36 / 45
花音ルート
35話 三度目の正直
しおりを挟む
彩華さんが俺の前から消えてからもう一年が経った。ようやく俺は、完全に彩華さんのことを諦めることができていた。
一年もかかったと言うべきか、それとも一年しかかからなかったと言うべきか。
いずれにしても一年で立ち直れたのは間違いなく花音がそばにいてくれたおかげだった。彼女がいなければ何年かかったか想像もできない。もしかしたらいつまで経っても完全には立ち直れなかったかもしれない。
「あの…さ」
「うん?」
静かに海を眺めていた花音が、俺の方に振り向いてくれた。彼女はとても穏やかで、温かい表情をしていた。
そう。俺たちが訪れているのは俺たちの住んでいる地域にある、地元民しか知らない小さい公園だった。高台にあって海を眺めることができる、割と素敵な場所である。ただ、見えている海は主に工業地帯だから美しいオーシャンビューかと言われるとちょっと違うけど。
「えっと……遅くなってごめんな?」
「……」
そこまで言って俺は、意味もなくずっと眺めていた海から視線を外した。そして俺の隣に並ぶように立って一緒に海を見ていた花音の方に体を向けた。俺の動きに合わせるように花音も俺の方に振り向いてくれた。
妙に緊張してしまっている状態の俺を、花音はどこか楽しそうな表情で見つめていた。
「神戸花音さん、あなたのことが好きです。俺と付き合ってくれませんか」
頭を下げて、右手を彼女の方に差し出す。普通というか、古風というか、ちょっと典型的すぎる言葉かもしれないけど、でも俺にはこの言葉しか思い浮かばなかった。
花音に告白するのはこれで三度目。まさに三度目の正直である。
花音のことが好き。誰よりも彼女のことが好き。ずっと彼女に片思いをしていた高校時代よりも、今の方が好きだと断言できる。
お嬢様なのに気さくなところが好き。仕草は上品なのに話す内容は意外とお茶目で面白いところが好き。笑った時に目が細くなるのが好き。同じ相手に何年も片思いを続けてしまう一途なところが好き。
長年一緒にいても行動や感情が読めないミステリアスなところが好き。何があっても諦めないところが好き。意外にも強引な一面があるところも好き。
いろいろあったけど結局、俺にとって一番大切な人は花音だったんだ。今も昔も。花音の隣が俺の居場所で、花音との未来が俺の進むべき道なんだ。
花音は、俺の言葉を聞いて嬉しそうに目を細めてくれた。そして……
「はい、私でよければ喜んで!」
俺の右手をぎゅっと握りながら、弾けるような声でそう答えてくれた。
一年もかかったと言うべきか、それとも一年しかかからなかったと言うべきか。
いずれにしても一年で立ち直れたのは間違いなく花音がそばにいてくれたおかげだった。彼女がいなければ何年かかったか想像もできない。もしかしたらいつまで経っても完全には立ち直れなかったかもしれない。
「あの…さ」
「うん?」
静かに海を眺めていた花音が、俺の方に振り向いてくれた。彼女はとても穏やかで、温かい表情をしていた。
そう。俺たちが訪れているのは俺たちの住んでいる地域にある、地元民しか知らない小さい公園だった。高台にあって海を眺めることができる、割と素敵な場所である。ただ、見えている海は主に工業地帯だから美しいオーシャンビューかと言われるとちょっと違うけど。
「えっと……遅くなってごめんな?」
「……」
そこまで言って俺は、意味もなくずっと眺めていた海から視線を外した。そして俺の隣に並ぶように立って一緒に海を見ていた花音の方に体を向けた。俺の動きに合わせるように花音も俺の方に振り向いてくれた。
妙に緊張してしまっている状態の俺を、花音はどこか楽しそうな表情で見つめていた。
「神戸花音さん、あなたのことが好きです。俺と付き合ってくれませんか」
頭を下げて、右手を彼女の方に差し出す。普通というか、古風というか、ちょっと典型的すぎる言葉かもしれないけど、でも俺にはこの言葉しか思い浮かばなかった。
花音に告白するのはこれで三度目。まさに三度目の正直である。
花音のことが好き。誰よりも彼女のことが好き。ずっと彼女に片思いをしていた高校時代よりも、今の方が好きだと断言できる。
お嬢様なのに気さくなところが好き。仕草は上品なのに話す内容は意外とお茶目で面白いところが好き。笑った時に目が細くなるのが好き。同じ相手に何年も片思いを続けてしまう一途なところが好き。
長年一緒にいても行動や感情が読めないミステリアスなところが好き。何があっても諦めないところが好き。意外にも強引な一面があるところも好き。
いろいろあったけど結局、俺にとって一番大切な人は花音だったんだ。今も昔も。花音の隣が俺の居場所で、花音との未来が俺の進むべき道なんだ。
花音は、俺の言葉を聞いて嬉しそうに目を細めてくれた。そして……
「はい、私でよければ喜んで!」
俺の右手をぎゅっと握りながら、弾けるような声でそう答えてくれた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる