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66.「そこは一面に広がる草原。遠くには地平線すら見える。 」

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「ここは・・・どこでしょうか?」
「さあ、モンゴルじゃないか?」
「ははは、お兄さん、面白い事言いますねえ、私達、街中に居たはずじゃないですか」
「ははは、そうだね、うっかりしてたなあ」
「「ははははははははは!」」
僕ら二人は朗らかに笑った。
あんまりに奇想天外な事が不意にやって来たので、現実が馬鹿馬鹿しくって笑いが込み上げてしまうのだ。
「さて・・・これ、どうしましょうか?」
「さあ・・・、というか、千尋ちゃんは?」
はたっと自称妹が居ない事に気づき、周りを見渡しても自称妹の姿は無かった。
「あれっ?・・・お、おーい、千尋ちゃん?おーい?」
呼び掛けても自称妹の姿は見えない。
「おかしいですね?ついさっきまで、一緒に歩いていたのに・・・。」
「あいつバテて、僕らから少し遅れて歩いていたからなあ。・・・きっとこの草原の世界に引き込まれたのは僕らだけで、千尋ちゃんは遅れて歩いていたせいで、引き込まれずに済んだのだろう」
と、僕は考察した。
「ふーむ、成る程、そう考えると合点も行きますね。流石お兄さん。」
「よせやい、照れるだろう。・・・というか、確実に電車乗り遅れるし、会社遅刻するなあ・・・どうしたものか」
「とりあえず、電話で連絡入れてみては?」
僕は職場に電話をかけてみる事にした。
すると、不思議な事に職場へ繋がってしまった。
電波通っているのか?ここは?
僕は急な体調不良を訴えて、何とか長時間遅れる旨を了承して貰った。
「とりあえず、時間の都合は出来た。後は、この草原の中、どうするかなんだが・・・。」
「とりあえず、歩きましょ。ハイキングです」
「のんきだな、またあのゴーレムがやって来るかもしれないから、注意しなよ」
「はい!」
自称従兄弟は僕の手を握って、ニコニコと微笑む。
まったくのんきな事だ。
てくてくと僕らは少し獣道になっている歩きやすい所を歩いていった。
「何だかワクワクして来ませんか・・・」
「ん?何が?」
「こうやって、二人で歩いているのがです。」
自称従兄弟の顔は上機嫌だった。
「ワクワクより、どうやって元の世界というか町に戻れるかと思う気持ちの方が大きいよ」
まったく、どうにか元の世界に戻れたとして、職場に申し訳なさそうな顔して出勤しないといけないと思うと憂鬱だ。
「折角二人っきりなんですし、楽しみましょうよ。」「楽しむって、こんな非常事態に?」
「はい。幽霊か何か分からない私が居る事事態が非常事態でしょ?お兄さんにとって?だから、これは非常事態の続きなんです、きっと」
「大物だねえ」
「へへ、そんなに誉めなくても」
てへへと笑って自称従兄弟は照れていた。
「それにですね・・・」
自称従兄弟は僕の顔を覗き込んで言葉を繋げる。
「何だか私、今、凄く気分が良いと言うか、何と言うか、ここの草原に来たせいでしょうか?ここ、前に来た事がある様に感じるんです。とにかく爽やかで何となく懐かしい感じです。」
うふうふ微笑みながら自称従兄弟は続ける。
「何でしょうかね?私、今まで生きてきて、こんな地平線が見えるぐらいの大草原に来た事なんてないのに。何かのテレビで見た物にデジャビュを感じてるんですかね?」
自称従兄弟は嬉しそうに、しかし、困惑そうに言った。
「分かんないなあ、でも、もしかしたらだけど、もしかしたら、この草原と君、何か関係あるかもね」
「そうかもしれませんね、そうかもしれませんね」
自称従兄弟は僕が言った言葉を噛み締める様にうんうんと頷く。
「あのですね、お兄さん・・・」
ウキウキ顔だった自称従兄弟が、少し目を陰らせて、僕に言う。
「この場所、良い場所なんですけど・・・、ちょっと怖いんです。
何か、何か、ここは気持ち良い所ですけどどこか不気味です。街中とは急に離された場所にある別世界の様なこの草原と、お兄さんにしか認知されてなくて、自分の友人や家族さえも私の存在は認知されていない、まるで初めから世界居なくても矛盾は無い私、何か似ている気がします。
気のせいかもしれませんけど、そんな場所に懐かしい感じがするのも不気味です」
自称従兄弟はいつの間にかふるふる震えている、僕の手を握る手も力みを増していた。
気にするなよ、気のせいだ・・・と笑い飛ばしてやろうと思ったが、気のせいにしては、符合する話だとも思う。
「おかしいですね、私、今まで他人に見えないながらも、まともな人と思ってたんです。だって、今まで、まともに生活して生きていましたから、でも、この光景見て、この心地よさを覚えると、だんだんと私がまともじゃないかもしれないと思いはじめてきまして・・・」
さっきまではニコニコ笑っていたのに、何だか自称従兄弟は今にも泣きそうな悲しい顔をしている。
僕はどう声をかけようか考えた。考えて、自称従兄弟の肩を叩いてやり
「気にするな、例え君が僕の従兄弟じゃなかったりしても、君は僕の従兄弟さ。まともとかまともじゃなくても、関係無く。だから気にするな。何も気にする必要は無いんだ。僕は君の従兄弟だ。何が起きても、何が事実でも関係無く」
僕は努めて冷静に言葉を選んで、でも僕の嘘偽りの無い、ただただ本音を自称従兄弟に述べてみた。
すると自称従兄弟は少し惚けた顔をして、顔が惚けぱなしで、そして口元に笑みが浮かび涙を一、二滴ほろりと落とした後
「そ、そうですね!私、お兄さんの従兄弟ですもんね!」
と僕にガバッと抱きついてきた。
僕はその背中をなでなで撫でてやった。
これで良いんだ。自称従兄弟は、
いや、僕の従兄弟、千歳ちゃんは、僕の従兄弟なんだから、これで良いんだ。
僕も先の言葉を言い切った事に爽快感を感じてた。
僕は暫く僕に抱きつく千歳ちゃんを撫でていた。
「・・・それにしても、お兄さん」
「ん?何だい」
暫く撫でていると千歳ちゃんが胸の中から僕の顔を覗き込んできた。
「・・・折角、私達以外誰も居ないんですし・・・昨日の風呂場の続き、しませんか?」
うひひと笑って自称従兄弟は言った。
「アホか」
「あいてっ」
僕はぺしりと自称従兄弟の頭にチョップをして自称従兄弟から離れる。
「少ししおらしくなったかと思ったら君って奴はなあ」
「だって、まともじゃないのなら、普通の世の中の道理は無視して良いって事じゃないですかあ?」
「良いわけ無いじゃないか!!」
にひひと笑う千歳ちゃん。いつもの本調子に戻った様である。
「さっ、バカな事やってないで、この辺りを散策してみよう」
僕は千歳ちゃんの手を掴んで、歩きだす。
「わ、わわ、待って下さいお兄さん・・・あれっ?ちょっと、待って下さい、本当に待って下さい。また非常事態な事、起きているみたいです。」
と言って千歳ちゃんは前方を指差す。
前を見ると、ゴーレム達が居た。その数は、10体ぐらい、そしてその一体の肩を注目する。そこには、前に出会った黒服の少女が座っていた。
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