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ターゲット
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「おかえり、あゆ。今日はどうだった?」
自分の部屋に入ると、クッションの上でくつろいでいたチワがのんびりとあくびをしながら聞いてくる。
「え? 何が?」
不思議そうに聞き返すあゆに、チワは少し呆れた様子で尋ねた。
「何って……今日は新学年でクラスも変わっただろ?」
わずかな間のあと、憂鬱そうな顔をしたあゆが答えた。
「そうね……嫌なやつがまた同じクラスだった」
あゆが本当に嫌そうな顔をしていたので、チワには想像がついた。
いつもあゆが嫌がってる上杉とかいう奴だ。
「……怖そうな人とも一緒になった」
あゆが思い出したかのように、身震いする。
よほど恐かったんだな、誰だ?
初めて登場する奴だ。
「あと、新しい担任の先生がすごい人気だったかな」
「へー、どんな奴?」
「んー、イケメン?」
なぜそこで?マークになるんだ?
あゆはやっぱり普通の感覚からずれているのかもしれない。
「ま、そんなとこ」
話が一区切りついたようなので、チワは姿勢を正すと本題に入った。
「それじゃあ、あゆ、仕事の話いい?」
チワの声音が変わる。
それまで元気だったあゆが急に沈んだ。
「……もう、次? 今回は早いね」
あゆがあきらめたように目を伏せた。
「いつもすまない。……頼むよ」
チワが申し訳なさそうに俯くと、あゆは何も言わず、静かに頷いた。
次のターゲットは、同じ高校の一年、木崎ゆりあ。
つい最近、悪魔に魂を売った。
彼女はずっと容姿にコンプレックスを抱いていた。
少しふくよかな体型と瞼の厚みで細くなった目、そして少し平な団子鼻。
特別醜いわけではないが、そういう人物がいじめの対象にされるものだ。
ゆりあもそうだった。
幼稚園、小学校、中学校、ずっといじめられてきた。
そのせいで性格まで暗く歪み、それが余計にいじめに拍車をかけていた。本人もどんどん卑屈になっていき、そんな自分も大嫌いだった。
そんな折、ゆりあにとっては神のように思えるそいつはやってきた。
自分の純粋な魂を売れば、理想の美しさをくれるというではないか。
こんな歪んだ自分に純粋な魂というものがあるのか、彼女にはわからなかった。
しかし、ずっと喉から手が出るほど欲しかったモノが手に入るのだ。
もうあんなに辛い日々を送らなくてもいい。
あのいじめっ子たちを見返してやれる。
ゆりあは、躊躇することなく、悪魔と契約を交わした。
「木崎さんってあんなに綺麗だったっけ?」
ひそひそと女子たちが内緒話をしているのが聞こえてくる。
最近のゆりあは外見の豹変ぶりに加え、性格も変わったようだった。
いつも暗く下を向き、目立たなかった彼女。
今では化粧をし髪も巻いて、制服も可愛く着こなしている。
そんな彼女は自信に満ちた表情で学校を闊歩していた。
「あんた邪魔なのよ!」
少し肩が当たった女生徒に対して、ゆりあが叫ぶ。
「あんたみたいなブスが私の邪魔していいと思ってんの?」
ゆりあは相手を見下すように睨んだ。
「何ですって?!」
「あんた、よーく鏡で自分の顔見てみなさいよ。よくそんな顔とスタイルで生きていられるわ」
ゆりあは自分の美しさを際立たせるポーズを取ると挑発的に微笑んだ。
相手も負けじとゆりあに食ってかかった。
「は? あんたにそんなこと言われたくないわ! この間まであんたブスだったじゃない、どうせ整形でもしたんじゃないの?」
そう言われたゆりあは少しだけ眉を上げたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「そうそう、あんたの好きな川谷くんだっけ? 彼、私に告白してきたわよ」
勝ち誇ったようにゆりあは微笑んだ。
相手の女生徒はすごくショックを受けた表情に変わり、何か言い返そうと口を開く。
しかし何も言葉出ず、涙を浮かべ悔しそうにその場から走り去っていった。
「ドブスが!」
ゆりあは女生徒の背中に向け、勝利の雄叫びを上げた。
ひとしきり笑ったあと、彼女から笑顔が徐々に消えていく。
なぜだ? 私は欲しかったモノを手に入れた。これで幸せになれるはずだった。
なのになぜ、満たされない?
ゆりあの表情は苦しみに満ちていく。
ゆりあはわからなかった、自分が求めているものが何だったのか……。
その頃、あゆはゆりあの下駄箱の前に立っていた。
辺りを見回して人がいないことを確認すると下駄箱に手紙を入れる。
いつも悪魔と契約した者へは果たし状で決闘を申し込んでいる。
これで皆応じてくれるのだから、なんだかんだで皆まだ純粋な魂が残っているのではないかとあゆは思うのだった。
入れたことを指差し確認してからあゆは去っていく。
しばらくすると、ゆりあのことを良く思っていない女生徒がいたずら目的で彼女の下駄箱を覗いた。
そこに手紙があったので、その女生徒はラブレターだと勘違いし手紙を破り捨てる。
「いい気味」
ほくそ笑んだ女生徒はその場をあとにする。
そこへあゆの担任の須藤が現れた。
先ほど破かれた手紙の残骸を見つめると、それに手をかざした。
須藤の手から淡い光が放たれ、手紙に注がれる。
光が消えると、そこには元通りになった手紙があった。
彼はそれをゆりあの下駄箱に入れ直す。
「これでよし」
須藤は微笑むと、その場から姿を消した。
読んでいただき、ありがとうございます!
次回も読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします(^▽^)/
いいね、お気に入り登録いただけたらすごく励みになります(^^)
自分の部屋に入ると、クッションの上でくつろいでいたチワがのんびりとあくびをしながら聞いてくる。
「え? 何が?」
不思議そうに聞き返すあゆに、チワは少し呆れた様子で尋ねた。
「何って……今日は新学年でクラスも変わっただろ?」
わずかな間のあと、憂鬱そうな顔をしたあゆが答えた。
「そうね……嫌なやつがまた同じクラスだった」
あゆが本当に嫌そうな顔をしていたので、チワには想像がついた。
いつもあゆが嫌がってる上杉とかいう奴だ。
「……怖そうな人とも一緒になった」
あゆが思い出したかのように、身震いする。
よほど恐かったんだな、誰だ?
初めて登場する奴だ。
「あと、新しい担任の先生がすごい人気だったかな」
「へー、どんな奴?」
「んー、イケメン?」
なぜそこで?マークになるんだ?
あゆはやっぱり普通の感覚からずれているのかもしれない。
「ま、そんなとこ」
話が一区切りついたようなので、チワは姿勢を正すと本題に入った。
「それじゃあ、あゆ、仕事の話いい?」
チワの声音が変わる。
それまで元気だったあゆが急に沈んだ。
「……もう、次? 今回は早いね」
あゆがあきらめたように目を伏せた。
「いつもすまない。……頼むよ」
チワが申し訳なさそうに俯くと、あゆは何も言わず、静かに頷いた。
次のターゲットは、同じ高校の一年、木崎ゆりあ。
つい最近、悪魔に魂を売った。
彼女はずっと容姿にコンプレックスを抱いていた。
少しふくよかな体型と瞼の厚みで細くなった目、そして少し平な団子鼻。
特別醜いわけではないが、そういう人物がいじめの対象にされるものだ。
ゆりあもそうだった。
幼稚園、小学校、中学校、ずっといじめられてきた。
そのせいで性格まで暗く歪み、それが余計にいじめに拍車をかけていた。本人もどんどん卑屈になっていき、そんな自分も大嫌いだった。
そんな折、ゆりあにとっては神のように思えるそいつはやってきた。
自分の純粋な魂を売れば、理想の美しさをくれるというではないか。
こんな歪んだ自分に純粋な魂というものがあるのか、彼女にはわからなかった。
しかし、ずっと喉から手が出るほど欲しかったモノが手に入るのだ。
もうあんなに辛い日々を送らなくてもいい。
あのいじめっ子たちを見返してやれる。
ゆりあは、躊躇することなく、悪魔と契約を交わした。
「木崎さんってあんなに綺麗だったっけ?」
ひそひそと女子たちが内緒話をしているのが聞こえてくる。
最近のゆりあは外見の豹変ぶりに加え、性格も変わったようだった。
いつも暗く下を向き、目立たなかった彼女。
今では化粧をし髪も巻いて、制服も可愛く着こなしている。
そんな彼女は自信に満ちた表情で学校を闊歩していた。
「あんた邪魔なのよ!」
少し肩が当たった女生徒に対して、ゆりあが叫ぶ。
「あんたみたいなブスが私の邪魔していいと思ってんの?」
ゆりあは相手を見下すように睨んだ。
「何ですって?!」
「あんた、よーく鏡で自分の顔見てみなさいよ。よくそんな顔とスタイルで生きていられるわ」
ゆりあは自分の美しさを際立たせるポーズを取ると挑発的に微笑んだ。
相手も負けじとゆりあに食ってかかった。
「は? あんたにそんなこと言われたくないわ! この間まであんたブスだったじゃない、どうせ整形でもしたんじゃないの?」
そう言われたゆりあは少しだけ眉を上げたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「そうそう、あんたの好きな川谷くんだっけ? 彼、私に告白してきたわよ」
勝ち誇ったようにゆりあは微笑んだ。
相手の女生徒はすごくショックを受けた表情に変わり、何か言い返そうと口を開く。
しかし何も言葉出ず、涙を浮かべ悔しそうにその場から走り去っていった。
「ドブスが!」
ゆりあは女生徒の背中に向け、勝利の雄叫びを上げた。
ひとしきり笑ったあと、彼女から笑顔が徐々に消えていく。
なぜだ? 私は欲しかったモノを手に入れた。これで幸せになれるはずだった。
なのになぜ、満たされない?
ゆりあの表情は苦しみに満ちていく。
ゆりあはわからなかった、自分が求めているものが何だったのか……。
その頃、あゆはゆりあの下駄箱の前に立っていた。
辺りを見回して人がいないことを確認すると下駄箱に手紙を入れる。
いつも悪魔と契約した者へは果たし状で決闘を申し込んでいる。
これで皆応じてくれるのだから、なんだかんだで皆まだ純粋な魂が残っているのではないかとあゆは思うのだった。
入れたことを指差し確認してからあゆは去っていく。
しばらくすると、ゆりあのことを良く思っていない女生徒がいたずら目的で彼女の下駄箱を覗いた。
そこに手紙があったので、その女生徒はラブレターだと勘違いし手紙を破り捨てる。
「いい気味」
ほくそ笑んだ女生徒はその場をあとにする。
そこへあゆの担任の須藤が現れた。
先ほど破かれた手紙の残骸を見つめると、それに手をかざした。
須藤の手から淡い光が放たれ、手紙に注がれる。
光が消えると、そこには元通りになった手紙があった。
彼はそれをゆりあの下駄箱に入れ直す。
「これでよし」
須藤は微笑むと、その場から姿を消した。
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