アカシの小さな冒険

変わりつつある日常

訪れた変化

数日が経ったある日、アカシは引越し準備に追われていた。部屋の中には段ボール箱が所狭しと積み重なり、これからの新生活への期待と少しの不安が胸をよぎっていた。

そんな時――

ピンポーン！

インターホンが鳴った。引っ越し業者だと思い、アカシはドアを開ける。しかし、そこに立っていたのは綾香だった。

綾香はシンプルな服装で、微笑んでいた。

「どうも、こんにちは」

「あ、どうも…って、え、どうして望月さんがここに？」

驚きのあまり戸惑うアカシに、綾香は少しむっとした表情で口を尖らせた。

「何よ、せっかく手伝いに来てあげたのに、そんな反応しなくてもいいじゃない！」

「あ…す、すみません。ありがとうございます」

綾香がふくれっ面をする姿に、アカシは思わず謝った。その時、後ろから数人の男性が現れた。引っ越し業者の作業員だろう。

「おはようございます！本日、引っ越しのお手伝いをさせていただきます。青山様で間違いないでしょうか？」

「はい、そうです。よろしくお願いいたします」

「かしこまりました。それでは早速、荷物を確認させていただきますね」

ゴトゴト… と、業者たちが部屋に入り、段ボール箱の数を確認し始めた。

「こちらの段ボール、数が多いですね。大体20箱ほどでしょうか？」

「はい、それぐらいになると思います」

「ほら、これも忘れないでね！」

綾香が指差したのは、窓際に置かれていた小さな箱だった。アカシが慌ててそれを手に取ると、綾香は得意げに微笑んだ。

「ありがとうございます」

「ふふん、当然でしょ。同居するんだから、しっかりしてもらわなきゃ困るもの」

アカシは少し照れながらも、段ボールを業者に渡した。引っ越し業者たちは手慣れた動作で次々と荷物を運び出し、トラックに積み込んでいく。

ガシャン、ゴトゴト…

荷物が運ばれていく様子を見つめながら、アカシは心の中で何度も「これからの生活がうまくいくといいな」と呟いていた。

隣で一緒に作業を手伝う綾香の姿が、なんとなく心強く思えてくる。

途中、綾香があるものを見つけた。

「このドールハウスは何？」

木材のアンティーク調の風合いが印象的なそのドールハウスを見つめて、綾香は問いかけた。

「今は無理ですけど、2人きりの時に話します。」

彼は少し困ったように笑って答えた。

「ふーん、そう。ちゃんと忘れないでね。」

綾香は軽く念を押し、彼に微笑んだ。

やがてすべての荷物が積み終わり、トラックが出発するのを二人で見送った。

「じゃあ、私たちも家に移動しましょうか。」

綾香が声をかけると、

「そうですね。」

彼も頷き、二人は車に乗り込んで移動を始めた。

行き先は福岡のアイランドシティにあるマンションだという。
アイランドシティは福岡市東区に位置する埋立地で、計画的に開発されたエリアだ。もともとは「香椎パークポート」として構想され、港湾機能や物流拠点を持つだけでなく、住宅や商業施設、公園も整備されている。家族連れや観光客に人気の「アイランドシティ中央公園」や「ぐりんぐりん」という植物園もある。医療や教育機関も誘致され、福岡市内で注目を集める地域だと、ネットで見た情報が頭をよぎった。

「アイランドシティって、家賃も高いよね……。」

彼は思わず心の中で呟いた。1Kでも6～8万円、福岡市の平均5～6万円よりも高めだ。しかもこれから暮らすマンションは家賃にしたら30万円くらいするらしい。今のアパートが4万円だったから、その約8倍。身震いしそうな金額だ。

その様子を見ていたのか、綾香が不思議そうに彼を見ていた。

「どうしたの？」

「大丈夫、なんでもないです。」

彼は慌ててそう返し、心の中で期待と不安が入り混じる感覚を抱えながら、車を進めた。

車を進めていくと、次第にビルが増え始め、視界に港と海が広がった。そして橋を渡ると、アイランドシティに到着した。
全体的に新しい雰囲気が漂っている。

車がさらに進むと、やがて家の近くにたどり着いた。そこにそびえ立っていたのは、大きなタワーマンションだった。

アカシの視線の先には大きなタワーマンションがそびえていた。綾香がぽつりと口を開いた。

「ここ、43階建てなんだよね」

「へぇ、そんなに高いんですか」

入り口の前で足を止めると、アカシは驚きを隠せなかった。天然石のゲートが彼の目の前にあり、その先に広がる緑のトンネルを通り抜けると、目に飛び込んでくるのは、トチの実と花をイメージカラーにした豪華な外観の建物だった。

「テラスもすごいね、まるで映画のセットみたいだ」

アカシが感心しながら呟くと、綾香はにっこりと微笑んだ。

「だよね。じゃ、中に入ろっか」

二人が中に入ると、アカシは思わず息を飲んだ。素人の目にも明らかに漂う高級感。フィットネスジム、図書館、さらにはルアタールームまで完備されている。

「ここに住むとしたら…逆に怖いですね」

アカシが呟くと、綾香がくすっと笑いながら言った。

「大丈夫だよ、慣れればきっと平気になるって」

エレベーターに乗り込むと、二人は静かに部屋に向かって上昇していった。

彼女が部屋のドアを開けると、アカシは温かみのある落ち着いた空間に圧倒された。

「すごい…」彼は思わず声を漏らした。

玄関から伸びる木目調のフローリングは淡いブラウンで、自然光を柔らかく反射している。彼女が微笑みながら振り返った。

「どう？この雰囲気、けっこう落ち着くでしょ？」

「はい、信じられないくらい素敵です。ここなら一日中ぼーっとしてても飽きなさそうです」

リビングに足を踏み入れると、窓から降り注ぐ明るい光が白い壁をさらに広々と見せ、アカシは驚いたように見渡した。彼はシステムキッチンに目を移し、光沢のあるグレーのカウンターを見て呟いた。

「豪華な台所ですね。」

「私もそう思うよ。食器洗浄乾燥機までついてるんだから、料理好きにはたまらないよね」

ダイニングエリアの柔らかい照明が二人を包み込み、リラックスした雰囲気が漂う。リビングには床暖房もあり、足元からじんわりと温もりが伝わる。

「ここに住んでると、冬でも寒さなんて忘れそうですね」

窓際に置かれたグレーのソファに軽く触れながら彼は言った。「このソファ、すごくくつろげそうだですね」

彼女が笑いながら、「でしょ？もう、君がここでのんびりしてる姿が想像できるよ」と答えた。

さらにバスルームに目をやった彼は、追い焚き機能付きの浴槽に感心していた。「これ、いいなぁ。いつでも温かいお風呂に入れるなんて最高じゃないか」

「ふふっ、ほんとね。」彼女が浴室の一角に目を向けながら言った。

一通り見渡したアカシは深いため息をついた。「今まで住んでた世界とは、まるで別次元みたいだな…」

「ふふ、そう？でも、こういうところでの生活もきっとすぐ慣れるよ」

彼女の言葉に少し緊張しながらも、アカシは安心した表情を浮かべた。