王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第2章 王女兼冒険者の世界を巡る旅

25 国境都市ウィスタリア

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 王都を出発してから約ひと月。私は西側の国境付近で最大の都市についた。

 このひと月の間は、各領地の街を経由して周囲の魔物を狩ったり地元の人と触れ合ったりして過ごした。街それぞれの特産となる農業や産業も知ることができ、とてもいい旅になったと思うが、特に変わったこともなかったので割愛する。


 ここは、エスペルト王国ウィスタリア侯爵領にある国内最西端の領都にして国境都市だ。国境都市というのは、この国を護る結界の外周部分の基点になる都市だ。そのためこの街の地下中央には王鍵と繋がる魔術具が存在する。
 なお領都の名前は、領地の名前がそのまま使われる。


 さて移動手段についてだが、ここまで来るのに使った乗合馬車は、国内の主要都市間しか走っていない。結界によって強大な魔物が少ないことと、都市間は道が整備されていて魔物避けが置いてあるからだ。ただし国外の場合、安全のためには魔物を回避しつつ移動する必要があるため、毎回通るルートが変わることになる。道も整備したところですぐに壊れるため存在しない。

 そのため目的の西方連合国家群までは大規模な商隊に同行させてもらうつもりだった。大規模な商隊の場合、護衛が多く一般の人も同行する場合があるからだ。ギルドで護衛を募集していることが多いため、冒険者の仕事も兼ねるつもりだった。


 そのため私は、早速ギルド支部に向かった。

「すいません。ここから西方連合国家群までの護衛依頼はありませんか?」

 私は訪ねながら冒険者プレートを見せる。

「国外への護衛はBラn…失礼しました。えっとですね、依頼は1件あります。ここを発つのが3日後、目的地は西方連合第15国、フローリアです。平均旅程は7日となります。」

 フローリアとは西方連合の東側にある1つの国で花の都と言われているそうだ。植物を使ったものをたくさんとしていて美容関係の特産品が多いらしい。

「ですが結界の外は内側と別世界です。国内でBランクの実力者でも帰ってこれなかった方が一定数います。ティアさん、ここで無理しなくてもいいんじゃないですか?」

 国の外にいる魔物は、単体でも強く数も多いと聞く。そのため国を跨ぐ移動は、距離の割に時間がかかり危険性が跳ね上がる。安全が確保できない場所を数日の間、夜通しで移動するのだから当然と言えるだろう。

「確かに国の外には行ったことがないです。でもだからこそ知らなくてはいけないと思います…護衛依頼を受注します。」

「そこまでの覚悟があるのであれば…かしこまりました。依頼の詳細ですが…形式は合同受注、報酬は1人小金貨2枚です。護衛対象は馬車5台、約30名です。依頼への参加は…お一人で良いんですよね?」

「はい。パーティーは組んでないので。」

 因みにパーティーを組む場合は、ギルドにあらかじめ登録しておくになる。そうするとパーティーとして依頼を受けた時に参加した冒険者とは別に、パーティーの評価もされるわけだ。ランクについては、所属する冒険者の中で1番低いランクとパーティーとして評価によるランクのうち高い方が採用される。また、冒険者名は被ることがあってもパーティー名は被らないので、冒険者として名前を売ることができるし、少しでも安全性を高めるためにもパーティーを組むことがほとんどだ。

「かしこまりました…これで受注完了となります。出立は3日後ですが、打ち合わせのため2日後の7の鐘までにこちらへお越しください。健闘を祈ります。」

 複数の冒険者が1つの依頼を受ける合同依頼は、依頼の前に一度集まることが基本だ。それぞれの立ち回りや連携などを決めておかなければ失敗と命の危険に繋がる。また、護衛の場合は自分たちだけでなく護衛対象を護る必要があるため、より念入りな打ち合わせが必要となるのだった。

 私は、ギルドを出ると宿をとった。



 翌日、私は街に出ていた。
 打ち合わせは明日のため、今日はゆっくりと街を見て回るつもりだ。

(流石は国境ね!王都にはないものがたくさんあるわ。)

 お店を見ると珍しいアクセサリを見つけたのでお土産とて買っておく。またこの場でしか食べることのできないものも頂くことにした。
 しばらく散策していると、街の中で1番高い塔の前に出る。
 どうやら元々は防衛用の見張り台だったようだが、今は都市の外側に国境壁という城壁のようなものが、国全体の結界に沿ってあるため、観光用になったらしい。せっかくなので、大銅貨を支払って登ってみることにした。

 塔を登ると街の外…つまりは国の外側が一望できた。

(ここまで高い建物は、王城しか見たことなかったから新鮮ね…あれが外の世界、私がこれから向かう場所。)

 ここからだとまだ街の近くまでしか見えないので、魔物は見当たらない。けれど道もなくただありのままの場所が広がっている様子は、人が入ってはいけないと指し示しているように感じた。

 そうして1日が終わり、護衛依頼の打ち合わせがやってきた。


 指定された時間にギルドに向かうと、ギルド内の一室に通された。少し待つと、依頼した代表者と依頼を受けていた他の冒険者もやってくる。私のことを見ると怪訝な顔をしているが、恒例のことだ。

 全員が揃うと打ち合わせが始まった。

「私が商隊のリーダーのルクスです。今回は依頼を受けていただいてありがとうございます。」

「Aランクパーティー、ワンダーガーデンだ。俺はリーダのマティ。パーティーは計6名」

「Bランクパーティーのアベリアスク、リーダのウォルフ以下8名だ。」

「同じくBランクパーティーのアイリスフィードよ。私がリーダのクレアでパーティーは合わせて5人になります。」

「最後にティアと言います。パーティーは組んでいないため1人です。」

「Aランクが俺たちだけのため暫定のリーダーとさせてもらう。今回の護衛も定石通り3つのグループに分ける。1グループが哨戒をもう1グループが近くでの護衛、残りは休憩のいった形で、3交代させる。夜の見張り役は、直前まで休憩だったグループが行い、襲撃を受けた場合は全員で対処する。ここまでは問題ないか?」

 全員が返事をする。グループ分けの話になったが、私をアイリスフィードのパーティーと合わせることになった。この中で唯一の同性なのと人数的にもバランスが良いためだ。その後は、もう少し細かいことを打ち合わせる。緊急時の合図や、後退の方針、各グループのおおよその戦闘方法だ。アイリスフィードと私は、一緒に行動するためより入念な打ち合わせを行う。

「私たちのパーティーは全員が近接主体のパーティーよ。簡単な魔術は使えるわ。あなたも参加できるということは…もちろん実力はあるのだろうけど、私たちも頑張るから安心してね。」

「私も同じですね。魔術も使えますが、長期戦に向かないため近接主体です。これから暫くの間、よろしくお願いしますね。」

 なお、Bランク以上になってくると、近接主体の場合は、いずれかの方法で身体強化を行うことが必須になってくる。


 打ち合わせを終えた後は皆で夕食を食べる。これから数日の間は、命を預けることになるのだから交流を深めるというわけだ。そして、食事を終えると解散となった。


 翌朝…出発する時がやってきた。

「出国手続きには問題ありません。あなたたちの無事と成功を我々も祈っています。では…開門!」

 衛兵の声にあわせて、門が開けられる。
 私たち一行は、国の外側…結界の外へと足を踏み入れた。

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