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依頼引き受けちまったよ……

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 ママから聞いた話によると。

 サラは源氏名げんじなで、本名は藤崎ふじさき沙羅さら、27歳。
 このスナックバーで勤めて3年になる。

 働き者で、礼儀正しく真面目に働く沙羅のことをママは娘のように可愛がっていた。

 遅刻や無断欠勤などしたことがなかった彼女が、なぜか3日前から無断欠勤を続けているという。
 携帯に電話しても繋がらない。家に尋ねて行っても留守だったらしい。

 ママはどうすればいいのかわからず、考えあぐねいているところに俺達が現れたというわけだ。

「沙羅は本当に素直で優しくていい子なの。
 真面目な子で、絶対に約束は破らないし、ましてや無断欠勤なんて……。
 消息しょうそくもわからないのよ、心配だわ」

 ママは心底心配しているように深いため息をついた。

「ご両親は?」
「それが、あの子、孤児院の出で、身寄りがないのよ。だから私が母親代わりと思って可愛がってきたの」
「そうですか……」

 なんだか、嫌な予感がする。
 これでますます事件の匂いが濃くなってきた。

「僕達が沙羅さんを探しますよ!」

 桐生がはりきって手を挙げた。その横で佐々木が静かに頷いている。

 やっぱりそうくるよな。
 この二人の行動パターンがだんだんわかってきたような気がする。

 嫌だけど。

「本当かい?」

 ママはすごく嬉しそうに、なぜか俺の手を取った。
 ぐいっと顔を近づけられ、俺は物凄ものすごい圧を感じ顔を背ける。

「あ……いや、まあ、そうですね、はい」

 俺は作り笑顔で曖昧あいまいな返事をした。すると、桐生がすかさず突っ込んでくる。

「もちろん、僕達に任せて! 大船に乗ったつもりでいてください」

 桐生が胸を張って答える。

「……期待して待て」

 続いて、佐々木が静かにつぶやいた。

 こいつら、勝手に話を進めやがって。
 何の意味もないことはわかっていたが俺は二人を睨んだ。

「ママ、この人はなんていっても探偵なんだよ。
 どんなことでもおちゃのこさいさいさ!」

 こいつ、何勝手なことを言ってやがる!
 桐生は俺の睨みなどまったく気にせず、ニコニコとママを見つめている。

 ママの瞳が輝きを増した。

「まあ、すごい! 探偵なんてかっこいいじゃない! 素敵! 私ファンになっちゃおうかしら。
 あ、そうだ、今度この店にポスターでも張らしてよ」

 そんなもんあるか、と言い返そうとしたら、桐生が身を乗り出す。

「いいですね、今度持ってきますよ」
「楽しみだわあ」

 ママはウキウキした様子で頬を染めている。何を想像してるんだ?

「おい、ポスターなんて、そんなもんうちでは作ってねえ」

 ひそひそと桐生に耳打ちすると、佐々木が急に身を乗り出してきた。

「大丈夫だ、俺が作る」
「は?」
「佐々木くん、何でもできちゃうんだよ。すごいんだから」

 桐生が佐々木に笑いかけると、佐々木はうっすらと笑った。
 いつの間にこいつら仲良くなってんだ。

 それにしても佐々木の笑顔なんてはじめて見たぞ。
 やはりなかなかのイケメンだ。

「それじゃ、沙羅のこと頼んだわね」

 ママはなぜかまた俺の手を握り、キラキラした瞳で見つめてくる。

「ああ、はい。お任せください」

 ママから軽く視線を逸らしながら、俺はそう言うしかなかった。

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