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第二十五話:絶望のプレリュード

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 腕相撲大会で騒ぎ倒した翌日はレタンによってたたき起こされて始まった。

「起きろソーサク! 兄上がいらしたぞ」
「へ、兄ちゃんがどうしたって?」

 この前、手紙でレタンの兄が来るとか言ってたな。確か有名な騎士団の団長とかだったはず。 個人的にはもう少し速い到着を望んでいたのだが……まあ、今後戦闘を任せられると思えば良しとしよう。

「ほら、外を見ろ」

 宿の窓から様子をうかがうと、人々が慌ただしく走り回り、街のいたる所に飾りつけをしている。パレードでもするのだろうか、主役と思わしき豪華な鎧の人たちもいるし。

「すごいことになってんじゃん。で、なんか関係あるの?」
「あるに決まっているだろう! 私たちがこの街を守ったから挨拶されるんだ!」

 え、マジ?聞いてないぞ。寝癖を直さなきゃいけないし、礼服なんぞあるわけがない。カミシモと一緒に隠れていようか。俺の甘い考えをレタンは許してもらえるはずもなく。

「馬鹿を言うな、これは名誉なことなんだ、これをきっかけに働きやすくなるかもしれないんだ。もしかしたら好待遇な仕事を紹介して貰えるかもしれない」

 よし、今すぐ支度しよう。何から始めればいい。
 底をついていたやる気メーターの針が振り切れた。とりあえず飯でも食ってくるかと布団から出ると、ホテルのドアが勢いよく開かれてドレス姿のピノ登場。

「レタンさーん、団長さんから借りてきました!劇の衣装ですが立派な礼服です」
「よし、ソーサク着替えてアロンを説得してくれ」
「了解」

 ピノから丁寧にたたまれた衣服を受け取って、広げてみる。裾がツバメの尾のようだ。こ、これは燕尾服じゃないか。どこか中二心くすぐられる礼服に着替え、アロンのいるドアをノックした。

「アロン、入るよ」
「騎士団の方々がいらっしゃいましたね。これでもう戦うことはないです。よかったです」
「ああ、これでハッピーエンド。それで、だ。俺たちが今までの功績をたたえられて表彰されるらしい。俺たちが必死こいて慣れない戦闘をしてきた努力が報われたんだよ」

 その一言でアロンが青ざめた。俺なんか地雷踏んだかな。

「嫌です。行きたくありません」

 こっちもこっちでカミシモ以上の対人恐怖症だった。

「確かに俺たちは着ぐるみ怪獣の中で喚いていただけだ。コカトリスのトドメはレタンだし、ゴーレムの魔術師を倒したのはカミシモだ。つまり俺たちは大した手柄もない。あの二人が表に立って賞を貰って終わり。俺たちはいつものようにボーっと突っ立てるだけ。な、簡単だろ?」
「……ふーん、そんなこと思ってたんですね。戦闘中、わたしは魔法の調整していたり、息苦しい中で最適な魔法を考えたりと忙しかったのに。誰のせいで空中に吊るされた挙句、クルクル回りながら魔法使う羽目になったというんです、ええ?」

 ごめんなさい。

「だいたいわたしは魔法使いです。後衛です。どうしてモンスターのの真正面に陣取って魔法を使わないといけないんですか? 騎士のレタンがわたしたちの後ろでサポートしてるんですか? 前衛の剣士が敵を引き付けて、後衛の魔術師が一撃をぶっ放す。これが基本ですよ」

 ぐうの音も出ねえ。だってアクションゲームで、防御力の低い魔法職が前に出てるようなものだもん。俺の怪獣、紙耐久だし。
 弱ったな、アロンから正論パンチを食らってしまった。言い返せないでいると、時間切れになったらしくレタンがノックする。

「ソーサク、大丈夫そうか?最悪、私が担いでいく。その時は遠慮なく言ってくれ」
「……着替えを、ください」

 どうやら観念したらしい。アロンはアロンで俺以外の人とあまりかかわりを持ちたくない、この弱点を見事に突かれたというわけだ。レタンに担がれるくらいなら、俺の後ろについて行った方がいいという事なのだろうか。よく一人で旅をしてこれたな。

「レタン、アロンの着替えを持ってきてくれ」
「了解」

 以前よりも装飾が派手になった鎧姿のレタンからコスプレ衣装……じゃなった、礼服を持ってきてもらい、アロンの部屋の前に置く。これで一見落着か。

「ソーサク、ありがとう」
「いやー、説教くらったよ。魔法使いを前線に立たせるなって。おっしゃる通りで」
「見てくれだけは立派なのに中身が残念過ぎる。ハリボテカイジュウだもんな」
「うるせいやい!剣すらまともに扱えないくせに、お前もメッキの騎士だ」
「ふふ、そうだな。私たちは同類だ」

 どこか満足そうにレタンが笑い、それにつられて俺もつられてしまう。しっかし、ハリボテ怪獣か。なんか、いいな。
 感傷に浸っていると、ピノが宿の扉を蹴飛ばした。

「おい、ソーサク、レタン!ヤバいことになった、これ見てくれ!」

 手紙の括りつけられた矢を突き出す。

『拝啓、ソウサク殿。これから家出する、探さないで候。カミシモ』
「あのバカ、逃げ出しやがった!」 

 対人恐怖症は腕相撲大会で克服していたと思ったのに。
 着替え終わったアロンがこっそりやってきて、その手があったか。などと小さく呟く中。

「感覚共有魔法で繋がるかな……」

 毎度お世話になっているピノの魔法でカミシモと視覚の共有を試みる。
 待つこと数秒。

「繋がった!どこにいやがるこのおバカ!」
『ちょうどよかった、こっちに不穏な空気が、ある。来てくれ』
「誤魔化せると思うなよ、そこで待ってろ。アロンも来い」
「チャンスだったのに」

 窓のふちに足を乗せていたアロンを引き連れ、俺たち四人は宿屋を飛び出すと、その辺の馬車を捕まえた。
 緊急事態だからと、強引に運転手を説得させ、レタンが手綱を握り、ピノの案内に沿って走り出した。



 カミシモは街外れの森、以前コカトリスと戦ったルレーフの森近くにいた。
 忍者は木のてっぺんで遠くの方を見つめていたが、俺たちが来たと分かると降りてきた。

「この先……何かいる。邪悪な、何かが」

 俺も目を凝らすが分からない。言われて何となくそんな感じがするくらいだ。だが、レタンも何かを感じとったようで。

「ピノ、街に連絡を頼めるか?私も何か嫌な予感がする」
「りょーかい☆」

 俺の横でアロンが静かに杖を構える。平和ボケしている俺もただならぬ気配を感じてカプセルを握りしめた。しばらくしてドシンドシンと巨大な足音が鳴動する。
 レタンは接近する未知を睨んだ。

「ソーサク、変身してくれないか?」
「戦うの?この格好なのに?」
「今の状態で敵に見つかれば戦えない君とピノがやられる。なら変身し、アロンの魔法かなんかで怯ませて、それから逃げた方が生存率は上がると思わないか?」

 レタンの提案に反対する理由もない。確認もかねて俺がアロンへ振り向くと、重々しく首を縦に振った。
 礼服が汚れないよう、上着だけ脱いでカプセルを取り出し変身。特に準備もしていないので、着慣れたドメイドン辺りが丁度いいだろう。
 地面に寝そべり、アロンには口の中でスタンバイしてもらう。こっちの準備は完了。カミシモは尻尾の操演、ピノが退路の確保と街へ連絡を担当。あとはレタンに起こしてもらえば大丈夫だ。
 俺たちが戦闘準備を整えていると敵の足音が近づいてくる。一定のリズムで足音が響き、森の木がなぎ倒されて、その正体が明らかになった。

「ドラゴン、じゃん」

 体長推定50メートル。禍々しいオーラを放ち、大木みたいに大きな二本足で闊歩する。一対の巨大な翼、長い尻尾、ひょろ長い首。額にはヤギみたいな捻じれた角が二本生えていて、そのうちの片方は折れていた。
 幸いなことに相手はこちらに気づいていないのか、目もくれず街へと向かっている。色んな意味で不味いんじゃないか?
 そのオーラに圧倒されてか、アロンが声を捻り出した。

「……逃げましょう」
「街の人たちはどうするのさ?」
「逃げましょう……あれは、アイツは危険です。アタシたちの手に余る。ピノ、至急逃げろって伝えて、さあ早く!」
「お、おう。分かったよ」

 アロンが叫んだ。怒りか怯えか分からない。だが、これほどまでに鬼気迫ったのは初めて見る。それほど不味い状況なのだろう。
 事の重大さを悟って撤退しようとしたとき、ドラゴンの目がギョロリとこちらを向いた。

「気づかれた!」

 そりゃそうだ木の間に隠れているとはいえ、巨大怪獣が横になっていれば気づかない方がおかしい。
 ぶっつけ本番だけどやるしかない。
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