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花音ルート

35話 三度目の正直

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 彩華さんが俺の前から消えてからもう一年が経った。ようやく俺は、完全に彩華さんのことを諦めることができていた。

 一年もかかったと言うべきか、それとも一年しかかからなかったと言うべきか。

 いずれにしても一年で立ち直れたのは間違いなく花音がそばにいてくれたおかげだった。彼女がいなければ何年かかったか想像もできない。もしかしたらいつまで経っても完全には立ち直れなかったかもしれない。

「あの…さ」
「うん?」

 静かに海を眺めていた花音が、俺の方に振り向いてくれた。彼女はとても穏やかで、温かい表情をしていた。

 そう。俺たちが訪れているのは俺たちの住んでいる地域にある、地元民しか知らない小さい公園だった。高台にあって海を眺めることができる、割と素敵な場所である。ただ、見えている海は主に工業地帯だから美しいオーシャンビューかと言われるとちょっと違うけど。

「えっと……遅くなってごめんな?」
「……」

 そこまで言って俺は、意味もなくずっと眺めていた海から視線を外した。そして俺の隣に並ぶように立って一緒に海を見ていた花音の方に体を向けた。俺の動きに合わせるように花音も俺の方に振り向いてくれた。

 妙に緊張してしまっている状態の俺を、花音はどこか楽しそうな表情で見つめていた。

「神戸花音さん、あなたのことが好きです。俺と付き合ってくれませんか」

 頭を下げて、右手を彼女の方に差し出す。普通というか、古風というか、ちょっと典型的すぎる言葉かもしれないけど、でも俺にはこの言葉しか思い浮かばなかった。

 花音に告白するのはこれで三度目。まさに三度目の正直である。

 花音のことが好き。誰よりも彼女のことが好き。ずっと彼女に片思いをしていた高校時代よりも、今の方が好きだと断言できる。

 お嬢様なのに気さくなところが好き。仕草は上品なのに話す内容は意外とお茶目で面白いところが好き。笑った時に目が細くなるのが好き。同じ相手に何年も片思いを続けてしまう一途なところが好き。

 長年一緒にいても行動や感情が読めないミステリアスなところが好き。何があっても諦めないところが好き。意外にも強引な一面があるところも好き。

 いろいろあったけど結局、俺にとって一番大切な人は花音だったんだ。今も昔も。花音の隣が俺の居場所で、花音との未来が俺の進むべき道なんだ。

 花音は、俺の言葉を聞いて嬉しそうに目を細めてくれた。そして……

「はい、私でよければ喜んで!」

 俺の右手をぎゅっと握りながら、弾けるような声でそう答えてくれた。
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