電光のエルフライド 

暗室経路

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電光のエルフライド 後編

第三十八話 電光のエルフライド 

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 第一教室に、続々と人が集まってきた。
 中でも、エンジニア達は血相を変えた様に飛び込んできて、先ほど本国から連絡を受けたようで、俺に合衆国の危機を伝えてきたが。
 俺は、分かってる、それを今から説明すると抑えている。

 落ち着かない様子のエンジニア達と暫く待っていると、警戒人員含む全員が集合し終わった。

 「みんな、揃ったな。心して聞いてくれ」

 俺は先ほど叔父から聞いた内容をかいつまんで説明した。
 軍が二つに割れて内紛中の事、合衆国がいま先に危機に瀕している事、そして——。
 今がまごうことなき宇宙船を襲撃するチャンスである事。
 全てを話終えると、全員は神妙な表情を浮かべていた。

 「エンジニア組、意見はあるか?」

 「……申し上げます、現在装備の補修がまだ終わっておりません。閃光弾の残弾も、心もとない状況です。補修と合わせて急ピッチで製造してるので、今すぐに出撃するのは不可能です」

 ほう、意外と冷静だ。
 母国の危機であるので、今直ぐに出発しろとでも言われると思っていたが。
 しかし、装備の補修と弾の生産か。
 実戦を想定した試合をしたのも、間が悪かったかもしれん。
 幾度となくタックルを繰り返して、へしゃげたり、弓を地上に落としたりして大半が故障したと聞いた。
 無事回収できたのだけが幸いだろうな。

 「最短で、いつまでに終わる?」

 「明日の昼までには、なんとか」

 「合衆国からはなんと言ってきている?」

 「……皇国に派遣した九機の部隊に、救援を要請する、と」
 
 たった九機に救援要請か、合衆国も相当切羽詰まった状況のようだ。
 しかし、俺の知りたいことはそんな事じゃない。
 
 「いつまでもつと言ってた?」

 俺の残酷な問いに、エマは神妙な面持ちで答えた。
 
 「……敵の猛攻を合衆国のエルフライド部隊が局所的にくいとめていますが、七十六時間以内に陥落する可能性が高い、と」

 三日と、ちょっとか。
 猶予はわずかと言っていいだろう。
 七十六という数字も、どこから出たか怪しいもんだ。
 目算より早く陥落する可能性だってある訳だ。

 「キノトイ」

 「はい」

 俺が呼ぶと、キノトイが歩み出てきた。
 その表情には、不安や懸念は一切見受けられない。
 時計を確認する。
 現在時は二十一時二十七分。
 まだ時間はある、か。

 「着替えてもらって申し訳ないが、さっそく今から全員に休むように伝えてくれ。明日は午後十一時からミーテイングだ。出撃に関してのな」

 「分かりました」

 キノトイは表情を変えないまま、候補生達を連れ立って、教室を出ていった。
 暫く俺たち大人組は無言のまま、子供たちの足音が遠のくのを待った。

 完全に足音が消えたのを確認したところで、俺はその場に残った電光中隊の大人組に切り出した。

 「皇国軍が内紛状態なのは聞いたな?今日、明日が山場だ。各員、武装して臨戦態勢で警戒に当たってくれ。万が一の場合、パイロット達とエルフライドには指一本触れさせるな」

 「了解しました」
 
 電光中隊の大人組が敬礼をして、バタバタと去っていく。
 その場には、俺とエンジニア組だけが残った。
 エンジニア達も、では、作業に戻りますと教室を去ろうとする。
 俺はその背中に声をかけた。

 「合衆国の軍が壊滅するようなことがあれば、作戦が成功したとて、とっくに壊れた世界のパワーバランスが更に崩壊する」

 エンジニア達は怪訝な表情で俺を見返した。
 また、何か始まったというような表情だ。
 構いやしない。

 「あの、今は一刻を争う状況——」

 「今や、善良なる世界秩序を担えるのは合衆国の強大な軍隊のみ、違うか?」

 誰でもない、合衆国人であるエンジニア達にそう促すと、驚いたように表情を浮かべていた。

 「ま、まあ、おっしゃる通りかと」

 「俺は戦後、合衆国が世界を統治する方向で進めばいいと考えている。我が国はそのサポートだな」

 俺の発言に、エンジニア達は口をあんぐりとさせていた。
 まあ、当然だろう。
 なんとなく、ニュースでも見ていれば合衆国がそんな感じの野心を抱いているのは見え見えだ。
 特に、軍人であればそれはひしひしと感じていることだろう。
 それを他国の軍人の口から聞かされることになるとは、思いもよらないだろうな。

 「今、皇国軍は内紛が勃発中だ。この非常事態に、くだらぬ野心で、絶好のチャンスをつぶしかけている。最初から俺たちに投資していれば、ここまで苦労することは無かった。俺は、戦後、このような事が起こらない様に派閥を形成する。合衆国の世界統治容認派閥とでも名乗ろうか?」

 「あの、准尉殿……」

 「なんだ?」

 「あの、お気持ちは嬉しいのですが、今は補修をするのが先かと……」

 「いや、大事な話だ。特に、トビー。お前と俺にとってはな」

 俺がそう言うと、エマとライアンがトビーの顔を見て、次に俺を見た。
 こいつは何を言ってるんだという顔だった。
 対するトビーは、いつものおちゃらけた表情を見せずに、無表情だった。

 「何故俺に?」

 「それを答える前に、エマとライアンは外してくれ。数分借りるだけだから」
 
 エマは納得いかない様な、困惑した表情を浮かべていた。
 
 「は、はあ。いや、しかしですね」

 「上級軍曹どの」

 トビーは頭を掻きながら、エマに対し、軽薄そうに笑う。

 「どうやらシノザキ伍長にちょっかいかけたのがバレたらしい」

 「はあ!? アンタ異国の地でなにやってんの!」

 「多分、その件だ。なあに、そんなに長くはならないんでしょ、准尉殿?」

 「ああ、非常時だからな。五分もかからん」

 エマは尚も納得いかなそうな顔をしていたが、ライアンがあきれた様に引っ張っていってくれた。
 さて、静かになったな。
 やっと二人っきりになれた。
 俺が、トビーに視線をやると、彼は底の見えない様な目で俺を見返していた。
 化けの皮が剥がれたな。
 
 「お前は技術職枠じゃないだろ?」

 暫く沈黙が支配する。
 トビーはにへらっと笑ったのち、返答した。

 「何故、そう思ったんで?」

 「生憎、手品の種明かしをする趣味は無いんだ」
 
 トビー暫く値踏みするように俺を見て、顎をさすっていた。
 そして、状況の割には、ずいぶん愉快そうに話し始めた。
 
 「その通り、俺は技術職枠の招集軍人ではありません。中央情報局の人間です。因みに、エマとライアンはそのことは知りません」

 ホラ来た。
 確証は無く、ハッタリだったが、案外早めにネタバラシしたな。
 おかしいとは思ったんだよ。
 エンジニア枠で来たのに、トビーだけ異常に溶接がへたくそだし、シトネの十一階層の話にやたら食いついてくるし。

 それに、合衆国が馬鹿正直にエンジニアだけ送り込んでくるとは到底思えない。
 どうせ送り込まれた地域の部隊が何をしているのかの調査要員として派遣されたのだろう。
   
 「ですが、それがどうしたってんです?」

 「戦後、お前ら合衆国とのパイプラインが欲しい。いざとなれば力になれる。俺は合衆国寄りの人間だ」

 「戦後、ですか。ふっ、まるで勝ちを確信しているような言い方だ」

 「勝たなければ俺たちに未来は無い、勝った後の話をするのは当然だろう?」

 「見返りは何を求めるんです?」

 「俺はそこまで野心は無い。そうだな、あえて言うなら、いざという時に俺の部隊と子供たちを一緒に亡命させてくれると助かる」

 「ふっ、亡命、ね。因みに力になれると言いましたね?どういった風に我々に力を貸してくれるんでしょうか?」

 「利益はもう教授しているだろう?」

 エンジニア組には、シトネから聞いたエルフライド知識を包み隠さず教えてある。
 恐らく、十一階層まで潜れたヤツは合衆国にもいない筈だ。
 実際、トビーは無茶苦茶食いついていたからな。
 
 「まあ、そうですね。色々面白い話が聞けました。しかし、問題は本国ですよ。報告しても、人の身で十一階層までいける筈ないって半信半疑でしたから」

 「そうか。まあ、それはいずれ証明されることになる」

 「ええ、戦いに勝てば、ね」
 
 トビーはそこでもう話すことは無いとでも言いたげに踵を返し、教室への出口へと向かう。
 しかし、扉に手をかけた瞬間、彼はピタリと動きを止めた。
 
 「勝てるんですか?」

 「勝たなきゃならない」

 「勝算は?」

 「高めてきた」

 そんな身の無いやり取りをした後、トビーは背中を見せたままふっと笑い。

 「それは心強い」

 それだけ言って、彼は部屋を後にした。
 強がって冷静さを装ってはいたが、合衆国存亡の時だ。
 さて——それでは俺も指揮官業務最後の段取りをするとするか。

 チョークを手に取った俺は、黒板に本作戦の概要図を記載することにした。
 
 






ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 次の日——。
 俺は執務室で朝を迎えていた。
 といっても、一睡もしていない。
 どうせ寝ようとしても、眠れるはずなんてないからな。

 トビーと密会をしたあの後、俺はキノトイたちに作戦を説明する準備が整うと、直ぐにエンジニア組の手伝いへと向かった。

 出撃要員のユタは休ませているため居ないし、そもそも三人でやる様な仕事量じゃないからだ。
 トビーより慣れた手つきで作業する俺を見て、エンジニア組は度肝を抜かれていた。

 ちょっとした休憩時間中に、エンジニアでも通用すると褒められたくらいだ。
 まあ、そんなことはどうでもいいか。
 おかげで作業の大半は完了した。

 エンジニア組はしばしの仮眠を取ると言って、そのまま漫画みたいに床にバタンキューしてしまった。

 俺が執務室に帰ってきたのは先ほどだ。
 俺は新しい軍服に着替え、歯を磨き、シャコシャコ歯を磨きながら窓の外へと視線をやる。
 眩い陽光が差し込み始めたのを見て、こんな最悪な日でも朝日が昇るんだと思えば関心する気分になった。

 そんなくだらない事に思いを馳せていると、執務室にノックが鳴った。

 「おーふぁいれ」

 「指揮官、失礼します」
 
 執務室に入ったきたのはフキタ軍曹だった。
 クマを作った目を俺に向けながら、

 「食事の用意が完了しました。候補生——パイロット達も集合済みです」
 
 そう告げてくる。
 俺は軽く手を振って了解、と合図すると。
 フキタは失礼しますと、そのまま扉を閉めて、去っていった。

 この作戦が成功しようが失敗しようが、パイロット達ととれる最後の食事になるかもしれない。
 フキタには無理を言って、とびきり豪勢な食事にするようお願いしていた。
 あれだ、サプライズというやつだ。
 
 俺は顔を洗ってフィニッシュを飾ると、急いで食堂へと向かった。
 






ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 「すまん、待たせたな」

 食堂に向かうと、テーブルには所狭しと言った風に豪勢な食事が並べられ、湯気を立たせていた。
 キノトイ達は困惑するように食堂の中で突っ立っている。
 
 「あ、あの、指揮官」

 「どうした?」

 「こ、これは?」

 見たことないような食事に気おされたかのように困惑する少女たち。
 俺はそんな様子を見て、穏やかに笑いかけた。

 「いっぱい食って、戦って、元気に帰って来い」

 そんな俺の言葉に、少女たちはキョトンとした顔を浮かべていた。
 
 「そしたら、もっと美味い食いもんを食いにいこう、もちろん、俺のおごりでな」

 「恐ればせながらミシマ准尉。私が腕によりをかけて作った料理を超すモノは、そう簡単には見つかりませんよ」

 珍しく冗談を言ったフキタに、俺は苦笑する。

 「だ、そうだ。とにかく、しっかり食え」

 「は、はい!」

 すまんな、フキタ。
 寝不足じゃなけりゃもうちょい粋な返しが出来たんだろうが。
 キノトイ達、主にトキヨが歓声をあげつつ、各テーブルに置かれた料理へと散らばっていく。
 改めて食堂を見渡してみた。

 どうやら、ビュッフェ形式らしいな。
 古今東西の料理がこの部屋だけに一か所に集められたような、そんな雰囲気だ。
 嬉しそうに飛び跳ねながら皿に料理を盛り付けて回っている。

 少女たちは笑いあい、楽しそうに食事に舌鼓をうっていた。
 その姿は、人型兵器に乗って、人類最後の戦いを挑みに行くパイロット達では無かった。
 
 「ああ、すみません。ちょっと、失礼します」

 誇らしそうだったフキタが、目頭を押さえて外へと飛び出ていった。
 今まで食事の面倒見てきた彼女らが今日出撃と聞いて、自ら最後の食事を用意したのだ。
 無理もないだろう。
 俺は暫く、ただ少女たちが料理を幸せそうに頬張っている姿を目に焼き付けていた。







ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 その後、子供たちが食べ終わって、休憩を取ってもらっている時間。
 エンジニア達と電光中隊の大人組も呼んで、食事へと招待した。
 シノザキだけが今は警戒人員として外で見張ってくれている。
 
 「キノトイ達の後で申し訳ないが、お前らも食べてくれ。冷めてるが、美味いぞ」

 何を考えているのか、暫く大人組は黙って食事を見つめていた。
 エンジニア達も微動だにしなかった。
 しかし、暫くすると、警戒人員のリーダーであるフルハタ伍長が一歩、歩み出て。
 手に持った皿に、ちらし寿司を少しだけ盛った。

 ちらし寿司はキノトイ達の一番人気だった料理だ。

 置かれた皿からは、一番量を減らしていた。
 フルハタ伍長はそれを暫く見つめて、箸でつまんで口に運ぶ。
 
 「うん、うまい」

 それだけ言って、再びもそもそと食事を開始した。
 それに端を発した様に、エンジニア達と大人組は食事を開始する。
 全員が黙って、食事をモソモソととっていた。
 その姿は、楽し気だった少女たちとは対照的に、まるでお通夜の会場の様だった。

 「指揮官、彼女らは……どんな顔でこれを食べてました?」

 フルハタ伍長はモソモソと食べながら、俺にそんなことを聞いてきた。
  
 「幸せそうに、それは幸せそうに食ってたよ」

 それを聞いたトドロキ上等兵は、飯を食いながら、静かに肩を震わせ始めた。 
 
 「うっ……くっ、くそ、クソッ」

 「ばかぁ、泣くなトドロキぃ」

 そう言ったシミズ伍長も、鼻水を垂らしながら食事を続けている。
 屈強な兵士たちが、まるで子供のように泣きじゃくっていた。

 しまいには、エンジニア達もそれを見て、泣きながら食っていた。

 嗚咽混じりに、カチャカチャと食事の旋律が耳に響く。
 
 俺はそれを背に、シノザキの元へと向かった。
 
 





ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ
 

 「シノザキ」

 グラウンド中央でシートをかぶせたエルフライドの前。
 肩にライフルを下げ、周囲を警戒しているシノザキに声をかける。
 彼女は珍しく、緩慢な動作で、こちらを向いた。
 相当疲れているようだ。
 昨日から一睡もせずに警戒に当たっている。

 「食事をとって来い、警戒は交代だ」

 「食欲がありません」
 
 シノザキは珍しく、子供の様に駄々をこねた。
 
 「命令だ、行け」

 ライフルを掴んで強めに言うと、彼女は顔を伏せながら、

 「分かりました……」

 消え入りそうな声と共に俺にライフルを渡してきた。
 のそのそと捨てられた犬の様に、校舎方面へと歩いていく。
 しかし、暫く歩くと、彼女は振り返った。
 そして、俺の方へと早歩きで向かってくる。

 「どうした、聞こえなか——」

 「ミシマ准尉、彼女たちを——彼女たちを行かせないで下さい!」

 俺はその言葉に、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を覚えていた。
 あのシノザキが、誰よりも勝利を望んでいたシノザキが——彼女らを行かせるなと言った。
 それに彼女は——その顔を、まるで少女の様にゆがめて、大粒の涙を浮かべていた。
 
 「お願いします、お願いします! 今のままでは、あまりにも、勝算が薄い——彼女らは、彼女らは死んでしまいます!」
 
 縋り付く様に、俺の袖を引っ張って懇願してくる彼女。
 その姿は、最初のころの冷徹な軍人といった面影は微塵も無く、ただただ——我が子の身を案じる母親のように思えた。
 俺は動揺を隠せない自分に鞭を打ち、腹から本能に近い雄たけびを上げた。   

 「シノザキ!!」

 俺の怒声に、ハッとなるシノザキ。
 彼女は俺の袖からゆっくりと手を放した。

 「彼女らは死にに行くわけじゃない、戦いにいくんだ!」

 「し、しかし——」

 「俺たちには、やらなきゃいけない事があるんだよ!」

 おおよそ、説得とは言い難い言葉。
 感情を剝き出しにした、本心に近い言葉。
 俺は指揮官として、戦いのその先——彼女らの未来において、そのことまで視野に入れて作戦を練ってきた。

 それをこんな感情論に、足止めされる事があってはならない。
 食堂で、他の連中は涙を流しながら、食事をし、自分と折り合いをつけていた。
 そんな連中に対して、シノザキの考えは——彼女らパイロット達に対しても失礼だ。
 シノザキは俺の言葉を聞き、呆然とした様に、俺の顔を見つめていた。
 
 「パイロット達が出発するまで、お前は部屋にこもってろ」

 「え——ッ」

 「お前のそんな姿を見たら、パイロット達は不安になる。絶対に部屋から出てくるな」

 彼女はその場で膝をつき、項垂れてしまった。
 そうこうしていると、食事を終えたエルフライドの警戒要員のフルハタ達が帰ってくる。
 すると連中は、シノザキの異様な姿を見て、慌ててこちらに走り寄ってきた。

 「なにかありました?」

 「今すぐこいつを部屋まで連れていけ」

 「わ、わかりました」

 トドロキが項垂れていたシノザキを立たせ、部屋へと連れていく。
 フルハタはそんなシノザキを見て、全てを察した様に俺の横で口を開いた。

 「シノザキは一流の兵士です」

 知ってるよ、タガキ中佐からも似たような事を聞いたし、俺事態も今この瞬間まではそう思っていた。
 
 「でも、家族のこととなると、三流なんです。あいつはここに来る前、軍を辞める様に嘆願した実の姉がいました。その時アイツは、その姉の髪を掴んで警衛所中、引きずりまわしていますから」

 俺は驚いて思わずフルハタを見た。
 彼は苦笑した様に、話を続ける。

 「パイロット達の受け売りではないですが、我々は家族みたいなもんじゃないですか。まあ、何が言いたいかというと、人には向き不向きがあるんです」

 「そう……だな」 

 「そうです。けど、彼女はきっと立ち直ります」
 「何故、そう言える?」

 「賭けてもいいですよ、地球の命運とかどうです?」
  
 馬鹿、縁起でもない。
 ふと、懐中時計を開いてみれば、もうすぐ十一時が迫ろうとしていた。
 ミーティングの時間だ。

 「地球の命運は賭けるもんじゃないぞ、フルハタ」

 「失礼、口がすぎましたね」

 「掴み取るもんだ、電光のエルフライドがな」

 俺が言いながら歩きだすと、フルハタの笑い声が背中から聞こえた。

 「その通りです、准尉殿!」
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