悪役令嬢とヒロインはタッグを組みます!

ライ

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1 記憶を思い出した日

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 私は昔から病弱で入退院を繰り返していて、学校にもまともに通えなかった。病院の看護師やお医者さんは仲良くしてくれたし、同室になったお兄さんやお姉さんとも仲良くなれたと思う。
 けれど同室の人も退院すれば会うことはなくなる。なにより同年代の子とは話したことがほとんどなかった。
 そんな中で出会ったのが乙女ゲームだ。ゲームの中なら学校生活が体験できる。友達や恋愛というものに憧れていた私にとってゲームとはいえ、とても刺激的で楽しむことができた。そんな日々を過ごしていた矢先、風邪をひいてしまう。普通の…元気な人からすればたかが風邪。でも体の弱い私にとっては、命の危険があるもの。
 精一杯の治療をしたが、風邪が悪化して合併症を起こしたことで短い生涯を終えようとしていた。
 
(お母さん、お父さん今までありがとう。それから…ごめんなさい。もし次があれば、元気な体で普通のことをたくさんして、親孝行したいな…)

家族に看取られた私が最後にそう願って、意識は暗闇に沈んでいく…




 頭に痛みを感じて、目が覚める。なんだか夢を見たような感覚で、現実と夢が曖昧で意識がはっきりしない。起き上がって少しすると、もう1度頭に痛みがはしった。

「っ!?」

 思わず頭を抱えて、うめき声をあげるとノックが聞こえてきた。

「お嬢様!大丈夫ですか?」

 部屋に入ってきたのは私専属のメイドの…

「シーナ…大丈夫よ。水を貰えないかしら?」

「わかりました。すぐにお持ちいたします。それから医者の方も呼んで参りますね。」

 シーナは、礼をして退室する。
 1人になったことを確認して自分の中で再確認する。ちょうど、ベッドの目の前に鏡も置いてあるので、姿も見れた。

 私は、リコリス。今年12歳になる。オーフィア公爵家の長女でお父様とお母様、お兄様の4人家族。
 夢の内容…もとい前世の記憶が一気に流れてきたことで混乱していたが、リコリスとしての私と前世の私が綺麗に混ざり合って、記憶の整理ができた。

(それにしても…名前といい姿といい、どう考えても私が最後にやり込んだゲームの悪役令嬢なのよね。)

 このゲームは、精霊に愛されているヒロインが学園に入学し、5人の攻略対象と恋愛をするゲームだ。ヒロインは、攻略対象と恋人になって学園を卒業する。そして、愛を知ったヒロインによって力が弱まっていた精霊にも力を分け与えることで、世界も救われるというのがTRUEENDとなる。
 悪役令嬢である私は、攻略対象の1人である王太子の婚約者として登場するが、同じ学院に平民出身のヒロインがいることが許せずに、あらゆるいじわるや妨害をする悪役である。幼い頃に病気がちだったため、両親に溺愛され甘やかされて育つ典型的な我儘お嬢様だ。学園に入る頃には、攻略対象でもある兄から毛嫌いされるはずだ。

(せっかくの機会だもの。今度こそ、親孝行して友達との楽しい学園生活…BADENDを回避して、幸せを手に入れるのよ!)

内心で気合を入れ直すと、ノックが聞こえてシーナが水を持ってきた。

「お嬢様、水をお持ちしました。」

「ありがとう。頂くわ。」

 水を受け取るとシーナが、一瞬驚いた表情をした。
 もらった水を飲んでいると、医者が来て診察する。

「怪我は大丈夫そうですな。念のため、今日1日は安静にしてください。」

医者はそれだけ伝えて退室していった。

「少し休みたいから、シーナも下がっていいわよ。」

「…かしこまりました。あと少しでご食事の時間になりましたら、またその時にお呼び致しますね。」

シーナは怪訝な顔をしつつも礼儀良く部屋から去っていった。

 1人になると、これからの事と今までの事を振り返る。今までの私は、大分我儘で使用人には高圧的に接していた。両親は、まだ私のことを可愛がっているが、お兄様との間には溝ができている。使用人からも怖がられているだろう。婚約者である王太子殿下とのやりとりを思い返しても、義務的な付き合いだけでつくり笑顔の下に何を思っているのかわからない。

(どうしてっ!学園に入学する1週間前に思い出すのよ!?結構手遅れ…詰んでるじゃない!)

 今までの自分に愚痴を吐きたくなるが、紛れもない自分の行動なため、因果応報であった。

(唯一の救いは、ゲームみたいに手を上げていないことよね…いや、言葉で傷つけてるから同じかしら…)

ひとまず入学までの1週間について考えるのだった。
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