上 下
75 / 121

75.「城門近くの民家に入る。 」

しおりを挟む
民家の中は、僕ら現代人とは異質なものの、生活感のある部屋だった。
まるで昨日まで誰かが住んでいた様な。
「本当に誰も居ないんですね」
千歳ちゃんは城の様子に驚いている様に言う。
「・・・気味が悪いよね・・・へっくしょ!」
千尋ちゃんが寒そうにくしゃみをする。
上半身ほぼ半裸の上濡れているのだから仕方がない。
僕は、ジャージを脱いで、千尋ちゃんの肩にかけてやった。
「・・・お兄ちゃん・・・!」
「寒いだろう?、それで良ければ着けていてくれ」
「うん!」
にっこりと微笑む千尋ちゃん。
「ぶー!千尋ちゃんだけずるいです。私も何かして下さい。」
「何かって・・・?何だよ・・・?」
「何かは何かです!それじゃあ・・・ちゅー、して下さいよ!ちゅー!」
千歳ちゃんは目を瞑って僕に唇を向けて来た。
「なっ、ちょっと待てよ、それはいくら何でも」
「一緒にお風呂入ったんですから、これぐらい良いじゃないですか、ちゅー!」
「ちょっ、やめっ!千尋ちゃん、何か言ってやりなよ」
「んーー、先から私ばかり良い思いしてるし、千歳さんにも、お兄ちゃんの事、譲らないとね。ちゅーぐらいなら・・・良いかな、後で私にもしてくれるなら」
ほっぺを手に当てて、困った風にくすくす微笑む千尋ちゃん。
千歳ちゃんの唇が迫って来る。
「年貢の納め時ですよ。ちゅーして下さい」
・・・確かに、僕は彼女達から色々誘惑を受け、好意を伝えられて、未成年だけど、彼女達の存在は誰も分からないし、ここも現実だかわからない空間だ。何しても問題ないし、彼女達もそれを望んでいるだろう。
僕は、目を瞑って、千歳ちゃんのキスを・・・
・・・しなかった。
「お兄さん?」
悲しそうな目で僕を見る千歳ちゃん。
「・・・今は・・・よそう・・・」
「今は・・・?ですか・・・?」
「うん・・・この、わけのわからない世界の中から脱出してからにしよう。そういうのは。」
「ここから出れば、ちゅーしてくれるんですね!」
「ん・・・まあ、そうだな・・・。どうせ千歳ちゃんに何かしても咎める人は居ないしな」
そう言うと、千歳ちゃんは、ぱあっと顔を明るくして
「どうしたんですか?、急に、お兄さんのガードが甘くなったんですけど?、今まで、押しても、体よく避け続けられていたのに!良いんですか?やっちゃいますよ!私!」
と言って、僕に抱きついて来た。
「・・・ん・・・まあ、もう、いい加減にして良いかなって。どうせ、僕らの関係は僕ら以外分からないものだし、それに、千歳ちゃんは魅力的だしな」
と、僕は千歳ちゃんの頭を撫でてやった。
「やったーっ!うふふ!お兄さん!お兄さん!」
千歳ちゃんはぎゅっぎゅっと僕に抱きついて、喜んでいる。
「こらこら、全てが終わった後の事だぞ」
千歳ちゃんの頭をぺしりとチョップした。
「あてて・・・楽しみにしてます!」
千歳ちゃんはるんるんで僕から離れた。
「・・・お兄ちゃん、私も楽しみにしてるね」
ふと、横を見ると、口元だけ微笑んで、僕らを見ていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】貴方と貴方のとなりのあの子を見倣います!

恋愛
え? 何をしているのか?ですか? 貴方があの方をお褒めになるので、私も彼女を見習って改める事にしましたの。 喜んでくれると思っていた婚約者様は何故か不機嫌そうです。 何故なのでしょう_____? ※ゆるふわ設定 ※1話と2話少し内容を修正いたしました ※お待たせしてしまい申し訳ございません。 完結まで毎日予約投稿済みです。

処理中です...