王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
51 / 460
第3章 エスペルト王国の動乱

7 空の上で舞う姫

しおりを挟む
 私は今、飛空船の一室にて捕らえられていた。
 鍵のかかった小さめの部屋の中で、両手を魔封じの腕輪で両足を鎖で拘束された状態だ。
 部屋の外には見張りの兵も立っている。

(さて、捕まって飛空船に乗り込むところまではうまくいったわね、ここからは出たところ勝負になるかしら。)

 元々は、勝てない物量差で攻められたときに捕まることで逆転の一手を投じるつもりだったけれど、相手の布陣を見て考えを変えていた。おそらく、帝国の将軍を相手にする場合、アドリアスと協力すれば十中八苦勝てるだろう。
 ただし、周囲の兵たちを護るのは難しいため、少なくない犠牲が出ると思われた。

 しかし、飛空船による少数での攻めてきたところに隙がある。
 デトローク・トルトニスが持つ魔剣はボルテアスパーダと呼ばれていて、持ち主に雷を纏わせる。また、広範囲に雷を放つことも可能なため、あらゆる距離で戦うことができ殲滅力が高い。

(だけど…だからこそ飛空船の中という味方が密集していて周囲を破壊できないような場所で戦うには本来の力を発揮できない。)

 相手の力を発揮させずに自身が全力を出せるという意味ではこの場所は最適だった。

(さてと、まずは拘束を解きましょうか。)

 私はまず、魔封じの腕輪を無力化することにする。
 この腕輪は魔力を外に出せなくするが抜け道がないわけじゃない。

 指を噛み切って血を流すと、地面に術式を描いていく。血には魔力を含んでいるため魔術の核にするつもりだ。あとは、自身の血を経由して周囲の魔力に干渉する。
 今まで、魔力が少ないゆえの周囲の魔力を利用し取り込むことを続けてきたおかげで、自信の魔力を間接的に操作することも多少はできるようになっている。普通の人は、おそらくできないであろうこれは、自身の魔力以外を代用し続けてきた私だからこそできることだ。

 複雑な術式を行使することは出来ないが、腕輪を破壊するくらいはできる。魔力で生み出した刃で腕輪を斬ると、胸元に隠していたペンダントの魔術具を発動する。
 これは装備を一瞬で換装するもので、ドレスから戦闘用の衣装に切り替えると同時に、刀も装備される。普段魔法袋にしまっている武装全ては無理だが、刀2本くらいであれば、この魔術具でもしまっておくことが可能だった。

(では、参りましょうか。理想は、飛空船の奪取。最低でも破壊した上での脱出かしらね。)

 私は銀月を抜くと、鍵のかかった扉ごと両断する。扉の外には見張りが2人ほどいた。
 扉が内側から斬られて驚いた一瞬の硬直の間に1人の見張りの意識を刈り取る。
 もう1人が行動を起こす前に私は、刀を首もとに向けた。

「この船の構造と人員について教えなさい。抵抗しなければ身の安全だけは保障してあげる。」

「誰がお前などに…」

「これはあなたたち帝国から宣戦布告した戦争よ?わたくしとしては、護る側の大義名分があるし、戦いになった時点で殺されても仕方がないでしょう?逆に感謝して欲しいくらいだけど。」

「…お前みたいな温室育ちの女に殺すだけの覚悟があるわけっ!?」

 私は、抵抗する兵士を蹴り飛ばす。壁にぶつかった兵士は、意識こそ失っていないが衝撃で身体の自由は利かないようだ。

「わたくしは、身の安全としか言ってないわ。」

 殺気に当てられて刀を目の前に突きつけられた彼は、この船の大体の部屋の場所と乗員数を話す。
 全て聞き終わった私は、彼を峰打ちで眠らせた。

(ここはちょうど船の中心で船員は後ろの動力質か前の艦橋にいるみたいね。艦橋に行ってデトローク将軍をどうにかしましょうか…)

 私は艦橋に向けて歩き出す。途中兵士たちに遭遇することはなく、艦橋の入り口までたどり着いたので、扉を全力で開けた。



 扉が開くと同時に兵士たちの視線が一斉に私に向く。

「貴様…どうやって拘束を解いた?」

「あら、あの程度でわたくしを抑えられたとでも?」

 将軍が魔剣の柄に手をかけながら聞いてきたので、私も刀の柄に手をかけて答える。
 気軽に声を掛け合ってるように聞こえるがお互いに殺気に溢れていて、周りの兵士たちは息を呑んでいた。

 すると将軍が一瞬で私の前に現れて魔剣を振りかざす。同時に、私も身体強化をかけると同時に銀月を抜刀した。
 刃同士がぶつかる甲高い音を響かせてそれぞれの武器が停止する。

「…あのとき、無抵抗で捕まったのはこれが狙いか。」

「さてどうかしら、ね!」

 鍔迫り合いの中、私は銀月をずらして魔剣を横にそらす。そのままあいてる左手で夜月を抜刀して逆手持ちのまま振りかぶり、将軍は、後ろに跳躍して攻撃をかわした。追いかける形で私は刀を振るう。一撃一撃は重くない、速度と手数を重視した連撃は、徐々に将軍の体に傷をつけていく。

(このまま、均衡を崩さない程度に追い込んでいく。こちらが際立って優位にならない限りは、周囲を巻き込んだり船を壊したりするほどの攻撃はしてこないはず!長期戦を仕掛けて隙を作る!)

 一方、デトローク将軍は、ここまで押されたことに焦っていた。

(拘束されたいた王女が、自力で脱出することもここまでの強さを持っていることも想定外だ…確かに魔力は王族どころか貴族のなかでも少ないのだろう。それでも、剣術や体術といった基本的な戦闘能力が高い上に身体強化の使い方もうまい。この場所で全力を出せば勝てるだろうが、飛空船も味方も巻き込んでしまう…わざわざ捕まったということは既に相手の手のひらの上ということか。)

 私が攻めてデトローク将軍が守りに徹する戦いが続く。
 このまま、膠着状態が続くかと思われたとき、飛空船が大きく揺れた。

「っ今度は何だ!?」

「飛空船の右翼部分に魔力攻撃が着弾!損傷は軽微ですが、地上からの攻撃です!」

 私はデトローク将軍の意識がそれた一瞬に、身体強化の強度を周囲の魔力込みでの最大まで引き上げた上で夜月にも魔力を流す。
 強化された夜月を全力で振るって込めた魔力を持って斬撃として飛ばし、デトローク将軍の横を抜けて、船の壁を貫通した。そしてそのまま銀月を全力で薙ぎ払う。
 デトローク将軍は、魔剣で銀月を受け止めたが魔力と夜月による身体強化によって繰り出された一閃によって、身体ごと吹き飛ばされて飛空船からはじき出された。


 飛空船の中の指揮官であり最強の武人であったデトローク将軍がいなくなったことで、残りの兵士たちは諦めて投降した。

 私は兵士たちを縛って無力化すると、飛空船をセプテンリオ領まで飛ばすために操舵する。

(操作自体は単純そうね。重力制御によって高度を火炎噴射によって加速を、風によって旋回を制御していて、全部ここから操作できるのは楽だわ。あとは、アドリアスとシクスタスが援護に来てくれたみたいだから、回収して帰りましょうか。)

 私は飛空船を地上近くに降ろすと2人を乗せる。

「作戦成功か。流石だな。」

「ラティアーナ王女殿下。ご無事で何よりです。」

「2人ともありがとう。デトローク将軍が追いかけてくると面倒だから、このままセプテンリオまで飛ばすわよ?都市の方に通信だけ入れておいてね。」

 私の言葉にシクスタス司令官が私の無事と飛空船を鹵獲して戻る旨を国軍と国境都市セプテンリオ伝えた。

「忘れる前にこれだけ先に返しておく。」

 私はアドリアスに渡してあった魔法袋を受け取って、3人で飛空船に乗り込む。再度操舵して、上空は浮かばせるとセプテンリオに向けて進める。

「今回はうまくいったけど、ほとんど奇襲に近いものだったわ。これから先、帝国軍も本格的に侵攻してくるかも知れないわね。」

「そうですな。今まで帝国軍は兵量差で押し切れると思っていたからこそ、持久戦を仕掛けていましたからな。」

 私の言葉に司令官が返しアドリアスが続けて言った。

「だが得たものも大きい。将軍の存在に飛空船の情報、帝国の拠点と都市の位置。情報を得た上でこちらの損害は少なかった。」

「ええ。犠牲者をなくすことはできなかったけど…最良の結果だと思うわ。」

(本当であれば犠牲を出さないようにしたかった。もちろん戦いになった以上、不可能なことはわかっているけど。理想は遠いわね。)


 帝国軍との最初の大規模な衝突は、全体的に見れば王国側の勝利となった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...