三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話

羽瀬川ルフレ

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彩華ルート

33話 紙

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「では、改めて……」

 彩華さんは心底嬉しそうな笑顔で、シャンパングラスを持った。

「内定おめでとう!」
「ありがとう」

 その日、俺と彩華さんは旅行に来ていた。場所は箱根。二人で初めて訪れた思い出の旅先である。

 元々はしばらく旅行の予定はなかったものの、第二志望の企業から内定が出たお祝いに急遽一泊二日の小旅行をすることにした。

 ちなみに第一志望の企業はダメだったけど、別にいいんだ。第二志望から内定をもらえただけで十分。十分というか、自分の実力以上の結果だと思う。

 そしてそのような素晴らしい結果が出たのはもちろん……。

「彩華さんのおかげだよ。本当にありがとう」
「えっ、私、何もしてないよ!?」
「ううん、彩華さんがいてくれなきゃ絶対に内定はとれなかったよ。断言できる」
「そんなことないと思うんだけどなぁ」

 いやそんなことあるって。エントリーシートの添削とか面接対策とかいろいろサポートしてくれたし、何よりもずっと一番近くで応援してくれたし。

 そもそも俺が頑張って就職活動をしてこられたのはすべて彩華さんとの幸せな未来のためだからね。就職活動のモチベーションの百パーセントがそれだったから。

 もしそのモチベーションがなければ俺はイル・マーレに就職して、そのままシェフを目指す将来を目指していたかもしれない。それも十分魅力的な将来像だからね。

 でもどうしてもその道を選べなかったのは、できるだけ早い段階で高収入を得られる仕事に就く必要があったのと、「就職活動で勝ち抜いてみせる」ことで自分の覚悟と決意を示したかったからである。

 ……今から自分が話す内容がどれだけ本気なのかを理解してもらうためにね。

「あのさ」
「…ん?」
「ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど」
「うん、いいよ♪」

 とても上機嫌で、どこか油断しきった様子の彩華さん。でもそんな彼女とは対照的に俺はすごく緊張していた。自分のカバンから「例のもの」を取り出す手が軽く震えているのを感じる。

 断られたらどうしよう。これもダメだったらどうしよう。今から俺が言い出すことで彩華さんとの今の関係が壊れちゃったらどうしよう。

 しかも俺は今、普通に考えたら断られて当たり前の提案をしようとしている。というか自分でも「よくこんなぶっ飛んだことをしようとするな」って思っている。

 そして俺が今からやろうとしていることが原因で彩華さんとの関係が壊れるかどうかは分からないけど、どちらにしても今のままの関係ではいられなくなると思う。

 ……そう考えると怖いな。本当に怖い。でももう俺は彩華さんなしでは生きていられない。彼女がいない世界なんて考えられない。

 だからどんなに怖くても、恐ろしくても、やるしかない。今日のために、このために今まで長いこと頑張ってきた訳だから。そして適切なタイミングは間違いなく、今だ。

 俺は無言で、一枚の紙を彩華さんに差し出した。
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