はあとで返してあげるわ。)
男が私を担いで、地下に戻ろうとする。
地下に着くと皆がいる部屋に投げ捨てて去っていった。
「ティアちゃん!?全身怪我だらけじゃない!?」
「このくらいなら大丈夫よ…それよりルナの調子はどう?」
「っ!?ルナちゃんは今のところ無事よ。ただ体調が悪いままだから明日までに治らないともう…」
ルナの様子を見ると、まだ顔色は悪いし熱があるのも見て取れる。
「ねぇシーラ。この後、ここから脱出しようと思ってるんだけど、みんなで私についてきてくれない?」
シーラや他の皆はびっくりした表情で私を見た。
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