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彩華ルート
35話 返事
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「先日はごめんね、すぐに返事できなくて」
「ううん、当たり前だよ。いきなり婚姻届を叩きつけられてその場で返事できる人なんかいないって」
「…ありがとう」
不意打ちのプロポーズを決行した箱根旅行から一週間後、俺は彩華さんの部屋に来ていた。
結局プロポーズ当日の彩華さんの回答は「ごめん、今すぐ返事はできないかも。少し時間をもらってもいい?」というものだった。
何事もなかったように、でもほんの少しだけ気まずい雰囲気で旅行を終えた俺たちは、地元に戻ってからの数日間は連絡をとっていなかった。
背水の陣で挑んだプロポーズですぐには良い返事をもらえなかったことで、少しずつネガティブな方向に想像力を働かせていた俺だったが、それでも「彩華さんはきっと一人でゆっくり考える時間を必要としているだけ」と必死に自分に言い聞かせて彼女からの連絡を待ち続けた。
そして昨晩、待ちに待った彩華さんからのメッセージが届き、俺はまともに眠ることもできないまま午前中から彩華さんの部屋を訪ねている。
「えっと、それで…返事なんだけどね…?」
いつになく緊張した様子の彩華さんが、慎重に言葉を選んでいるような素振りを見せながら言葉を続けた。
「ごめんなさい。やっぱりすぐにイエスとは言えない」
…
……
…………そっか。ダメか。やっぱりダメだったか。
ある程度予想できていたこととは言え、やはりショックだ。非常にショックだ。ちょっとこれは立ち直れない。俺はもう無理かもしれない。きっと助からない。
「あっ、ごめん! そういう意味じゃないから! 落ち込まないで! 続きを聞いて?」
きっと分かりやすく絶望と悲嘆が滲み出ているであろう俺の様子を見て、なぜか彩華さんは慌てていた。
「……続き?」
その一言を発するのが俺にできる最大限の対応だった。もっとちゃんとした返事をしたいけど、ちょっと今の俺には無理。メンタル崩壊寸前の状態だから。
「ごめんね。今のは誤解を招くような言い方だった。本当にごめん、私もすごい緊張してて……」
そっか。彩華さんも緊張しているのか。
「えっと……、私ね? もう知ってるとは思うけど、相当性格に難がある女なんだよね。それに一度結婚生活を自分で壊しちゃったという実績もあるからさ……。やっぱり急いで籍を入れちゃうのは違うと思うんだよ。正直、また失敗しちゃうのが怖いんだよね。自分自身のこと、どうしても信じられないし。……でも」
……でも?
「私と一年くらい一緒に暮らしてみてね? もし颯太くんが一年後も私に愛想を尽かすことなく私が良いって言ってくれるなら…」
彩華さんは俺の目をじっと見つめながら、でも少し照れくさそうな様子で言葉を続けた。
「その時は、こんなのでよければ……、ぜひもらってください」
「……え、うそ? 本当に? えっ、待って。じゃあ、あの、今日から彩華さんは俺の彼女ってことで良いの?」
「うん、私でよければ、よろしくお願いします」
「!!」
気がついたら、俺は彩華さんを強く抱きしめていた。情けないことに、あまりの嬉しさと興奮で完全に語彙力を失ってしまった俺は、「ありがとう」と「大好き」という言葉だけをbotのように繰り返していた。彩華さんはそんな俺を優しく抱きしめ返してくれた。
「こちらこそありがとう。私を選んでくれて。私のことを諦めないでいてくれて。こんな私ですが、どうか末永くよろしくお願いします」
「うん…うん! こちらこそ…! よろしくお願いします!」
俺に抱きしめられたままの状態で、彩華さんは背中を反らして俺の顔を見つめてきた。
「……大好きだよ」
そう言いながら俺の目を見つめる彩華さんの表情からは安堵と喜び、そして俺に対する深い愛情が滲み出ていた。
「ううん、当たり前だよ。いきなり婚姻届を叩きつけられてその場で返事できる人なんかいないって」
「…ありがとう」
不意打ちのプロポーズを決行した箱根旅行から一週間後、俺は彩華さんの部屋に来ていた。
結局プロポーズ当日の彩華さんの回答は「ごめん、今すぐ返事はできないかも。少し時間をもらってもいい?」というものだった。
何事もなかったように、でもほんの少しだけ気まずい雰囲気で旅行を終えた俺たちは、地元に戻ってからの数日間は連絡をとっていなかった。
背水の陣で挑んだプロポーズですぐには良い返事をもらえなかったことで、少しずつネガティブな方向に想像力を働かせていた俺だったが、それでも「彩華さんはきっと一人でゆっくり考える時間を必要としているだけ」と必死に自分に言い聞かせて彼女からの連絡を待ち続けた。
そして昨晩、待ちに待った彩華さんからのメッセージが届き、俺はまともに眠ることもできないまま午前中から彩華さんの部屋を訪ねている。
「えっと、それで…返事なんだけどね…?」
いつになく緊張した様子の彩華さんが、慎重に言葉を選んでいるような素振りを見せながら言葉を続けた。
「ごめんなさい。やっぱりすぐにイエスとは言えない」
…
……
…………そっか。ダメか。やっぱりダメだったか。
ある程度予想できていたこととは言え、やはりショックだ。非常にショックだ。ちょっとこれは立ち直れない。俺はもう無理かもしれない。きっと助からない。
「あっ、ごめん! そういう意味じゃないから! 落ち込まないで! 続きを聞いて?」
きっと分かりやすく絶望と悲嘆が滲み出ているであろう俺の様子を見て、なぜか彩華さんは慌てていた。
「……続き?」
その一言を発するのが俺にできる最大限の対応だった。もっとちゃんとした返事をしたいけど、ちょっと今の俺には無理。メンタル崩壊寸前の状態だから。
「ごめんね。今のは誤解を招くような言い方だった。本当にごめん、私もすごい緊張してて……」
そっか。彩華さんも緊張しているのか。
「えっと……、私ね? もう知ってるとは思うけど、相当性格に難がある女なんだよね。それに一度結婚生活を自分で壊しちゃったという実績もあるからさ……。やっぱり急いで籍を入れちゃうのは違うと思うんだよ。正直、また失敗しちゃうのが怖いんだよね。自分自身のこと、どうしても信じられないし。……でも」
……でも?
「私と一年くらい一緒に暮らしてみてね? もし颯太くんが一年後も私に愛想を尽かすことなく私が良いって言ってくれるなら…」
彩華さんは俺の目をじっと見つめながら、でも少し照れくさそうな様子で言葉を続けた。
「その時は、こんなのでよければ……、ぜひもらってください」
「……え、うそ? 本当に? えっ、待って。じゃあ、あの、今日から彩華さんは俺の彼女ってことで良いの?」
「うん、私でよければ、よろしくお願いします」
「!!」
気がついたら、俺は彩華さんを強く抱きしめていた。情けないことに、あまりの嬉しさと興奮で完全に語彙力を失ってしまった俺は、「ありがとう」と「大好き」という言葉だけをbotのように繰り返していた。彩華さんはそんな俺を優しく抱きしめ返してくれた。
「こちらこそありがとう。私を選んでくれて。私のことを諦めないでいてくれて。こんな私ですが、どうか末永くよろしくお願いします」
「うん…うん! こちらこそ…! よろしくお願いします!」
俺に抱きしめられたままの状態で、彩華さんは背中を反らして俺の顔を見つめてきた。
「……大好きだよ」
そう言いながら俺の目を見つめる彩華さんの表情からは安堵と喜び、そして俺に対する深い愛情が滲み出ていた。
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