アカシの小さな冒険

全ての始まり

誤解の向こう側

綾香はじっとアカシを見つめた。彼女の瞳が細くなり、不思議そうにその意図を探るようだった。
「母さんと話す？　一体、何をするつもりなの？」

アカシは静かだが、内に決意を秘めた声で答えた。
「俺は、危害を加えるつもりはないって伝えたい。誤解を解いて話し合って解決する。それしか道はないと思う。」

綾香はしばらく黙って考え込んだ後、小さく息をついて言った。
「反対はしないけど……上手くいくかどうかは正直わからないわ。」

アカシはその言葉に頷いた。だが、綾香は微笑んで続けた。
「ただ、あなたは悪い人には見えないから。私からも母を説得してみる。」

アカシは少し肩の力を抜き、表情を和らげると、次の行動を決めた。
「じゃあ、元の大きさに戻ろう。」

彼はゆっくりと意識を集中させ、体を変化させた。

――その瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。

巨大だった髪の塔は次第に縮み、草むらのような大きさになった。まるで自分が小人の世界から、元のスケールへと帰っていくようだった。そして、その場にいた真冬が異変に気づく。

「……あっ！」

真冬は驚きの表情を浮かべながら、アカシをそっと手に乗せた。慎重に扱うように、彼女は彼を床に置いた。アカシは完全に元の大きさに戻った。

真冬は、無事であることを確かめた瞬間、安堵の涙をこぼした。
「よかった……綾香……無事で……」

綾香は照れ臭そうに視線をそらしながらも、微笑んだ。
「心配かけてごめんね。」

真冬は涙を拭いながら、これまでの出来事をゆっくりと語り出した。
「私、二人を探している間に警察に捕まっちゃってね……。事情聴取をされて、色々大変でした。」

「警察？」アカシは眉をひそめた。

「うん……だって、あんなに大きな音がしたから、当然そうなりますよ。」
真冬は苦笑しながら続けた。
「原因は、携帯のバッテリーの爆発ってことにして誤魔化したの。まあ……なんとか丸く収まったけど。」

「そうだったんだ……大変だったね。」アカシは思わず同情の声を漏らした。

一方、綾香もこれまでの経緯を真冬に説明した。そして、早速行動に移すことを決めた。
「でもね、私の携帯、もう壊れてしまったからかして。」

「わかりました。……じゃあ、これ使ってください。」
真冬はポケットから自分のスマホを取り出し、綾香に手渡した。

「ありがとう。」綾香は微笑み、電話の画面を開くと、素早く番号を入力した。

アカシは黙って見守っていた。彼女がどんな言葉を選ぶのか――その結果が、今後のすべてを左右するだろう。

綾香は息を整え、電話の相手に向けて話し始めた。
「もしもし、母さん？ 私。ちょっと話したいことがあるの……」

そして、彼女たちは約束の場所へと向かうために、静かにその場を後にした。